遠山キンジの独白 作:緋色
「キンちゃんそろそろ…」
「や」
姐御の任務から戻ってしばらく俺は――白雪を後ろから抱きしめて猫吸いをしていた。人だし人吸い?白雪吸い?まあどっちでもいいがストレス解消していた。
なんだかんだで住み着いていたレキがいなくなったからか寂寥感が湧く。
ハグはストレス緩和に効くというのは割とよく聞く話でヒステリアモード後に眠気が来ると近くのを抱きしめるのはそこら辺のストレス緩和の為だと思う。――その場合寝ぼけてるから正直覚えてないし、起きたらなんかいるくらいの感覚なのだが。
「キンちゃん……普通にハグするんじゃだめなの?」
「それだとハッスルなりそうだし安らげないからヤダ」
まあ意識がある場合だと正面から埋もれるとヒステリアモードの血流がヒステリアモードと化すため逆に安らげないのでこんな感じになっている。
白雪には悪いが安らぐ時間は欲しいので諦めて貰う。桃のような香りでほどよく体温が温く――安らぐ。
……なんか白雪の肌が赤みを増してきて体温あがってきた気がするので潮時か……。
名残惜しいが離れることにする。
「今日は長かったけど何かあったの?」
「ん?ん~。ちょっと色々あってな……。色々見つめ直さないといけないわけだ。しばらくは鍛え直しかね」
言っちゃあなんだが――姐御が怪我するなんて想定もしていなかった。
その前も山岳戦でレキが怪我したりと自分が実力つけていれば避けられたことが多い気がする。
注意力観察力戦闘力etc...
もっともっと実力を上げたいが――逆にどうすればいいのかがわからないな。
将来的に心技体揃ったエリート中のエリートの武装検事試験に挑むにしても――父さんの死に絡んでいるっぽいから敵対するにしても実力の底上げは必須である。
それに――
家事の続きを始めた横目で白雪を見る。
白雪はそもそも星伽から出るのが禁じられてる家である。武装して守ってる神社というわけわからん存在であるとはいえ、星伽周辺は特区として政府に指定されてるし、なんなら政府の御用達の予知集団として特別扱いを受けているからこそだと思われる。
『緋弾は何れ潰える』
粉雪がそんなこと言ってたし、緋弾――アリアの胸に埋まっている超常の核物質らしいイロカネとやらに詳しい以上、本来の目的はおそらくそれである。
レキもイロカネ絡みで俺とアリアを引き離そうとしていた。
戦と恋を好む神で戦争を引き起こす――だったか?
普段から妹扱いしてそれにキレてるアリアが俺に恋するとは思えんが、それだって別に他の奴を好きになったら破綻する策である。
それはそれでどうでもいいが。どうも周りはイロカネ担当と扱っている節があるくせに肝心の情報がなにもない。峠を越したかすらわからん。巻き込みやがったシャーロックは確実に墓にぶち込んでやる。
ともあれ、どんなことになるかわからんが強くなってどうとでも対応できるようになるしかないわけだ(振り出しに戻る)。
「あ、キンちゃん。キンちゃん宛に荷物届いていたよ?服みたいだけど」
「服?なんか買ったっけ?」
ふと思い出したように渡された荷物は――シャトンbから……レキと買い物行った服屋かそういえば郵送してもらったっけか。
「あーレキの服だな。ほらあいつ俺の部屋住んでてセーラー服しか持ってないし、学生服だと目立つ場面もあるしそれ以外の服もいるかなと」
「ふうん?」
「勝手に開けるのも悪いかもしれんが、服が傷むし悪いけど手入れしといてくれ。帰ってきたら返せばええやろ」
「クローゼットのレキさんのスペースに仕舞っておくね」
「ああ頼む」
レキのセーラー服と下着だけ置いてあるスペースだが帰ってくるにしても来ないにしてもどうしたもんか。
「え……」
「どうした白ゆk――なんだそれ」
白雪の絶句した雰囲気を感じ取って見てみると――園児服を持って固まっていた。
なんでそれがそこに……?
