遠山キンジの独白   作:緋色

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外国人のタクシー運転が認められたのは2024年


姿の見えない襲撃者

 武偵校の修学旅行は各自バラバラに日程を組み、宿泊施設も各自でとることになっている。

 ……ホント何でこれ修学旅行扱いされてるんだ?

 それは兎も角、買い物した服は郵送で自宅に送る事にして比叡山方面へと向かう。

 宿を取ろうと思っていたのだが白雪に星伽の分社に泊まるように(ハムスターが何とか言って)勧められたため、お邪魔することになっている。

 京都に泊まるんだったら大阪行ったのは失敗だったかな?行き当たりばったり過ぎたかね。

 夕闇が迫りつつある中、最寄駅からはタクシーで分社へと向かう。

 

「お客サン。どこまで行くネ?」

「星伽神社まで――場所わかるか?」

無問題(モーマンタイ)ヨ。この車はナビがついてるからネ」

「……中国人か?」

「ちゃんと日本で免許盗ったから安心するヨ」

 

 なんか若干日本語が怪しいがこの辺走ってるタクシー会社のものだし多分大丈夫だろう。変な改造も硝煙のニオイもしないし。

 ハイマキを乗せる事を他のタクシーでは拒否られたので仕方ないとはいえ選択肢ないな。

 

「ルール違反だけど(ワオ)も生活あるからネ。少し割増ヨ」

「無茶言ってるのはこっちですけどいいんすか?」

「この車の営業はお客さんで最期ヨ。車無くなるからネ。会社は新車買うヨ」

「買い替えですか。時期が良かったのかね」

「でもお客さん口コミ駄目ヨ?(ワオ)も生活あるからネ」

「こっちが叩かれかねんのでわかってますよ」

 

 ただでさえ武偵はヤクザ一歩手前みたいな認識をされてる以上、下手に脅されてましたとか被害者面されると一気に不利になりがちではある。

 そんなこんなで街から出て山道を走る中、レキはじっと景色を見ていた。それはぼーっと見ているという感じではなく頭に叩き込んでるようなイメージだ。

 計測してる……?

 星伽から逃げるシミュレートでもしてるのかな?白雪に襲撃される可能性は……まああり得なくもないか?言い訳考えとくか?

 星伽まで半ばといった所ですっと脇道に入る。……?ナビ消えた?

 

「おい。こっち道違わないか?」

「間違ってないネ。()()()が頼まれてた場所ネ」

 

 はあ?と怪訝に思うと

 

 ピシュ――

 

 タクシーが傾いたと思ったら運転手はタクシーから飛び出し――車が木に激突する!?

 

「罠か!?」

 

 運転手を追う様にタクシーからレキを抱えて飛び出す。ハイマキは自力で脱出出来てるな。

 そのまま運転手を追いかけようかと思ったが猿のように身軽な様子で森の中に消えた。

 クソっ。戦闘力無さそうだって油断した。逃げに特化した鍛え方してる動きだぞあの運転手!?

 

「――狙撃です。山岳方面から撃ってきました。身を隠してください。レミントンM700。距離は2160m」

 

 追いかけてとっちめようとしたがレキの冷静な意見に固まる。そういやさっき変な音したな。よく見るとパンクしてるし。

 

「遠山キンジ レキ 2人とも 投降しやがれ です」

 

 どこぞで聞いたようなボーカロイド。その姉妹版の声だな。バスジャックか?

 それに気付く俺の横で、サッとレキがドラグノフを空に向けタァン!と、夕暮れ空に向けて発砲する。

 空に小さな花火みたいなものが弾け黒く着色されたラジコンヘリが、ドライブウェーの方に墜落していくのが見えた。

 上空からは更に、バラバラバラッ!

