僕とアイさんが復帰しておよそ数ヶ月、星野一家は徐々に生活もまわり始め…………ていなかった。
僕らの家にはお互いの通帳と睨めっこしている僕とアイさん、何が面白いのかそれを一緒に見つめるアクアとルビー、そして事務所の経理をしているミヤコさんがいた。
「うーん……結構渋いなあ。ダイくんはどう?」
「僕も以前より全然ですねえ」
ちなみにアイさんの僕への呼び方は結構変わる。最初の方は金剛くんや本名の方で呼んでいたが、最近はダイくんで固定されつつある。僕的には本名で呼ばれなければ割となんでもいい。
というか、僕自身子供達にそれなりのキラキラネームをつけてしまったので、僕もあの名付け親と同罪だ。ごめんな、アイさんの「金剛くんと似たような名前にしたい!」という可愛いおねだりに弱い僕を許してくれ……。
そんな僕たちの隣で真似をしているのか同じ難しい顔をしている子供達の顔が可愛くて、ついつい顔を緩めて撫でてしまう。それを甘んじて受け入れる子供のなんと可愛いことか。
最近ルビーも僕に慣れてきたのか顔を綻ばせるようになってきたし、アクアも表情が分からないながらも拒否しないのはそういうことなのだろう。
「うちの事務所中抜きエグすぎないー?」
「しょうがないでしょ?製造から流通までやってる大手とは違ってうちは弱小芸プロ。利益が薄いのは当たり前」
「じゃーダイくんの方もー?」
「そりゃ以前のコネもあるからB小町よりかはオファーはあるけど、それでもうちに来たからにはお金は少なくなるのは自然よ……これでもダイヤくんのおかげで全体の給料上がってるのよ?本当助かってるけど、なんでうちにきたのか……」
「だって僕たちの子供の面倒を見たいですし」
実は僕は今まで兄さんの事務所ではなく、もっと大きい事務所で子役として働いていた。元々子役として始めたのは兄さんの夢を手伝うためだ。
「自分の育てたアイドルをドームに連れて行く」、兄さんから耳にタコができるぐらい聞かされた夢だ。
それを成し遂げるために独立して自分の事務所を立ち上げた時のお金や、僕の通う秀知院の学費も相まって一時期は本当に身売り寸前まで追い詰められていた。
そこでとにかくお金がいると気づいた僕は、兄さんのところではなくスカウトされた大手のプロダクションに所属(血眼になって兄さんが見極めていた)し、気づいたら天才子役としてもてはやされていた。
今はまだ大手とは言えないまでも苺プロも軌道に乗り、アイさんとの子供も生まれたのでお金よりある程度の子育ての時間が必要と感じて、色々融通のきく苺プロに移籍したのだ。もちろんその内情は兄さんとミヤコさんとアイさんくらいしか知らないし、なんなら世間的にも兄さんとの血縁関係も知られていないはずだ。
そのために色々一悶着あって兄さんに負担をかけちゃったけど、後悔はしていない。アイさんとも一緒にいれる時間も増えたしね。
「んー、けどやっぱり世の中お金だよねー」
「どしたの突然」
「嫌なことに気づきましたね」
「私だけだったらそんな気にならなかったけど、ダイくんと一緒に暮らしたり、この子達をいい学校とか習い事に行かせるために、色んな選択肢をあげるためには、私がもっと稼がないといけないんだよね?」
「……アイさん……」
…………正直なところ、僕は不安だった。
アイさんのことはす、すすす、好きだし、子供達もとても可愛い。でも、アイさんが嘘に塗り固められた人生を過ごしてきたのは知っているし、出産直前も周りには気丈に振る舞っていたけど本当にいい母親になれるか心配で夜も眠れなかったのも知っている。
今でもたまにアクアとルビーを間違えるし、まだ無責任なところとかもあって大人としては少しどうしようもない人なのは間違いない。あまり子守りが出来ていないこともあってミヤコさんより手際が悪いことも知っている。そこら辺はおとなしくお世話されてくれている子供達に感謝しかない。
それでも、頑張って育児の勉強をミヤコさんや僕から学んでいたり、こうやって家庭のことを考えているアイさんの顔は、間違いなく母親の顔なのだ。
「今もダイくんの貯金で過ごしているようなものだし、お姉さんとしての威厳がないよ〜うまっ」
「じゃあまずはその高いアイスからやめなさい」
「そうですよアイさん、僕にも一口ください」
「ダイヤくんもイチャイチャしないでくれる?」
「だぁーだぁー!」(私にもちょーだい!アイの間接キスつき高級アイス!)
