季節にそぐわない人口冷風を喰らいながら反省もしているのでお許しください。
「だーかーらー! あそこにいるやつらが主犯で俺は違うんです!」
とある部屋の一室から聞こえる無罪を主張する叫び声。
もちろん自分のことなのだが、手錠をつけられたまま目の前の憲兵に訴えるも、相手はまったく動じない。
「あの場所にいた女の子にも聞けば分かりますって! 俺はあいつらを探して、見つけたからとっちめただけだって!」
紛れもない事実を簡潔に伝えているはずなのに、受け入れられず、ただ淡々と調書へ書き込みを続けている。
それが仕事でもあるので仕方がない、とはあきらめているが、それでもどこかおかしい。
「相手は数人もいたのに?」
「ザコばっかでしたよ」
「武器もないのに?」
「持ってた串を使って」
「…………」
聞かれたので答える。
答えを聞いて黙る。
さっきからこの調子で会話が進まない。
もちろんこれが取り調べであって、初めましてでも盛り上がれる居酒屋での飲み会ではないのだが、それにしてもだ。
話を聞かない、というより話を切られている。
必要なこと以外は聞かないという、取り調べにおいてとても必要な要素ではあるが。
だとしてもだ、
「ちょっと聞いても?」
「…………なにか」
流石に気になるので声をかける。
「何かそんなに怪しいことでもありました? 何と言うかほら、自分って胸を張ってイケメンってほどじゃなくても、そこそこイケメンじゃないですか? イケメンって全てのことが許されるんですよね?」
「逆に聞きますが許しますか?」
考えるまでもなく即答する。
「イケメンである時点で重罪ですね」
「なら大丈夫です、あなたにその罪はないですから」
「よし」
…………どこかおかしかったかもしれない。
どこなのだろうと頭をひねっていると、ドアをノックする音と同時に警備兵が入ってきた。
顔を見れば自分を取り囲んだうちの一人、どうも険しい顔をしている。
「まだ起きた者はおらず…………」
「ではやはり…………」
ボソボソと自分の取り調べをしていた憲兵と話をすると決心した顔で振り向いた。
その真剣な表情につられて背筋を伸ばして相手の言葉を待つ。
「では確認なのですが…………」
「っはい…………!」
「状況証拠などから、あなたの説明でおおむね間違いないと結論がでました。ですがただ一点だけ、どうしても納得のできない部分があるのです」
何か間違ったことを言ってしまった?
もしくはあいつらの誰かが何らかの置き土産をしたのか?
思いつくことを片っ端から考えていくが何も思いつかない。
緊迫する室内、心臓の音がうるさくなり、ゴクリをつばを飲み込むと…………、
「自尊心を満たすための嘘だとしても串だけで数人も倒したと言うのは流石に誇張しすぎだと」
「嘘じゃねぇよ!」
緊迫した空気なんてなかった。
「どこぞの魔法使いじゃあるまいしそんな嘘をついてどうしろってんだよ!」
「とは言ってもですねー?」
何がおかしいのか、是非とも言ってもらおうじゃないか。
今回悪いことは何もしていないのだ、胸を張って否定させてもらおう。
「魔法使いました?」
「いや?」
「個人技能使いました?」
「いや?」
「でも串を武器に戦って勝ったんですか?」
「そうだよ?」
ここまで聞いて徐々に目が死んでいく憲兵。
いや光が失われていくと言った方が正しいか…………。
「無理でしょ」
「やってやったわ! 成した人間が目の間にいるけど!?」
「それができるのはちょっと人ではないかと…………」
ストレートすぎる言葉に机を額でうった。
人ではない、言われたこの言葉が頭をめぐり続ける。
間違いなく自分は人である。
腹が減ると飯を食い、眠くなると惰眠をむさぼり、美人を見かけると目で追いかける。
人としての三大欲求を持ち合わせ、なおかつ満たそうとするのは間違いなく人である。
だがこのアイデンティティがくずれそうになっている。
誰よりも人らしくあるはずの自分が何故人ではないのであろう。
たかが泥棒数人、串を武器に打ちのめしただけで人ではない。
しかし自分は人である。
人ではないのに人である。
人…………人とは…………いったい…………、
「どうしたんですかこの人」
「頭でも打ったんじゃないか? 結構デカい音なったし」
すぐ目の前でしているはずの会話もどこか遠くに聞こえる。
意識が遠のき思考が世界の果てへとたどり着きそうになった時、
「失礼します」
聞き馴染んだ声に意識が引っ張られる。
「こ、これはルーシー様! お目にかかれて光栄です!」
「な、何の用でございましょうか?」
「ありがとうございます、こちらに今日起きた祭りの窃盗事件の重要参考人がいると聞いたのですが」
