旅は終えても勇者の苦労は終わらない   作:アオノクロ

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遅くなりましたけど、続きです。毎回良い区切りがつくまで出来上がってから投稿しようと思います。


第5話 知識はなくてもライブの準備は止まらない

「いやー運よくあんたと出会えて良かったわ!」

 

 自他ともに認めるアイドルは、よく通る声で笑う。

 そんな笑い声を隣で聞きながら周りの見れば、忙しく働く人ばかり。

 とてものんきに話して良い雰囲気ではない。

 何せこれから一日を通して行う野外フェスの会場である。

 

「おい列が乱れない様に気をつけろよ!」

「あそこ、スペースもうちょっと詰めないと荷物置けませんね」

「このタイミングで魔道具を起動してですね」

 

 縛られて動けない自分に目も剥けられないほどバタバタと走り回のを見ていると自分も何かしなければ、と思うがあいにく動けない。

 何せロープに縛られてるだけでなく、まるでミノムシのように木に吊るされている。

 口はふさがれていないので助けを求めることはできるのだが、

 

「誰か助け「ごめん後でね!」…………」

「すいまs「おつかれさまです!」…………」

「あの「うるせぇ!」…………ごめんなさい」

 

 忙しく走り回るスタッフの方々を見て助けを求めることはあきらめた。

 というか心が折れた。

 

「どうよ!」

「何がだ」

 

 やることもなくしばらくボーッと作業様子を見ていると聞きなれた声。

 

「なーにをしけた顔してんのよ、この世界最高のアイドルが話しかけてるってんだから笑顔で答えなさいよ」

 

 振り向けばかわいらしくデザインされた、フリフリな服を着ている見慣れた顔。

 共に旅をした仲間の1人、世界最高峰の魔法使いであり同時に自称世界1のアイドル。

 

「なーに? 見惚れてんの? しょーが無いわね、勇者パーティで一番かわいいと噂のカレン様のご尊顔、今だけは独り占めしてもいいわよ?」

「一番人気あったのルーシーだろ、胸も記憶も盛るんじゃねぇよ」

「あぁん!? アイドルに向かってその口はなんだってのよおぉ!! というか人気も一番だし! 聖職者つながりで一番になっただけで純粋な人気はアタシでしょうが! あの面食いドSが!」

 

 口が悪いのにこれが世界に羽ばたくアイドルとはいかがなものか。

 可愛らしくぷりぷりではなく、ぷんぷんでもなく、烈火の如くゴウゴウと怒るアイドルはアイドルでいいのだろうか。

 

「そもそも、人気投票企画言い出したのカレンだし結果はちゃんと受け入れろよ」

「この新衣装見た目よりも結構軽いのよね、しかも魔力を通すと光る機能もあってまさに私にピッタリよね」

「話聞けよこの野郎!」

 

 さっきまでの怒りを忘れて衣装自慢が始まった。旅をしていた時から、いや出会った時からだ。

 

『アタシが世界一の魔法使いにして世界を虜にするカレンよ!』

『そうなの?』

『魔法都市ポートハットの優秀な魔法使いとは聞いてますが、世界一かはちょっと……行動力、問題児としては世界一と紹介者から伺ってますが』

『アァン⁉︎ 誰が言ったのよそんなこと! ほんの少し才能が溢れただけでしょうが! そう、アタシの才能がありすぎるのが悪かったわね、仕方ないわ。さすがアタシ!』

『ホントだ』

 

 旅をして変わったところもあれど出会った時から変わらないカレンのらしさ。

 受け入れる、なんてことはなく慣れた。相変わらずだとあきらめともいう。

 

「で? 何の用だ、というかいい加減おろせよ」

「魔力操作が難しいけどアタシなら問題ないし、対魔法障壁に使われたアドネスの魔法感応式を応用した、……アンタなんで吊り下げられてんの?」

「ケンカか? ケンカ売ってんだよな? 今すぐおろせ相手してやっからよ‼︎」

「カレンさん、と、お連れの方ですか? 迷惑なのでおやめください」

 

 一触即発な空気の中、横から割り込まれる女性の声。

 手は出さないがお互いの口が回りに回り、見かねた誰かが終わりの合図。しばらくにらみ合った後、同時に逸らしてケンカは終わり。

 こんなこともよくあったなぁと怒れる頭の片隅で思い出していた。

 

 

 

「ライブの手伝い?」

「そ、運営の人が誰かいい人いませんかーって」

 

