あのあと、幹部の皆にステイタスが公開され一悶着があったが、それぞれ幹部としての用事があり、ヴァイトの能力の把握は彼の教育と共にリヴェリアに任されることとなった。
基本的なファミリアのルールの説明が終わり、リヴェリアの執務室でダンジョンについての教育が始まろうとしていたが、ヴァイトの表情は最悪で、嫌そうな顔を隠そうともしていない。
その様子に仲間意識を抱いたのは、金髪の女性ことアイズである。
「私、彼の実力が気になるから一緒にダンジョンに...」
行きたいとは言えなかった。リヴェリアから向けられた視線は、アイズのかつてのトラウマを刺激したのだ。
自分が経験した苦しみを味わうという醜い悦びと同情、見捨てる罪悪感といった感情がアイズの中を駆け巡り、思わず顔を伏せつつヴァイトを伺うと、二人になったヴァイトのうち一人が手招きをしていた。
それをみたアイズはヴァイトの後を追うように窓から飛び降り、それに続いてティオナ、ガレスが飛び降りていく。
その音を聞き思わずため息を吐くリヴェリア。場所が場所なだけに飛び降りた方が何かと手っ取り早いのだが、団員の模範としての自覚をもって欲しいというのは過ぎた願いだろうか。
とはいえ、振り向くとヴァイトがきちんとついてきている以上、とやかく言うことはあるまい。
そんなことを考えているリヴェリアは、ヴァイトが妙に静かなことに疑問を抱かない。
本日会ったばかりの相手の人となりを把握していないのはおかしくないためしょうがないのだが、結果として脱走を許し、屈辱を味わうこととなる。
「あれ、どうしたの?」
ひとまず十分な距離を確保したアイズはヴァイトに先程の説明を求めた。
他の二人も興味深そうにしている。
「《影技分身の術》といって、ステイタスが1/3の分身を作る魔法で、回避能力は割いた魔力に応じる。あと数分は持つかな」
「はっはっは、あの堅物エルフに一泡吹かせたわけか。だが後が怖いぞ?」
「やめてくれ、気が滅入る」
口ではそう言いつつも楽しそうに笑う一行はダンジョンに到着するや否や、入り口の螺旋階段を無視し飛び降りる。
ここの高さは結構あり、第一級冒険者なら無事で済むが、上級冒険者なら足首の負傷、下級冒険者なら重傷は免れない。
ああ、ロキファミリアか。
律儀に階段を使う冒険者たちの視線を受けつつも、ヴァイトたち一行はダンジョン第一層に降り立った。
「じゃあ、いつもの狩場まで案内するね」
「伊達に冒険者やってないからね。ルートはバッチリだから安心して!」
アイズとティオナが前に立ち、先導する。
アイズは強くなるため、ティオナは武器の代金の工面のためにロキファミリアでもトップクラスの頻度でダンジョンに潜るため、最短ルートを熟知している。
しかし、彼女らにガレスが待ったをかける。
「まて、こやつの能力のテストが目的だぞ。戦闘能力だけでなく探索能力もテストが必要ではないか?」
「あー、そっか。というわけだから、自力で探索してみてくれる?」
「おーけい、《集団飛行》《三足烏の先導》これで空を飛べるからついてきて!」
そういうとヴァイトは足が三本ある変な烏を追いかけ飛んでいく。
ダンジョンを潜る際の最短ルートを迷い無く疾走する烏を見失わないよう、はじめての感覚に苦戦しつつも先輩としての意地でヴァイトに追従していく三人。
彼が使う魔法は数百にも上ると聞いたため、次の魔法に対する興味がつきない。
彼の一挙手一投足さえも見逃したくない。
そんな思いが、様々な経験をしてどこか擦れた三人のなかに、彼らにも気づかないうちに生まれていた。
ヴァイトについて
ユグドラシルにおいて、アバターの表情は変わらず、専用のアイコンを使いコミュニケーションをとるのだが、それのせいでヴァイトは表情を表に出しやすい。
これは彼が圧倒的上位の身分にいたことで、他者への配慮をしなくてよい、してはいけないといった教育によるところも大きい。
《三足烏の先導》
ダンジョンや建物などで使用する魔法。その心臓部までの最短ルートを案内してくれる。その際、道中の安全性は考慮されない。
ちなみに、攻撃によってこれを無効化するのは不可能で、召喚モンスターの排除・退散の魔法などを使うか、魔法自体の妨害でしか無効化できない。(一部オリジナル要素あり)