食事が終わる頃にもなると、体調不良の団員たちも回復し、各々明日の探索に支障がでない程度に訓練をしていた。
明日の予定は遠征隊を二つに分け、第一軍とそのサポーター凡そ10人の攻略隊で50階層の安全地帯を目指し、その間に残りの面々は下級冒険者の後輩たちの実地訓練を行う手筈となっている。
今回の遠征は到達階層の更新というミッションの達成と、下層・深層域でのクエスト達成による金策を目的としており、後進の育成は浮いた費用を後日回すこととなっているものの、だからといって浮いた時間に残りを遊ばせておくようではロキファミリアはここまで大きくなっていない。居残り組は付近の階層で経験値稼ぎに勤しむ予定である。
準備を終えた攻略隊の出発を見送った居残り組の中にヴァイトはいた。
これはヴァイトの能力が正しく評価されていないという訳ではない。他にもアナキティを初め、幹部候補も一部残っている。
その原因はヴァイトにある。ユグドラシルにおいて、フレンドリーファイアは無効であったため、ヴァイトには味方関係なく魔法をぶっ放す癖が染み付いていたのである。
この有り様ではとてもではないが戦闘が激化する下層・深層には同道できないという事で居残りが言い渡された。
幸い、発覚後の矯正により殆ど改善しており、あとはアナキティら監督の下、実戦での対応を見極め、結果次第で最終アタックに参加するか否かが決まる手筈となっている。
ヴァイトも気付いていなかったこの癖にヤバイと自覚しており何ら不満を漏らすこともなく従った。幸い、遠征前の彼の訓練相手が火力・攻撃範囲共に高く、誤射を許されない立場上、誤射防止の技術において優秀な水準にいるレフィーヤだったため矯正には苦労しなかった。
大きな部屋に雄叫びが響き渡る。ここは中層の食糧庫であり、食糧を求めるモンスターが押し寄せてくるため、上級冒険者であってもここに来ることは自殺行為とも言える危険行為である。
しかし、数十人程度の上級冒険者がいるのであればその危険度は大幅に下がるため、大規模な派閥は後進の育成のために突撃することは少なくない。
そしてそれはロキファミリアも同じであり、今現在、絶賛戦闘中である。
「《第10位階死者召喚》デスナイト」
ヴァイトが使用した魔法により都合11体のデスナイトが召喚され、前線へと向かっていく。
デスナイトを召喚する場合、術者のレベルにもよるが第五位階の魔法で十分だが、複数召喚したい場合は位階を一つあげるごとに二体、同一モンスターの召喚上限を増やすことが可能である。
もちろんヴァイトはネクロマンサーやサモナーといったクラスを習得していないため、スキルによる強化は一切されていないがデスナイトはどんな攻撃も一発は耐える上、防御も優れているため盾としての運用に向いていて、それを差し引いても便利なモンスターである。
「3盾人、7槍猫に7弓猫!デスナイトを盾に後退!治療と補給を受けろ!《魔法最強三重化:火球》、1・5・7小隊の前方8M、砲撃各三発!デスナイトは巻き込んで構わない!」
現在ヴァイトは魔法運用の試験と平行して指揮官としての試験も受けている。
ヴァイトはユグドラシル時代においてソロでプレイしていた期間が長く、索敵と戦闘を一人でこなした経験が多い。その結果として広い視野を持っており、それを何となくながらも見出だした幹部たちの判断でヴァイトを指揮官として教育するという方針がとられた。
一定の基準を満たしているかを見極める魔法運用の試験とは異なり、指揮官の試験は現状把握が目的で後の教育カリキュラムの作成の参考となる予定である。
ヴァイトが指揮官として最初にやったことは部隊の編成である。タンク1・2、遠近のアタッカー、回復やバフ担当の特殊枠の5人を一纏めとした小隊を複数作り、部隊番号を振り分けた。
ただ人材の都合上人数バランスが乱れた小隊もあった。
そこでヴァイトは同じ小隊内で種族と使用武器が被らないように人員を入れ換えた。これがフィンのような卓越した頭脳を持ちファミリア最初期から派閥を支えた指揮官ならばそんな小細工をしなくてもよいが、ヴァイトは違う。
彼はそこまで頭がよいわけではなく、また入団間もなく人の顔や名前を全然覚えていないため、小隊番号に使用武器、そして種族によって個人を識別し指揮系統を成立させたのである。
そして後ろに控える長文詠唱のヒーラーや魔導師が適宜詠唱しヴァイトの指示で魔法を使うこととなっている。
ヴァイトの指揮が良かったのかロキファミリアの能力が優れていたのか、以降特筆すべきことはないままモンスターが打ち止めとなり、戦利品を回収した後、拠点まで帰還した。
豆知識
ヴァイトの悪癖は、レフィーヤとの訓練中に発覚した。実践的な魔法運用としてラウルとアナキティを含む4人で模擬戦闘していたところ、《集団人間種捕縛》に味方であるはずのラウルを巻き込んでしまった。
これがなかった場合、深層あたりでヴァイトが使った魔法に巻き込まれて幹部陣が壊滅的な被害を被っただろう。
出番がなかったが、ヴァイトが指揮でミスをした場合、後ろで控えるアナキティたちがより上位の指揮権をもって修正するという手筈となっていた。