男として生まれた立花響が修羅場に遭う話   作:勝機を零した、掴み取れん

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おかげさまで続きを書くことが出来ました。
基本なんも考えずノリで書いているのでガバいとこありますがよろしくお願いします。


天羽々斬

「さて、話してもらおうかな……。ね、響?」

 

 響は公園のベンチへと連行されていた。

 未来と翼が彼を挟むように座っていて、この公園にはこの三人以外は誰もいなかった。

 

 事情を知らないものからすれば響の今の状態は正しく両手に花というものだった。

 片方はビジュアルも充分なトップアーティスト。もう片方もお淑やかで、可愛さもある幼馴染の少女。

 

 しかし響からすれば今にも殺されかねない視線を浴びせてくる鬼にしか見えていなかった。

 とはいえ、客観的に見ればこうなってしまったのは彼のせいとは言い難い。仕方の無い事でもあったのだ。

 

「えっと……あの、その」

 

 機密情報を言っていいはずがない響はどう説明すればいいのか悩んでおり、言葉に詰まっていた。

 

「……なら、私が代わりに響の事を話すわ」

 

 そんな時、翼が助け舟を出してくれた。

 

「翼さん……」

 

「あの時の状況の説明なら私の方が鮮明に覚えるはずだからね。ただ、その前に一つ言わなければいけないことがあるの」

 

「言わないといけないこと……?」

 

 問いかける未来に翼は頷く。

 

「先に言っておくと、私も響も簡単にいえば政府に協力している人間なの。つまりここから先は機密情報とも言えるもの。もしそれを聞けば小日向さんもそれに巻き込まれることになるの」

 

「響が……政府に協力してる?」

 

「もう二度と元の日常に戻れなく可能性もある……それでも貴方は響の事を知りたい?」

 

 そう未来に問いかける翼の表情は真剣そのものである。

 

 そして響は翼の取った行動に驚いていた。まさか翼の方から未来に二課の情報を教えようとしていたのだから。

 

「……教えてください。響が今までどこにいたのか、どうしていたのかを」

 

「……本当に良いの?」

 

「良いんです。響がいなかった二年間なんて私にとっては今までの日常ではありませんでした。だから、響とまた会えて嬉しかった。もう傍から離れたくないんです……」

 

 未来もまた、真剣な眼差しを翼に向ける。

 

「私もそれを知れば響の傍にいることができて、響を支えることが出来るという事ですよね? なら、教えてください。私はもう一人きりになるのは嫌なんです……」

 

「……わかった、教えてあげる。あの時、ツヴァイウィングのライブで何が起こったのかを……」

 

 

 

 

 

 ────

 

 二年前。それは、ツヴァイウィングのライブが行われていた最中だった。

 

「ノイズだーッ!!」

 

 会場に鳴り響く轟音。

 

 認定特異災害『ノイズ』の大群が会場を襲った。

 

「嫌だっ! 助けてくれっ!」

 

「死にたくない! 死にたくない!」

 

 最前列にいた観客はノイズに取り込まれて炭素転換され、中には逃げる人々の波に押しつぶされて圧死する者もいた。

 

 崩壊していくライブ会場から逃げる観客達。

 

 響もその観客のうちの一人だったが、彼は二階の観客席からステージの方を見つめていた。

 

 そこでは、ツヴァイウィングの二人がライブの衣装とは全く違う、装甲のようなものを身に纏い、手に持つ槍、刀のようなものでノイズと戦っていたのだ。

 

 彼から見ればその光景は異質であった。

 

 本来、人間はノイズに触れただけで炭になるはずなのに、彼女達は触れるどころか、ノイズだけを一方的に倒していたのだから。

 

 逃げないといけないのに……彼は戦う二人の姿に見惚れていた。

 

 その時だった。

 

「うわぁぁぁっ!?」

 

 響のいた観客席が崩壊し、彼はノイズの大群が蔓延るステージ前へと落下してしまった。

 

 運良く瓦礫の下敷きになって死ぬことは免れたが、受身を取れずに床へと叩きつけられた響の右脚は真っ赤に、大きく腫れていた。

 

「痛いっ! 立ち上がれない……?」

 

 背負っていたリュックを投げ捨て、この場から逃げようした彼だったが、足が骨折しているのかその場から起き上がるすら出来なかった。

 

 そして、彼に気づいたノイズは獲物を見つけたと言わんばかりにすぐ目の前まで迫ってきていた。

 

「……っ!!」

 

 彼が死を悟り、目を瞑った時だった。

 

「早く逃げてっ!」

 

 彼の目の前に駆けつけた翼が迫り来るノイズを切り伏せる。

 

「……翼さん、逃げてください。俺はもう……」

 

