遠山キンジの独白   作:緋色

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人間ノック


口先だけの

 大体1時間が経過した。

 

「状況を整理すると山の中で狙撃手に捕捉されて木の陰から出られない。って状況か。木の陰に沿って逃げるのも川半ば辺りで遮蔽なくなるから死ねると――Blitznakだなおい…」

「川に入る所で撃たれます」

「どっちにしろ逃げ切れんな」

 

 相手はおそらく微光暗視照準器(スターライト・スコープ)で見てるのと、ラジコンや犬に付けた発信機を使ったことから考えると集音器で聞き耳立ててる可能性もあるか。

 確か2キロで遮蔽物ナシなら精度がいいものなら普通に聞こえるだろうし。

 

「死ぬ前に後悔したくないし童貞卒業しとくべきか?でもヤッてる最中に死ぬ方が後悔度合い高くねーか?妥協の妥協も最悪だし」

『敵位置、方角はどこだ?』

 

 割と最低な事を口走りながら武偵手帳を取り出しペンライトで手元を照らしつつ、敵の位置とここからの方角と角度を描くようにレキに指示して渡す。

 何を描いてるかまでは相手には読み取れないだろう。

 

「キンジさんだけは生きて帰らせます」

「レキも生きて帰らんと意味ねえだろ」

 

 図にしていたレキの手が僅かに止まり何事もなかったかのように描き続ける。――ふむ?

 

「お兄ちゃん寂しくて死んじゃうからね」

「そうですか」

 

 渡された図――絵上手いしわかりやす!――から相手は北北西の方角の2050mの位置と大雑把な場所が描かれていた。

 (レキよりかは)夜目の利かない俺からすると狙撃手の大まかな場所はあんまり意味はないが射線は大体推測できるだろう。

 どっちにしろ森で寝たくないし狙撃手に狙われてるなら一か所に留まるのは悪手でしかないだろう――突破できなければ詰むだろうし。次の手を仕掛けてくるのは想像できる。

 

「キンジさん。私を使ってHSS――ヒステリアモードになってください。この戦いの結果がどうあれ、今のあなたではこの森から逃げられない」

「事実だけどさぁ……。なるために何するか知ってんだろ?」

「――私は何をされても構いません。あなたになら」

 

 ふと、月明かりが木々の間から差し込みレキの顔がはっきりと見える。

 元々の端正な顔立ちにシャトンbできちんとした化粧も森を動き回ったことで少々崩れて汚れてしまっているが――凛とした美しさがそこにはあった。

 

「それともキンジお兄さん呼びの方がいいですか」

「今レキにそれされてもあんま効かないし」

 

 いつものお兄ちゃん戦法は基本年下(守備範囲外)がいる時にはお兄ちゃんアピールでヒステリアモード(の亜種?)になってるわけだが今回はいつもの逆で自分がどうにかしなきゃという状況じゃないためさっきから掛かりが悪いのだ。

 なぜかレキが微妙に固まってる様だがどうしたのか?

 

「キスした方が効果ありそうだけど、それやってレキの狙撃能力に影響出すのもまずいし」

「問題ありませんが」

 

 問題しかなさそうだから今出来てないんだよなあ。

 経験則だが体感して慣れての大丈夫と自分は問題ないという理由無き大丈夫じゃまったく違う。

 レキな場合は理由無き方だ。

 ショッピングの時に確信したがレキは感情をコントロールしているのではなく抑圧されていて自覚していないだけであり、感情の起伏は存在する。

 それはこの特殊シチュエーションでレキの動揺が見て取れることから、コップの水が溢れるか溢れないかのようなギリギリを保っている様な印象だ。そんな状況で下手にヒステリアモードで口説きに入ってコップが溢れたら目も当てられない。

