遠山キンジの独白 作:緋色
3分おきに10キロずつ加速しないと
現在の速度は時速300km。雑談の設計限界速度は350~360km程なら余裕は15~18分程で東京に到着前に爆発する可能性が跳ね上がる。
他に爆弾がある可能性とさっさと人質を解放することで途中で離脱されて打つ手なしになる事を考えると手出しできなかったが。
それに
「レキが……ヘリから飛び移ってきた!瀕死の重傷なのによくやる……。白雪、 レキを戦わせないためにも乗客を救うためにもお前に頼みがある。新幹線の先頭車両、
『……え!キンちゃんは……!』
超能力が不調の天気だったはずだが白雪の剣技なら切り離すこと自体は可能だろう。
俺の身を案じる白雪はすぐには新幹線斬りを引き受けてくれそうにない雰囲気だ。今はココがレキを警戒してるが押し問答をしてるヒマは無い。
「ギリギリまで粘るが。最悪手前で飛び降りたら転んだぐらいの怪我で済む」
『おい。キンジそれ俺だけ死なないか?』
「やりたかねえがお前背負って飛び降りるから問題ない。柔道で背負い投げ決まったぐらいのダメージで済む」
『それしばらく動けねえじゃねえか。死ぬよりかはマシだけどよ』
横槍いれてきた武藤が愚痴るのを聞き流して少々強引に白雪を動かすことにする。
俺は少し低い声で白雪の心に潜りこむように語りかけ始める。
「白雪」
『は、 はい』
「白雪は俺のことを昔から知ってる。誰よりも俺を深く知る白雪が――この戦い俺には荷が重いと言いたいのかな?だとしたら心外だよ」
『そ、そんなこと……っ」
「白雪は俺のことを信頼してくれてると思っていたけど違ったのかな?白雪」
『う、ううん、そんな……』
「白雪は俺の強さを知ってるだろ。そしてどんな時でも白雪の許に生きて帰った。そうだろ?白雪?」
『は、はい……』
白雪の態度がすぐに普段の…いや普段以上に従順なものに変わっていく。
CVRで逆に受けたことあるが自分の名前を繰り返し、耳元に甘く優しく囁かれると意識が朦朧としてきてあらゆる判断を相手に委ねるようになるらしい。クロメーテル(偽名)じゃなかったら危なかった。
これは遠山家に伝わる『
……うちの一族よくこれで義の一族名乗れてるよな?いやそういう方針の一派だけが生き延びれたと見た方がいいのだろうか。行動指針が義なら社会と摩擦が増えるわけでもないし。
おっと今は集中しないと。
「白雪。車両の切り離しやってくれるね? これは、白雪にしかできない事なんだ」
俺は焦る心を抑えつつ、白雪に囁き続ける。
『キンちゃん……か、勝てそう……ですか?』
「ああ。敵と爆弾は俺たちに任せてくれ。 白雪たちには乗客を任せる。 最近鬼道術が不安定だって言ってたが……斬れそうかい?」
『は、はいっ。 全力でやれば――きっと!キンちゃん、私、斬るよ。絶対うまく切り離すからねっ!斬るよ! 斬る! 斬る!キンちゃん様のために一刀両断にするぅー!』
……今更思い出した事だが兄さんには多用・悪用禁じられてたな。なるほど。こういう事か。CVRがそっち専門だから躊躇い無くなってたがこれは仕事で最後に恨まれる事前提以外で使うのはヤバいな。自重しよう。
「――アリア。15号車に退避してくれ。お前にはかなえさんの裁判もある。もうこんなバカ騒ぎに付き合う事はない」
一応イギリス貴族のアリアを巻き込んで爆死とかシャレにならないし、ここまで合流できないんだったらもう戦力外と見なすべきだろう。
『そっ、そんな! あたしは……!』
「俺の我儘だ。許せ」
『バカ!』
アリアが何か喚いてるが無視して武藤に話しかける。
「――武藤。パンタグラフは先頭車の後部にもある。ここから電力を受けて切り離した状態でも走れるか?そうすれば後ろは勝手に止まるのか?」
『今そういう風にセットしたぜ。新幹線は各車両が全て駆動して走る構造になってる。
「だ、そうだ。不知火そっち任せた」
『わかったよ。伝えとく』
武藤らの話を聞きながら車両後方を見渡すと、レキはもう列車の中央を越えている。時間はねえ。
「白雪、やれ」
『はい……キンちゃん、ご武運を!』
今まで力を溜めていたらしい白雪は、大きく息を吸い込んでから――
『
という声に続けてシャンッ! と、鈴の音のような抜刀の音を上げ――何本ものバーナーを一斉に使ったかのような緋色の光が先頭車の後端、接続部分の上下左右を通過する。
突然の発光に猛妹が首を竦めた次の瞬間、ばくんっ……という重い音がして15号車が後退し始めた。
すぐさま動けなくなっている猛妹を掴んで切り口から見えた15号車の白雪へと投げ渡す。浮世絵 『見返り美人図』のようにこちらに背を向けていた白雪だったがよろめくように避けて刀を手に、がくん、とその場に膝をついた。
――無茶させ過ぎたらしい。
「不知火――捕獲したココの一人そっちに投げ込んだからそいつ任せた」
風を掻き分けるようにしてこっちへ駆けるレキが見えるがもう風に逆らって飛び移れる距離ではなくなったな。
あとは先頭のココ捕まえて爆弾解除させれば終わりだ。途中下車する前にどうにかしねえと。
――は?
