旅は終えても勇者の苦労は終わらない   作:アオノクロ

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お酒はそこまで好きじゃないんですけど飲み会は好きです。季節にあったお酒を楽しむのも好きです。


第8話 酒交わしても赤い笑顔に嘘はない

「それではライブの成功を祝って!!」

「「「「カンパーイ!!」」」」

 

 三日間に渡るライブも終わっての打ち上げ。

 野外ステージを片付けた後の広場で、スタッフたちがあちらこちらで飲んで食べて話してる。

 ライブ、旅での影響で心の中では実戦っと呼んでいるが、終わってからのやり切った満足感。

 実践最中の心が揺れ踊る充実感はもちろん最高だが、このやり切ったと達成感、それを共有する時間もアタシの幸せだ。

 

「カレンさん、今回もお疲れ様でした」

「マネちゃんもおつかれ!! いつもありがとうね!!」

 

 いろいろと大変なこともあるだろうが、ファンになってからそのままマネージャーまで成り上がって支えてくれている彼女には感謝しかない。

 旅の仲間は、まぁ、いたが心から信頼している仕事仲間は彼女が始めてだ。

 

「…………差し出がましいかもしれませんが、いいんですか」

「ん? 何が?」

「リヒト様、です」

「んーそうねー」

 

 そういえば忘れていた。

 どうせ仕事はできるだろうと無理やり引っ張ってきたは良いものの、思ってた通りに仕事をしてた。…………のめり込みすぎて少し気持ち悪かったけど。

 こういった祭りが好きなのにいないということは、きっと誰かに呼ばれたのだろう。

 いつも通りのことだ。

 

「良いのよーアイツは気がついたらどっかに行ってるのがいつもだし、美味しいものあるのに」

「いえ、いつになったら告白するのかと」

 

 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 

 はっ、時間が飛んだ。

 誰かの魔法や呪いかと辺りを探知してみるも、どこにも痕跡はない。

 

「相変わらず恋愛に関してはポンコツ過ぎませんかカレンさんかわいいですね」

「マネちゃん誰がポンコツかわいいって!? 分かってるじゃない!! アイドルは完璧じゃなくていいのよ!! できないこともあってそこも魅力であれば良いのよ!!」

「告白できないのは魅力的な欠点ですか?」

「ごふっ」

 

 意識を飛ばして回避することのできなかった剛速球が鳩尾に入る。

 旅の最中でも喰らうことのなかった威力、だがこれでも致命傷には「他の人だけズルいから呼ぶって子供でももうちょっとマシな行動しますよ」………………………………。

 

「アタシの遺体は、景色が一番きれいな場所に埋めて…………あと国葬で…………」

「そのくらいの要望なら通るんで大丈夫ですよ」

「え、ホント?」

 

 致命傷を喰らって遺言を残していたがまさかの言葉に起き上がる。

 叶ったらいいなーくらいの気持ちだったけどいけるんだ。

 

「仮にも世界を救った勇者パーティーの一員ですからね、その程度ならできると思いますよ」

「勇者パーティーすごい」

 

 アイドルや魔法使いとしての自負はあるけど、勇者パーティとしてはそこまで自覚ないんだよね。

 勇者はリヒトだし。

 メンバーあれだし。

 

「逆に勇者と交際するとかは個人でがんばってもらわないといけませんが」

「マネちゃんどうしたの? 火力高いよ? 何か嫌なことあった?」

「今は終業時間なのでマネちゃんではないのです」

 

 その辺律儀だよね、ちゃんと守るのは良いことだけどもうちょっと緩めてもいいんじゃないかな? と、個人的には思ってるけど。

 

「羨ましいだけですから問題ないれす」

「もしかして酔ってる?」

「酔ってないれす」

 

 酔ってるわね。表情分かりにくいけど顔はちょっと赤くなってるし。あと酔っ払いは酔ってないって言うのは旅の最中に知ってるし。

 

「別にファン一号になれなかったとか、好意向けられて気付かないのムカツクとか全然思ってないれすからいいんれす」

「ボロボロ本音が出てくるわね、いいわよせっかくだから全部聞いちゃうわよ」

 

 周りも酔い始めてあっちこっちで暴れてるし。まぁせっかくの打ち上げだしこれくらいハッチャけても良いでしょ!!

