「とりあえず、どこの産婦人科に行きましょうか」
「えっ?そこら辺でよくない?」
「……」
さすが「勉強したくないから」で芸能界で生きることを決めたアイさんだ。僕が頑張って支えてあげないと…!
「B小町はここら辺で活動しているんですよね?なんかの拍子にバレたらどうするんですか?」
「え〜?でもまだそんなに知名度なくない?」
「何か言いました????」
「エッイエナンデモナイデス…」
全く、アイさんは自分の魅力をもっと把握すべきだ。そもそもテレビで全国発信されているアイドルが知名度がないわけないのに。
また、もし今は知名度がなくとも、今後売れるにつれ過去の不祥事は血眼になって探し出される。妊娠ネタなんてマスコミの格好の餌食だろう。
それに、僕もこれでもテレビにたくさん出演している子役だ。僕だけ顔を出さない、なんて選択肢は当然ないので、なるべく僕らを知らないところで出産すべきなんだろう。
でも家での出産はアイさん自身に負担をかけてしまうし、そんな地方の病院に紹介できるほどコネは持ってないし……。
「……仕方ないか。アイさん、
「うん?分かった!どうせ言わなきゃな〜って思っていたところだしね!」
「そうですね。早速兄さんのところに行きましょう」
申し訳ない、兄さん、胃痛の生贄へとなってくれ。
☆☆ゴローside☆☆
(えええええええ!!!本物のアイ!!!???)
アイ(?)が帽子を取った後、一旦その場から離れて、俺は心の中で絶叫した。病院で大声出さないのは医者とて同じだ。
(いや、俺が見間違えるわけがない!あれは本物のアイだ!!それも出産!!?つまり、妊娠しているわけで……アッアッアッアッ)
動揺で死にそうになるもなんとか耐えて、改めてカルテを読み直す。
(本人の年齢が16で相手の年齢が11なんて圧倒的訳アリだからきちんと読むのもマズいと思ったのが仇となった…!それに11ってことは、あの子供がアイの‼︎‼︎?)
金髪グラサンの男と、もう一人付き添いで来ていた小中学生くらいの少年をドアの隙間からこっそり見る。
金髪でサラサラヘアーの身長の低い顔立ちの整った美少年。どっかのテレビで見たことある気もするけど、アイ以外にさほど興味がないので思い出せない。
てかいくらなんでも弟とかそんな風に思うだろ!むしろ見た目のチャラさ的にも父親(戸籍上)との方がヤってそうだろ!は?アイが枕営業とか地雷です。ファンやめ…ないけど、流石に問いただしたい!
「ふー、本当、どうしてこうなった……」
「社長さん、本当にすみません……」
「いや、金剛が悪いわけじゃない!もちろんアイにも……責任はあるが子供を授かること自体を悪いとは言えないからな!しかし、付き合うにしてももっと節度のある付き合いをというか……」
「それは金剛くんが可愛すぎるのが悪い。私は悪くない」
「アイさんが綺麗すぎるのがいけません。僕は悪くありません」
「さいですか……」(社長の弟と所属アイドル恋愛って、マスコミにバレたらと思うと……俺も内科受けようかな……胃が…………!)
ァーーーーーー!!!!脳が破壊される!!!助けてさりなちゃん!!推しのアイドルが砂糖吐きそうなほどのイチャイチャ繰り広げているよ!!アイ過激派のキミになら止められるはず!!!
そんな願いも虚しく、おとなしく検査をした結果妊娠は確定。まだ確定事項ではないが、今までの経験則からおそらく双子だろう。
16歳の母体で双子を産むのは中々リスキーだが、本人達の決意は固いらしく出産する方向で話を進めることが決定した。
もちろん、医者としての俺は患者の意見につつがなく従う。しかし、ファンとしての俺は……。
あの後同僚に色々聞いてみると、アイを妊娠させた男、斉藤
今も子役の時のネームバリューから様々な作品に出演している、超有名俳優らしい。だからアイしか知らない俺でも見たことあるんだなと自己解決した。
看護師たちが色めきだってもてはやしていたが、どうやら兄(公表はしていないがあのグラサン男らしい)の付き添いに来ていると思われているらしく、彼自身が種を蒔いたとは思われてないらしい。まあまだ小学生だし俺もカルテ見なけりゃ信じなかったよ。
あまりアイとの接点は表の限りではなく、同時に休止宣言したのにも関わらず別界隈だったので特に二人がどうこうしているみたいな話は出なかったらしい。
俺もアイを追っていても彼を知らなかったということは、実際関わりはなかったのだろう。ならなおさらどうしてそこまで仲良くなったのかは少し気になるけど。
そして、彼自身も小学生とは思えないほどしっかりしているというのが交流を続けていて分かってきた。
