推しの夫【本編完結】   作:蓮田ヒトリ

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監督と女優と天才子役

⭐︎⭐︎アクアside⭐︎⭐︎

 

 

 俺達が起こした『ヲタ芸を打つ双子の赤ちゃん事件』から約一年、俺たちは立っても喋っても疑われない程度に大きくなった。

 俺は順当に、対して妹は……

 

 

「ママァママァ!よしよししてぇ!」

「いいよー?よーしよしよしー!」

「きゃーー!!」

 

 

 アイドルをママ呼ばわりして甘えるヤバいファンと化してしまった。ただの子供なら平常かもしれないが、本性知っているからな……。

 まあ赤ちゃん時代から母乳をねだる奴だし、羞恥心というものをアイのお腹の中に置いてきたんだろう。可哀想に。

 

 

「は〜〜極楽浄土〜〜〜♡」

「うん?極楽浄土なんて言葉どこで覚えたんだろ?」

((やべっ))

 

 

 もしかして、アイは僕達のことを怪しいと──

 

 

「ヤバい位の天才っぽいな……私に似たのかな?」

((セーフ…!))

 

 思うこともなく、平穏に日々を過ごしている。アイは相当親バカらしく、割とボロを出しても全然切り抜けられる。もしバレるとしたら父さんくらいで……

 

 

「アクア、どうかした?」

「ッ!!!!??」

「あっ、ダイくーん」

 

 

 と、父さん!?いつの間に後ろに!!?

 

 

「ルビーが極楽浄土って言ったんだよ〜?すごくない〜?」

「えっ?それは……」

 

 

 ま、まずい、ルビーも冷や汗をかいている。父さんは頭がいい。それは俺らの子守りに加えて子役の仕事もあるのに秀知院を余裕で進級している事実が証明している。流石にこれはバレたか……!?

 

 

「すごいですね、ギフテッドというものでしょうか?うちの幼等部に入れることも検討しましょう」

「えっ、それめっちゃアリ!うちの子めっちゃ賢いしいいと思う!」

 

 

 ──そうだ、うちの親は両方とも相当な親バカだった。全肯定botもかくやというくらいには俺らのことを溺愛している。こういうやらかしがあっても見逃してくれることが多いから個人的にはありがたいけど。

 

 

「アイさーん?ダイヤくんー?そろそろ出発しますよー?」

「はーい!ほらダイくん、アクア任せたよ~」

「はい。アクア、ばんざいして」

 

 

 そう言って、アイはルビーを、父さんは俺の着替えを準備し始めた。一応まだ三歳なので、着替えはまだできない設定でさせてもらっている。

 初めて喋った時とか初めて歩いた時なんかはビデオ撮りながら号泣している二人を見て、これくらいはまだ世話を焼かせてあげた方がいいのだろう。推しのためならこれくらいの羞恥心なんて安いものだ。

 

 

「アクア、さっきはアイさんにルビーが甘えていたけど、アクアも甘えていいからね。もちろん僕にも」

「…………そんなんじゃないし」

「はいはい」

 

 

 強情な息子みたいに扱うな、バカ父さん。

 

 

 

 

⭐︎⭐︎金剛side⭐︎⭐︎

 

 

 ミヤコさんがワゴン車を運転して向かっている先は、僕とアイさんの初共演する作品の撮影現場だ。今まで苺プロのアイさん以外のB小町とは何人かコラボさせていただいたけど、邪推されないためにもようやくアイさんと一緒に仕事する機会がきたわけだ。

 もっとも、僕は主演、アイさんはそのクラスメイトという明らかに立場の違うキャストになった。僕は長年この業界に携わっていたのに対しアイさんは初めて関わるからしょうがないんだけどね。

 そして僕ら三人がお仕事で子供達の面倒を誰も見れない状況で子供達(特にルビー)がせがんだこともあって、子供達も初めて仕事場に連れて行くことになった。アイさんのライブにはこの前行ったみたいだけど、今度は僕の仕事場にも来るわけだ。少し気合いが入るな。