「何言ってるの!? 早く逃げてっ!」

 

 守ることで手一杯だった翼は彼の脚の状態を知る訳もなく、ただひたすらに彼の方を見て逃げろと言い続けていた。

 

「翼っ!」

 

「……えっ?」

 

 だからこそ、横から大型ノイズの攻撃が迫ってきていた事に、彼女は気づかなかった。

 

 奏の声を聞いた時には既に遅く、まともに防御体制を取れなかった翼は直撃を喰らい、吹き飛

 ばされてしまった。

 

「翼ぁッ!!」

 

 よろめきながらも、起き上がった翼の目に映ったのは柄より先の刀身を失った天羽々斬だった。

 

「天羽々斬が……!」

 

 大量のノイズとの戦闘により、ただでさえ負担がかかって摩耗していたギアが、先程の一撃で大きく破損してしまったのだ。

 

 しかし、それだけではなかった。

 

「……?」

 

 目の前に血溜まりが広がり、翼の左手は真っ赤に染まっていた。

 

 恐る恐る彼女は顔をあげる。

 

 するとそこには瓦礫に身を預け、血を流し続ける響の姿があった。

 

「ああっ……!」

 

 そして……大きく破損した天羽々斬の刀身が彼の胸部に突き刺さっていた。

 

「お願い……! 目を開けてっ!」

 

 翼は瞳に涙を浮かべ、震えた声で響に何度も呼びかけた。

 

「……翼、さん?」

 

 うっすらと瞼を開けた響が全く焦点の合わない瞳で、今にも消えそうな声で彼女の名前を呼ぶ。

 

「よかった……。翼さんが……無事で」

 

「ダメ……! 死なないで……! 私は……たった一人の……目の前の子も救えないの……?」

 

「そんな、こと……ない、ですよ。俺は……翼さんの歌に……救わ、れた」

 

 その言葉を最後に響は目を瞑り、糸の切れた人形のように倒れた。

 

「……っ! あぁ……! いやあああ!!」

 

 彼女の叫び声が奏と自分しか居なくなったライブ会場に響き渡る。

 

「翼……」

 

 翼の悲痛な後ろ姿に、奏は何も言えなかった。

 

 ただ、いくら叫んだ所でノイズが居なくなる訳では無い。翼の背後にはまだ大量のノイズがいた。

 

「……目の前の一人すら救えない私は、剣とは呼べない」

 

 響の身体を優しく置き、立ち上がった翼はノイズの方へ振り返る。

 

「だから、この責任は取るわ……私の命を使って」

 

 今の翼は自暴自棄となっていた。

 

「翼……?」

 

 何も持たずにノイズの大群へと向かう翼に、奏は胸がざわついていた。

 

 ノイズ達の目の前に立ち、翼は歌う。

 

 

 

『絶唱』を

 

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

「……っ! やめろ翼ッ!! 歌ってはダメだッ!!」

 

 絶唱はシンフォギア装者にとって最大最強の技であり、この絶望的な状況を打開する唯一の手段ともいえた。

 

 しかし、それには装者への多大な負荷を与える。アームドギアを介してでもだ。

 

 彼女が万全の状態で絶唱を行うのならばその負荷に耐えることができたかもしれない。

 

 だが、今の彼女は万全でもなければアームドギアも破損してしまっている。

 

 そんな彼女が絶唱を行ってしまえばどうなるのか……想像に難くない。

 

 だからこそ奏を止めるために叫ぶが、それでも翼はやめなかった。

 

「……歌が聞こえる」

 

 その時、響は彼女の歌で再び意識を取り戻していた。

 

 優しさ、力強さ、悲しさが混ざった歌声。

 

「Emustolronzen fine el baral zizzl」

 

 そして……彼女の歌によって。

 

 彼の胸に刺さった天羽々斬は目を覚まし……彼を気に入った。

 

 

 

 

 

 ライブ会場全体の空気が一瞬だけ全てをこの世の全てを塗り潰すような殺気に変わった。

 

「……っ!?」

 

 それは、絶唱を詠唱していた翼ですら途中でやめてしまうほどのものだった。

 

 そして、彼女の視界には不可解な事が映っていた。

 

 先程まで目の前にいたはずのノイズがいなくなっているのだ。覚悟が決まっていたはずの彼女ですらその状況に混乱していた。

 

「……どういうこと?」

 

「翼ッ! 大丈夫か?」

 

 奏は翼に駆け寄る。幸い、絶唱を中断した彼女に負荷がかかったことは無く、無事ではあった。

 

「奏……これは一体」

 

「わからない……けど、今わかるのは」

 

 そう言って奏は後ろを振り向く。

 

「……あいつが何かやったって事だ」

 