「キンちゃん」
「多分何かお前は誤解している」
「やっぱり小さい子が好きなの……?」
「ん?まあ背が高いよりかは?」
白雪も俺より低いし。
背が高い女の知り合いもなかなかいないが。
「キンちゃんの趣味は受け入れますが――手を出したら駄目です」
「その誤解は凄く不愉快なのだが」
「レキさんで我慢してください」
「その結論はもっとわからねえんだが――」
その後、自分用とか言ってそういうのを買おうとする白雪の誤解を解くために奮闘したがなぜかデートの回数を増やす事となった。
9月の下旬、レキにはメールを送ったが返事はない。
しょうがないので『チーム編成』は今白紙となっている。
白雪と二人だけのチームを組むのも将来的な事を考えると避けたいのだが、仕事とプライベートは分けたいし。
他に誘えそうな相手も名前だけチームとしてさっさと終わらせてるらしく、改めて元々組む予定だった不知火はもうチーム登録しているらしく、編成の練り直しは必須となっている。
背に腹は代えられないし。
「アリアもチーム編成やめたって?理子と喧嘩でもしたん?」
『喧嘩はしてないわよ。理子があたしのももマン勝手に食べたから制裁しただけで』
「喧嘩してね?」
『 し て な い 』
背に腹は代えられないしアリアに電話をかけていた。
理子のことだしやられまちでちょっかい出しただけだろうからホントに喧嘩はしてないんだろうな。
じゃあなんで白紙になったんだろうか?都合はいいけど。
「んで、アリア。物は相談だがチーム組まねえか?」
『……あんた白雪とレキでチーム組むんじゃないの?』
「レキは音信不通。一応
つまり手抜き式・駆け込み型のチーム登録だ。
修学旅行を経て『やっぱり組まない』という結論を出すチームは意外と多いらしく、そういった生徒たち向けの救済措置なわけだが。これさえ過ぎると教師が勝手に余った生徒をチームとしてぶち込んで20090924Aみたいな日付+アルファベットのチームにされる。
流石にそんなチーム名は避けたいわけだ。
『帰ってくるわ』
「勘か?」
『勘よ』
「……お前の勘は当たるし信用するわ。で、本題として俺らと組むのはどうよ」
『あんたがあたしと組もうと思った理由は?』
「――シャーロックは生きてる。見つけ出すなら必要だろ?」
『キンジ……』
なぜか感極まったような声が聞こえるがなぜだろう?
シャーロックが生きてるし緋色の研究?とやらを受け継がせずに独占している関係上、アリアに再度接触するのは確定事項だろう。
死んでたとしてもイロカネ絡みで関係性を維持していた方がいい。
それが吉か凶かはわからん。
だが、急に巻き込まれた関係だと思っていたが兄さんがなんか知ってる感じだしバタフライナイフで緋弾を抑えられる以上、役割として関わらざるをえない。それに関係が薄くなって被害が拡大してから再度巻き込まれるよりかはマシだろう。
『チーム編成については、ちょっと待ちなさい』
そう言って電話を切られたが――
レキは――来ないのだろう。
自由を満喫しているのならいいが――そうでない場合ウルスとやらに調べに行く必要があるか?
なんかドンドン背負い込んでないか俺。疲れるなあ。
ゴチャゴチャした頭で鏡を前に着替えていると―――かしゃ。
天井の方から、ケータイのカメラ音が聞こえてきた。
「キーくん無防備すぎー。 今のがピストルだったら風穴だぞぉー」
「殺す気だったら先に撃ってるわ。俺の早撃ちは命中率95%だぞ」
「それ動かない的でしょ~」
見上げれば、天井板のパネルが一つ外されている。
そこから理子が逆さ吊りの姿勢で上半身を出しつつ、ラインストーンでキラキラ飾ったケータイをヒラヒラさせていた。
普通のマンションのはずなんだが、なんでこんな隠し通路あるんだ?違法改造か?
理子の奇行は止めるだけムダと悟っている俺はそうボヤくに留め、黒いネクタイを結びながら鏡に向き直る。
「キーくんの日常フォトは、ゆきちゃんに高く売れるからねぇ。くしししし」
「仲良いなおい。それはそれとして後でシバくけど」
「おしりペンペンまでならおkだお」
「なに期待してんだお前……。まあ平和な分良いけどな」
「甘いのはお前だキンジ」
理子は逆さづりのまま鋭い声で嘲笑う。
「ブラドを倒した後何度殺されかけた?今回も危なかった。見ちゃいられないもうすぐ
「――ツンデレか?」
なにか不穏な事を言う理子は言いたい事だけ言ってさっさと去ったようだ。
何しに来たんだあいつ?と思ったら紙切れが落ちてる。……これ渡しに来たのか。
着替えて
チーム名『
メンバー
◎遠山キンジ
○神崎・H・アリア
・星伽白雪
・峰理子
・レキ
理子が置いて行った紙切れ――チームの申請用紙にはアリアの筆跡でチームなどが書かれていた。
チーム名にこだわりないから置いとくとして。なんか勝手にリーダーの◎が俺の横に付けられてるな。アリアがリーダーになろうとすると思っていたので少々意外である。副リーダーと逆の方が回しやすいと思うが。
申請書を持って行った写真撮影会場は思ってたより多くの生徒がいる26人、チームなら少なくて5組といった所か時間ギリギリだな。
見回すと先に着いてたらしい白雪とアリアと理子がいた。
アリアは特注品の
理子は肌、特に胸の谷間を大胆に露出させたデザインだ。
模範的な
「よ。俺がリーダーになってたけどどういう事?」
「戦略上、
「お前も俺の言う事聞かんだろ……。まあお前がそれでいいならいいわ――レキの名前も入ってるけど?」
「キンジをいれるなら白雪もレキも入れないとあんたの意思に反するでしょ」
おぉ……。
初っ端から奴隷扱いしてきた我儘娘が成長した……!
