最新鋭と旧式   作:カンキツf

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最新鋭と旧式⑦

旗艦を長良さんとし、私と十七駆と十駆の子達で編成された水雷戦隊が海上を駆ける。遠征部隊が襲撃された。そう伝えられ、遠征部隊の保護と敵部隊の迎撃の任務を言い渡される。

 

「2時の方向に遠征部隊を発見! 偵察機での敵水上艦は確認できない! 引き続き対潜、対空警戒を怠らないで!」

 

 長良さんの報告から数分後、遠征部隊と無事合流する。大破した三隻を中波した二隻が庇いつつ航行していた。遠征部隊の護衛を十駆の子達に任せて私達は敵部隊の迎撃に向かう。

 

「ふぅー……」

 

 何とか自分を落ち着かせようと息を吐き出す。突如、敵水上部隊の奇襲を受けた遠征部隊は初撃でほぼ半壊、旗艦の那珂ちゃん以外は戦闘不能の状態まで追い込まれてしまった。そして、そんな遠征部隊を逃がす為に那珂ちゃんは一人、殿を買って出た。

 

「阿賀野、不安?」

「……不安です」

「大丈夫、那珂ちゃんが強い艦なのは阿賀野だって良く知ってるでしょ?」

「確かにそうですけど……」

「それに遠征部隊と合流したとき偵察機も潜水艦も見つからなかった。大破して碌な速度で航行できない状態で追撃も容易な筈なのに奴等は偵察機を飛ばす事すらしなかった」

「あ……」

「沈んでる可能性は低いよ」

 

 その言葉に不安で失っていた平静さを取り戻す。そうだ、仮に那珂ちゃんが既に沈んでいたとしたらボロボロで航行速度も遅い遠征部隊を追撃しない理由が無い。深海棲艦の性質を考えれば尚更だ。

 

「電探に反応あり! 5時の方向に敵艦隊を発見! 編成は戦艦1重巡2軽巡1駆逐1の計5隻! 軽巡那珂と交戦中!」

 

 直後、長良さんの偵察機が敵艦隊を捉える。交戦中、その報告に那珂ちゃんが沈んでいないことが確認できる。たが交戦中と言っても応戦出来ずに逃げ回っているのが実情だろう。以前として予断は許されない状況だ。

 

「後10秒で有効射程の中に入るよ!」

 

 長良さんが叫ぶ。視線の先には予想通り敵艦隊から大破状態のまま逃げ回る那珂ちゃんがいた。

 

「……8!……7!」

 

 カウントダウンが始まる。体の緊張が一層強まり、心臓の鼓動が速くなる。

 

「……6!……5!」

 

 艤装を強く握りしめ、呼吸を整える。

 

「……4!……3!」

 

 今一度敵艦隊を見据え、重巡の一隻に狙いを定める。

 

「……2!……1!」

 

 残り一秒。その瞬間の出来事だった。その重巡が私達に視線を向けたのは。

 

「撃てーーーーー!!!」

 

 その叫びと共に艦隊の全員が一斉に艤装の引き金を引く。私達の砲撃に敵艦隊の駆逐艦が大破、軽巡が小破、戦艦と重巡の内一隻は命中を確認するも有効な効果は認められない。そして残り一隻、私が狙いを定めた重巡は回避に成功していた。

 

「っ……!」

 

 私達の奇襲に一瞬早く気づいて回避行動に入っていたせいで敵艦隊に思ったほどの打撃を与えることが出来ずに歯噛みする。すると視界の端にガクンと崩れ落ちる那珂ちゃんが見える。

 那珂ちゃんは海面に座り込んだままその場から動かない。しかしそれ以上沈んでいく兆候もない。損傷が激しく、動くこともままならないが沈むようなダメージは受けていないようだ。

 

「阿賀野、戦艦は長良が引き受けるから残り頼むよ」

 

 そう言って長良さんが先行する。敵艦隊の砲雷撃の隙間を正確に縫ってあっという間に敵戦艦に肉薄する。敵戦艦が振り払うように長良さんに砲撃を繰り返すがまるで捉えられていない。それどころか砲撃の合間を的確に突いていく長良さんに翻弄されている姿が、少し前の私を見てるようで何だか妙な気分になる。

 

「……そこだ!」

 

 敵戦艦の援護に入ろうとした敵重巡に放った砲撃が着弾する。その重巡が残りの艦を率いて反転、こちらに向かってくる。

 

「迎撃するよ!!」

「はい!!」

 

  駆逐艦の子達の声が重なる。その声を合図に私はまた敵艦隊にもう一度、砲撃を放った。

 

 

 

 轟音、水柱、爆風、飛び交う砲雷撃によって巻き起こされるそれを掻い潜り、深海棲艦へと攻撃を繰り返していく。

 

「ギイッ!」

 

 砲撃が命中し、呻き声を上げたネ級がこちらに砲口を向け、爆音と共に砲弾を撃ち出してくる。私はそれを一つ一つ確実に回避していく。ネ級が怒りに目を微かに充血させるほど見開いたかと思うと逃げるように後退し始める。

 

(逃がさない!)