「まだあなた達には早いです!大人しくしてなさい!」
「なんか、ミヤコさんとってもうちに慣れたよね〜」
「そりゃあ何ヶ月もあなた達と過ごしていたら嫌でも慣れますよ!」
本人曰く「推しが幸せならもうなんでもいいです」とのこと。いつも理解のあるファンの行動には助かっています。
⭐︎⭐︎アイside⭐︎⭐︎
『アイって最近変わったよな』
『良くも悪くもプロって顔だけど、たまにいい表情するよね〜』
『それでもなんか人間臭くないっていうか、イマイチ推しきれない』
そんなエゴサを見て、不意に思考がよぎる。
私はダイくんと出会って、相当変わった、と思う。
いつも貼り付けた笑顔は自然な笑顔になっているらしいし、愛するってことがなんとなく分かってきた気もする。
それでも、私の身に染みついた嘘は簡単に剥がれ落ちてくれない。
私がダイくんを、ルビーとアクアを、まだ愛せてないと言われている気がして……
「痛いところつくなあ」
そして迎えたB小町のライブ、いつものおまじないを頭に浮かべる。
ダイくんは天才子役と言われるだけあって笑顔の作り方も心得ている。巷では天使の笑顔と言われているらしい。まあ?私には本当の天使の笑顔が向けられていますけど?貴方達は?
みたいな心の中でマウントとりつつ聞いてみると、こんな返答が返ってきた。
「そうですね、僕の場合はアイさんを思い浮かべている時が一番笑顔ができている気がします」
そんなこと言われたら押し倒しちゃってもしょうがないよね?多分時期的にもその時に妊娠したのかなーって思っている。今となっては大きくなった二人に聞かせてあげようかなって思っているくらいには振り切れているけど、後から気づいた時は本当に申し訳なさで死にそうになったもん……いや、今でもたまに罪悪感で謝っている。いつも困った笑顔で許してくれるダイくんには本当に頭が上がらない。
そういうわけで、私はいつもそんな自然な笑顔をするべくダイくんの顔を思い浮かべて、改めて鏡を見る。うん、いい笑顔。行ってきます、ダイくん。
でも、私自身天才な自覚はあるけど、あまり覚えの良くないのも自覚している。だから、ライブの振り付けは頑張って体に染み付かせて、かつ思い出しながら踊っていたりしている。
そうしていると脳内でダイくんの顔が薄れていくわけで、普段の、いつもの一番喜んでもらえる笑顔を浮かべてしまう。
私の
そうして観客に目線を向けると……
「なんだあの赤ん坊、ヲタ芸やってるぞ!」「乳児とは思えないキレだ!」「なにあれすげー」「とっとこ」
幸いなことに私の子供っていうことはバレなかったけど、大バズりをしてミヤコさんは監督責任で社長に連れられていた。
ダイくんは心配もしていたけど最終的にうちの子かわいいで思考を放棄していた。うん、分かるよ。ダイくんもかなりの親バカだね。お揃いだ。
勿論これでB小町も私自身も少し知名度が上がり、お仕事もだんだん増えていくだろう。
でもそれより、私はもっといいことを知ったのだ。
「なるほど〜〜〜〜、これが
あんな可愛いこと、そうそう記憶飛ばさない!
原作アイにはおそらく「表情を作る」才能がありますが、本作では少しグレードダウンさせてます。無意識ながら愛を知った人に嘘の顔を作る必要はなくなってきたのです。