「はっ! こちらにおりますがその、なんというか」
「串、を使って泥棒たちを倒したと言っており、真実なのかちょっと判断に困るところで」
うつむいた頭の先で会話が進んでいく。
本来ならこの会話に混ざって何も悪いことはしていないと訴えるべきだが、今回の相手に対しては無言を貫く以外にない。
さっきまでの人とは何かという哲学に没頭するためではない、明らかにこちらへと静かな殺気を飛ばしている相手と目を合わせないために。
「そうですか、それは困りましたね。では、わたくしがお話して判断いたしましょう」
ビクッ!っと肩が跳ねた、が強靭な精神力で抑え込んだはず。
「おお! ルーシー様の嘘を見抜くスキルならこの者の真偽も判明しますな!」
「えぇ、でも少し集中しないといけないのでしばらくの間この部屋で二人きりにしていただきたいのです」
「う、それは、うーむ」
「ダメでしょうか?」
「ま、まぁルーシー様の頼みですし仕方ありませんな!」
「これで事件も解決すると言うのならやぶさかでもないですし!」
どこか浮ついた笑い声で部屋を出ていく二人、お願いしたと言っても彼女からすれば手玉に取ったと言った方が正しい。
国といった広さで知られている聖職者ルーシー。
信頼も信用もパーティーの中ではトップだろう。
「…………う~んまぁまぁの顔でしたね、今の二人。で? 今回は何をやらかしたのですか? 助けてほしいのなら跪いて足先にキスをして懇願すれば考えてあげますよ?」
腕を組み、机の上に足を乗せてこちらをニコニコと眺める様子はどう見ても聖職者のそれではない。
パーティーメンバーだけが知っているルーシーの正体、それはイケメン好きなドエス。
つく職業間違ってるだろと思ったのはとうに百を超えている。
「…………勝手にやらかしたって決めつけんじゃねぇよ。お前だってやらかしたことあんだろ」
「そうですか? 今までの経験からだとあなたがやらかしたことの方が多いですし、後始末を任されたのも多々あるのですがそういえば以前壊した町の修繕費について」
「今回は何も壊してねぇから!」
あと気持ちばかり、自分への当たりがきつい気がする。
「そーですねぇ、今日聞いたのはお店の売り上げを盗む事件とそれに」
「最初のやつしか心当たりねぇんだけど?」
他にも事件があったなんて知らなかったが、やっぱり祭りともなると多少なりともタカが外れてしまうのだろうか。
「勇者を名乗る不審者がいた、少女誘拐犯からさらに少女を誘拐しようとした人物がいたとか」
おっと壁にシミがある、きれい好きな自分としては気になるところだ。
許可さえもらえれば今すぐ、夜中までかかろうともきれいに磨きたい。
「そんな壁のシミよりきれいな私の顔を見てくれません?」
「きれいすぎてちょっと眩しいんで、思わず目も潰れそうなくらいなんで無理かなーって」
ルーシーは嘘を見抜ける。
得手不得手はあれど理論上は誰でも身に着けることができる魔法や剣技と言ったものではない天性の素質。
個人技能(スキル)と呼ばれるそれらは、些細なことから魔法じみた強大なものまでさまざまである。
そんなルーシーのスキルは嘘を見抜く、しかし目を合わせなければいけない。
…………あくまで本人から聞いただけだし、たぶん正確ではないだろうが気休め程度に目を背ける。
どこからどこまでが嘘の判定になるのか分からないため、緊張で冷や汗をかき始めた。
「…………目を潰したいのでこっち見て」
「おい待てふざけんな」
回りくどい暴言とか無しに直球で来やがった。
いや無理に決まってんじゃん、目を合わせた瞬間に嘘を見抜かれて追及されるに決まってるじゃん。
冷たい感触が頬に伝わり、思わずぞくりと身体が震える。
冷や汗かと思えば白い手が視界のすみに映る。
「いいから、ちょっとこっちに、」
何が、と思う間もなく伸びてきた両手に顔を挟まれた。
「何する気だおい! 無理やり顔をむけようとすんな! 首! 首がもげる!」
「何で耐えようとするんですかっ、き、きれいなら見たらいいでしょう」
「目がつぶれるって言ってんだろおい!」
「それが真実か嘘か試すんですよ!」
「真実だったらどうすんだ!」
「その言い方は嘘ですね!」
「ずりぃぞてめぇ!」
顔を背ける勇者と目を合わせようとする聖職者のむだな攻防は引き分けに終わった。
「…………で、何があったんですか」
「…………別に大したことはしてねぇよ」
お互い息も絶え絶えになり、机に突っ伏したまま今日一日で起きたことを話始める。
「…………これくらいだ、別に何も悪いことはしてないだろ」
「ですね、攫われたって少女から聞いた話通りですし」
「性格悪いぞお前」
何となくそんな気はしてたが。
全部知っているのになぜ取り調べをしようとしたのか?
