推しの夫【本編完結】   作:蓮田ヒトリ

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結構難産だったアクアメイン回です。


藍玉は改めて母を受け入れる

「進路相談……」

 

 

 宮崎旅行の後、俺は改めて目の前の自身の進路を書く紙を見つめた。ルビーが前世のことを整理して、俺も改めて前世のことを思い直す。

 俺は前世では医者だった。その選択に悔いはないし、もう一度医者をやることにしても特に抵抗はない。

 ただ、ありがたいことに今の俺には役者という道も示されている。父さんという役者としてのお手本のような人は身近にいて、役者になるにあたってこれ以上の環境はないだろう。

 今も俺の初演映画の監督と交流があるのでそれなりの指導は受けているが、どうにも父さん達のように上手くは行かない。

 あの時俺が評価されたのは、見た目と中身のギャップが生み出した印象によるものだ。父さんなんかはその典型で、一応身長自体は伸びているものの童顔なため、一部では不老説が出ていると頭を抱えていた。正直一緒に生活している俺からしても不思議なもので、俺達の生まれ変わりの次くらいに解き明かしてみたかったりする。

 

 父さんの不老の秘密はいったん置いておいて、俺の進路について改めて考えてみる。医者か役者か、特にそれも限定しなくていいと考えると、本当に恵まれすぎていて逆に困ってしまう。

 正直今世ではアイと父さん、ついでにルビーを推していくだけで満足出来るような人生だと思う。最推しが家族というだけで、俺にはすぎた環境だ。

 …………こう言う時は、やはり他の人の意見を聞くのが一番か。

 

 

 

「で、私に聞いてきたわけ?」

「今日はルビーは友達と遊んでいて、父さんも母さんも仕事で聞けてない。有馬が今日オフでちょうどよかった」

「ちょうどよくって、あんたねぇ……」

 

 

 そうして俺は有馬とコンタクトをとって、前世のことや本当の家族のことなどを伏せて有馬に相談した。

 一方的に連絡先を交換され、たまに連絡がかかってきてはたまに意見交換などをしていたが、今回俺から初めて連絡して相談に乗ってもらったというわけだ。

 

 

「やっぱり進路は役者?」

「そうよ!最近は9秒で泣ける天才子役とか言われてるんだから!」

「とうとう重曹舐めなくなったのか」

「いい加減にしろ!お前んとこの妹のせいでたまに重曹の子とかで覚えられているんだからな!」

 

 

 記録更新おめでとうと適当に褒めると「フン」と満更でもなさげな表情を浮かべるので、やはり有馬はチョロいと思う。

 

 

「にしても、医者か役者か、なんてどっちもなろうと思ってもなれない職業で迷っているなんて、とんだ贅沢者ね。というか、あんたそんなに頭いいの?」

「これ」

「んー、なになに……?全国小学生模試……?は、ハァ!?偏差値70!!?そんな頭持ってて役者と悩んでんの!!?」

「だからそう言ってるだろ」

 

 

 正直前世で国立大に出ていた俺にとって、小学生の問題ならある程度対策すれば簡単だった。これもある意味ズルだから、これだけで進路を決めることは出来ない。

 

 

「一意見として、お前はどう思う?」

「当然役者よ!役者やりなさい!」

「なんでだ?」

「え、だって、そりゃあ……また一緒に共演したいし……

「悪い聞こえなかった。なんて?」

「な、なんでもない!……まあ一番は、演技の楽しさを知ってるってことかしらね。大人の思惑が介在して思うように演技できない現場もあるけれど、それ以上に楽しいわよ。あんたもそれは薄々分かってるんじゃない?」

「…………それは、まあ」

 

 

 初演に出来た、あの演技。正確には演技ですらなかったが、全員が自分に注目して撮影現場を自分の手中に収めたような感覚は今でも忘れていない。

 まるで自分が主人公のように感じたあの瞬間がなければ、いくら環境が整っていてもおそらく役者になりたいとも思っていなかっただろう。

 

 

「だが、俺には演技の才能がない。それは監督のもとで指導を受けていて身に染みてる……父さん(斉藤ダイヤ)のようにはなれない」

「は?何言ってんの、当たり前でしょ」

「…………」

 

 

 何当たり前のこと言ってんのとジト目を受けて、ついたじろいでしまう。いや、まあ確かに父さんは別格だけれども。

 一応生まれ変わりとはいえ父さんの血が流れている俺には、どうして父さんみたいになれないのか、そう思ってしまうことがあるのだ。こんなこと有馬には言えないけど。

 

 

