遠山キンジの独白 作:緋色
逆に何もしてないのにビビられると凹む
ジャンヌが調べた内容は次の通りだった。
・武偵高に入ってからの任務成功率は100%
・教師に命令された仕事か
・上記以外だとアリアか俺、あとは白雪が関わる内容にしか手を貸さない
ジャンヌは情報収集等で理子の師匠をしていただけあってだいぶわかりやすい。
というか余計なチャチャいれる理子が悪いだけか。
「なんか……思ってたより前から目を付けられてた――って感じだな」
確か最初に教師命令で組んで以来使えそうな任務で協力して貰ってたが――内容が偏り過ぎである。
アリアと任務行ってたのは知っていたがそれ以外で組んだ奴がほぼいないのは想定外すぎる。てっきり傭兵として誘われたらきっちり仕事するくらいだと思っていたが、内容的に俺とアリア以外と組んでいないのかよ。
「一次調査で見つけた情報は他にもあるが未確認のものが多い。速報できる確認情報はその程度だ。逆に――お前は何か持ってきたか」
……ん?なんかこいつ重要なこと知ってて伏せてないか?
気になったがとりあえず後に回して携帯を取り出す。
「レキはいつもヘッドホンをして、妙な音を聞いてる。俺にはただの環境音にしか聞こえんが――昨日アイツがシャワーを浴びてる間に、ヘッドホンに繋がってたMP3プレーヤーを拝借して……マイクロSDを携帯でコピーしてきた」
「シャワー……? お前たち、どういう暮らしをしているんだ?」
「レキが勝手に俺の部屋に住み着いてる。それで白雪も移住しようとしてるし女子って俺が勘違いしてただけで行動派なのか?」
「それは――人それぞれとしか言えんな」
聞いてみろと音源を渡すと立ち止まってイヤホンを耳に付け目を閉じる。
前にも聞いたその音はちょっと不気味なことだが、本当にただの風の音が何時間も流れているだけのものだ。何時間もってのが怖い。怖くない?
「ふむ…。小さい音だが、雑音が入る。風じゃない。何かは分からないが……」
真剣な表情で音に集中しているジャンヌを横目で見ると――だいぶ印象が変わるな。
長い睫毛。スッと通った鼻。 薔薇の花弁みたいな唇。このクールな印象。魔女というより、女優みたいだ。
クールというよりポンコツだったりあんまり役に立つイメージはないのだが、こういう所を見ると頭はいいんだろうな。出力が残念なだけで。
「私には分からない。だが、これは手がかりに……な、何だ遠山。なぜ私を見る」
「おや?見てちゃダメだったか?そりゃ御免ね。次からは正面から見るわ」
「それは謝ってないな!?――いやそれは兎も角これは手がかりになるぞ。 相談する相手に心当たりがある」
なぜか少し赤くなっていたジャンヌはと腕組みして人差し指と中指を立て、間に挟んだSDカードを示すのだった。
心当たり?
ジャンヌがアイスブルーの携帯でその『心当たり』と連絡を取りながら、俺を案内した先は
「音の専門家でもいるのか?」
「ああ。私はここの中空知と仲が良い」
「中空知か。へーあいつオペレーター専門家と思ってた」
中空知美咲。
確か最後に協力してくれたのは4月のバスジャックだな。
NHKアナウンサーみたいに発音がきれいで状況を的確に伝えてくれるから、かなりの完璧主義なんじゃないだろうか?
それにしては武偵ランクBなのが違和感あるが。
案内されるままに音響学講義室まで来たわけだが――
「はわぁ!」
「大丈夫か中空知?」
と、抱えていたヘッドホンをまき散らし、眼鏡が明後日の方向に飛び立ち、どんくさいのかそのままコードやらなんやらと絡まっていく女子しかいなかった。
……スカートがまずい事になってて目の毒なのでジャンヌに任せて辺りを見渡しても誰もいない。
とりあえず飛んで行った眼鏡を拾いに動いたけど――いやホントに誰もいない。
つまり消去法的になぜかさらにいやらしい方向に縛られてるこの女子が中空知らしい。
……うっそだろおい。
「あー、もう見て大丈夫か?セクハラにならんか?」
「問題ない。眼鏡を返してやれ」
「ん?ああ。眼鏡はここだ」
眼鏡を差し出すと中空知は眼鏡を手にしてふらふらと立ち上がって
「どちらさまですか…?」
と眼を細めながら前髪に隠れがちの顔を近づけてくる。
ってこいつよく見たら美人だな!?――じゃなくて!
