最新鋭と旧式   作:カンキツf

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最新鋭と旧式③

 

「ほら阿賀野起きる! ランニング行くよ!」

「う〜ん……」

 

 そして、翌日から約二ヶ月間ある特訓生活の前半戦が始まった。

 

「阿賀野もっとペース上げて走る!」

「うげ〜……」

「情け無い声出さない! 走る!」

「えっ? あっ、はい!」

 

「500回終わりました〜……」

「じゃあ後200回追加、全部ね」

「えぇ〜……」

 

 基本的に初日の内容に沿って特訓は行われていった。しかし、あくまで基本的であって全く同じではない。

 

「……何か、昨日より標的の数が増えてません?」

「うん、増やしたから」

「配置もめちゃくちゃだし……」

「うん、めちゃくちゃにしたから」

「…………」

「足を止めずに全部命中させてね、外したらもう一回最初からだから」

「え〜……」

「まず長良がやるから。長良の動きをよく見てて」

「よく見ててって……うわ!?」

 

 冷たい海水が叩きつけられ、思わず顔を腕で覆い隠す。慌てて長良さんの方に目を向けるとめちゃくちゃな配置の標的を素早く、そして正確に、流れるように慓的を撃ち抜いていく。

 

「すご……」

 

 まるでパフォーマンスのような長良さんの動きに思わず見入ってしまう。あっという間に慓的を全て撃ち抜き、長良さんが悠々と戻ってくる。

 

「……凄かったです長良さん」

「そう? ありがとう。じゃあ今のやってみて」

「……え?」

 

 こんな風に内容が変わる物もあれば後から追加されていった物もある。

 

「阿賀野、鎮守府の近くに山があるよね?」

「はい……」

「あの山、頂上まで道がある程度整備されてて走りやすいんだよね」

「はぁ……」

「10往復を1セットとして……」

「…………」

 

 走り込みと称して艦なのに山登らされたり。

 

「まず開脚、そして体を床にぴったりつける」

「おぉ〜」

「じゃあ阿賀野やってみて」

「はい」

「まず開脚して〜」

「は〜い」

「開脚して〜」

「これ以上無理です……」

「180度開いて〜」

「いたたたたた!! やめてください!!」

 

 柔軟といって股を裂かれそうになったり。

 

「今度は身体を床につけて〜」

「はい……」

「もっとぴったりつけて〜」

「痛い痛い痛い!! やめてください!」

「あっごめん」

「も〜〜……」

「今度はゆっくりじゃなくて思いっきり押すから」

「やめてください!!!」

 

 どれこれもきついのばっかり。もちろん、長良さんが優しいメニューを考えてくれるなんて思ってなかったけどキツいものはキツい。

 

 

 

「そんな感じで最近大変なのよ浦風ちゃん」

「はは……」

 

 不貞腐れたように口を尖らせる私に浦風ちゃんが乾いた笑いで返す。

 浦風ちゃんは私と長良さん以外で今回の特訓に参加してくれる子達の一人で、私が旗艦を務めた第十戦隊の編制当時から所属していた子でもある。

 

「まあ、長良さんの特訓は大変じゃけぇの、阿賀野さんが言いとうなる気持ちも分かる」

「あ、分かってくれる? 今だってさ〜……」

 

「「「「「十戦隊ーーー!! ファイ!! オーーー!!!」」」」」

 

「……あんな風に円陣組んで掛け声してヤル気満々だし……」

 

 そう言って私は円陣後で気合いに満ち満ちている長良さんと第十駆逐隊の子達を指差す。

 第十駆逐隊。夕雲ちゃん、巻雲ちゃん、風雲ちゃん、秋雲ちゃんで編成された駆逐隊で、浦風ちゃん、浜風ちゃん、磯風ちゃん、谷風ちゃんの第十七駆逐隊と同じく、今回の特訓に参加してくれる子達であり、第十戦隊編成当時から所属していた駆逐艦でもある。

 