 ……ヒステリアモードに慣らす事しとけばよかったな……。

 それは兎も角、単純な計算の話ではあるが0.1度のズレが1m先では約1.7mmのズレ、2050m先なら約3.5mもズレる計算だまあこれは極端な例だがこの場で狙撃出来るのレキだけである以上下手に動揺させるわけにはいかないし、こっち側の狙撃失敗はそのまま詰み(チェックメイト)を意味する。

 

「それは臭いで追われやすくなります」

「それはそれで使い道あるからな」

 

 取り出した煙管に注意するレキだがそれを無視して飄々と煙を燻らせる。

 じんわりと血流が芯に集まっていく中、頭を回す。

 今わかってる敵戦力は狙撃手(スナイパー)(武器はレミントンM700:総弾数6)、闘犬用の犬(シャー・ペイ)、逃げた運転手――は戦力に数えなくていいか弱いし、交戦可能距離に入れば盾として使われるのが目に見えてるだろうから罠にハメた以上もう直接見える位置に出てくることはないだろう。後出てくるならラジコンか。

 こっちの戦力は拳銃手(サジット)狙撃手(スナイパー)(ハイマキ)か。

 あっちは資金豊富にいろいろ使ってる事から考えると金持ちなのは何となくわかるな。なんていうか金を惜しみなく使ってごり押しするスタイルは中華系だろう。神奈川時代の中華マフィアと微妙にイメージが重なるやり口だし。

 思考は逸れたが俺の手持ちの銃じゃこっちからは攻撃不可。狙撃はレキに任せるとして相手に近づくには木の陰から出て見渡しのいい所を通り姿を晒さなければならない。

 距離は推定15m。相手の狙撃能力から考えると六発は打ち込まれてもおかしくないな。

 銃口と指先(トリガー)を見て銃弾を避けれはする俺だが今回は暗い上に相手が遠すぎて見えない。

 一番重要なタイミングが一番合わせにくいわけだが――いや待てよ?

 

「駄目だ思いつかん。白旗でも挙げるか?」

『あいつに何発か撃たせられるか?』

 

 コクンと頷いたレキはスカートから取り出した銃剣を、ドラグノフの先端に着装ししゅる、と外した制服のスカーフを銃剣の先に結びつけて垂らしている。

 なんぞそれ?と見ている俺の視線を受けながらレキは、ソーッと、木の横にそのスカーフを突き出していく。

 横風が吹き、スカーフが木の外側にはためくと――

 バシュッ! バシュッ!と、スカーフを銃弾が、勢いよく掠めていった。

 数秒後に、また、遠い銃声がくぐもった音を轟かせる。2発。音の差から2050m先――元の場所からは多分動いてはいない。

 

「同じ所から撃ってきたか」

「はい。 最初に襲撃してから、一度も移動してないようです。おそらく微光暗視照準器(スターライト・スコープ)や集音器を集めた機械的な拠点があってそこを動くつもりがないのでしょう」

「こっちに居場所がバレても、お構いなしか。大した自信家だぜ」

 

――だが、思いついちまったぞ。無理矢理抜けるための無茶苦茶加減を――

 

「そのようですね。 メッセージを送ったつもりでしたが、突き返してきました」

「メッセージ?」

「私の技術を示したのです。あの猟犬の左右の足につけた傷は長さ3センチ、深さ3ミリ、立ち上がれば高さも3センチ。左右ともに全く同じにしておきました」

 

 ぺら、とレキが広げて見せた防弾スカーフには今の2発の銃弾がつけたと思われる×字の皺が刻まれていた。

 鋭く交差する2本の直線は全く、同じ長さに見える。 30センチぐらいずつの。

『そのぐらい、自分にもできる』。

 そういうメッセージなんだろうな。敵からの。

 ――よかったなら思いついた方法は使えそうだ。敵の狙撃能力に自信を持っているしプライドも高さそうだからだ。

 

微光暗視照準器(スターライト・スコープ)と集音器を潰せるか?』

閃光弾(フラッシュ)音響弾(カノン)があります』

 

「よし。わかった。()()()()()()()から頼んだ」

「キンジさん?」

「男が一番格好いいのは女を――家族を守るときだと相場は決まってるからだ!」

 

 木の陰から飛び出し――ギギン!金属音に火花が光り、サクラマサクスに銃弾は受け止められた。

 潜水艦のあれも予習って奴だったのかね……!?

