遠山キンジの独白   作:緋色

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キンちゃんはまだ気が付いてない


特急列車

 ジャンヌは先に帰りココの捜査及び迎撃の為の準備をするそうだ。戦妹らに協力させるから問題は多分起きないだろう。

 情報収集と作戦能力は高いから戦妹らにはいい刺激になるだろうし、変に裏切られることもないだろう。

 本当は星伽の分社でレキが目覚めるまで警護してやりたかったが間もなく神崎かなえさんの裁判が再開される。

 それに備えて俺たちイ・ウーと戦った面々は近々弁護士との事前打ち合わせをする可能性が不確定ながらもそれぞれあった。

 そのため俺と白雪は夕方の山陽・東海道新幹線のぞみ246号 東京行きに乗ったわけだ。尤も俺はココを追うためにすぐに東京から出ることになるだろうけど。

 

「16号車15列DE……あっ、ここ。一番前だよキンちゃん。キンちゃんは通路側が好きだったよね。はい。こっちをどうぞ」

 

 通路側の指定席キップを俺に手渡して窓側の席に着く白雪は星伽を出てから、よく話しかけてくれている。レキが心配で言葉少なな俺を励まそうとしてるらしい。

 自分も心中穏やかじゃないだろうに白雪はしっかり者だ。気を使われてるようじゃまだまだだな俺。

 

「白雪、ありがとな」

 

 と、通路側の席に着くと

 

「えっ。ううん、いいの。私、新幹線って乗るの初めてだし景色とか見てみたいから窓側がよかったの。逆に私こそキンちゃんのお供じゃなかったら、また車で移動するところだったし……ありがとうございますっ」

 

 俺に一言お礼を言われただけで、 白雪は赤くなってばたばた手を振っている。

 努めて明るく振る舞おうとしていた白雪が急に素に戻ったので、俺がフッと小さく笑うと白雪がわぁー、という表情をした。

 そして、ぱしい! 自分の表情筋を押さえるためにか両手を両頬にあて······ お辞儀するように顔を自分の近くまで伏せ悶えるように身をよじり窓の方を向いた。

 

「ああ至近距離で『キンちゃん笑い』してくれたよぉ……かっこいい……かっこいい、かっこいいよぉ……!」

 

 心の声らしき声を漏らしつつの白雪は、理子語でいう所の『何かに激しく萌えた顔』をしてる。キャーって感じだ。粉ちゃんもなってたし星伽の性質なのだろうか?

 楽しそうで何よりだが萌ポイントが全くわからん。

 行きと比べて妙に遅い気がする景色を眺めてるとなんだか眠く……

 

 ……

 …………

 ………………

 ?

 

「お休みのところ――失礼します」

 

 近づいてくる気配に眼が覚めると脂汗をかいた車掌さんのようだ。

 

「あ……はい」

 

 乗車券を取り出そうとするがその前に車掌さんは頭上の荷物ラックと座席下を素早くチェックして去って行く。

 ……クレームかなんかで忘れ物の荷物探してる――感じではないな。

 となると…テロ予告でも入ったか…?爆弾でも探してるようだが――流石に過敏になりすぎか?とりあえず顔でも洗ってこよう。

 姿勢正しくシートについたまま寝ている白雪の「目元はキンちゃんそっくり……私に似てる?うふふ……」などという謎の寝言を背に洗面室で顔を洗いに行く。

 案内を見て運転室の手前にある洗面室に向かい、中に入ろうとするが――開かない。

 トイレではないから小窓から中が覗けるが――誰もいないな。

 故障か?――いや。

 妙にさっきの車掌の様子が気になるのでよくよく観察すると。空調部分が塞がれているし、扉の隙間やらが()()()()()()()()()()なっているように見える。

 ――毒ガスでも詰め込まれてるのかなこれ?それともヤバいニオイの何かがブチ撒かれた苦渋の対策か。

 厄介事のニオイしかしないが憶測で動くのもマズイ。運転席は――運転の邪魔になれば武偵3倍刑になりかねんな。ただでさえ評判悪いんだし驚かれて事故でも起きたら困る。

 となると車掌さんに事情聴く方が丸いか?

