遠山キンジの独白 作:緋色
レキは額の上部に重傷を負わされたのに加えて、右前腕、左大腿もやられてる。
さっきのトラップからして爆弾か……?地雷じゃおかしい怪我だが――いや今はそれはどうでもいい。
次々と俺たちの周囲、森の暗闇から遠吠えが聞こえてきた。
さっきのシャー・ペイと同じ声。それも10匹以上20匹以下はいるぞ。
「キンジさん。これを――」
と、レキは自分のドラグノフと銃剣を渡してくる。
同居中に知ったがスコープにカメラが内蔵されていて狙撃の瞬間に見ていた画像を記録できるようになっているらしい。
なんで自分の武器を渡す……?
「残念ですが私は負傷しました。猟犬たちを追い払いあなたを庇いながら逃げる力はもうありません。これで自分を守りながら、あなただけでも逃げて下s「断る」――敵はきっとすぐに態勢を立て直し――私に止めを刺しにきます。包囲網を狭められたら逃げる隙が無くなります」
「俺が先走っての負傷だ。俺が責任もって護衛する」
「私は敗北しました。敵より、弱かった。弱い者が斃され、強い者がそれを血肉とする。それが自然の掟です。合理的になるのです。キンジさん。ここでこうしていたら2人とも殺される。それよりあなた1人でも生き延びた
方がいい」
「黙れ。キスするぞ」
「?ヒステリアモードにはもうなっています。……私の事を気遣うことはありません。私は風が定めた宿命の上をなぞって生き、死ぬ。それで構わないのです」
「お前――ほんっっとうに我儘だな!」
俺の意見に従ってる風に見せながら自分の意見押し通し続けるし。
レキの意見は合理的かもしれんが正しくはねえ。
「お前が俺の事を家族って言ったんだろうが。見捨てて生き延びるのが家族なわけねえだろ!」
「……キンジさん」
「死ぬんだったら俺より後に死ね。満足したって笑って死ね。まだ俺はお前の笑顔すら見てねえんだぞ!」
クソ焦ってんのか言葉がうまく出ねえ。下手に暴れられても運ぶのにはまずいし。意思を維持できなかったら死亡率が格段に跳ね上がる。
どうすりゃいいんだよ!?
「私は……『風』に男性を……強い男性を……ウルスに入れる事を命じられていました。そして『風』がキンジさんのものになれ、と私に命じた時…私の中に……初めて、自分の……自分自身の想いが生じたのです――『相手がキンジさんで、良かった』と―――」
そういう今際の際みたいなこと言うんじゃねえよ!
「もう、私はいいのです。自分に、初めて、想いを生じさせた人……あなたと共に、食事をした。 あなたと共に旅をし、服を買ってもらった。僅かな時間でしたが、その間も私は表現することはできなかったけれど……あれも、きっと感情……私は……嬉しかったのです……あなたと過ごした最後の2週間は、良い、日々だったのです……」
そう言って、レキは、血に濡れた顔を上げた。
その顔が
ああ、今、初めて・・・・・・
笑って――
笑顔になっていた。
ふっざけんな!
俺が俺がレキのことを安心して置いていけるようにって納得できるか!
納得してたまるか!?
俺は家族を失いたくは――
「2人とも生き延びる方がいいに決まってるだろ!行くぞ!あの狙撃手ぶちのめすのはお前の仕事だ!」
肩を貸すようにして立たせると、レキは――そのアーモンド形の目を普段より少し見開いて、俺を見てきた。
これに驚くって事は本当に俺の事ちゃんと見てなかったんだな。
「『相手が俺で良かった』だろ?」
レキは初め抵抗するようなそぶりを見せたが、すぐその力すら失い、立ったまま気絶しつつあった。
問題は猟犬たち。その足音が聞こえるぐらいの所まで迫っている。
「ハイマキ。ちょっとレキを頼む」
ハイマキにレキを預け、両手にベレッタとデザートイーグルを装備する。
「今急いでんだよ。手荒に叩きのめす」
ああ、頭に血が上る。沸騰しそうな思考に自分が
重要なのはいつもヒステリアモードより知覚がするどくなっている。暗闇の犬の位置も障害物も把握できる。
最小限の弾数で最大限の効果を発揮させなければならない。
「知ってるか犬ども。死は恐ろしくない奴も痛みには弱いんだぜ。飼い主がいるなら死ぬことはねえだろう――な!」
19匹のシャー・ペイを
木の陰にいる奴にはベレッタの弾とデザートイーグルの弾を空中でぶつけて射抜く。
銃声が収まると同時に猟犬の悲鳴が響き渡る――その数は19。
ドラグノフを背負った俺は、レキを両腕で、前にお姫様抱っこで持ち上げる。コイツが小柄で良かった。
これなら何とか走ることぐらいはできそうだ。
「ハイマキ。道路までのルートはわかるか?」
ガウっと頷くハイマキは先導するように歩き始め、俺がついてくるのを確認すると徐々にペースを上げる。
「?アゲハ蝶がついてくる?」
血のニオイで興奮してるのかと思ったが、何か思い出せそうで思い出せない。
いや今はそれどころじゃない。
道路は敵の遭遇リスクが上がるが応急手当てするにしても多少明るい場と敵のジャミングから外れる場所に行きたい。山の中なら兎も角道路ならそれなりに手の打ちようはあるし狙撃以外なら迎撃のしようもある。
死ぬなよレキ。
国道へと俺は流石に疲れが出て、アスファルトの道端にレキを横たわらせる。
ジャミングで携帯はまだ使えないが背に腹は代えられないのでレキの応急手当を行う。
時間との戦いだ。ここから下の街までと星伽まではどっちが近い?どう動くのが正解だ?
