遠山キンジの独白   作:緋色

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なんかできた


美人船

 アスタルテ号

 女武偵は企業や政治家の催すパーティーの会場に潜入してターゲットに近づき、情報を盗み取ることがある。その際は美人である方が成功率が高いため、武偵高では女子たちにおめかしをさせて人を騙す訓練をするのだ。コミュ力高めの女武偵以外はあまり参加しないらしいが……。その授業の機密性は高く、特殊捜査研究科(CVR)が提携した中型客船――男子禁制の通称・美人船で行われる。

 まあ俺みたいに例外も偶にいるのだが……。

 くだらないことを考えながらパーティー用の料理に舌鼓を打つ。しれっと痺れ薬や睡眠薬も耐性つけるためとかで盛られてるが弱すぎて効かないので遠慮なく食える。

 

「クロメーテル様!一応パーティへの潜入訓練ですわ。食べてばかりはよくありません」

「タダ飯食いに来ただけで訓練に参加する気はありませんけど?自分は普通にセーラー服ですし」

 

 海外を想定したセレブの船上パーティーへの潜入訓練とかであちらこちらで英語やらフランス語に中国語、変わった所だとアラビア語なんかで会話されている。

 1年までは慣れること優先で、2年からはお互いに聞き出すべき情報とかを指定されてあたりを探すという上級訓練をしている。今回はお忍びで来てる王族を見分けろとかいう設定だったかな?

 もっとも美人しか乗れない上に女しかいないので割となれ合い気味の訓練と化してる。まあそうでもなかったらタダ飯食いに来ている自分なんかは追い出されかねんわけだが――。

 レキに付きまとわれていたためCVRの単位も足りねえから出ないとばらすと元女優の結城ルリ(CVR担当)先生に脅されたのもあるが少々金欠なため致し方ない参加である。というかあの教師共いつバレるかで賭けてるようである。やってらんねぇ……。

 

「Pourquoi ne pas sortir d'ici et passer une nuit torride ?」

「Flowers are meant to be admired」

 

 よくわからないが抜け出そう的な誘いも来るので面倒くさい。

 そもそも鬼門なんだよなこの訓練――。パーティーの基準だか何だかで肌の露出多いのが当然な上にスタイルを見せびらかす必要があるので。

 見える範囲で弾痕(というか姐御に抉られた痕)なんかがあるので誤魔化すのは可能だからこそセーラー服参加なわけだが――他がセレブ風味なのでめっちゃ浮いてるな……。

 

「ライカ先輩♡」「ハロー!せんぱぁい」

 

 と思ったらなんか普通にセーラー服で来てる1年と中等部(インターン)がいた。

 確か夾竹桃の件でちらほら見た1年だったな。強襲科(アサルト)では親が強い有名人なると倒せば名が挙がる的に有名人になるので知ってるがアメリカのヒーロー……バッツだったか?の愛娘だとか。

 

「CVRのABCを教えてやろう。来いCVRに」

「一言『うん』って言えばみんなで可愛がってやるよ?1年」

 

 チビ達に囲まれていると思ったら今度は上級生に絡まれだしたな。

 顔真っ赤だし仕方がないから助けてやるか……。

 

「こらこら。あまり純情な娘にハニトラ仕掛けるなよ。――ごめんな?一応善意のつもりなんだ。入るにしても一度ゆっくり考えてからにしなさい」

「は、はひゅい……」

 

 上着をかぶせてから上着を引き寄せるというほぼ捕まった状態で囁かれて陥落寸前だったのを、くいっと身柄を奪ったのだが……ガクッとオーバーヒートした。なんでやねん。

 仕方がないのでお泊り用の空いてる個室につれていく。横抱きしたせいかキャーキャー五月蠅いがタンカ用意するほどではないだろうしそのまま運んだ方が速い。

 俺は訓練終わったら即座に帰るがそのまま泊まる生徒もそれなりにいるが、動けなくなるのがそれなりに出るようなのでこういった空き室は常にあるのだとか。

 