 声をかけてきたマネージャーさんに、カレンの休憩場所として設置されているテントへ案内されて一息つく。

 外見は3人も入れば窮屈なテントでも、中に入れば魔道具のおかげで空調完備でシャワールームも用意された立派な一室。

 理屈は分からないがこれも魔法の力なのだろう至れり尽くせりだ、ありがたい。

 木に吊るされるくらいなら魔法も何も無いテントでもありがたい…………比べる前提がおかしすぎるなこれ。

 

「つっても何をしろと? ライブなんて何も分からんし、簡単な仕事ならいくらでも人を呼べるだろ」

 

 勇者として旅をしていた自分でも流石にライブのことは分からない。旅の途中で多少カレンの手伝いをしたことはあるが、あれは人も資材も何もない突発的なステージ、旅で身についた貧乏の節約術と自分をはじめとするメンバーの高いステータスでの一発限りのゴリ押しだ。

 今現在のあらゆる魔法技術が使われている野外ライブなんて、専門家に任せて素人は引っ込んでいた方がいい。ただのお荷物にすぎない。

 結論、帰るべし。

 

「そこをどうにかお願いします、リヒト様。カレンさんがどうしようもないバカだけど役には立つとおっしゃってましたので」

「おいテメェ」

「事実でしょ?」

 

 思わず引っ叩きたくなるきょとんとした顔をするカレン。

 何間違ったこと言ってんだよと表情で伝えるも、え、何か間違ってたっけ? という心の底から不思議という顔を返してくる。

 

「というかマネージャーさんバカって言ってる相手に仕事頼むのってどうなの」

「カレンさんがおっしゃったので、バカでも使えると。使えないのならそこは私たちのミスです」

 

 眼鏡をキラリと光らせてだいぶヤバいことを言いだすマネージャーさん。

 

「カレンのマネージャー…………まともかと期待した自分がバカだった」

「そうよアンタはバカよ!! でもこの子はすごいのよ!!」

「その凄さを見出したカレンさんが1番すごいということですね」

 

 破れ鍋に綴じ蓋な組み合わせ、かと思いきや混ぜるな危険かもしれない。

 というか、

 

「あんたホントにマネージャー? ファンの方が合ってない?」

 

 カレンの持ち上げ方がなんというか、それっぽい。

 何度か見た記憶がある。

 

「フフ、バレましたね」

 

 クールで表情が変わらないマネージャーが心ばかりドヤ顔で取り出したのはファン会員カード。

 そこには登録番号4番と記されている。

 

「生粋のファンじゃねぇか、マネージャーやってていいのかこれ?」

「ファンが行き過ぎてお仕事手伝ってくれたからマネージャーにした!」

「寝ても覚めても推しのおそばで業務を、最高の日々です」

「アンタはファンでもマネージャーでもねぇ、ただのアホだ」

 

 信仰でも敬愛でもなく忠誠心が1番近い仕事関係ってなんだ。

 というかファンの扱い良いのか、バレたらいろいろと問題にならないのか。

 

「アンタ知らないだけで普通に有名よ」

「緩くね?」

 

 本人も周りも納得してるなら他所から口を挟むこともないか。

 とはいえ、

 

「そんだけ優秀な人がいるんだろ? なおさら俺が手伝うことないだろ」

 

 こちとら些細な問題の手伝いくらいしかできないんだ。

 ライブの手伝い何で個人でできること範疇をとっくに超えてる。

 人ごとのできるできないはどうやってもあるものだ。

 

「ま、そういうことだ。手伝いはできないがライブは楽しませてもらうよ」

「アンタ、ルーシーの祭手伝ったそうじゃない」

 

 帰ろうと踏み出した足が止まった。

 

「忘れてないわよね? アタシらのルール」

 

 ゆっくりと背後から近づく声、段々と大きくなるにつれて全身から冷や汗が滲み出てきた。

 

「『誰か1人の頼み事を聞いたら他2人の頼みも聞くこと』それが4人で旅した時に決まったルール」

 

 声には一切の感情が乗っていない。ただし顔は笑顔、振り向かなくても分かる。付き合いの長さがそう確信させる。

 

「アンタは1人で突っ走る癖がある、それはどうしようもない。けどだからと言ってほったらかしの待ちぼうけはありえないわよね〜」

「ウッ……」

 

 ガシッと肩を捕まえる手、小さくそれでいて熱い温度が伝わる。

 