 他にもあるかもしれんし一通り見て回るか。

 


 

 東海新幹線は東京に向かう場合は16号車が先頭になり1号が最後尾になる。

 故に行き違いになる事はまずないだろう。

 車内に他に武偵がいないか不審者がいないか観察しながら歩いて行くと子供連れの妊婦さんに二人のサラリーマンはチェスをしている。ガラ悪そうに女連れで酒を飲んでるのは確かタレントの男だな。

 サングラス越しに目があうと舌打ちされたがガラが悪いだけなので放置だな。

 16号車の最後尾付近でいびきをかいてる武藤を発見した。となると近くにアリアと理子がいる可能性が高いか?と見回すと二人掛けの席をターンさせてる席がある。アニメ声が聞こえるからいるな……。あそこに。

 他には通信科(コネクト)の女子が3人いるな。不知火と女といるようだからこっちは邪魔したらまずいかな。

 まずやることは――

 

「動くな。お前ここしばらく何してた?」

 

 友達がうんたらかんたら言っている席の後ろから理子を脅迫することだ。

 

「キーくん?理子りんを束縛しても許すにはまだ好感度が足りてないよ?」

「あんた何してんの!?」

「んー。昨日襲撃されてなー。手口の一部が4月の潜水艦乗りと似ていてなー。恨まれてる心当たりはあるし〆とこうかなーと」

()()()()?どういう事だキンジ」

 

 いつもの馬鹿っぽい口調から素の口調に戻った理子とついてけてないらしいアリアに昨日の出来事を掻い摘まんで話す。

 

「というわけでレキは行動不能。二人には昨日から連絡取れないし?疑われるには十分じゃないか?」

「その手口――恐らくツァオツァオだ。私はそいつから戦術などいろいろ習ったから似てる部分はある。昨日今日は自衛隊基地にいたから通信制限で連絡取れなかったとはいえ協力できなかったのは謝る」

「ふむ。ホントかアリア?」

「え。ええ。ここしばらくはずっと理子と行動してたからキンジを襲う手伝いはしてないと思うわ」

 

 ……。

 意図的にココ――イ・ウーではツァオツァオだったか?の情報は伏せたんだが見解はほぼ同じ。アリアが間近にいたんだったら俺よりアリアに仕掛けるだろうしシロか。

 そうなると司法取引組の裏切りはほぼあり得ないって事だろう。

 

「ふーん。じゃあ信用するか。アリアは知らんだろうから情報共有しとく。襲ってきたのこいつね」

 

 そう言いながら写真と似顔絵のコピーを渡す。

 

「ああ、こいつがツァオツァオだ。あの守銭奴もう動いてたのか」

「あ!?」

 

 理子は一目見て恨み言を言うがアリアは別に何かに気が付いたようだ。

 

「なんだ?知り合いか?」

「……キンジに話すつもりはなかったんだけど『水投げ』の日に引き分けた下級生よ。ココって名乗ってたはずだけど――騙したのね!?」

「なんにキレてんのか知らんけど。最低でも似た顔が2人いるから姉妹なだけじゃねえの?」

「似た顔だと?」

「この狙撃手の写真と似顔絵の女は別人だからな。遠距離専門と近距離戦闘じゃ鍛え方が全然違うからな。そもそも狙撃手が勝ち確定した時以外近づいてくるわけねーだろと。近距離戦闘のココと狙撃&メカニックのツァオツァオの二人組なんだろ。もしかしたらメカニック別で3人かもだが」

 

 あれでも犯罪捜査組織なので流石に偽名で武偵高に入れんはず。

 いやクソ犬(ブラド)いたし信用性は特にないか。

 

「……一応聞くけどツァオツァオとやらの発明に気体型のなんかはあるのか?ガスとか」

「ガス……?――気体爆弾はツァオツァオのデモンストレーション販売で見たことがある。シャボン玉が弾けて空気中の酸素と混ざると爆発する泡爆(パオバオ)なら知ってる」

 

 気体爆弾泡爆(パオバオ)だと……!?