 そして、早熟な子供達はミヤコさんの注意事項を理解しながら聞いている。賢すぎない?と思わないわけでもないけど、僕も子供の頃から頭良かったし、僕の子供だからこんなもんかと思っている。

 

 

「現場では私の子供という設定で、絶対にお二人にパパママは言わないでくださいね」

「はいはいママママ、なでなでして」

「ママ私にもしてー」

「ママお小遣いちょーだい」

「ふふ、ママ、僕にもください」

「お二人は呼んだらマジで事案なので勘弁してください!!」

 

 

 どうやらママは運転で忙しいらしいので、代わりにアイさんが一緒に後部座席で座っているアクアとルビーをなでなでして、助手席の僕は財布を出した。え?いらない?そっか……(しゅん)

 

 

「はい、着きましたよ。じゃあこれからくれぐれも……って、お二人なら大丈夫か」

「うん、任せて」

「これでもプロですから」

 

 

 ここから先は『斉藤ダイヤ』と『アイ』という関係だ。芸能界、食うか食われるかの戦いにおいて、僕らの関係は絶対に守り切る必要がある。

 

 

「苺プロの斉藤ダイヤです。本日はよろしくお願いします」

「同じく苺プロのアイです。よろしくお願いします」

 

 

 現場に入りある程度顔合わせをしていると、五反田監督がアイさんのことを睨みつけていた。

 いや、ただ見極めているだけで、そんな意図はないだろう。仲裁に入るのは簡単だけど、アイさんは結構図太いし五反田監督はああ見えてイイ人だし割とアホなので大丈夫だ。

 アクアとルビーは、同じ共演者に可愛がられている。愛憎渦巻く芸能界の大人達とはいえ、子供を可愛がるのは変わらない。むしろアイさんと僕の子供なら芸能界に関わるのはほぼ確定している。今のうちに慣れてもらうのも手だろう。

  

 

 そうこうしているうちに撮影が進み、順調に進んでいる中で、カメラの位置に少し違和感を覚える。

 今のシーンは僕ら主演とアイさん達脇役の演者が和気藹々と話す場面だ。そこで、今まで特に動かなかったカメラマンの大きな動き。そこまで動きを必要とされる場面でもない。

 …………十中八九、アイさんを映さないためだろう。アイさんは贔屓目で見ても目を引く魅力のあるアイドルだ。曰くMVを撮る要領でいいなら得意分野と言っていたけど、それを実行できるのはまさしく才能だ。

 そんな人が同じ画角にいると、主演の存在が薄れてしまう。そして誰を長く映すかは会社間のパワーバランスで決まってしまう。うちは弱小だから蹴落とされ始めたのだろう。

 人は僕を大人びているというけど、こんな世界に幼少期からいたらそりゃあ大人びるに決まっている。兄さんの後ろで間接的に関わっていたのも大きい。

 アイさんはこのことには、流石に初めての撮影で気づいていないみたいだ。いや、違和感こそ感じているけどドラマの撮影のノウハウがないために言い出せないのだろう。

 …………僕から直談判でアイさんの出番を勝ち取ることは、おそらくできる。それぐらいのコネと実力を兼ね備えているのは自分が一番分かっている。

 けど、これくらいの逆境、一人で乗り越えてくれないとこの業界は生きていけない。だけど、まあ、軽い手助けくらいはしてあげましょうか。だって、『同じ事務所の人を贔屓する』のなんて、この業界では当たり前なんですから。

 

 

「…………!」

(……?もっとこっちか)

(…………そういうことかい、この天才子役め)

 

 

 

⭐︎⭐︎アクアside⭐︎⭐︎

 

 

 アイと父さんと一緒に一ヶ月前に撮ったドラマの放送を見ていると、アイが全然映っていない!父さんは主演だからそれなりに映っているけど、アイがたった数回(・・・・・)しか映らないなんて!

 実際エゴサでもアイに目を奪われたという人もいるけど、それでもたったあれだけじゃアイの魅力の1%も伝わらない!