 

 頭が冴えてる。不必要な雑念が削ぎ落とされ思考がクリアになっているのが分かる。敵の動きがよく見える。自分の艤装も自分の体も今まで以上に思い通りに動かせる。

 

「っ……! この……!」

 

 私に狙いを定めていた敵駆逐艦を先制の砲撃で沈めると同時に駆逐艦の子達の雷撃が敵軽巡を沈める。残るは重巡リ級とネ級の二隻。既に中破状態のリ級に狙いを定め、雷撃を放つ。雷撃を回避したリ級に駆逐艦の砲撃が着弾してリ級の足が止まる。

 その一瞬生じた隙を見計らってリ級に再度砲撃と雷撃を放つ。回避行動を取れずにそのまま着弾したリ級が大きく体勢を崩した次の瞬間、リ級の足元で雷撃が炸裂し、水柱が立つ。水柱が消えるのとほぼ同時にリ級が海面下へと消えていく。完全に沈んだのを確認し、残ったネ級に狙いを定める。

 

「全艦回避行動!!」

 

 突如聞こえてきた長良さんの叫びに反射的に回避行動に入る。直後、ネ級の背後からいくつもの砲撃が飛んできて周囲に水柱が立つ。

 

「嘘!? 増援!?」

 

 リ級エリート二隻、ツ級一隻、イ級後期型が三隻の重巡二隻、軽巡一隻、駆逐三隻、計六隻の敵増援部隊がネ級を守る様に取り囲み、あっという間に艦隊の中へと隠れてしまう。

 

「あのネ級が旗艦だったみたいだね」

「長良さん! 戦艦は?」

「大丈夫、ちゃんと沈めたよ。こっちの損害も少ないしこのまま全艦で迎撃するよ!」

「はい!!」

 

 合流したほぼ無傷の長良さんの一声で私も含めた全員が再び迎撃態勢を取る。まさか増援部隊まで来るなんて、しかし奇襲によって受けた損傷は全員軽微だ。大丈夫。絶対に勝ってみんなで帰れる。

 そうやって照準を敵艦隊に向けた時、視界の端に確かに映った。ネ級が離脱しようとする姿が。気がつくと、身体が動いていた。

 

「阿賀野さん!?」

 

 浦風ちゃんの声を背に受けて、私は離脱するネ級と同じ方向へ走り出す。それとほぼ同時に、増援のリ級エリートがネ級援護のため動き始める。

 

(くっ……!)

 

 リ級の行動に私は歯嚙みをする。真っすぐいけば動けなくなった那珂ちゃんとぶつかる離脱航路を選んだネ級は、せめて那珂ちゃんに止めを刺してから逃げる腹積もりだ。もちろん私はそんなことを許す気は毛先ほども無い。

 けれど、このままリ級に動きを阻まれればそれを回避することも難しくなる。他のみんなに援護を要請しようにも既に戦闘が始まっている状態で、艦隊から離れていっている私の援護は厳しいものがある。どうすればいい? 焦りと不安が胸中を埋め始めたその時だった。轟音と共にリ級が爆炎に包まれ、足を止める。突然の出来事に走ったまま艦隊の方を振り返ると、こちらに砲を向けている長良さんの姿があった。

 

「阿賀野! 走れ!!!」

 

 長良さんの叫びに私は返事代わりの微笑をすると、前に向き直り、速度を上げ、ネ級と並走する。ネ級は私を一瞥し嫌悪の感情で顔を歪め、砲撃を始める。私はネ級の砲撃を冷静に回避し、応戦する。しかし、お互いに有効打を与えられないまま、那珂ちゃんへと近づいていく。

 

「…………!」

 

 嫌悪一色であったネ級の顔に笑みが浮かんだのが見えた。このまま那珂ちゃんが有効射程に入れば那珂ちゃんを人質のような形で使える。そうすれば私の動きを大幅に制限でき、簡単に逃げることができる。そう考えているのだろう。

 

「ふうう……!」

 

 息を吐いて限界まで速度を上げ、薄ら笑いを貼り付けたネ級を充分な距離引き離した私かそのまま回り込み足を止めると、ネ級の目が見開かれる。私が立っているのはネ級の正面、那珂ちゃんは直ぐ後ろ、私が盾になれる位置。ネ級を倒して、那珂ちゃんも守れる最高の位置。

 

「阿賀野ちゃん!」

「那珂ちゃん! 遠征の駆逐艦の子達は無事だよ! 増援が来たけどそれも長良さん達が抑えてる! 後は……」

 

 瞬間、衝撃と爆風が私の体に叩きつけられる。足を止めた私を狙ったネ級の砲撃だった。

 

「阿賀野ちゃん!!!」

 

 那珂ちゃんの叫びに、左足を半歩後ろに思いっきり踏みしめてなんとか踏みとどまる。

 

「……大丈夫!」

 