当たり前だが車は来ない……。最悪ジャックしてでもと思ったが運がねえ。
そういや敵は誰だ?レキは少女とか言ってたが――
どっちにしろ敵の姿を確認しとけば車やらで近づいて来ても対応はできるだろう。
ドラグノフのスコープを覗いて細かいボタンを指先で確認して適当にボタンを押すとラジコンヘリが見えて驚く。
画像だとしても敵襲かと思ってびっくりした。
俺は同じボタンを、カチカチと繰り返し押す。
ラジコンヘリの画像が4つ続いてから、画像は黒犬の足に照準を当てた写真に変わる。
それが右足左足と切り替わった後に見えた、その写真に
「ココ――だと!?」
アリアと同じぐらいに長い、黒のツインテール。俺を襲った時と同じ、派手な中国の服。香港武偵高からの留学生。
写真はかなり暗いが、3枚目では全身がハッキリ写っている。
あの始業式の日に俺を襲った通り魔の少女・ココが木の葉で偽装した陣地から飛び出し、背後のオフロードバイク、CRM250ARに飛び乗ろうとしている姿だ。
だが何か違和感を感じる。見たことあるが見たことないようなそんな違和感である。
ふと気が付くとアゲハ蝶が手に止まっている。
街灯で模様がはっきりと見える。それも星形の紋様のアゲハ蝶――ホトギアゲハ?
「京都にも生息してるのか。てっきり東北から関東圏の種かと」
そういえば白雪が武偵校で温室で育ててたな?
「白雪か――心配してっかな?ホトギアゲハさんよ敵襲受けてるから医者呼んでくれって星伽に伝えてくれ」
ひらひらと飛んだアゲハ蝶が高く飛ぶのを見て、パシンっと自分の頬を叩いて意識を切り替える。
「ヒステリアモードが消えかけてるからって弱気になってんのか?今動けんのは俺しかいねえってのに」
がうっと抗議するようにハイマキが鳴く。
「そだな。レキ助けないとな」
立ち上がり狙撃手の拠点とは逆方向――つまり街へと向かう事と決めて立ち上がると――左方向 山岳方面から、微かなエンジン音が聞こえてきた。
ハッ、と顔を上げ、車が来たのかと立ち上がる。
俺は、拳銃を抜いた。素人でも聞き分けられるほどに甲高い、2ストローク機関のエンジン音それは今の写真にも写っていたバイク、CRM250ARにも搭載されている。
「ココっ!」
「きひっ!」
予想した通り、バイクを思いっきりバンクさせてカーブを曲がってきたのはココ。
俺はレキを守るような位置に立って、ベレッタを振り上げ減音器つきの
「てめえよく俺の前に出てこれたな?まあいい。お前の身柄とバイク貰うぞ。今急いでんだ」
「もう弾切れの銃で威嚇しても怖くないネ」
「――気付いてたか」
さっきの犬に弾使いすぎてデザートイーグルはもう使えず、ベレッタは弾切れ寸前だったが今ので弾切れだ――だが
「おっとリボルバー出すより
「……もう一丁持ってたか」
しかもUZI。弾をばらまく方式の銃だから一発一発防いだり避けたりする俺とは相性が悪い。特に今は動けないレキがいる。
「レキは90点。いい駒だから貰うネ。キンチは70点。戦績のいい駒好きネ。貰って帰るヨ」
「ロリツインテールって何で人をモノ扱いしたがるんだ」
「一緒にしないで欲しいネ。これから
「それにレキは
「四夷かよ。どこの皇帝だてめえは」
四夷
古代中国で中華に対して四方に居住していた異民族に対する総称で
今のはレキが
「お前、
「ココメンデ……?
「武皇帝ネ!」
己の才で皇帝を傀儡にして魏を作った野心溢れる人物で。中でも唯才主義として才能持ってる人間を好むが諫言するものを嫌う人物だったとか。
かなり偏見入ってるがだいたいこんなイメージだろう。
「部下にしたいなら三顧の礼でもしろや。
「なんで
「先に
「アレは揶揄っただけネ」
さらに何か言おうとしたココだが何かに気付いてバイクを急に再スタートさせ、ぐりんっ! ココはその場でスピンするように一回りした。
そのココのツインテールを片方掠めるようにして、俺の前を――
しゃんっ!
鈴のような音と共に、1本の矢が通過していった。
矢が飛んできた方向からはワインレッドの車が、風を切ってこっちへ向かってくるのが見えた。
車が来てるのはわかってたから時間稼いでたが――ナイスタイミングだったな。
オープンカーの前部、エンジン・ボンネットに人が片膝立ちしている。
遠目にも分かる。
金色にきらめく額金。たすき掛けをした紅白の巫女服。手にした和弓に矢を番えるのは星伽の武装巫女だ。
二次創作の曹操しか知らん……