 

「なんなんれすかあの人、パッとしないしなんか地味だし喋ればバカだし良いとこ探す方が難しくないですか」

「マネちゃん分かってるじゃない、見る目あるわよ」

 

 初対面だったはずだけどリヒトのことよく分かってるわね。

 出会った時のことを思い出す。

 勇者パーティに入れば自分の魅力がもっと世界に知れ渡ると思ってた。

 アイドルでも史上初の、勇者がファンになったアイドルになれると。

 でも出会ったアイツは煌びやかさとは無縁で、魔法の技術もこれっぽっちもなくて、バカで、アホで、ドジで、口も悪くて、変な自信しかなくて、デリカシーがなくて。

 

「しかもね? 自分から魔法を教えてくれっていうのに、魔力についても詠唱についても知らなかったのよ? 最低限の炎を灯す魔法だけでも時間がかかって、できたらボロボロの汚い格好で抱き着いてきてホントダサくて」

 

 そこまで話して気が付いた。

 さっきまでずっと聞こえていたはずスタックの、飲んで遊んでいた騒がしい音が、消えていた。

 

「え?」

 

 自分を見つめる無数の瞳。

 ステージに立って注目を浴びることを仕事にしているアイドルとしては、慣れたもの。

 だけど、

 

「リヒトって? 助っ人の?」

「彼、カレンさんと旅した勇者なんだって」

「え!? 同じ名前ってだけだと思ってた…………本人だったんだ…………サインとかもらった方が良かったかな」

「カレンさん!! 続きをお願いします!!」

 

 視線にも種類がある、好意だったり敵意だったり。

 ただ今向けられているのは、

 

「マネージャーさん知ってましたか!?」

「当然れす、私はファン四号なんですから」

「前から思ってましたけど、マネージャーさんで四号なら最初の一号ってもしかして」

「そうれすよ、リヒト様と、お仲間のお二人です。しかも一番弟子もリヒト様です、羨ま憎ましいれす」

「ファンであり、弟子であり、最初はそりが合わなかったけど旅をする上で、そりゃ恋愛要素満点ですよね!! 痛い!? マネージャーさん!? 叩かないで痛い!!」

 

 酔いもあって盛り上がるスタッフたち。その目は面白いものを、酒のつまみを見つけたと言わんばかりの好奇心であふれていた。

 

「「「「で? 好きなんですよね彼のこと?」」」」

 

「あ、アタシが好きなんじゃなくて!? アイツがアタシに惚れてるの!!」

 

「「「「うわぁ…………」」」」

 

「そっちから聞いておいてその反応はどういうこと!? 良いわよそっちがその気ならやってやるわよ!! かかってきなさい!!」

 

 そのままグラスやコップ、時には瓶を片手に、リヒトについて聞きに来る人を倒してまわった。

 照れ隠しなんかではない。

 アイドルとしてのファンサービス。

 途中から、何もわからずとりあえず挑みに来ました、みたいな人までいたので自分から倒してまわる必要はなかったかもしれないけど。

 

「楽しんでますね」

「あれマネちゃん? てっきり潰れちゃったかと」

 

 ひとしきり回って倒し終えたところで、元いたところに戻ればマネちゃんが静かに飲んでいる。

 最初の方からかなり酔っていたし、自分があちこちに行ったりしていたのあるけど、姿を見なかったし、寝落ちでもしてしまったかと思っていた。

 

「酔うのは速いのですが、覚めるのも速いんです」

「マネちゃんがマネちゃんで良かった」

「だいぶ切実ですけど何があったんですか」

 

 些細なことよ。酔って変なことをしたり、早々に寝てしまったり、暴れたりと後片付けが大変なのは全国の飲み屋の人なら知ってる。

 アタシはアイドルだけど。

 

「…………そういえば彼から伝言がありますよ

「え、ついに来た? いやー流石にアタシのステージでの輝きを見たら想いも伝えられずには」

「『今度勝手に攫ったら胸割り増しアイドルって広めてやるからな』だそうです」

「今からちょっと出かけてきていい? 用事ができたわ」

 

 ライブの時よりもっと派手でキレイな花火を打ち上げたくなってきたわ。

 

「『ステージ一回も見られてねぇ、でも上手くいったろ。俺のおかげだからちゃんと礼をよこせよ』だそうです、打ち上げあることを知ったら物凄く悔しそうな顔をして帰られてました」

「マネちゃんナイス、今度ボーナス出すわね」

 

 祭りの好きなリヒトのことだ、打ち上げも祭りみたいなものだしさぞや悔しかっただろう。

 その顔を想像するだけで、何杯でも行けるってものよ。

 

「まーね、ちゃんと仕事はしてくれたわけだし、後でちゃんと謝礼は送っといてね。お金よりは食べ物とかのほうが」

「これは伝言にはありませんが帰り際、一緒に協力していた魔法使いの女性の方々に褒められて鼻の下伸ばしてましたよ」

「生ごみでも送っといて、十分でしょ」

「選びに選びぬいた最上級の生ごみを用意しておきます」

 

 半分くらいは冗談のつもりだったが、最終的にとんでもなく匂いのキツイ食べ物はないかとマネちゃんと二人で相談し合った。

 一緒に入れたスタックのメンバー写真や、手紙もあるので差し引きはプラスになるだろう。

 そしてまた悔しそうな顔をしているリヒトを想像しながら、アタシはアイドルを続けるのだ。




でも飲むより食べるほうがもっと好きです。
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