「まず眼鏡かけろ!なんで顔近づける!?」
「ふぇ……?あ、そうですね……。?……!?!?」
顔が認識できたのかカサカサカサカサばしんっ!と後ずさって壁に背中を叩きつけた。
「……そこまで嫌われる事したっけ?」
「あ、わぁ、だ、男子が、おとっ、おとこ、い、いやっ、いいです! いいんです! おとっ、おと、すきっ、ですから! 頭の中では、本当は!」
「……いろんな意味で頼んで大丈夫なのこの娘?」
「お前は私の人選に文句をつけるのか?」
「いやこの様子見て心配にならん奴いんの……?」
俺はもう一度その中空知さんらしき人物に向き直る。俺に見られただけで、彼女は手にしたヘッドホンで頭を守っている。
「すっすみませんすみませんっ! すみっ、すみませんっ!」
「……俺そんな怖いんか?いや割と乱暴な方だからわからんでもないけど……いやまじかぁ……」
「い、いえ!?く、くるなんて、かっこいい、しかも、思ってなかったから、い、インカム映像で見ていた遠山君ががが」
なんだろう。日本語検定の文章並び替え問題かな?
それはそれとして荒れ事に慣れてない奴ならこれくらい怯えるんだろうな……気を付けないとな。
この数分だけでおそろしくテンションが下がった。もう帰って寝たい……。
「遠山、中空知はお前と同じで少々性格に難がある。そっちの壁際に行っていろ」
「……わかった。……俺性格に難あるんだ……」
「なぜ部屋の隅で膝抱えて座っているんだ?」
ジャンヌが中空知に何か教えると、ぴぽぱぴぽぱぴ!と素早いスピードで電話番号を入力する音がし――俺のケータイから『花のうちに』のメロディーが流れた。え?俺に掛けたの?
一応、出ると。
「――初めまして。と申し上げるのも奇妙ですけれど、お会いするのは初めてですよね。中空知美咲です。先程は失礼いたしました。私は少々上がり症なところがありますので……失礼ながら、 このように通信機を介してご応対させていただきたいのですがよろしいでしょうか」
え?と振り向くと中空知の方を見ると、ジャンヌが通せんぼのポーズで彼女の姿を隠している。
「……対面だといつもあんな感じ?」
「あんな感じというのはわかりませんが、対面での会話は難しいもので」
「……わかった無理強いはできないしな」
ごにょごにょ、とジャンヌが中空知に何かを告げている。
「――ご用件は、このマイクロSDに入ったファイルの音響分析でよろしいでしょうか」
「あ、ああ。その音から何か分かるなら教えてくれ。それは狙撃科のレキがヘッドホンでいつも聞いている音なんだ。アイツは故郷の音とか言ってたが。無茶だと思うが頼む」
「いいえ。音は、映像よりも物を語ります。少なくとも、私には映像のように見える。それに私は一般学科でレキさんと同じ2年C組に在籍していますからヘッドホンにも見覚えがあります。レキさんのヘッドホンは……ゼンハイザーのPMX990。爽やかな音質が特徴で高音に強い名品です。少々お待ち下さい」
しばらく、黙った。
音を聞き始めたんだな。ここは俺も、黙って待とう。
というか問題なさそうなので普通に座るか。気分も戻ったし。
「……とても……広いところ……。音の反響と速度から考えて録音場所は広い草原で樹の森。木の葉の擦れる音はこれはシベリアカラマツ。低木の植生も併せて考えると、モンゴル北部から東シベリアにかけてのどこかです。馬の呼吸音が聞こえます。あまり大きくない、半野生の……たぶんプシュバルスキー馬、モンゴル古馬の末裔と思われます。 あと、狼の声も……こちらは逆に、狼にしては大きい。ハイイロオオカミの亜種、ツンドラオオカミと思われます」
……音だけでそんなにわかるのか。というか聞き分けられるだけなら兎も角特定まで出来るとなると中空知は相当なサンプルが頭に入ってるんだろう。
対人がダメなだけで相当優秀だぞ。
となるとロシアかモンゴルの民族か?情報だけだとモンゴルの遊牧民っぽいが。
「あっ。 人の声がしました。 すごく遠い所ですが、会話しています。これは不思議な言語です。ロシア語のようですが日本語と、古いモンゴル語の単語も交ざっている」
土地的にロシア語と古いモンゴル語はわかるが――日本語?