楽しむためだろ、そんなやつだ。
「…………あの少女も感謝してましたよ、『あのおにーさんすごく強かった! ありがとう!』って」
「ほーかい」
「『勇者みたいにかっこよかったけど勇者って名乗るのはダメだよ』とも言ってました」
「そこ本物だって訂正しといてくれよ」
勇者にはなれたが、認めてはもらえなかったか…………。
「はーこれだからすけこましな自称勇者は」
「悪口に嘘をあわせんじゃねぇ」
「女性にかっこつけようとして勇者を名乗った事実から取った名前ですが?」
「悪意ある情報の抜き取りだろうが!」
「ま、許しましょう」
「何も悪いことしてないのに許されなきゃいけないんだおい、機嫌悪いのは分かるが八つ当たりしてんだろ」
立ち上がり身だしなみを整えると、扉の前で立ち止まり振り向いた。
「適当に言っておくのでもう帰ってもいいですよ。お祭りはまだやってるので遊んでもかまいませんが、くれぐれも女の子に声をかけたりして事件は起こさない様に」
最後にくぎを刺して出て行った。
入れ替わりに戻ってきた憲兵に促されるまま部屋を出る。
日が沈み始めた町では未だに祭りが続いおり、それどころか昼間よりもにぎわっている。
夜になると花火が打ちあがるという放送を聞きながら、ポケットに入れていたものを弄びながら再び祭り会場へと歩いていった。
「これで終わりですね」
「はい! お疲れ様でした!」
「…………はぁー」
笑顔で書類を渡し、部屋の扉が閉まるのを確認すると大きなため息を吐いた。
祭り運営の確認、昼間に起きた売り上げの盗難事件、それに加えていろんなお偉いさんへの対応などに追われろくに休憩も取れず体力はともかく精神的には疲れていた。
途中で降って湧いた遊び時間がなければもっと辛かっただろう。
しかしその遊びも仕事が増えたが故なので差し引きなしといったところか。
「まぁたアイツはほんとに」
手元にあった書類を眺めるも内容にほぼ全てに関わるアイツ。
少女に泣かされ、売り上げ窃盗の犯人疑惑に少女誘拐未遂。
もちろん全てが誤解、ではなかったが、疑いは晴らしたのだが。
昔からそうだ。
アイツは勝手に首を突っ込んだり巻き込まれたり背負わなくてもいい苦労を担いでいく。
私のことも、あいつらのことも。
それは良い。
どうせやめろと言っても俺のせいじゃない! 偶然なんだ! 決してカッコつけようとか思ってるわけじゃないとか本音しか言わない言い訳をするだけ。
それでこそアイツ。
ただ言うのなら、
「なぁーにが『おにーさんに一緒に祭りに行きませんかって伝えてもらえませんか?』よ、こっちは仕事してるってのにあんたみたいな小娘と行かせるわけないじゃない」
時折どこぞの女をひっかけるのだけはやめてほしい。
もっとも言えたことも言う権利も理由もないので言わないが。
決して女と話すところを見ていてイラッとするとか何で出会ったばかりなのにデレデレしてんだとか思ってるわけではない。
今日みたいにキレイと思っているのならちゃんと口に出せとか、キレイと言うのならもっと見ろとか、うっかり溜まったストレスが原因でぶちまけたくもなるが聖職者のルーシーはそんなことをしない。
そう自分に言い聞かせて溜まった鬱憤はまとめてため息として出す。
コンコンとドアをノックする音が部屋に響いた。
「どうぞ、開いてますよ」
また何かあったのかとため息を付きながら返事をする。
「よう、さっきぶり」
「大声で叫んであげましょうかっ!?」
何で窓の外側からノックしてきたのこいつっ!?
