推しの夫【本編完結】   作:蓮田ヒトリ

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転ぶのを恐れれば余計に転ぶ

 アイさんとアクアの映画から約二年、あれからきっかけなのかアイさんの仕事が増えてきた。一言で表すなら、絶賛売り出し中のアイドルタレントと言うべきだろうか。

 クイズ番組、雑誌モデル、バラエティのドッキリなど……過激なものは兄さんが弾いているのもあり、アイドルの売れ方にしてはかなり真っ当に進んでいるのだろう。普段は三枚目みたいな兄さんだけど、芸能界には長年いることもあってそこら辺の審美眼は十分信頼できる。

 アイさんも今年で20歳になることもあって、様々な挑戦ができるようになったのだろう。その度に、その、魅力的になってきてちょっと僕の方の抑えがきかなくなりそうだけど。うん、僕たちは清いお付き合いをしているんだ……もうじき小学生になる子供がいてどの口がっていう話だけど。

 苺プロが徐々に大きくなってきたのもあって、僕の方も前のプロダクションにいた時と遜色ないくらいのお仕事をやらせてもらっている。

 学校の方も無事(余裕で)進級できて、年齢的にももう高校生で子役と呼ばれることがなくなった……わけではない。身長がほとんど伸びないので、未だに小学生だと勘違いしている人もいるくらいだ。特に長年芸能界に携わっている大御所の方たちは孫かなんかと勘違いして顔を合わせるたび飴をくれる。正直複雑だけど、受け取ると喜ぶので断るに断れないのが最近の悩みだ。

 そのこともあり家に中々いれずにミヤコさんや子供達に負担をかけているけど、子供達もミヤコさんに懐いてるみたいだし、僕達のことが世間の目に晒されることもなく日常を過ごしている。この子達はすごいいい子で手のかからないっていうのもあるし、ミヤコさん共々本当に感謝してもしきれないよ。

 勉強にお仕事に子育て……いろいろ大変だけれど、子供達の顔を見ると疲れが吹っ飛ぶ。子供のいる芸能人の話は本当なんだってすごい感動した。

 

 

「んー、今日も可愛い!可愛いよ二人ともー!」

 

 

 しかしそれでもミヤコさんのワンオペには限界があるので、来年で小学生になることもあって社会勉強のためにも二人を幼稚園に預けることになった。

 ちなみにルビーがママから離れることにギャン泣きしアクアも言葉巧みにルビーのサポートしてひと悶着あったけど、それはまた別のお話だ。

 今日はその登園式。もちろん僕らは行けずミヤコさんに任せることになるけど、それにしても幼稚園服がかわいい。うちの学校の幼等部なこともあってセキュリティもばっちりだ。

 

 

「まあトータルではママの方が可愛いけど」

「なんの対抗意識」

「あっ、もちろんダイくんも二人と同じくらい可愛いよー!」

「なんのフォローですか。あっ、ちょ、抱きつかないでください!」

「パパも高校生なのに何この犯罪臭」

「まだ犯罪だからだろ」

「ミヤコさーん、準備できたから早くいこー」

 

 

 二人はそのままミヤコさんと共に登園しに行った。やれやれという風でスルースキルが磨かれているけど、出来れば助けて欲しい。

 特にルビー!誕生日プレゼントに弟か妹を強請るんじゃありません!あれからアイさんの目つきが怖いんだから……。ちなみにアクアは京極夏彦のサイコロ本だった。今日もかばんに入れて持っていっているけど、向こうでも読むんだろうか……。正直父さんも中々読むのに苦労するよ?さすが僕たちの子供、天才だな……。

 

 

 

⭐︎⭐︎ルビーside⭐︎⭐︎

 

 

 

 順調な幼稚園生活を送っていた時、突如踊りのお遊戯会が決定してしまった。

 運動なんか出来る気がしなくて、うちの事務所のレッスン場を借りて練習してみるも、どうもうまくいかない。そうして挫けそうになった時、ママがやってきた。

 

 

「あれ?ダンスの練習?」

「ママ……」

「あんまり夜遅いと大きくなれないぞー?パパみたいにね」

「パパはあれで可愛いからいいの」

「うふふ、そうだね!やっぱりルビーはママ派だ。どうも最近伸ばそうとしているっぽくてアクアと一緒に牛乳とか飲んでいるんだって」

「そーなんだ……って、ママも何してるの?」

「んー?ママもダンスの練習しようかなって。あっ、パパには内緒だぞ?怒ったら怖いんだから」

「はーい」

 

 

 そうして、ママの踊りをじっと見ていると、少し振りが違うところがあったので指摘する。そしてこうしてたと見せようと踊るも、やっぱり転んでしまう。

 あんなに見てたのに、網膜に焼き付けていたのに、やっぱり私には…………。

 

 

「うーん、ルビーの動き方、なんか倒れるような準備をしているみたいだね」

「…………っ!」

「転ぶのを恐れたら、もっと転んじゃうものだよ?堂々と、胸を張って立つの。大丈夫、ママ(アイ)を信じて?」

 

 

 ……ああ、その言葉で、私はどれだけ救われるか。

 ママのように、アイのように、あんな風に動けたらどんなに気持ちいいか。

 もっと動け私の体!あんな風に、自由に!!

 

 

「うん、いい感じ。ママも一緒に踊っちゃお!」

「ママ!楽しいね!踊るの、楽しいね!!」

 

 

 

「…………今日は、見逃そうかな。アクアも混ざる?」

「……………いや、いい」(アイ譲りのルックスに父さん譲りの演技の才能、そしてダンスのセンス……怖い想像をしてしまった)

「そっか、じゃあホットミルクでも入れて寝ようね」

「うん」

 

 

 そうして来たお遊戯会の日、幼稚園児の踊りだからか特段難しいものもなく、ママの振り付けの練習をしていた私にとって簡単すぎるものだった。なんであんなに怖かったのか分からないくらい。

 隣のアクアは、すごい死んだ目で踊ってる。普段から無表情だけど、なおさら『無』って感じ。なんか目の中の星が黒く輝いてない?気のせいかな?

 そうして踊っていると、保護者席の隅の隅の方で、何やら手を振っている人が目についた。

 頭を抱えているミヤコさんと、その隣に帽子、サングラス、マスクをつけた全身不審者の──

 

 

(ま、ママとパパあぁぁぁぁぁ!!!?)

 

 

「あっ、こっち気づいた感じ?」

「あんまり声を出すと気づかれますよ。大丈夫です、このビデオカメラは最新機種ですので鮮明に二人の姿が映ってますよ」

「ああ、また社長にどやされる……」

 

 

 アクアの方をばって見ると、アクアも気づいたのか顔が見たこともないくらい真っ赤になってる。というか二人むしろ目立ってるからね!?近くの親御さん達中々踊りに集中できてないからね!?

 正直なんで来てるのとか、社長に怒られちゃうとか、その変装なにとか、周りにバレちゃわないとか、色々言いたいことはある。

 

 

 でも、それでも、めっっっっっちゃ嬉しい!!!!

 

 

 

 

「あらいい笑顔。私よりいい笑顔かも」

「僕たちも負けていられませんね」

「なんの対抗心ですか」

 

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