 レキの発砲に応戦するように何発もの銃弾が俺たちの周囲に飛び散ってくる。

 まだ空にいくつか飛んでるな。

 

「弾温存しろ。俺がやる」

「はい」

 

 上空からの銃撃の狙いは精度が悪い。音を抑えるためか、軽量のラジコンを使っているせいだろう。反動で狙いが定まってないがゆえ弾をばらまくコンセプトらしい。

 なら撃ち落とせばそれほど脅威じゃなくなるな。飛んでるラジコンを撃ち落して破壊する。

 

「山は狙撃手の庭だな――。そっちが本命か?携帯は――なんか圏外だな。車燃やして人呼ぶか?」

 

 とりあえず木を背にして確認してみるが、妨害電波でも出てるのか近くの基地局が落ちたのか携帯は通じない。

 となると非合法活動はしてない以上、警察なんなりに気付かせて攻守の立場を崩した方がいい。

 

「あの車にガソリンはほとんど入っていません。望む結果にはならないでしょう。一度この場を離れ潜伏しましょう。ここに留まるのは危険です」

「……狙撃戦はよくわからんし任せる」

「先導します」

 

 太陽が沈み、本格的な夜となった森の中は驚くほど暗い。

 迷いなく歩けるレキはこの手の闇に慣れているようだ、都市に慣れきってる俺は森でサバイバルはできても狙撃を警戒しながら夜動き回るのは得意ではない。

 推測するに狙撃手(スナイパー)同士の戦いをするために敵を撃ちやすく自分が撃たれにくい場所を探しているって所だろう。

 無駄のない動きで歩き回るレキに付いて歩いていると足元がぬかるんだので立ち止まって確認すると――浅い川のようだ。

 レキはスタスタとまるで水を渡る妖精のように川を越えていく。よく見えないが岩や折れた木があってその上を渡ったみたいだな。俺はよく見えないんだが――

 川の水に濡れて、これ以上動きが鈍るとよくないし大きな音を立てて敵にバレるのもよくないだろう。

 うんと低くして足元の様子を窺いながら注意深く川を越えていく。見た目はクソダサいが暗闇でも何があるか多少は見えるものだ。

 渡り切った所でレキの影が、巨木の傍らで手招きしていた。

 レキのそばまで歩み寄って、俺はクスノキと思われるその巨木を見上げる。

 でかいな。通常のクスノキなら直系3~5mほどだが10mに届きそうだ。これなら木の幹と根が盾になるだろうし貫通の心配はなさそうだ。

 

「で……どうするんだ。ここから」

「ここで待機・索敵し、狙撃の機会を窺います」

「一応確認するが星伽に逃げ込むのは?」

「敵は私達を孤立させている。最優先で警戒する故に気付かれやすいでしょう」

「だよな」

 

 俺は大木の根元に腰掛けると腰から抜いたベレッタを一応チェックする。流石に狙撃手の間合いではどうしようもできないがな。

 

「体感だが街からも星伽からも離れてるようだし。時間経過で星伽に来ない異常は伝わるだろうが――今は18時半過ぎ、あと1時間は気づかんかもな」

 

 大阪に寄るし到着するのは遅れそうだと連絡していたのがまずかったか?

 逆に下手に騒がれて白雪が人質にされる方がまずいかもしれんが。それまでに片付けたいな。

 

「キンジさん、腕時計を隠して下さい」

「……何で」

「夜光塗料で敵に発見されるおそれがありますから」

「見えんの?」

「私なら見える」

 

 レキの超人的視力考えたらホントに見えるんだろうな。

 

「敵はおそらく微光暗視照準器(スターライト・スコープ)も装備しています。そうでなければ夜襲はかけなかったハズです」

「だろうな。俺はあんま見えんし銃じゃ届かんし不利なわけだ。お前のドラグノフ(それ)に暗視機能あんのか?」

「このスコープが夜間用に搭載しているのは、ライティング・レティクルのみです」

 

 スコープを覗いた時に見える狙いの十文字が光るから一応夜間照準ができるってだけの原始的な装置だ。

 

「うーん。明らかに装備的に不利だなあ。こっちの事よく調べてる様だが――明らかに誘い込まれてるしな。それにしちゃ他に罠もないのが変だが。追撃もねえし」

「逆に利用されることを恐れたのでしょう。そして狙撃の腕に自信を持ってるからこそ。見せつけるつもりです」

「という事は殺すことが目的じゃないな?身柄を押さえたいのか?」

「私とキンジさんを欲しているのでしょう」

「モテモテだな俺ら」

 

 呆れと共にため息が出るぜ。

 となると敵は誰だ?