 すぐさま来る追撃の気配にサクラマサクスを構えて受け止める。

 と言ってもこれは大道芸にしか過ぎない。我ながらイカれてるとは思うが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()など。

 だが、問題ない。

 こちとら機械で見られることに敏感になってたし、リアルタイムのねばつく欲の絡んだ視線は殊更に敏感なんだ。ずっと見られ続けてチューニングされたようなもんだ。だから今眼が合ったのも感覚で理解できる。

 これならほぼ無感情で撃ってくるレキの方がわかりにく過ぎて難しかったぜ。何度か撒こうとしてもぴったりと監視されてて下手なことできなかったしな。

 

「レキ。頼んだ」

「はい」

 

 レキが陰から出た所で当然狙い撃たれるがサクラマサクスで防ぐ。

 

「あと10秒で決めてくれ」

「私は一発の弾丸――」

 

 タァン!タァン!

 連続で撃たれた2発の弾は一瞬の光とギィィインッ!ここまで轟く甲高い音が響く。

 わかっていたとはいえ、驚くなこれは。いや相手を驚かせる武器なんだけど。

 1発目の閃光弾で微かな星明かりを何倍にも増幅するタイプの暗視装置は機能を停止した。

僅かな光で見える故に強い光に弱く向こうのスコープは真っ白(ホワイトアウト)になり或いは、安全装置が働いて止まったはずだ。

そこにレキの2発目の音響弾で、相手は周囲の音を増幅・拡大する集音器も使っていた。それにヘッドホンか何かを繋いで耳をそばだてていたのなら、聴覚も無事では済まなかったハズだ。

 

「敵の狙撃手は、耳を押さえて苦しんでいます。単独犯で観測手はいません。射殺しますか?」

「俺といる時は殺すな。武偵法は守れ。それに捕らえて聞きたい事もあるし」

「わかりました。それと敵は幼い少女です。私より年下の」

 

 はぁ?と聞き返す前にレキは狙撃し

 

「敵の武器を破壊しました」

「……まあいいや。逃げられる前に捕まえるぞ」

「手足を撃ちましょう」

「それ死ぬよね?ダメ」

 

 山道ダッシュで8分ぐらいか?そのまま捕まえられればベストだが、逃げられても拠点を押さえれば相手の存在は絞れる。最悪妨害電波だけでも潰しておきたいし。報復対策も兼ねて急ぐに越したことはないが。

 バレないように静かに動かなくていいなら鍛えた音響測定(エコーロケーション)で地形を大体把握しながら派手に移動する。

 五月蠅かったのかアゲハチョウが飛んでいるが大目に見て貰おう。

 

「キンジさん進路を右に修正してください。ズレています」

「マジか。気を付けてたつもりなんだがな。頼りになるなレキ」

 

 見えないと思うがヒステリアモードの気楽さでウインク一つ飛ばし、――はは、ちょっと照れてら。

 クスノキから敵拠点まであと半分といった所で――それは起きた。

 

「!キンジさん!」

 

 突然、俺より山を歩き慣れてるのか音も大きく立てずについて来ていたレキに体当たりされ姿勢を崩し

 

「うおっ!?なn」

 

 ばちっ! ばちばちっ!

 倒れながらも見えたのはレキの体の周囲で弾けた小さな光に、突き飛ばされたかのような仕草をした。

 その場で踊るように半回転したレキのスカートが、ひらり。 と、ひらめく。

 ぴしゃぴしゃ、と、何かの液体がレキの足元に落ちた音がする。

 その赤い液体のニオイが()()が起こったことに気が付いた。

 

「レキィ!」




見られることには敏感だけど接触式センサーとかは感じるのかね?


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