むしろどこか抜けているアイをしっかりサポートできる、とても相性のいいふ、ふふふ、夫婦、というのが分かってきた……推しのアイドルが夫婦って、すごいダメージくらうな……。
そして、アイの彼と話しているあの笑顔、アイドルの時と同じ、いやそれ以上に輝いているあの笑顔を見てしまうと、嫉妬する気も失せるというものだ。
一応彼の出演作品も見たが中々素晴らしいものだった。アイの次くらいには、推してもいいかもしれない。
しかしやっぱり羨ましいものは羨ましいので、気を紛らわすために休憩時間は屋上で黄昏れていると、そこにアイがやってきた。
そして、アイは語った。自分のことを。
自身がアイドルなこと。世間に公表しないこと。アイドルもやめずに、嘘をつき続けながら母の幸せとアイドルの幸せを手に入れること。
その顔は、俺がいつも見ていたキラキラ輝くアイドルの顔でありながらも、俺がいつも見ていた出産を控えた強い母の顔でもあった。
……ようやく、医者としての俺とファンとしても俺の意見が一致した。
君の幸せというのなら、俺はそれに従おう。
どうしたって、君はアイドルで、俺は君の
そして時は流れ、出産予定日を控えた。
アイの夫、金剛さんもいたそうにしていたが、夜も遅いこと、まだ小学生らしく夜は長く起きれないのか眠そうにしていたこともあり、先に帰らせた。
俺も当直の先生達に任せ、帰路についていると、不審者に声をかけられた。
「なああんた、星野アイの担当医?」
「…………彼女の受診の際は偽名を使っている。そして、彼女の本名も公表されていない。何者だあんた?」
「ふ、ふふふ、ふふふふふ……!」
フードで顔はよく見えないものの、俺はその姿を見て思わずぞっとした。
そして、目の前の男は自分の功績をベラベラと喋り始めた。
自分は天才ハッカーで、アイの足取りを追っていたらこの病院に辿り着いた。そこの監視カメラをみると、アイの姿と彼女の妊婦姿を捉えた。
そして今がちょうど出産予定日なのも筒抜けで、彼女に罰を与えに来たという。
(コイツ、狂ってやがる……!)
いくら地方の病院とはいえセキュリティが甘いなんてことはない。しかしそれをコイツは突破してきた。マジでその技術を他のところで活かせよ…!
そんなこと言っている暇もないので、大急ぎで病院に戻る。アイが危ない!
ここから最短距離の山道ルートを通りつつ、急いでうちの守衛に電話する。
「すみません守衛さんですか!?雨宮です!うちの病院の近くにストーカーが現れて、患者が危ないです!すぐに警備を強化してください!!あと会話を録音したので、これを元に──」
俺は失念していた。
俺自身運動能力が高くなく、この山道は知識としてあってこんな走りながら通ったことがなかったので、暗闇なことも相まって足の踏み場を見失ってしまった。
そして体勢を崩しそのまま──
最期に見たのは、こちらを追ってきていたストーカーの姿だった。
そして目が覚めたら、体が縮んでしまっていた!!
みたいなこと、本当に我が身に起きるとは思わなかった。正確には、アイの子供、星野
生まれ変わり?転生?そこらへんは分からないが、なんにせよ、推しのアイドルに甘やかされているというこの現状、天国として言わずしてなんという!!
正直名前に関しては物申したい気持ちはあるが、当初の『
一個人としてはアイと金剛さんには普通の子供を育てて欲しかったが、これは不可抗力なのだ。いずれ解き明かすにしても、今はこの赤ちゃんライフを堪能したい。
「ほんぎゃー!ほんぎゃー!」
「はぁーい、どうしたんでちゅかー?」
「ルビーは僕が対応するので、アクアを頼みます」
「あっ、はーい」(そっか、こっちがアクアじゃん)
そうだ、この家族にはアイと金剛さんと俺、そしてもう一人いる。俺の双子の妹、
こちらもまあまあキラキラしているが、どうやらアイが金剛さんと似たような宝石の名前にしたいらしく、金剛さんもまんざらではなさそうに決めたらしい。
ただ金剛さんも自分の名前でかなり苦労したそうなので、まだギリギリセーフな名前に落とし所をつけたという。初期案が
「お前は本当に母親かよアイ。金剛の方が子守りしてんじゃねーか」
「人には向き不向きがあるって知らないの佐藤社長?いやでちゅねー、日本の男は母親を神聖視して」
「パスポートも持ってない奴が知ったようなこと言うな!あと俺は斉藤だ!自分の義理の兄の名前くらい覚えろよ!」
「えー、だって私人の顔と名前覚えるの苦手なんだもーん。ねー?」
「きゃははは!!」
「このクソアイドルとクソガキめ……!」
「兄さん、アイさん、そこらへんで……」
言い争いをしながら入ってきたのは、俺の前世とも関わりがあるアイの事務所の社長にして、俺の伯父にあたる人だ。あと、その後ろについてきたのはその夫人のミヤコさん……今日もバッチしメイク決めてきてんな。
