⭐︎⭐︎アクアside⭐︎⭐︎
監督の取引を俺は受け、俺とルビー、そして母親役のミヤコさんは撮影現場に来た。ちなみにアイは別日の撮影らしい。
それに気づいたルビーがギャン泣きしているのを冷たい目で見ていると、共演する子役が声をかけてきた。
「ちょっと!ここはプロの現場なの!遊びに来ているなら帰りなさい!」
「えと……どちら様?」
「有馬かな!私の名前を知らないなんて、テレビ見てないの?芸能人失格ね!」
「この子あれじゃない?えっと……重曹を舐める天才子役?」
「十秒で泣ける天才子役!!ドラマでの泣きっぷりがすごいって評判なの!未来の大女優なんだから少しは知っておきなさい!」
「ふ〜ん?天才子役ねぇ…………23点」
「お前父さんと比べてない?あの人はもう別格だろ」
たまに子役に対して異様にキビシー人がいるけど、どうしてもうちの父さんに比べられてしまうので、生まれた時期が悪かったとしか言いようがない。この日のために情報収集したけど、父さんほど目を引くような子役は見つからなかった事実がそれを証明してしまっている。
「知ってるわよ、あんたコネの子でしょ!本読みの段階じゃアイドルの子もあんたもいなかったもん!あんた達が入るくらいならダイヤ様の方がよかった!」
「ダイヤ様?」
「そうよ!斉藤ダイヤ様くらいは知ってるわよね?あのルックスにガキじみた男どもとは違う大人びて優しいあの性格、全子役の憧れなの!ああ、ダイヤ様……!」
「うわキモ。ああいうのが厄介オタクっていうのよ」
「お前ブーメラン刺さってるからな」
いつもアイについて語るお前とそっくりだぞと呟いたら隣で軽く小突かれた。やめろ、女性の方が幼少期の成長が早いんだぞ。幼児の柔肌には地味に痛い。
こっちでじゃれついていると、トリップしていた有馬が正気に戻りこっちの方を睨みつけてきた。
「かなはダイヤ様と共演するのが夢なの!どっちでもいいから今からでもダイヤ様に交代しなさいよ!!」
「いや無理だろ。それにアイも実力はちゃんと……」
「この前のドラマ見たけど全然映っていなかったじゃん!ダイヤ様に情けかけられて、それくらいしないと映せないくらい下手だったんでしょ?媚び売るのは上手みたいだけどね!」
そう言い捨てて、有馬は離れていった。
あのドラマの演出のやり方は、界隈では斉藤ダイヤが同事務所のアイのフォローをするべく近くにいたので画面に映ったという意見が多い。
それ自体大きく間違っているわけでもないし、世論までには察せられていないが、関係者達には『アイに情けをかけた』というのが主流の考えだ。
つまり、アイはそんなフォローをしないと移せないくらい演技が下手という誤解が生まれてしまったのだろう。
しかし、アイが下手??????よりにもよって、よく俺らの前でそんな口がきけたものだな……!!
「お兄ちゃん」
「ああ分かっている…………。相手はガキだ……殺しはしない……!ちょっと痛い目見させるだけだ」
改めて撮影に行く前に、父さんとの会話を思い出す。
『え?演技のコツ?』
『うん、父さんは天才子役なんでしょ?』
『もうそう呼ばれる年齢じゃないんだけどね……未だにベテランの人達に飴玉もらうのは勘弁してほしいなあ』
(正直身長だけ見たら全然子役でも通じそう)
『う〜んそうだな……色々あるけど、やっぱり一番は監督の意図を汲むことかな』
『意図を汲む?』
『そう、簡単に言えば、一番偉い人の心を読むんだ。どんな演技が求められているか、どんな役に成るのか……キャスティングの段階で監督の頭の中ではある程度の画は浮かんでる。それを忠実にこなせば、まず間違い無いよ』
『なるほど……』
となるとあの監督の意図は……と思考を飛ばしていると、父さんは俺の頭に手を置き、巷では天使とも評される笑顔を向けてきた。
『それを踏まえて、カメラを使うことかな』
『カメラ?この前の父さんみたいに?』
『あれはまたちょっと違うかな。どっちかっていうと、
「はーい、撮影スタート!」
「ようこそおきゃくさん、かんげいします…………」
さすがに父さんと同じく天才子役と呼ばれるだけあるな。もし俺が彼女と演技勝負したらどうしたってボロ負けだろう。
だから演技では勝負しない。監督の意図なら、俺に監督から求めてられているのは『演技しないこと』だろう。
でもそれだけじゃ隣のメスガキに吠え面をかかせられない。だから、こうする。
「この村には民宿が一つしかありません。一度チェックインしてから村を散策するといいでしょう」
「カット!OKだ」(このガキ……!)