「ふふ、あんたって何でも客観視出来る系の人かと思ったけど、意外と自己評価高いのね。なんかびっくりしちゃったわ」

「うるせぇ……お前はどうなんだよ、天才子役さん?」

「……私が今でもそう呼ばれているのは、私自身の身の丈を早めに知れたから。私はダイヤ様のようにはなれない。アクア、あんたもね」

「…………」

「ダイヤ様や私に比べたら才能がないかもしれない。でも少なくとも私はあんたのことをライバルとして認めてる。それだけで十分じゃない?だから、そんなつまらない理由で辞めたら承知しないからね」

 

 

 そうやって俺に指をさしてきた有馬がどこか眩しくて、星みたいに輝いているように見えて、目を細める。

 

 

「ま、まあ?まだ話が聞きたいっていうなら?この後ご飯食べながらでも聞いてあげてもいいけど!?」

「いや、この後家族と食べるからいい。今日は助かった。じゃあまた」

「あ、うん。ソッカ……マタネ……」

 

 

 

 

 

「んー?進路相談ー?お兄ちゃんってば真面目だねー」

「ほっとけ。お前ももう提出だろ。なんて書いた?」

 

 

 俺は家に帰って、同じく友達と別れたルビーに話を聞いた。友達には相談しないの?とか言われた。は?別に友達いないんじゃなくて作らないだけだが??そもそも前世の俺とは精神年齢が違うし、上流階級の奴らとは話が少し合わないだけで話し相手くらいはいるが???そんな身の上話をするくらい仲がいい人がいないだけだが????わかる?????

 

 

「(めっちゃ饒舌……)あー、なんかごめんね……勿論私はアイドルやるよ?今はその修行期間なのだ!」

「修業期間…?アイス食べておいて?」

「今日はチートデイってやつだからいいの!」

「普段運動してから言えよ」

「してるし!ちゃんとアイドルって書いて提出したから、私の将来はもう決定されているんだから!」

「書いたことが叶う紙じゃないし、進路希望でアイドルが許されるのは小学校低学年までだろ」

「聞いておいて何その言い草!」

 

 

 来年中学生でアイドルなるとか書くやつ本当にいるんだ。……もしかして、最近ルビーの担任の先生から思わしげな視線もらっているのって、そのせいか……?

 ……いや、そんな一見夢みがちな進路だけど、コイツは本気でそれを目指している。それは一緒にいて十分理解しているし反対するつもりもない。そもそも母親がアイドルだしな……もっとも、デビューするなら苺プロ以外認めないけど。

 

 

「うーん、役者か医者か……やっぱり医者じゃない?」

「へぇ、意外。てっきり役者を推すもんだと」

「まあお兄ちゃんがやりたいことすればいいって言うのが本音なんだけど、せんせ……前世の私の好きな人がお医者さんだったから、前世ただのオタクだったお兄ちゃんにはそういう人になってもらいたいなって」

「お、おう。そうか……」

 

 

 あの旅行の後、ルビーは自身の内情をかなりストレートに言うようになってきた。こうして前世のことをネタにして言ってくるのは、いい方向に吹っ切れたのだろう。

 しかし、その好きな人は前世の俺だったわけで、それだけに気まずすぎる……!それでも「それ俺だぞ」とは口が裂けてもいえないので反応に困る……!

 

 

「というか、あんな模試の成績出して秀知院の人に色々言われたりしてないの?」

「ああいうのには興味ない」

 

 

 今俺とルビーが通っている秀知院学園は父さんの母校にして様々な上流階級の子供が在籍する学園だ。国内トップレベルで偏差値が高いが、そんな中で学年一位の俺は色んな派閥に誘われたりしている。医者になれた頭脳は前世の頃から引き継がれているから余裕がある。ルビーはそんなのないのでいつも赤点スレスレだが。

 今は役者の練習やルビーの勉強の面倒を見るのに忙しいと言って派閥に加わるのは断っているが、それでもあの手この手で面倒な派閥争いに関わらせようとするのはやめてほしい。そんなので将来を決められたらたまったもんじゃないしな。

 

 

「まーなんでもいいけど。それよりお兄ちゃん」

「ん?」

「いつまでママをアイ呼びするの?」

「…………」

 

 

 この話に飽きたのかルビーが振ってきた話題に俺はつい目を逸らす。

 

 

「パパは割と早い段階で父さん呼びしていたけど、ママにはずっと『アイ』って呼んでて、最近悩んでるらしいよ〜?」

「ぐっ……」

「最近はパパと夜な夜な『アクアにママと呼ばれたい会議』開いているんだって」

「そんなの開いてるのか……」

「推しの悩みの種になっている気分はどうですか〜?」

「…………分かってる

 

 

 俺は、アイの息子の以前にアイのファンだ。最初のアイは俺とルビーを間違えるくらいには母親として良くなかったし、その度に俺はファンとして支えてやらないとと思っていた。

 しかし、アイを父さんがサポートするにつれアイも子育て能力が高くなってきて、最終的にはアイ一人でも俺ら二人を育てるのに随分と余裕が出てきた。この前産まれた真理愛にもその経験は遺憾無く発揮されているのがその証拠である。