「あ、あれは手伝ったんじゃなくてたまたま「たまたま? 何?」……なんでもない」

「アンタはルーシーの仕事を手伝った! ならアタシの仕事も手伝いなさい!」

 

 強引でありながら理屈を混ぜ人を引き寄せる、ルーシーとはまた違ったタイプのカリスマを持ったアイドル。

 それがカレン。

 

「分かったわね、リヒト」

 

 その笑顔は間違いなく世界に羽ばたくアイドルであった。

 

 

 

「で、本音は?」

「ルーシーだけずるいでしょ、アタシにも何かしなさい」

 

 いや、やっぱり子供のようなわがままを言い出すアイドかもしれない。

 ルールができたきっかけもパーティーメンバーへの福利厚生は平等に、という理論を持ち出され……危険な旅に福利厚生があるのか? とは思ったが、他3人が納得していたので出来上がったルールだ。

 旅を終えた今、当てはまるのか、適応できるのかといったことも考えたが結局のところは、

 

「かまって欲しいだけかよ」

 

 末っ子気質なカレンが他の人のものを欲しがるのはよくあった。些細なお菓子だったり、装飾具だったりと今回も同じなのだろう。

 

「ハァー!? 誰がアンタといたいって言ったのよ!! 何自意識過剰なの!? アタシほどのアイドルと一緒にいれるってのに何が不満よ!! 他に誰かといたい相手でもいるってのルーシー!? それともアホ貴族!? どこの誰よどいつよ会わせなさいよっ!!」

「一言から飛躍すんな! 図星つかれて焦るにも程があるだろ!」

「誰が図星よ!! 言ってみなさいよ!! 星みたいに綺麗ですって!? よく分かってるじゃない、流石アタシが見込んだ勇者なだけはあるわね」

 

「お前の聞き間違いとテンションの乱気流どうにかならねぇの?」

 

 鉄は熱し易く冷め易いと言うが、こいつに至っては常に燃え続ける炎。それも姿形を変えて敵を焼き尽くす業火にもなれば、見る人を安心させる篝火にもなり、消えることなく常にあたりを照らす。

 ただしそれはカレンの外側にいる人間であり、内側にいるとまきこまれ燃やされることになる。

 数多く存在するファンから見ればカレンのテンションも魅力に見えるが、巻き込まれる身内からすれば勘弁して欲しいと言うのが本音である。

 

「カレンさん! そろそろリハーサルの準備なので準備お願いしまーす!」

「はーい! 今行くわ! それじゃ見てなさいよ、アタシのライブ」

 

 カレンは笑う、表情豊かに感情とテンションの赴くままに。

 

「アタシの輝き、目に焼き付けたげる」

 

 ギラギラと見るもの全てを惹かれ焦がし、熱狂させる間違いなく世界最高のアイドルだ。

 ほか2人も言いたいことは多々あれどその点だけは認めている。…………ルーシーはかなり嫌な顔をしていたが、まぁ仕方ない。

 

「とは言ってもなぁ、手伝いって何しろと」

 

 マネージャーさんと一緒に「それじゃ後はよろしく!」と言い残して出て行ったが、自分は何をすればいいのだろう。何度も言うが素人にできることなどたかが知れているし、むしろ邪魔にだってなりかねない。大人しくテント暇をつぶしておくくらいしかやることがない、というかそれをすべきだ。

 幸い差し入れらしきお菓子もあるし、時間を潰すのに苦労はしないだろう。

 

「そんじゃ、いただきまー『この兄ちゃんでいいのか?』『こき使って問題ないそうです』…………おい」

 

 ちょうど食べようとした瞬間にマネージャーさんが戻ってきた。しかもガタイのいい如何にも力仕事専門って感じのおっちゃんを引き連れて…………見た目的にステージ設営の人だろうか。

 

「カレンさんから聞いとるぞ、力仕事、魔法制御何でも任せていいとな」

「言ってないし聞いてない、ってこのオッサン力つよっ!」

「今回のライブの企画の方です、どうぞがんばってください」

「うそだろ! 絶対現場監督とかの方が向いてるってこの人!」

 

 耐えようと踏ん張るものの、真顔でハンカチを振るマネージャーさんを見ながら軽々と引っ張っられていった。

 どこか笑っている様に見えたのは錯覚だろうか。




ライブ言ってますけどどっちかというと野外フェスの方が近いなこれ。
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