なんだろう。これが子の成長を喜ぶ親の気持ちか。
謎の感動にジーンと来ていた所で視界の片隅に白い何かが見えた。
バっとその方向を見ると空調設備の陰に白い尻尾が――
「キンジ!?」
駆け出した俺に驚くアリアの声を背に空調設備の横に出ると――そこにはハイマキとスーツタイプの
「レキ……!――お前メールの返事くらいしろ」
「……迷っていました」
「はい?」
「ハイマキと合流ししばらく湯治しながら考えていました。『風』が聞こえなくなった以上どうするべきか。旅に出るかウルスに戻るべきか」
「それは……」
星伽の分社からハイマキがいつの間にか消えたとは聞いてたが――湯治してたのか。
治療受けるの嫌だったのか。
「結論は出ませんでした。色々考えた末、キンジさんとの主従が続いていることを思い出し来ました」
「……そうか」
軽いな主従の扱い。
「キンジさんは私をどう扱いたいですか?」
「レキはレキだろ。自分で決めろ。主従とやらが嫌なら解除すればいい。――ここにお前の名前が入ったチーム申請書がある。名前消すのもこのまま出すのもレキ次第だ」
「そうですか」
レキは渡された申請書を見つめ――見つめ――
「ホラホラ! 私ノ可愛イ生徒タチ! 締切マデ時間無イヨ、武偵ハ時間厳守デショ!」
どこかから男の裏声が聞こえてきて、俺たちは皆バラバラな方を見た。
このオカマ喋りは声だけ聞こえるが姿が見えない事で有名な
「これでお願いします」
「ウフフ。チームトシテ仲間トシテ頑張リナサイ」
レキが差し出した紙は消え去りチャン・ウーの声だけ残る。
どうやらチームはこれで決定らしい。
「アリア、ほら、ちゃんと言葉で言った方がいいよ。昨日まで、傍から見てると可哀想なぐらい……レキさんの事
ばっかり気にしてたんだから……」
「なんだかんだ言っても、アリアはレキが好きなんだよねー?」
理子と白雪が、左右からアリアに語りかけてる。どうやらアリアが何か言おうとしてたのを後押ししてるらしい。アリアは2人を見て、俺を見て、レキを見て、ぶわああああ。時間が無い時にはありがたい、いつもの急速赤面術を見せた。
「ちっちがうわよ! あたしは、こんな、 こんな……」
と言いながら、わなわな、と震える手をレキに伸ばしたアリアは一歩、二歩、 レキに歩み寄り
「……レキ…!レキ……レキ……心配したのよ! 急に、いなくなっちゃうから……!」
抱きしめた。
「アリア。新幹線の上で、あの時―――ありがとうございました」
目の前にあるアリアの顔を覗き込むように見ながら、初めて、感謝の言葉を告げた。
今まで、その言葉をレキが誰かに言ったことはない。俺が覚えている限り。
「今後は姉としてアリアを助けます」
「あんたもあたしを妹扱いするの!?」
「くらガキ共! イチャイチャしとらんと、こっちゃ来いや! あと1分やぞ! 早よそこのワクに入れ! 撮影するで!」
腕時計を見ながら怒鳴る蘭豹に急かされて、アリアは「あとでそれ止めさせるよう説得するからね!」とレキの手を掴んで走り――レキも引っ張られるように走る。そして俺たち5人はバラバラと所定位置に入る。
模範的なチームみたいに、ちゃんと横一列に並んでるヒマは無さそうだ。
「よし、笑うな! 斜向け!」
これは武偵の集合写真。 真正面を向かず、正体を微妙にぼかすのが習わしだ。
黒一色の服で撮影するのも制服からどこの生徒かバレないようにするためだからな。
「チーム・
まず所定位置の中央に立ったアリアが、 片手を腰にあてつつ蘭豹の方を振り向いて叫ぶ。
アリアの右後ろに立ったレキは、自分の銃ドラグノフを鮮明には撮らせないためか、肩掛けのバンドを少し引いて背で隠した。
アリアの左後ろでは理子が腕組みして横を向き、目だけでカメラの方を向く。
俺は髪を少し流して手をポケットに突っ込んで枠内の右端に入った。分析系のプロになると手を見ただけで使用武器や指紋まで読み取れるらしいからな。
最後に指定位置の左端に入った白雪は、育ちの良さが出て――蘭豹のカメラを見る顔が、少しだけ笑顔になってしまってるな。
「9月23日11時59分、チーム・バスカービル承認・登録!」
腕時計を見ていた蘭豹は、ギリギリでカメラを振り上げてシャッターを押す。
そして、パシャッ!と、ストロボの閃光が弾けた。
このとき蘭豹が急いで振り上げたカメラは斜めになっており、写真も一応5人でちゃんと写っていたものの、めちゃめちゃ斜めになっていた。
正体を隠すと云々では正解だがギリギリ誰かわかるような写真は登録用としていいのだろうか……?まあ通ってるから問題ないんだろうが。
この時は予想もしなかったのだが、この写真が――『
区切りがいいんで7巻は完ということで
次からバスカ編ですかねえ