俺が改めて見たレキは――切り離された1号車の屋上を駆けながら、胸ポケットから
大爆発を巻き起こす超小型の燃料気化爆弾!?
「レキ!何する気――」
言い切る前にその場で一回転しながら、 きらっ と、自分の背後の空中に武偵弾を放ち――再び全力疾走しながらこっちへ向かってくる。
ヒステリアモードの頭でレキの先祖――源義経の一つの逸話が掘り起こされる。
壇ノ浦の戦いで平家の猛将平教経が『せめて敵の総大将源義経を道連れに』と義経の船へ飛び乗り、それを察した義経は船上で立ち上がると次から次へと8艘の船を飛び移り教経の攻撃から逃げ切った――『八艘飛び』
ドウウウウッ!!!
手動で起爆された炸裂弾がレキの背後で紅蓮の炎を巻き上げ爆発に突き飛ばされつつ――ドラグノフを抱え、スカートを爆風に引きちぎられそうになりながら……車両と車両の隙間を飛び越えた。
そして――ごろっ! 先頭車の縁に転がる。
曲線を描く縁から転落しかけたレキは、顔色一つ変えず銃剣を屋根に突き立てる。
そして全体重をかけるようにして銃剣の柄にしがみつき、踏み台にし、パキッと、銃剣が折れた所で屋上に上がってきた。
その体のあちこちに巻かれた包帯には今の衝撃で傷口が開いたのか血が滲んでいる。
焦げた包帯や靴から白煙を流しつつ、いつもの無表情で列車の上に立ったレキを
「お前待機してろって伝えただろ!?」
「キンジさんの口からは聞いてません。それにキンジさんは『死なないで俺の役に立て』と言いました」
「それ聞いてるならおとなしくしといて欲しかったんだけどなあ!?」
「私はキンジさんのモノなので」
こいつホント我儘だなあ!?
最悪の場合、武藤と理子抱えて飛び降りることも考えてたがレキも来たせいで死者出る可能性が上がった――何が何でも早く逮捕しねーと。だが考えようによってはレキが来たことは悪くはない。勝率はかなり上がる。
「
レキに伝える前にレキが銘刀を構えるようにレキがドラグノフを炮娘に向け勝手にが交渉を始めてしまう。頭が痛くなるがまあいいだろう
「3対1よ」
レキの後ろからんしょ、とアリアが新幹線の切断面から這い上がってきた。……いたのかよこいつ。
レキはそんなアリアに背を向けたまま
「アリア。車内に戻って下さい。キンジさんに近づかないようにと言ったはずです」
「ケガ人こそ、病院に帰りなさいよ」
少し解けた包帯とショートカットの髪を風に暴れさせつつ、警告するように言い、ツインテールを吹き流しのようにはためかせるアリアもケンカ腰で返す。
「アリアが退がるべきです」
「あんたでしょ」
「アリア……我儘言わないで下さい」
「あんたが言うか!」
この二人意外と似た者同士か?
2人がこの現場に居合わせてしまっているのは、もう仕方がない。
俺も頭を切り換える。仲違いしているようでは1+1が2にもならない。ヘタをすれば、仲間の足を引っ張るマイナスにすらなってしまう。
レキはまるで敵が1人増えたかのような殺気を背中越しにアリアへ放ち始めたし、アリアもそれに触発されてレキを銃で追い払いかねないムードだ。
新幹線が進む先にはトンネル――トンネル抜けたらココの仲間が離脱を助けに来るだろうから時間ないってのに!
理子の存在忘れてないよホントダヨ
計画ガバガバだけどキンちゃんだから仕方ないよね