 響が倒れていたはずだった所に彼の姿はなく、代わりに人の形をしたそれが立っていた。

 

 蒼白のフルフェイスのマスクとパワードスーツを身に纏い、白色のマフラーを靡かせているそれはその場でずっと佇んでいた。

 

 そして、しばらくするとそれは後ろへ受け身も取らずに地面に倒れ、光に包まれる。

 

「おい……あれって」

 

「……っ!」

 

 光が晴れると……そこには響の姿があり、それに気づいた翼は一目散に向かって彼を抱えた。

 

「……生きてる。良かった……!」

 

 優しい寝息を立てている響を見て、翼は安堵の表情を浮かべていた。

 

 しかし、彼の様子を見ていると不可解なことしかない事に彼女は気づく。

 

 彼の着ていた白色のパーカーは血で真っ赤に染まってはいるが、傷が塞がっていて流血している様子は無い。

 

 そしてなにより、胸に刺さっていたはずの天羽々斬の刀身が無くなっていたのだ。

 

 

 

 一体どうなっているのかがわからないと考える翼だった。

 

 

 

 ただ……今は奏と響が無事な事と、ノイズの襲撃が終わった事に安心していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────

 

「……そうして俺は特異災害対策本部に拾われんだ。そして……俺がノイズに対抗出来る数少ない人間と分かった時、俺は二課の人間として戦うことを選んだ」

 

 翼が二年前の事故の説明をした後、その後の出来事は響自身が口を開いた。

 

「俺が戦えば……ノイズのせいで涙を流したり、悲しんだりする人が減ると思った。結局、その決断はもっと身近な人を悲しませる事になってしまったけどね……」

 

 そう言って響は悲しげに笑う。

 

「未来や家族に俺が生きているって連絡する事が出来なかったのも、二課としての情報を外部に漏らしてはいけないからだったんだ。だから……ごめん」

 

「……響はずっと私の知らない所でずっと戦っていたんだね」

 

 未来は自身の両手で、響の左手を優しく握った。

 

「……話してくれてありがとう。でも、もう大丈夫。これからは私がずっと響の傍にいてあげるから……だから辛い時はいつでも相談して欲しい。それがあの時……響を失ったと思っていた私が、響にしてあげたかった事だから」

 

「未来……本当にありがとう」

 

「響、生きていてくれて、ありがとう……!」

 

 響と未来。お互いは優しく微笑み、二人の間には暖かい雰囲気が生まれていた。

 

「……私がいる事、忘れてない?」

 

「ああっ、ごめんなさい、翼さん。でも、良かったんですか? かなり重要な事を話してしまったと思うんですが……」

 

「なんでかしらね……。ただ響が困っていたから私が勝手な事をしただけよ。だからこの件に関しては私の方で何とかしてあげる」

 

「翼さん……! ありがとうございます!」

 

 響は深々と頭を下げる。

 

「気にしないで。私も、貴方が前に言っていた大切な幼馴染を知れて良かったと思ってるわ。……響の事は渡さないけど」

 

「私もどういった経緯で響と翼さんが出会ったのかもわかりましたので。けど、どうしてそんなに仲が良いかはわからないんですよね。……ねっ、響?」

 

 そして再び、一触即発の修羅場へと変わってしまった。

 先程までの良い雰囲気はどこへ行ってしまったのか。

 

「そうね……どうしてこんなに仲が良いのかしらね……。ただ、私が言えるのは響は大切な人だってこと」

 

 そう言って翼は微笑みながら響の頭を優しく撫でる。

 

 それを見た未来は殺気を露わにし、響は思わず小さな悲鳴をあげた。

 

「……響、やっぱり私は貴方を許さない。私を見捨てて他の女の人にうつつを抜かした二年間の罪は償ってもらうから」

 

「大丈夫よ、響。貴方は私が守ってあげる。例え相手が貴方の大切な幼馴染だったとしてもね?」

 

 正面には未来、後ろには翼。まるで可憐な花に挟まれた響だったが、彼は冷汗と震えが止まらない。

 

 なぜなら二人から殺気が凄まじく、どちらとも笑顔のはずなのに表情は全く笑っていなかったからだ。

 

 逃げたい。

 

 そう思う響だったが、自身の身体は二人によってがっちりホールドされてしまい体を動かすことすらままならなかった。

 

(ああ……俺って、呪われてるかも)

 

 響は空を見上げる。

 

 それは……彼の未来を暗示するかのように真っ赤な夕日に染まっていた。

 

 その後、二人による彼の奪い合いは空が暗くなるまで続いた。




長い回想いる? と思いましたが翼さんとの経緯を書きたかったので書きました。
次回はヤンヤン出来るように頑張ります。
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