「でもうち達も長良さんとようやるよ。円陣」

「やるの!?」

「ええ、掛け声のパターンも覚えてますし」

「実際気合入るしな、あれ」

「私は良いと思うぞ」

「へ、へぇ〜……」

 

 浦風ちゃんの予想外の一言と、それを補足する浜風ちゃん、谷風ちゃん、磯風ちゃん。長良さんと一緒に円陣を組んでいる浦風ちゃん達を上手く想像できず、私はとりあえず納得したような声を漏らす。

 

「知らなかった……」

「そりゃ阿賀野さんはうち達と長良さんの訓練の様子なんて全然見とらんけぇ知らんよ」

「まあ……確かに……」

「……最近までそんな感じだったのに何で阿賀野さん長良さんと特訓なんてしてるんですか?」

 

 浜風ちゃんが疑問を呈する。

 

「……確かに、どういう心境の変化なのさ?」

「何か心変わりするようなことでもあったのか?」

 

 その呈された疑問に谷風ちゃんと磯風ちゃんも乗っかってくる。

 

「……矢矧が長良さんとの特訓をセッティングしてたの。阿賀野に無許可で、勝手に」

 

 何故みんながそんなことに興味を示しているのかよく分からないまま、淡々と疑問に答えるとその場に数秒間の沈黙が横たわった。

 

「……それだけですか?」

「……それだけだけど?」

 

 沈黙を破った浜風ちゃんに私がそう返すと、浜風ちゃんも含めた十七駆の全員が納得しかねているような表情と仕草を見せる。その光景に私の頭にはただ疑問符が浮かぶだけだった。

 

「ほらさっさっとやるよー!! いつまで話してんのー!!!」

 

 長良さんの張りのある声掛けに私と十七駆のみんながハッとして慌てて艤装の準備をし、そのまま演習へ向かう。結局、浦風ちゃん達が何故あんな反応をしたかは分からずじまいだった。

 

「長良さん邪魔です退いてください!!」

「やだ!!」

「やだって何ですかやだって!!」

 

 その日の演習は長良さんが駆逐艦達を無視して旗艦である私を執拗に狙うという戦法に敗北を喫した。悔しい。

 

 

 

「阿賀野さん。本日はよろしくお願いします」

「よろしくね夕雲ちゃん」

 

 翌日、今度は私が十駆、長良さんが十七駆と、昨日とは逆の面子で特訓を行った。

 

「「「「「十戦ーーー!! ファイ!! オーーー!!!」」」」」

 

「あ、本当だ。やってる……掛け声もちょっと変わってる……」

 

 浦風ちゃん達と長良さんの円陣を見て。

 

「長良さんしつこいです!! 退いてくださいよ!!」

「口じゃなくて手で退かしてみな!!」

 

 長良さんが私を執拗に狙ってくる演習をこなし。

 

「はあ〜……疲れた……」

 

 疲労困憊で鎮守府に戻ろうとしていたその時だった。

 

「阿賀野さん。長良さんと何かあったんですか?」

 

 声のした方に首を動かすと、そこには声の主である秋雲ちゃんと、その隣を歩く風雲ちゃんがいた。

 

「何かって……何……?」

「いやその……長良さんとの間のあれこれというか……」

「あれこれ……?」

「ほら〜。だから言ったじゃん……」

 

 話の要点が見えてこない私と誤魔化すような愛想笑いをする秋雲ちゃんと呆れた表情をする風雲ちゃん。そんな2人のやり取りに私はただ首を傾げる。

 

「だって実際どうなのか気になるじゃん……長良さんと阿賀野さんの不仲説」

「不仲説!?」

 

 予想外のゴシップな響きに私は思わず秋雲ちゃん達の方へ向き直る。秋雲ちゃん達も、突然の私の大声に驚いたのか目線が私の方へ顔を向けていた。

 

「はい……駆逐艦の間では結構有名な噂ですよ?」

「……なんでそんな噂が?」

「同じ十戦隊なのに長良さんも阿賀野さんも不干渉すぎるのが……。他の戦隊は歴代旗艦何人かで訓練したりしてるのに……」

「あー……」

 