 いやな想像が一気に繋がる。名前からして思い当たる想像ができる。出来てしまう。

 何なら昨日の夜その威力は見たからだ。

 レキが怪我した原因はそれか――!そしてそれは――

 

「知ってるなら話は早い。習ったんなら手口も解除方法も心当たりあるだr――っと?」

 

 僅かに速度が加速したのでバランスが崩れたが……ん?名古屋通り過ぎてる?この新幹線は名古屋で止まるはずだが?

 周りを観るとここで降りようとしていた乗客が首を傾げつつ戻ってくるし

 

『――お客様にお知らせいたします』

 

 車内アナウンスが流れこの不自然さに気が付いた乗客は全員耳を傾ける。

 

『当列車は名古屋に停車する予定でしたが不慮の事故により停車いたしません。名古屋でお降りのご予定でしたお客様は、事故の解決次第…最寄り駅から臨時列車で名古屋までお送り致します。たいへん申し訳ございませんが事故の詳細については現在調査中となっております』

 

 ……それ事件起きてる事を隠しきれてないな。

 

 「おい、どういうことだ」 「あちゃー、仕事キャンセルになってまうわ」 「事故って何だ、事故って」 「説明あらへんのか。今のだけじゃ分からへん」

 

 混乱する乗客たちの間から、さっきシートにふんぞり返っていたタレントが

 

「こらぁ! 車掌出せ車掌! 俺ぁ名古屋で降りなきゃなんねェんだよ! もうドームに客が入ってんだぞ、俺が誰だか知ってんのか! 名古屋に戻せ!」

 

 明らかに面倒な感じで騒ぎ始めた。興奮は伝染する。アイツが妙なことを口走ったりして他の乗客がパニックになったら収集が面倒くさくなるぞ。大人しくさせないと。

 

『なお、付近に不審な荷物・不審物がございましたら乗務員までお知らせ下さい』

 

 最悪のタイミングだなおい!

 そう続けられたアナウンスに、早くもキレたらしいタレントが前の座席を蹴った。

 

「不審物って何だ!爆弾でも仕掛けられたのか!ええッ!?」

 

「爆弾?」「えっマジ!?爆弾って!!」「おい、爆弾があるらしいぞッ!」

 

 タレントの発言に乗客たちの騒ぎが大きくなり、何人かは運転席の方へと歩き始めている。まずいなこれ

 

「皆さん、落ち着いて下さいっ」「座席に戻って下さい!」「詳しい事は調査中と」

 

 武偵高の女子3人が立ち上がり、人々を宥めようとするが……ダメだ。どんどん車内はパニック状態に近づいていく。これ以上拡大したら抑えきれなくなるな……。

 特に運転席に向かわれると拙い。

 仕方ない。場を納めるか……。通路に出て暴れるタレントを一撃で伸して乗客の衆目を集める。

 

 すぅ……

 

「 傾 聴 」

 

「武偵だ。この事件を解決するため武偵が動く!」

 

 武偵手帳をさっと翳して覚えられる前にアリアの元に戻る。

 

「この武偵は春のハイジャックを解決した武偵だ。だから安心してこの事件は我々に任せてくれ!」

 

 そう言いながらアリアをぐいっと突き出す。

 

「神崎Hアリアよ。Sランク武偵に任せなさい」

 

 合わせたのか偉そうにするアリアだが一般人にはリアル貴族オーラは頼もしく見えるのか多少落ち着いたようだ。

 

「まずは全員席に戻り、己の荷物に不審物が混じってないかの確認。足元荷物ラックに何もないか落ち着いて確認して欲しい。動き回るなら危険人物として制圧する」

 

 実際に名古屋に降りるとかで扉を蹴っていたタレントが伸されているので乗客はしぶしぶと席に戻る

 

『乗客の皆さまにお伝えしやがります この列車はどの駅にも 停まりません 東京までノンストップで 参りやがります アハハ アハハハハハ 列車は 3分おきに 10キロずつ 加速しないと いけません さもないと、ドカーン! 大爆発! しやがります アハハアハハハハハハー!』

 

 人工音声の笑い声に、のぞみ246号の車内中から悲鳴が上がる。

 このボーカロイド。俺とレキを襲撃したラジコンヘリの時と同じ声だ。

 ココかホントいい加減にしろよあんのクソガキ。




キンちゃん キレた
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