帝具がなくたって生きていけるさ   作:妖精の尻尾

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今回そこそこスプラッタな表現があります。
ご注意ください。


……とはいえ、原作が原作ですし、普通に『アカメが斬る』の漫画が読める方は大丈夫でしょう。
生首とかある原作よりかは遥かにましですから。


アカメを斬る!

『家族からの手紙を預かっている』

 

 アカメたち”ナイトレイド”が持つカムイへの切り札。

 それを盾にして交渉を行い、ボリック暗殺の可能性を上げる。または『革命軍と内通しているのでは?』と帝国側に疑問を抱かせ、内部不和ないしカムイの参戦防止が彼らの目標だった。───そう、それが当初の目標だったのだ。

 

(落ち着け……。堂々としていれば、ばれない)

 

 冷や汗が頬を伝う。イバラとの激戦で流した汗と混じるが、アカメ本人にはそれが緊張による汗だと分かってしまう。

 死ぬことは怖くない。だが皆を置いて、悲願(大臣暗殺)を成し遂げることが出来ないのは恐ろしいことだ。あ

 将軍エスデスと大将軍ブドー。

 彼らに並ぶとも評されるカムイが背後にいるのは、アカメに緊張をもたらしていた。

 それは交渉がうまくいくかという不安───ではなく、手紙がブラフ(・・・・・・)であることが察せられないかということ。

 実を言うと、ナイトレイドはカムイの家族との接触に失敗していた。

 

「嘘だ……」

「……ッ。いや、事実だ」

 

 呆然としたカムイに対し、真偽を見抜かれたかと焦るアカメだったが、それが思わず口をついた否定であることを悟る。

 弁舌に長けてはいないと自分でも思っているが、それでも成し遂げねばならないゆえに気を引きしめる。

 

「『手紙を渡す代わりに私たちの味方をする』……これが条件だ」

 

───こちらもなりふり構っていられないのだ。すまない。

 

 多くの人を殺してきたとは言え、彼もまた帝国の被害者。その彼の家族への情をも利用しなければならないのに、アカメは良心が痛む。

 アカメがかつて帝国の礎にならんとし、人を斬り続けたが、現在は革命軍に身を置いている。革命軍という組織は帝国の腐敗を知り、それを正さんとするものには寛容なのだ。……もっともスパイ対策は当然取っているが。

 経歴はもちろん、帝国でも有数の戦闘力を保持するカムイは革命軍の引き抜き対象だった───ただし条件付きの(・・・・・・)

 

『勧誘は一度まで』

 

 真っ当な価値観を持ち合わせ、味方にした時のメリットが大きいとはいえ、あまりにも多く殺しすぎた。革命軍の中にはカムイによって親族を殺された者もいる。

 また人質を取られているからとはいえ、彼が大臣の鉄砲玉であることも事実。家族を殺された者たちの怨みなど私情が混ざり、革命軍の会議は紛糾した。

 結果として帝国への反逆、裏切りへの勧誘は一度きり。二度目はない。

 

「……それが本当だとして、だけど、所詮は手紙だ」

「そうだな」

 

 手紙は手紙であり、それ以上でもそれ以下でもない。

 つまり手紙1枚のために大臣ないし帝国に弓を引いても、家族が殺されれば元も子もない。

 だがここからが本筋である。

 そして、それは本来行われるはずだったナイトレイドの作戦。チェルシーという潜入工作員が殺されてしまったために、過去のものとなったそれ。

 

「だが、お前の現状を知らせたうえで書いてもらった手紙だ。だから───」

 

 アカメがなんと告げようとしたのかは分からない。

 だが、その言葉がカムイの凍てついた心を大きく揺さぶった。

 本当に知らせたのかという疑念、ニンゲンを殺してきた自分を家族に知られた恐怖、そして家族に見放されてしまわないかという不安、それでも現状から解放されるのかもしれないという希望……。

 混沌とした心の内。束縛できぬ思いたちが暴れまわる。大臣の言いなりに、童貞を卒業した(初めて人を殺した)ときとは比較にならない激情。

 いくつもの感情が彼の頭を染め上げたが、その中で最も大きなものに身を委ねる。

 根本的な解決になりはしないけれど、考えることをやめてしまえば、これ以上苦しまずにすむから。

 何がなんだか、もはや何も分からない。ただ己の衝動に従うだけ。

 

───生命帰還”爪槍(つめやり)”!