 そういうのもあって、いつの間にかアイを母親呼びするタイミングを失って、今の今まで呼んでこないままだった。今更呼ぶのも恥ずかしいというのも理由の一つだったりする。

 ルビー、さりなちゃんは前世の両親との愛情が薄かったのもあって、より今の両親を受け入れられる体制ができていたのだろう。俺は医者になれる費用は出してくれるくらいには愛されていたから、前世との切り替えがまだ出来ていないのかもしれない。

 だと今の父親を父さん呼び出来るのはおかしい。やはり、俺にはアイは推しで俺はただの奴隷(ファン)で、どうも母親という実感がないのだろう。そう思うと母親と呼ぶ気にはどうしてもなれなかった。

 

 

「んー、なんかお兄ちゃんは難しく考えすぎなんだよね〜。もっと気楽にママ呼びすればいいのに」

「…………まだ前世の俺より年下相手にか?」

「前世は前世でしょー?最近それ理解した私が言うのもなんだけどね」

 

 

 なるべく早めにねーと言い残し、ルビーは部屋を後にした。新たな悩みが増えたな、と俺はため息をついた。

 

 その夜、俺は何故か目が覚めてしまい、一回飲み物を飲むかと台所へ行った。そこで、リビングから明かりが漏れていることに気づいて中を覗き見ると、アイと父さんが話していた。

 

 

「それで、やっぱり手っ取り早いのは──って、アクア?どしたのーこんな時間に」

「僕たちがうるさかったのかな?起こしてごめんね」

「いや、そういうわけじゃ…………ねぇ、相談があるんだけど」

 

 

 そうして俺は二人に自分の進路について悩んでいることを話した。

 そう話すと、父さんは思案顔に、アイが難しい顔をしながら唸っていた。

 

 

「役者か医者か……確かに難しい二択ね。僕としてはアクアにはどっちにも適正あると思うから、これといった正解は出せないかな」

「う〜ん?」

「アイさんはさっきから唸っているけど、何かいい案あります?」

 

「いや、これ、どっちもやればよくない?」

 

 

 うん?

 

 

「そこまで簡単な話じゃないと思うけど?どっちもなるの大変って聞くし」

「アクアなら大丈夫でしょ?だって私達の子供だし」

「そんな理由で……」

「…………いや、確かにそれはアリですね」

「父さんまで!?」

「例えば、アイさんもクイズ番組に出ていたように、芸能人は頭脳を求められる場面はある。医者を目指せるほどの頭脳は芸能界においても役立つし、ある程度芸能界のコネも作っておけば医者になった時にも利用できる。実際医者をしながら歌手活動している人達もいるし」

「そうそう!欲張りにどっちも目指しちゃえば?別に今すぐ決めなきゃ死ぬわけじゃないんだし」

 

 

 …………二人の言っていることは確かに一理ある。俺は手元に書いた白紙の進路記入用紙を見つめる。第一希望と書いてあるのだから、どっちがなりたいかを白黒ハッキリつける必要があると思い込んでいただけかもしれない。

 どっちも選べないないならどっちも選ぶ、アイらしい回答だなとつい微笑んでしまう。

 

 

「やっぱり、アクアは父親似だね〜、ダイくんもけっこー優柔不断でさ、この前も新しいソファ買うか小一時間悩んでいたし」

「一言余計ですけど……こういう判断の早さはアイさんの美徳ですね。いつも助かってます」

「うんうん、なんてったって私はお母さんですから!」

 

 

 ありありと自信に満ちた、アイドルのアイじゃ考えられないようなその一言に、何故だか俺はすごくしっくり来たのだった。

 

 

「そっか……じゃあ、そろそろ寝るね」

「うん、おやすみー!」

「おやすみなさい」

「おやすみ……父さん……………母さん

「……ッ!!?アクア、今なんて!!?

「え、ちょ、か、カメラ、カメラ回してなかった!もう一回、もう一回お願い!!」

「んぅ〜?なにぃ〜?」

「ま、真理愛!?ごめんねぇ大きい声出して!でもアクア、アクアが……あれ!?もう寝室に行ったの!?早っ!」

「あ、アイさん、真理愛を寝かしつけたら、急いで計画練りましょう!2回目は必ず記録するんです!」

「う、うん!」

 

 

 こうして、いつもより騒がしい星野一家の夜は流れた。

 ちなみに「父さんいつまで母さんと敬語で話すの問題」も後々の議題に上がってくることを、今はまだ誰も知らない。

 

次の番外編の話はなにがいいですか?

  • 有馬かなは告らせたい
  • 星野真理愛の苦悩
  • 星野一家のインタビュー
  • かぐや姫と宝石たち
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