しかも平然と入って来てるし!
両手に夜店の食べ物をたくさん持って三階の窓までどうやって登って来たんですかね!
「ふ、大声で叫んでも構わないぜ? 今の俺にはこれがあるからな!」
「…………なんですかそれ」
自信満々に掲げたのは、そこまで高級でもないがどこか既視感がある。
「あっ」
「あいつらが持ってたブレスレット、拾ったの忘れてたわ」
報告にあった姿をくらますブレスレット。制作者を調べようと全て回収されたはずだったが、
「念のために拾っておいたけど役に立つとはなぁ」
したり顔で見せびらかす様子がムカついてきましたね。
力づくで取り上げることも考えましたが、どうせ窓から逃げるでしょう。
「はいはい、おもちゃが手に入った自慢なら昼間の少女にでもしてあげてください」
「子供の言葉を流す母親みたいな対応するんじゃねーよ」
「いいから行ってきてはどうです? 一緒に祭りを見たいと言ってましたよ」
「え、マジかそれは困った」
意外、と言っては何ですがこういったお誘いは基本的に誰が相手でも断ることは無いので少し驚きます。
「伝え忘れてたので今言いました、それで何の用です? こっちは誰かのせいで疲れてるんですが? 肩もみでもしてくれるんです?」
とは言ってもこんな時は大抵誰かとの約束だったりするわけですが。
これで女との逢引きだったらどうしてくれましょう。
「いや花火見ようぜって誘いに来たから、しょうがねぇ。先にこっち来たしタイミング悪かったな」
「へー誰を誘いに来たんです?」
「聞こえてんだろお前だよ」
「…………誰です?」
「この部屋にお前以外いるのか?」
……………………へぇ。
「贖罪ですか? ならば感心ですね。日頃からの感謝をちゃんと行動に移したのは」
「お前機嫌が悪かったのって祭りに参加できなかったからだろ?」
…………ほう、そう来ましたか。
そのしたり顔はかなりの自信があるようですね、まったく違いますが。
「あいにく私にはまだ仕事がありましてね」
「何でまた機嫌悪くなってんだよ、仕事仕事ってお前ならも終わってるだろ」
「…………だとしてもここから動くこともできなくてですね、仮に出れてもどう」
「うるせぇ行くぞ」
「あっ、」
うるせぇの一言で言葉をさえぎり、目で追えるほどの速さでありながら滑らかな動きで窓の外へ飛び出した。
わたしを抱えて。
「ちょっとどこ行く気ですか!」
「舌噛むぞ黙ってろ」
強引に抜け出すこともできないわけではないが、ムリに逃げるほどでもない状況。
あきらめて屋根と屋根を飛び回り、運ばれるままわたしは腕の中で黙った。
「ほい、ついた」
「…………なんでよりによって大聖堂なんですか」
この町を一望できる大きさの大聖堂の屋根の上。
見る人によっては罰当たり極まりないが今更注意したところでこの男は聞きもしないだろう。
屋根に下ろされ、促されるまま隣に座る。
「あと少しな」
「はぁ? いったい何が、」
夜空を覆う光の花。
遅れて届くお腹に響く音。
横を見ればムカつくしたり顔の誘拐犯。
「やっぱ祭りと言えば花火だよな!」
満面の笑みで花火を見ながらガツガツと食事を始める、そのデリカシーのなさは出会った時から変わらない。
ふとため息がこぼれた。
それはため込んだものが全て吐き出し、肩の力が抜けていくようで。
「きれいな花火ですね、リヒト」
「いい景色に美味い食い物、最高だろルーシー」
「…………美人も入れておいてください」
花火が終わっても祭りは続く。
ブレスレットをつけたわたしは、リヒトのおごりで祭りを楽しんだ。
後日めっちゃ元気な聖職者がいたとかいないとか。
ブレスレットはその後壊れた模様。
誤字報告とか感想とかもらえるとうれしいです
TwitterのURLってどうやるんだっけ…………