 意味のない声を漏らし、目を伏せる私にお構いなく秋雲ちゃんと風雲ちゃんが話を続ける。

 

「なのに長良さんも阿賀野さんも矢矧さんとは普通に接してるのがね~。十戦隊の方針って訳でもなさそうだし~」

「長良さんも阿賀野さんも方向性は違っても人当たりの良い性格じゃないですか……なのにお二人がコミュニケーションとってる所ほとんど見ないなって……それが噂の信憑性を上げているというか……」

「……へえ」

 

 二人の話に私はとりあえずの相槌を打つ。

 

「それで『長良さんと阿賀野さんって……ギクシャクしてない?……』って誰かが言いだしたのが始まりなのよね」

「夕雲ちゃん」

 

 秋雲ちゃんと風雲ちゃんの会話に入ってきた声の方を見ると、声の主である夕雲ちゃん、その隣には巻雲ちゃんが立っていた。

 

「そうそう。だから長良さんと阿賀野さんの仲を面白半分で探る奴も出てきてさー」

 

 他人事のように言う秋雲ちゃんを風雲ちゃんが目を細め、睨みつけるように見る。どうやら当時『探り』とやらを入れていた一人みたいだ。風雲ちゃんが話を再開する。

 

「……それで、たまに話しているところを見ても阿賀野さんと長良さんは事務的な口調で必要最低限の会話しかしないし、2人きりのときだと全然喋ってないとか……。そんなところを見たって人が結構な数いたんです」

 

 風雲ちゃんがそう言うと、今度は夕雲ちゃんが口を開く。

 

「それからは不仲説が一気に加速して、長良さんが阿賀野さんのことを冷たい目で見てたとか、阿賀野さんが長良さんをゴミを見るような目で見てたとか、顔を合わせただけで舌打ちしてたとか、まあ、尾ひれがかなりついてるんでしょうけどそんな感じの話が沢山出てきたんですよね」

 

 夕雲ちゃんの話に触発されたのか、今まで黙っていた巻雲ちゃんが話を始める。

 

「それが長良さんと阿賀野さんの普段の性格とのギャップもあって一気に広まったんですよね」

 

 確認するように言う巻雲ちゃん。その巻雲ちゃんの言葉に繋がるように風雲ちゃんが再度話を始める。

 

「それでいて長良さんも阿賀野さんも噂を否定できるような言葉もアクションもないので……最近はもう半ば事実として語られてるところがあります」

 

 そう言って困ったように目を閉じる風雲ちゃん。

 

「でもこうやって長良さんと特訓してるあたり、やっぱり何かの勘違いで広まった単なる噂ですよね?」

「……なんでそんなに気になるの?」

 

 風雲ちゃんの言葉に私がそう返すと、十駆の子達はバツが悪そうに押し黙る。少しの静寂の後に秋雲ちゃんと風雲ちゃんが話し始める。

 

「なんていうか……長良さんと阿賀野さんがネチネチトゲトゲチクチクした言葉を言い合ってる姿は……その……見たくないというか……」

「この世には夢も希望も無いのか……ってなるよね……」

「私と長良さんにどんなイメージ抱いてるの……」

 

  知らず知らずの内に大仰なものを託されていた私は、そう呆れたように言い放つ。すると、風雲ちゃんがおずおずと私に訊ねてきた。

 

「ひょっとして本当だったりします……?」

「違うけど……」

「あ! ですよねー! あーよかった!」

 

 ホッと胸を撫で下ろす風雲ちゃん。そんな風雲ちゃんを見て私は口を開く。

 

「でも……」

「いつまで喋ってんのー!! さっさっとしなー!!」

 

 長良さんの少しだけ怒気を纏った声掛けに会話は中断され、十駆の子達が慌てて艤装の準備を始め、長良さん達の元へ向かう。

 

(ネチネチ悪口とかは言ったことないけど……)

 

 ポリポリと頭を掻くと前を走る駆逐艦の子達についていく形で私も海面を滑る。

 

(不仲なのは間違いないのよね……)

 

 そんなことを思いつつ、私は演習へと向かった。

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