 ここなら私は回避出来ないけれど、ネ級も私をどうにかしないと那珂ちゃんに攻撃出来ない、仮に那珂ちゃんを無視してここから逃げようとすれば敵である私に背を晒すことになる。

 正面からの撃ち合い。ネ級も私も、目的を達成するためにはこれに勝利することが唯一の方法だった。

 

「阿賀野はあんな奴に負けないんだからーーー!!!」

 

 己を鼓舞するように吠え、私はネ級へと照準を定め、引き金を引く。ここであいつを倒してみんなで帰る。ただそれだけが私の心にあった。

 

 

 

「痛っ……!」

 

 ネ級の一撃に耐え切れずまた体勢が崩れそうになるのを歯を食いしばり、さっきより更に強く踏みしめることで何とか踏み止まる。

 

「こんのぉ〜〜〜!!!」

 

 負けじと三発の砲撃を返す。その三発が着弾すると流石に耐え切れないのかネ級も苦悶の声を漏らす。

 

「阿賀野ちゃんそれ以上は無茶だよ!! もう持たない!!」

「大丈夫! 阿賀野は最新鋭だもん! これくらい全然へっちゃらなんだから!!!」

 

 裂傷と熱傷、流れる血液と一緒に自分の意識もどこかに溢れ落ちそうになるのを叫びで押さえつける。ネ級との砲雷撃戦、いや我慢比べは悔しいが今はネ級の優勢だ。勇ましいことを言っておいてなんだけど、このままじゃ先に倒れるのは私の方だ。

 だけどネ級も無傷ではない。私と同じように血を流し、肩で息をしているのが分かる。攻撃が効いているなら必ず突破口はある。

 

「それにこっからが踏ん張りどころだもん! 言ったでしょ! 負けないって!」

「阿賀野ちゃん……」

 

 集中するんだ限界まで、さっきより速く、正確に敵に有効打を撃ち込む。大丈夫、私になら出来る。なんてったって最新鋭だもん。それに、なにより。

 

「阿賀野だって十戦隊の旗艦なんだからーーーー!!!」

 

 その叫びと共に再び我慢比べが始まる。私の砲撃で仰け反ったネ級の砲身が明後日の方向に曲がる。仰け反る直前に放たれていたネ級の雷撃が私の足元で炸裂する、その衝撃に体勢がガクンと横に傾き照準がズレる。

 倒れるギリギリのところで踏み止まり、体勢を立て直し放った私の雷撃がネ級の足元で炸裂して奴の装甲を破壊するとネ級は背中から倒れかける。宙に浮いた足を後ろに引いて重心を低くし倒れるのを阻止したネ級は返しの砲撃を放ってくる。その砲撃の衝撃と熱は艤装をひしゃげさせ、意識を闇に引き摺り込もうとしてくる。

 時間にすれば十数秒も無いだろう。しかしその僅かな時間の撃ち合いでも損傷は甚大だ。足と手が震えて上手く相手を狙えない、全身に力を込めないともう立つこともままならないだろう。だけどそれは恐らくネ級も同じ、私を睨みつけたままその場から一歩も動かず攻撃もしない。

 限界なんだ、お互いに、だからこそ次の一撃は相手より早く、確実に命中させなくてはならない。もう殆ど言うことを聞いてくれない体に鞭を打って照準が合うタイミングをお互いに探り合う。

 

「当たれ!」

 

  先に動いたのは私の方だった。ネ級に向けて撃った砲撃はそのまま真っ直ぐに進み、着弾して爆ぜることなく、ネ級の横を掠めるように通り過ぎると遥か後方で水柱をあげた。

 

「あ……」

 

 ネ級が見下した様に笑う、装填音が響き、ネ級の砲身が私に向かってピタリと止まる。再びネ級に照準を合わせ様とするが震える手はそれをなかなか許してくれなない。

  私が次弾を撃つより早く放たれた砲撃は横を掠めることなく着弾した。そして砲撃の衝撃で体勢が大きく崩れ、装填されていた砲弾は明後日の方向に飛んでいく。もう間違いない。

 

 私達の勝ちだ。

 

「阿賀野!!!」

 

 私の名前を叫ぶ声が聞こえてきた瞬間、震えが止まり照準はネ級を完璧に捉える。艤装の引き金を引き、放たれた砲撃は吸い込まれる様に体勢を崩したネ級に向かって行く。轟音とが響き、爆煙が立ち上る。そしてネ級は糸の切れた人形の様にその場に倒れ、海中に消えていった。

 

「やった……」

 

 そうポツリと呟くと私も糸の切れた人形の様にその場に倒れた。

 

「阿賀野ちゃん!!!」

 

 直ぐ後ろにいるはずの那珂ちゃんの声が妙に遠く感じる。まぶたも重くなって、意識が闇の中に沈んでいく。段々と閉じる目が最後に映したのは私より早くネ級に砲撃を着弾させ、私の名前を叫んだ、長良さんが駆け寄ってくる光景だった。

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