いやおかしくはないか?中国だって発音は違うが日本が作った新しい言葉(例:化石、経済)とか輸入してるわけだし――概念が特殊過ぎて日本語の単語で表すなんて例もあるらしいが(例:忍者、もったいない)
だがレキの故郷でそんな特殊な概念使うか?――レキの故郷で。
かなり首をひねる結果ではあるが―― そろそろレキのプールの授業が終わる。
留学生は俺以外と揉めてる様だしこっちには絡んでこないだろうが、前に襲撃してきたココは今桜ちゃんが見張ってる様だから問題は起きないと思う。しかし、俺を護衛すると言ってるレキとあまり離れた所にいると面倒くさい事になりかねん。
「すまないが、もう時間があまりない。 俺は失礼するが……後で、聞き取れた内容をまとめてメールしてくれないか。そのマイクロSDは貸す。あとで返してくれればいい」
「かっ……………かか、返しに? だっだっだだだだ、男子の家に、行くなんて、無理です!だって、て、て、適切な下着がありませんから!」
「……中空知は俺の事なんだと思ってるんだ……?」
もしかしてヤバい奴なのかな?近づかんようにしよう。
俺が通信科の講義室を後にしようとすると――ぐい。っとジャンヌに腕をつかまれた。
ジャンヌは無言で俺を小教室から押し出し、廊下の左右に人がいない事を確認してから耳打ちするように小声で語りかけてきた。
「遠山、気をつけろ。すぐには確認できなかった情報だから言わなかったのだが――レキは武偵高に入る前――14歳頃から日本だけではなくロシアや中国にもいたらしい。まだ武偵ライセンスの国際化にロシアと中国が批准する前そこで武偵免許を取得していたからな」
「……何をやってたんだ、アイツ。そんな物騒な場所で」
「その記録が無い。何もしていなかったか、記録に残らない仕事をしていたのだ」
「……
「おそらく」
正当防衛でも武偵による殺人が禁止されているのは、殺しをライセンス化して制御してる日本と西欧諸国ぐらいのもので現実問題としているところにはいるのだ。殺しを専門とする武偵。そしてその約7割が狙撃を得意とする武偵と言われている。
実際こいつらの存在があったから武偵という存在が国際社会で認めることに相当揉めたというかなし崩しに導入した国は多いと聞く。
「……なんで俺が気に入られたのかねえ?割と真逆の性質だと思うんだが……?」
「まぁわからなくはないが」
「何が?」
「何でもない」
……なんか気になるな?あ、そういえば
「そういやジャンヌ。ついでに聞きたいんだがウルスって知ってるか?」
「っ――いや。知らないが」
……やっぱなんか知ってるなこいつ?
ダンッ
左手で壁を叩くようにジャンヌを壁際に追い詰め右手をジャンヌの頬から首に掛けて触れる。
簡易嘘発見機だ。脈拍と覗き込んだ眼から嘘を見抜けるはず。
「正直に話せ。ウルスとやらに心当たりあるな?」
「な、なにをする気だ!」
「正直になるようになる事だけど?」
「はぅ!?」
なんか急に顔真っ赤に染まったな?
そんなに拷問は嫌なのだろうか?…普通は嫌か
「じゃあ話せ」
「あ、ああ――ウルス族はロシアとモンゴルの国境付近、バイカル湖南方の高原に隠れ住む少数民族だ。だが、彼女らの祖先の名は遠山も聞いた事があるハズだ。その弓と矢でアジアを席巻した、蒙古の帝王チンギス=ハン。ウルス族はその戦闘技術を色濃く受け継いだ、彼の末裔の一族なのだ」
「……はあ?」
何言ってんだこいつ?
Q壁ドンってどう思います?
A.魔剣「私は屈してないからな!?」