 

 急激に伸びたカムイの爪は鋭く尖り、月下にきらめき、アカメを狙う。

 

「ぁ、ぐ、うう」

 

 最初はくぐもった悲鳴。抑えようとして、しかし抑えきれず声は大きくなる。

 けれどそれは彼女の軟弱さを示しているのではない。むしろ、その逆だった。

 腕一本。

 背後からアカメの心臓めがけて繰り出されたカムイの一撃。それを避けるための必然の代償だった。

 並の者では間違いなく命を奪うそれは、幼少から暗殺者として育てられ、殺気に敏感なアカメだからこそ回避できたのだ。

 

「え」

 

 地面を転がり、カムイから距離をとって向き合う。帝具”村雨”を構える。

 遠く離れたところに落ちている自身の左腕。余りにも過剰な損傷は現実味を奪い、目に映る左腕はむしろ滑稽なようだった。何よりも始めこそ痛みを感じたのに、今はなんも感じていない。

 まるで出来の悪い喜劇のよう。1秒後には腕が生えていても不思議ではない。そんな感覚に襲われる。

 だがその一方で、明確に生命の危機を感じ取り、イバラとの激戦もどこへとやら、疲労は一時的に吹き飛び五感は冴えわたる。

 刹那のうちにアカメの思考は巡る。今なお、腕の先から血を吹きだしているために、

 けれど、それは自分の行動に戸惑っているカムイ(・・・・・・・・・・・・・・・)を見て、中断された。

 

「な、んで。命令、されてない、のに」

 

 訳が分からないアカメだったが、体が小刻みに震えているのに気付く。アカメは気付いていないが、顔は死神に憑りつかれたがごとく青ざめていた。

 とっさに千切れた腕の部分を心臓より高くなるよう動かしていたので、この場での出血死は抑えられた。だが所詮は絶命までの猶予(カウントダウン)を先延ばししたに過ぎない。

 隙だらけのカムイは今のアカメでも容易く殺せる。

 けれど、もはやそれを行うだけの体力もなく、撤退を選ぶ。

 

「ぅ、ぁ……」

 

 左腕を拾うこともなく、アカメはのろのろと去っていった。

 それに構うこともなく、カムイは膝から崩れ落ちる。

 心臓を貫こうとし、人の左腕を奪い取った己の右手を見つめる。赤い手は温かく、とても重たく感じられた。

 

「僕は……僕は……」

 

 ”善良な”価値観を持つゆえに、必要のない殺しはしてこなかった。───当然だ、殺人なんて厭うものだ

 全て大臣の指令にあった人だけを抹殺した。───当然だ、自分の意志で殺しを行いたくはない

 過去に殺してきたのは帝国に刃を向けたものだけ。───当然だ、それなら自分を正当化できる

 

『僕は悪くない』

『だってそうしろと言われた、そうせざるを得なかったから』

『すべては僕を取りまく環境のせいだ』

 

 本来なら大臣からナイトレイドの抹殺を言い渡されているため、それを免罪符にして逃げることも出来た。稚児のごとき言い訳で、醜くも自分の正しさを主張することは出来た。

 ただ気づいてしまったのだ。

 己の意志で、己の激情で、己の技で、己の肉体で───殺そうとした。それはつまり……

 

「そうか、僕はもう」

 

 感情を殺せば、人として何も思わなければ、機械のように振る舞えば、道具(自分)の罪を使い手(大臣)になすりつけられた。

 だけど、それは違う、違うことに気付いてしまった。

 自分は”自分のために”人を殺せるのだと。奪った命の重さを忘れるために現実から目をそらしていたのだと。

 

「なら、僕はもう」

 

 そしてそんな自分には家族に会う資格なんてない。

 家族との再会を夢見ていた自分と決別(わかれ)を。

 そして、だからこそ、これからの自分は──────

 

「は、ハハハハッ」

 

 今宵は満月。

 穏やかな太陽と違い、月光は冷酷に暴く。

 覆い隠されていた(本性)は、月明かりの下で乾いた笑いを響かせた。

 

 

 

 

「あれ、今帰ってきたの?ずいぶん長いこと外にいたんだ?」

「ああ。……それとイバラが殺された」

「えっ!?そっかーイバラがやられちゃったかー、うーん……」

「……」

「んん?あれ、もしかして妬いてる?あれれー」

「……はぁ。エスデスのところに行ってくる」

「どうして……、ってその腕のことで?」

「ナイトレイドの一員のだ」

「そっか。了解。あと───シュテンもやられちゃったから」

「そうか」

「カムイとの修行が役立ったよ。とはいえナイフに麻痺毒塗られてたみたいでさ……仕留めそこなったんだけど」

「安静にしておいたほうがいい」

「うん、そうする。それと、スズカはまだ帰ってきてない。けどまあ大丈夫でしょ」

「そうだな。じゃあ行ってくる」

 

 

 

 

「……吹っ切れたのかな。まだ迷ってるけど、前を見て歩いてる感じ。───これでいい方向にいけばいいんだけど」

 

 

 

 

 最も速く察知したのは当然のように帝国最強(エスデス)

 人間離れした獣のごとき圧倒的な知覚。視覚でも嗅覚でもなく、気配を察知するということ。

 ナイトレイドも早々に仕掛けてこないだろうが、内通者(不審な動作をする者)を炙り出すためにも、気を抜くことはなかった。

 その触角(センサー)にカムイがひっかかる。

 

「入るといい」

「……ナイトレイドに関してだ」

 

