翌日、ヴァイトは団長、フィンの執務室に呼ばれた。
そこにはロキファミリア幹部陣に加え、第二軍の纏め役のアナキティとラウルがいた。
昨日の今日でトラウマが改善するわけもなく、リヴェリアから露骨に目をそらすヴァイトに苦笑しつつも、フィンが切り出す。
「今日、君を呼んだのは他でもない。君の魔法についてだ。昨日叩き込まれて知っているとは思うが、うちは近々遠征する。そこで、君の魔法で大幅なショートカットをしたいと思っている。ただ、そのためには詳細な情報の擦り合わせをする必要があると思っている。そこで、伝えておきたいことや質問はあるかな」
「人数は?」
「100人を予定している」
「なら《転移門》だな...あまり維持費用のMP、つまりマインドを使いたくないから、駆け込む形でどうにかして欲しいです」
「んー、それだと向こうの安全を確保できないかな」
「じゃあ、足の速い少数精鋭に先行して貰うのはどうですか?連絡用のアイテムを提供できますので、指定のポイントで連絡したらそこに転移門を繋げて突撃します」
そう言ってヴァイトは虚空から二つのペンダントを取り出した。そのデザインはシンプルで、1と彫られた金属の板があるだけである。
「それが連絡用のアイテムかい?詳しく教えて欲しいかな」
「ペンダント・オブ・メッセージというアイテムで、一組のペンダントを着けた二人に限り距離無制限で会話できます。コストはかかりませんが、使用するには36時間は予め共につけておく必要があり、使用時には板の部分を握らないとだめです」
話を聞く面々の反応は概ね良好。使用時に無防備になってしまうデメリットこそあるものの、それを差し引いても遠距離通信というものは魅力的なものという評価は揺らがない。
「あ、あと条件を満たさないで握ると...」
ヴァイトがそう言いつつ片方のペンダントを握ると甘えたような声が流れた。その声はヴァイトにとってはそこそこ聞き覚えのある、ぶくぶく茶釜さんの声だ。
『首から掛けてね』
「この通り音声で教えてくれる機能付き」
「...すごいね。じゃあ、ベート。片方は君がつけてくれ。もう片方は僕がつける。風呂の時にうっかり外さないようにね」
そう言いつつ片方のペンダントを身に付けたフィンはもう片方をファミリア最速の巡行速度を誇るベートに投げ渡しつつ、本体を服のなかに仕舞い込む。一見してその効果を把握することはまず不可能だが、その効果を考えると防犯上、当然の措置だろう。
またそれを受け取ったベートも、趣味が合わないのか僅かに嫌そうな顔をしたものの、フィンと同様に服の内側に仕舞い込む。
他にも、ティオナにアイテムボックスをばらされた結果、予備の物資を大量に持ち運ぶこととなった。
そして出発までの間、連携の特訓やレフィーヤへの魔法の解説を優先することとなった。
「では、よろしくお願いします。ヴァイトさん」
リヴェリアから逃げた件を忘れていないからか、かなり他人行儀だがそれを指摘して話を蒸し返すヴァイトではないため、早速魔法を説明する。
「《上位瞬間移動》これは見ての通り、瞬間移動できる魔法。イメージした場所に移動するが、その場所に物が重なった場合、直近の重ならない場所にずれて移動する。《瞬間移動》だと重なった場合大ダメージになるから教えないでおく」
実際に瞬間移動する場面を見たレフィーヤは予め発動しておいた《エルフ・リング》の効果を使い、新たな魔法を発動させる。
「《上位瞬間移動》」
彼女の姿が消えてから数分後、転移で帰ってきたレフィーヤは真っ赤だった。
「自室の前に飛んだら扉に強打しました...」
どうやら慌てた様子のルームメイトにやられたようだ。
「あー、僕は今んところ無いけどそういった事例を聞いたことあるかな」
「先に言ってくださいよ…次です!」
よりヴァイトに向けられる視線が冷たくなった気もするが、それを気にするヴァイトでもなく、次の魔法に移る。
「次は《完全不可知化》という魔法で、発動したら光・音・匂いなどによって探知されなくなる魔法で、使用中は常にマインドを消費するから注意が必要。マインドの供給をやめるか、攻撃した場合に解除される」
実際に使用して見せ、十分に理解したレフィーヤが先ほどと同じく《完全不可知化》を発動しようとするが、発動しない。
レフィーヤにとってこういうことは珍しくなく、自分が感じているほどその魔法について理解していなかったと思ったものの、そうではない可能性が高いとヴァイトが告げる。
「僕はとあるアイテムの効果で本来僕自身が使えない魔法を使えるようにしていて、今教えた魔法もその一つなんだ。でもそうか。無理かー。まあ、これで使えるとなったら泣いていたけどね。めっちゃ苦労したんだ。これを手に入れるのに」
使えない理由を理解し、悲しげなレフィーヤを見て慌てて言いつくろうヴァイトだが、レフィーヤが落ち込んでいるのはもっと低俗な理由。憧れのアイズとこっそり同衾などと、とても高潔なエルフとは言えない考えであったため文句を我慢している状態だった。
「そのアイテムがこの本なんだけど、君が使える魔法の名前を教えてくれるかな」
「あ、はい。一つがエルフ・リングであとアルクス・レイとヒュゼレイド・ファラーリカを使えます」
「なるほどなるほど」
そう呟きつつ本のページをめくるヴァイトは途中で手を止めると詠唱を始めた。
「解き放つ一条の光、聖木の弓幹」
レフィーヤの顔が驚愕に染まる。ヴァイトが詠唱をしているという点も珍しいがそもそも魔法は詠唱があるのが基本なので驚く点ではない。問題はその内容。何せ、自分の魔法なのだから。
「汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢 アルクス・レイ…からの、光散」
ヴァイトが掲げた手から発射された光の矢は上空に向かって飛んだ後、爆散鍵によって何かに命中することなく爆散した。
いや、正確にはあるエルフのアイデンティティが爆散したかもしれない。