そして仲裁に入ったのは、俺の父親、そう、金剛さんだ。ちなみに、最期に会ってからわずか一年しか経っていないからか全然身長が変わってない。そのため、俺達とは歳の離れた兄くらいにしか見えないだろう。
というかルビー、今笑ったの絶対確信犯だろ。
「とにかく、アイドル「アイ」は本日復帰し、その打ち合わせを行う!まず、今夜の復帰第一弾の歌番組だが、いけるな?」
「もちろん」
「その間、金剛が子守りをする手筈だが、その金剛も近々復帰予定だ。二人が面倒を見れない間は俺の妻が面倒をみることになっている。今日はその予行練習だな」
「すみません義姉さん。僕ももう中学生ですので…」
「い、いえいえ!大丈夫です!」
大人な対応をする金剛さんを見ているとついつい成人として扱いそうになるが、彼もれっきとした子供だ。ちなみに学校は役作りのために離れていると言って公欠扱いだったらしい。
金剛さんの通う秀知院は上流階級が集う学園で、俺が前世で卒業した医学部とはまた違った意味で入るのが困難らしいが、その分授業などはある程度融通してくれるらしい。
にしても、ミヤコさんの金剛さんに対する対応が結構違うんだが、ファンだったのかな?俺もアイと話している時あんな感じになっていたと思う。
「えーめんどーい。困っちゃうよねルビー?」
「そっちはアクアですよアイさん」
「あっ、そうだった」
「お前な……」
あっはっはっと笑うアイは母親としては相当ダメな部類に入るだろう。それでも、父親の金剛さんや社長さんとかの手厚いフォローのおかげで、案外なんとかなるかもしれない。
「よし、リハまでもう時間がない。移動するぞ」
「はーい……あっ」
俺を抱えたままアイが立ちあがろうとすると、左肩から服がはだけて思わずその胸を曝け出す──!
その前に腕の中で動くふりをしてなんとか隠す!よしっ、ギリギリセーフ!
「あぶな〜社長におっぱい晒すところだったよ〜」
「アイさん??」
「アッスミマセン…チャントキマス…」
「……外ではちゃんとしまっとけよ。あと金剛、顔怖い。ルビー泣くぞ」
「あっ、ごめんねルビー」
「ほんぎゃー!ほんぎゃー!」
「ありがとねルビー!」
「そっちはアクアだ……いや、怒りの矛先を変えたルビーに感謝したのか?」
そして夜の歌番組が始まり、ルビーが寝ている横で俺はそれを見ていた。
金剛さんとミヤコさんは今のうちに育児のお勉強会だという。以前アイの録画を見せたところ俺達がそれに釘付けになった(ファンとして当然)ことで、アイを見せていたら大人しくなると気づいたらしい。それ正解。
そしてアイが周りの目を奪っているところを見ながら、起きてきた
「あれ、ルビー起きちゃった?」
「だ、だぁー」
「う〜ん、アイさんにはよく懐いているけど、僕には中々懐いてくれないなあ……やっぱり身長かな……」
俺と同じく前世の記憶を持っているルビーだが、前世で推していたアイとは違い金剛さんには少しぎこちない対応をしている。
むしろ推しのアイドルに母乳をねだる方が抵抗感あると思うのだが、そこはやはり異性ということなのだろうか。
そんなやり取りを横目にアイの出演を目に焼き付けていると、頭に何か乗った感触がした。
そして、隣を見て、金剛さんが僕の頭を撫ででいることに気づいた。
「アクア、さっきはありがとね。アイさんの胸を隠してくれたでしょ?」
「ば、ばぶー?」
「うふふ、まだ分からないかな。でも、偶然だとしても、ありがとう」
その手の温もりから、心の方も温かくなるのを感じた。
「お、おぎゃー!おぎゃー!」
「ん?ルビーも構って欲しいのかい?」
そうして俺とルビーは、寝るまで金剛さんの横に並んでアイの動画を一緒に見ていた。
そのまま三人仲良く寝落ちした時の写真でアイから鉄板のいじられ話として言われるとは、俺達はこの時想像はつかないのだった。
………… まあ、最初の言葉はアイなのは譲れないけど、次は『パパ』くらい、言ってあげてもいいかな。
(イクメンのダイヤさん……尊い……!!)
息を潜めて俺達を見ているミヤコさんもいたことは、また別の話である。
余談だが、俺の死体は
守衛さんに電話したこともありそのGPSで追跡。証拠隠滅のためにストーカーが俺のスマホを持っていたこともあり無事に捕まったという。
ただ死因が俺の不注意による事故なのでどういう罪状になるのか議論がされているらしいが、まあ前世は前世だ。そこまで気にしても仕方ないだろう。
何はともあれ、俺は今世はこの四人家族で生きていく。願わくば、ずっと変わらない平穏を過ごしていきたい。
一応ここの世界線ではアイ15歳時に妊娠発覚、16歳で出産ってことにしてます。