 エスデスとカムイの間柄は、とてもではないが友好的と言えない。むしろ殺伐としているくらいだ。

 特にノックもせず、部屋に入ったが、互いに存在を把握していたため問題はない。

 それよりも誰かの腕をカムイがエスデスに向けて、放り投げたことのほうが絵的には問題だろう。出し切ったのか、血こそ出ていないがなかなかに猟奇的な光景である。

 

「これは?」

 

 しかし眉ひとつ動かさず、カムイに尋ねるエスデス。と言っても、この状況では”戦利品”であることは察しがつく。

 すなわち『これはなんだ』という質問ではなく、『なぜこれを』という疑問だった。

 

「ナイトレイドのアカメの腕だ。……確かアカメの姉妹がいただろう。それをどうするか───」

 

 任せる、と言おうとしたが、それは突然現れた襲撃者によって遮られた。

 ドアを微塵に斬り捨て、カムイを一刀に断たんとするも、特殊な歩法で消えたようにして避けたカムイ。

 殺意はカムイのみに向き、気配も己の知るものだったため、エスデスは動かない。

 

「お姉ちゃんの腕ェ……?なに、お前がお姉ち ゃ ん を コ  ロ  シ  タ   ノ   ?」

「お前が……」

「あはっ」

 

 帝具”ガイアファンデーション”の所有者チェルシーによって後遺症を負ったクロメ。安静にしていたが、リハビリもかねて出歩いていたところ、偶然エスデスの部屋の前を通り過ぎた。

 そして聞いてしまった。

 

「お姉ちゃんは……私が殺すはずだったんだよ?それをお前が───」

「……なるほど、歪んだ愛情というやつか」

「お前が言えた義理ではないだろう?」

「うるさい」

 

 絶大な怒りをぎりぎりまで抑え込み、クロメは殺意を尖らせる。

 その言葉に倒錯した姉妹の関係を感じ取り、複雑な思いを抱くカムイ。

 茶々を入れようと楽しそうに話しかけてきたエスデスのことは、ぴしゃりと黙らせる。

 

───死者行軍”八房”

 

 その刀で斬り殺した者を死者のまま、意のままに操る骸人形へと変貌させる帝具。

 超級危険種すら従えるクロメの帝具ではあるが、それをこの場で呼び出さないだけの理性は残っていた。……もっとも超級危険種は生物型帝具”スサノオ”の奥の手によって斬り伏せられている。

 だが、かつて暗殺部隊に在籍し、帝具を身につけたタツミと互角の実力を有するナタラ。その実力は骸人形(コレクション)になってもなお健在である。他にも北の異民族出身の暗殺者、ドーヤも八房による骸人形の1体である。

 

「鉄塊”剛”」

「ナタラ、やっちゃって───!!」

 

 薙刀状の臣具”トリシュラ”が右上段から叩き込まれるも、カムイは左腕をあげて防御する。

 人体と臣具のぶつかり合いでありながら、金属が衝突したような甲高い音が響く。

 斬撃がダメなら、一点集中の突きを放つまで。即座に薙刀を引き戻し、人体の急所である心臓めがけて勢いよく放つ。

 重さも込められたその一撃に対して、受け続けるばかりではない。

 

「紙絵」

 

 薙刀の圧は風を呼び、それに煽られ、宙に舞う紙のようにひらりと避ける。

 皇拳寺の裏山に住まうレイククラーケンの煮汁。それを食べることで身体の自在な操作を可能とする羅刹四鬼。

 カムイも例外ではなく、きわめて繊細な身体操作と、見切りを行う高度な動体視力が一連の回避を可能にしていた。

 

「アカメはまだ死んでいない……と言っても、聞こえてないな」

「ゆる、さない……さない……さない……」

「観戦していないで、どうにかしろ」

 

 その後もナタラとクロメ共に切りかかるも、反撃はせず、ひたすら避け続ける。

 羅刹四鬼が大臣から受けた命令は『ボリックの護衛とナイトレイドへの遊撃』である。自陣の戦力を減らさないためにも、クロメへの攻撃は一切していない。

 右と左から交互に剣戟がカムイを襲う。それをふわりと重力を感じさせず、かわしていく。

 だが負傷したクロメでは避けに専念しているカムイを捉えきれず、膠着状態に陥る。

 ゆえにエスデスにクロメを止めるよう呼びかけるのは当然のことだった。

 

「ふむ……では後で私と戦え。模擬戦というやつだ」

「───ッハァ……。分かった」

 

 隙あらば戦いを挑む血の気が多い将軍。それにうんざりするも、仕方なく了承する。

 

「約束は守れよ?さてクロメ……少々頭を冷やせ(・・・)

 

 魔神顕現”デモンズエキス”。

 無から氷を生成し、自在に操り、万物を凍結させる帝具。

 最強と名高い帝具であり、エスデスの所有する帝具である。

 瞬くうちに骸人形(ナタラ)を氷結させ、クロメも氷の檻へと閉じ込めて身動きを封じた。

 つかつかと檻へと近づくと、エスデスはクロメの誤解を解いていく。

 

 そして、ついとカムイへと向き直り、目を合わせ、艶やかな唇が片方へ歪んでつり上がる。

 

「では───始めようか」

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