 そしてドラマを見ていたアイと父さんの物寂しいような背中を見て、俺はいてもたってもいられなくなり、あの監督からもらった名刺を見ながら電話をした。

 監督にクレームを入れると、芸能界の仕組みについて詳しく話された。イメージ戦略、会社間のパワーバランス、それに伴う必要な犠牲のことも……。

 そして彼の話が一区切りついた時、一拍置いてため息をつきながら監督が話し始めた。

 

 

「とは言っても、本当はもっとなくす予定だった。最初のワンシーンの、それもほんの少ししか出番を与えないつもりだった」

「え……?でも、アイはもっと映っていた……もしかして、アイの魅力が抑えきれなくて編集陣も」

「んなわけあるか強火ファンの早熟ベイビー。お宅のところの天才子役様のせいだよ。全く、してやられたぜ」

「は……?」

 

 

 父さんが……?でも、俺もある程度見ていたとはいえ、特に直接掛け合っているところも、撮影中なにかアクション起こした感じもなかったはずだ。

 

 

「早熟ベイビー、お前なら気づかなかったか?カメラワークの不自然さによ」

「うん……?確かに、言われてみればちょっと違和感があったけど」

 

「アイツのやったことは単純だ。元々決められた位置から少しズレたところ(・・・・・・・・)演技(アドリブ)をした。それも、わざわざシーンを止める必要もないくらい少しな。だが、斉藤ダイヤを映すとなると、アイがどうしても映る位置(・・・・・・・・・・・・)に移動しやがった」

「!!!?」

 

 

 よくよく考えてみると、アイが映っている時はほとんど父さんが一緒の画角だった。そして、アイがきちんと映らない時は、父さんも微妙な位置に立っていた。そこから少しの違和感を感じたのだ。

 

 

「向こうで話した役者の3タイプ覚えているか?」

「うん、看板役者、実力派、新人役者でしょ?」

「やっぱテメー本当早熟だな……斉藤ダイヤは今回の現場は実力派に該当する。主演ということもあり映さないわけにもいかん。だから、強制的にアイの映像も増やさざるをえなかった」

「でも、あんたらなら撮り直しとか要求してきそうだけど?」

「ハハ、やさぐれたか?撮り直すほどのズレじゃねーって言ったろ。そんなことしたら、主演の女優がアイに完全敗北しましたって認めているようなもんだ。そんなの女優の面子的にも会社の面子的にも出来るわけねーんだよ」

 

 

 そして斉藤ダイヤを出す思惑とアイを映らせたくない思惑がぶつかり、最終的にどちらも少し中途半端になってしまい、違和感のある画角になってしまったという。全く編集泣かせだと監督は愚痴っていた。

 それを聞いて、俺は鳥肌が止まらなくなっていた。俺の父さんは、役者っていうのは、立ち位置一つだけでこんなにも人の思惑が飛び交い、悩ませ、操作することが出来るのか……!

 そしてアイ。父さんはあくまで『アイの映る可能性を増やしただけ』、それなのにあそこまで印象に残らせるような演技をしたアイも、やっぱり本物の天才アイドルなんだ…!

 

 

「にしても、お前も大概だがあの子役も相当だな。お前ら親子とかか?」

「ア、アハハ、ソンナワケナイジャナイデスカー」

「ガハハ、そうだよな!中学生と幼児の親子なんてフィクションでもありえねぇよな!」

 

 

 地味に真実に辿り着きそうだったが、結構酔っ払っているのか普通に与太話として流してくれた。危ねえー……!

 

 

「……まあ、お前もまだ納得してないだろう。俺自身、アイに悪いと思っている。そこで、アイに仕事を振りたい。それで今回の件は手打ちにしようや」

「えっマジで」

「ただし、交換条件としてお前も来い。あ、斉藤ダイヤは使えんぞ。上の方から二人の共演はなるべく避けるようになった」

 

 

 そんな芸能界への誘い(スカウト)に俺は………。

 

 

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