その声で一息つくと、隣の有馬が声をかけてきた。目には今にも泣きそうなほど涙を溜めていたので思わずギョッとしてしまう。
「ねえ今の、何やったの?」
「ちょ、どうした!?」
「何やったの!!」
「い、一回落ち着いて……」
「何やったのおおおおおお!!!!!うわああああん!!!」
「ちょ、監督ー!監督ー!」
「あーあ、お兄ちゃんが幼女泣かしたー」
(人聞きの悪いこと呟いてんじゃねぇよ!そもそも一番テメーが乗り気だったじゃねーか!!)
スタッフ総出で宥めながらなんとか落ち着かせた後、監督達はスタッフは違う撮影に、俺と有馬は近くのベンチで座って待機していた。
なんで泣いたかは分からないけど、俺きっかけなのは分かっているのでどこか気まずい……!てかなんで俺の隣に座ったんだよ!こういう時ルビーは寝ていて役に立たないし!…いや、起きていても大して役に立たないな。
「…………さっきの、どうやったの」
「……どうって、何が?」
「さっきのかな、あんたより全然ダメだった。でも何がダメなのか分からなかった。だから教えて」
「…………じゃあ、アイの演技が下手だって言ったこと謝れ。そしたら教えてやる」
「……ごめんなさい。言いすぎたわよ」
「!」
正直意外だった。今までの言動からかなりプライドの高いタイプだから、ダメ元で言ってみたつもりだったのだが。
まあ、アイの悪口は許容出来なかったものの、自分の見せ場を奪われる形で俺がねじ込まれたのだ。憎まれ口の一つでも叩きたくなるのが子供なら普通なんだろう。
教えると言った手前何も言わないというわけにもいかず、結局父さんの言っていたことを教えることにした。別に門外不出ってわけでもないだろうし。
「まず、俺はお前と比べて演技力がない。だから、あえて演技せずにすることで、監督の意図に答えた」
「…………それだけ?」
「いや、それに加えて、カメラを凝視した」
「えっ、それはダメだよ。カメラを意識しちゃいけませんってママに言われてるもん」
本来子供にそこまで高い演技力を求めている現場はない。カメラを意識してしまうと、どうしてもぎこちなくなってしまいがちだからだ。大人顔負けの演技力を持つ有馬でさえそう習っているならなおさらなんだろう。
勿論演技経験のない俺もそうなってしまうだろう。だが、前世では一歩間違えれば命が消える職業に就いていたのだ。演技しないのであれば、緊張なんて特にすることはなかった。故にこのテクニックが使えたというわけである。
「でも実際に電波に入るのはカメラの映像からだ。だから焦点をずらして、カメラに俺が不気味に映るよう意識したんだ」
「…………よく分からない」
父さんが言っていたことは、撮影の時に必要なのは、カメラに魅せることらしい。これはアイがいつもやっていることなので、俺にもイメージが出来た。だからよりカメラ目線にすることで俺に目をつかせ、前世で知った目線の使い方でなおさら不気味さを演出したのだ。
あとはもう簡単だ。演技しなくても俺自身が十分に気味が悪いのだと監督の意図をそのまま映してもらい、さらにカメラにもっと不気味に映るようにした。それが俺が今回したことだった。
これを有馬に伝えると、一生懸命理解したあとに、突然立ち上がって俺の方に指をさした。
「…………っ!あんた、名前!」
「は?」
「名前言いなさい!」
「ほ、星野アクア……」
「一丁前に芸名なのね……まあいいわ!アクア!
「ハァ!?」
「今回は私のま、ままま、負けだけど、次はぜぇったい負けないから、覚えておきなさい!!フン!」
「あっ、かなちゃん。今手空いてるからかばんもってあげようか?」
「いい!これくらい自分で持てる!」
え、えぇ〜…………。また面倒な奴に目をつけられたな……。てか負けを認めるの悔しいなら言わなきゃいいのに。
てか、役者になる気はないんだけどなあ…………。
この時の出会いが、長い年月が経ち大きな意味を持つことになるなんて、俺はまだ知る由もなかったのだ。
重曹ちゃんは父パワーで強くなったアクアに完敗したので、早い段階で挫折を経験しました。これから彼女はどんどん成長していくでしょう、多分。