 前に吹っ掛けてきたココかと思ったが鍛え方からして格闘に特化した感じだったし、狙撃してきそうな敵となると――シャーロックとパトラか?

 ただパトラは魔術によるゴリ押しタイプだし、シャーロックはむしろ姿を現しておちょくりに来るイメージだ。

 狙撃科の連中ならレキが気付きそうだし――駄目だ俺の知ってる相手じゃなさそうだな。

 

 ハイマキがぴく、と耳を立てて立ち上がった。そして森の奥、暗闇の方を睨み付け、足音を殺して歩いていく。

 ――獲物でも見つけたのか?

 俺の視界に銀狼に飛びかかる黒犬が見えた。

 闘犬用の犬――シャー・ペイ。中国では猟犬や軍用犬にも使われる獰猛な犬だぞ。テレビで見たやつより遥かに大きい。人間の手足ぐらい、簡単に食いちぎれそうなサイズだ。

 

「野良じゃなさそうだなっと」

 

 首輪についた発信機を破壊するためにベレッタで撃ち抜く。

 ヒステリアモードなら同時に背骨の瞬間圧迫も狙えただろうが今の俺だと的に当てるぐらいがギリギリである。

 ハイマキとシャー・ペイが取っ組み合いを始めたためこれ以上の手出しは難しそうだ。どうすっかなこれ?

 レキはそんな俺を知ってか知らずかドラグノフを構えバスッ!バスッ!と発砲し――

 

「――ハイマキ。その犬を放しなさい。もう戦えません」

 

 命令するレキの声にハイマキは土を蹴って後退する。

 シャー・ペイは距離を置き、威嚇するハイマキからひょこひょこと足を怪我したように逃げていく。

 いや怪我したようにではなくレキに撃たれて怪我したのだろう。

 

「こっちの隠れ場所が割れるだろうし移動するか。――あれの後を追えば顔合わせできるか?」

「場所は、もうキンジさんの発砲音で悟られています。だから私も発砲しました。もうここから動けません」

「……すまん」

「気にされることはありません。あの犬は強かった。ハイマキは犬のノドを咥えて黙らせ、犬についていた発信器と思われる装置だけを爪で外そうとしていましたがすぐには、無理そうでした。 あのまま犬の位置が不自然に停止し続けていれば敵はここに勘付いていたことでしょう」

 

 疲れた感じでヨタヨタと戻ってきたハイマキを見ると……負傷している。シャー・ペイとの戦いで、何ヶ所か噛まれたらしい。 銀色の綺麗だった毛が、何ヶ所か血で赤く染まってるぞ。

 レキが言う通り相当強かったんだな。あの闘犬は。

 レキは、ポケットに入れていたカロリーメイトの箱を取り出し…… ぱか、と開いて中身を抜き、空箱に足元から土をすくって詰めている。

 何してんだ?

 レキは土を詰めたカロリーメイトの箱をぽい。と木の横に投げた。

 

 ――ビシュッ!!

 

 箱が弾け、空中に土が飛び散る。

 

「予想通り敵は最初に狙撃してから移動してないようです。距離は2050m。私の射程圏内でもあります」

「敵は確かに狙撃のプロだと思われます。性格は極めて自信家ですね」

「今の箱を撃ったからか」

「はい。撃つことで自分の現在位置を悟られても負けないという敵によるアピールなのです。敵は同時に最新の機械に頼る一面も持ち合わせている。極めて合理的な人物です」

「でなきゃ仕掛けてこないか。ハイマキこっち来い応急手当だけはしとくぞ」

 

 流石にこの戦いは足手まといだな。どうしようもない。




狙撃戦どうすっか悩みどころ
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