「《早足》《上級敏捷力増大》《完全なる戦士化》」
純魔法職のステータスを戦士のそれにし、大幅に強化したヴァイトは目の前の塔に向かって屋根伝いに進んでいく。
(既視感があると思った。ここはダンジョンを中心とした拠点だ)
ユグドラシルにおいて、人気の狩場は様々なプレイヤーが各自拠点を造り、それに運営が目を付け、いつの間にか一つの街となることはざらだった。
塔に近づくにつれ武装した人間が増えていく。
その中に混ざると、ダンジョンの大穴に入ろうとするが、そうはいかなかった。
「あんた、冒険者登録はしたのか?」
その言葉は、どう見ても自分、ヴァイトに向けられたものである。
「あんた、冒険者登録はしたのか?」
ドルマン・ルイトはある特徴的なエルフに注目していた。
彼はエルフであるため優れた容姿をしているが、その中でも一際秀でており、美神に及ばずとも比較対象となるほど。
次に装備もおかしい。武器がない。種族的に高い魔法能力を持つエルフとはいえ、精神力節約のための武器を持たないことはありえない。
それどころか、ポーチの類いさえ持っておらず、アイテムも回収できない。
身に纏う装備は上品だが、防具として役に立つようには見えない。
この状態でダンジョンに潜るのは自殺行為としか言いようがない。
ならばこのエルフは、典型的な箱入り娘ならぬ箱入り息子のエルフで、無知ゆえの奇行をかましている奴だと目星を付けた。
ヴァイトに話しかけた男は象を思わせる特徴的な装備を身に纏う不審者...かと思えば、この街の衛兵のような役割を果たしているらしい。
らしいというのは不法侵入したためそこら辺を把握していないからであるが、それを表に出して怪しまれるのは非常に不味い。
「いやあ、魔法の腕には自信があるから腕試しに潜ろうかと思ったんだけど、不味いかね?」
「んっ!」
案の定、一つの建物を指差す衛兵ことドルマン曰く、あそこのギルドで入るファミリアについて相談しろとのこと。
「はいはいどうも衛兵さん」
「ドルマンだ。あんた、エルフらしくないな」
「ああ、育ての親含め周りにエルフは誰もいなかったな」
当然ながら、もとの世界には人間しかいないし、別に産みと育ての親が違うということはないが、誤解を与える発言だった。
「おう、なんか済まないな」
「大丈夫」
そう返しながらギルドに向かうヴァイトを見送るドルマン。彼は衛兵として長い経歴を持つ。ヴァイトのような連中は珍しいが、この広さの街ならばそれなりにいる。数日後には忘れているだろう。
(探索系ファミリア一覧表か。ダンジョンに潜るならと渡されたが...見事にバラけてるな)
ヴァイトが貰ってきた紙には探索系ファミリアの大まかな情報と所在地が書き込まれた地図があり、見開きの新聞ほどの大きさがある。
「よお、そこのエルフのお兄ちゃん。ファミリア探してるんならウチのファミリアはどうや?」
ながら歩きのせいで気づくのが遅れたが、彼の前には赤髪細目の女性がいた。
新聞:ディストピア化した世界においても、一部の好事家が資金を横流しし現存させている。彼らはその皺寄せで亡くなる人数など知らないし、知っても何も思わない。