「ではお大事に」

「クロメーテル様のお手を煩わせて申し訳ありませんの」

「気にしなくていい。適当なところで抜けて文化祭衣装頼まなきゃいけなかったし。それでは」

 

 部屋からでた後は指定された部屋に向かう。

 少々話は変わるがCVRはプレイ用だか何だかわからんが頼んだ衣装を作る事業をやっているのだが……この時期だと値上がりが半端ないので困ったものだ。理由はわかりやすいが。

 片方の衣装だけなら変装(コスプレ)屋の理子とかに任せられるが男女セットだと果てしなく面倒なことになりかねんし、自作は流石に無理なので選択肢は一択なわけである。というかどっから漏れて男女用作ると結論が先に来た営業がきたのでなし崩しではあるが。

 CVRの身内料金でも2種類は最近の備えもあってキツイので助かるけども。

 それはいいとしてサイズ測るとか云々でこの船に来なくちゃいけない事になったからマイナスか。

 

「お待ちしてましたよ。遠山のキンジさん」

「今一応クロメーテルなんですが?」

「私の可愛い後輩なんだからどっちでも同じでしょうに。とっとと脱げ。サイズ測るから」

「人こないでしょうねえ?見られたら死ねるんだが」

「まあイベント前には終わらせるから」

 

 ……。

 まあこの人が言うならそうなんだろう。この人は(多分偽名だが)赤青黄、クロメーテルを見破った先輩である。パンツの中も測ろうとすんな。

 ちなみに男だとバレてもばらさない理由は「男の娘もありね!」という謎の理屈で黙ってくれている。というかそれを理由に専属衣装係とやらに勝手になってるやべー人である。いつだかにやった写真集で一番活躍した人でもある。

 

「しかしなんで無料で衣装作ってくれるんですか?」

「クロちゃんを着せ替え人形にして遊べるなら安いものよ」

「いや待て!?俺その条件初耳なんですが!?」

「女の子ばかりやってるとマンネリ化するから。刺激になっていいのよ」

「これ俺の話聞いてくれないやつだな?」

「警官ね……次の写真集のテーマはお仕事ものね!」

「……」

 

 ジュンサーさんとかジョーイさんとかなんか色々着せられるのは確定してるっぽい。今すぐ逃げた方がいいのだろうか?

 逃げてへそ曲げられたら変装食堂(リストランテ・マスケ)の衣装作って貰えず、教務科(マスターズ)の体罰フルコース+CVRの社会的な死だろうから逃げる以前に詰んでるけども。

 

「ちゃんと線引きしてるならしないけど?ぐへへ~なら去勢するけど」

「ナチュラルに心を読むな。そして怖いこと言うな。未使用だぞ」

「……なんで?」

「いや学生のうちに無責任な事しねえよ?なんか信用ないけど結婚してからって白雪にも伝えてるし」

「かわいがってる子他にもいるけどその子たちは?」

「? ……?妹に手出しするわけねえだろ?」

「……あぁ。大変だねえ彼女ら」

 

 何が楽しいのかケラケラ笑う赤さんはテキパキと採寸を終わらせるとじゃあ「戻って良し!」と追い出された。

 ……訓練時間終わるまで時間潰そうかと思ってたのにな。

 パーティに戻る気あまりないので終了時間間際に戻れば誤魔化せるだろうと無意味に船の中を散策していると、ふと、窓の外から見る景色に違和感に気付く。

 闇に紛れる色合いだから見辛いが船に近づいてくる4人乗りくらいの不審船のようだ。

 ……パーティ会場に戻った方が良さそうだな。

 


 

「クロメーテル様?てっきり面倒くさくなって帰ったのかと……」

「赤さんに衣装がどうだとかで呼び出されてただけ。今日は単位のために最後までいる」

「まぁ!呼んでくだされば手伝いましたのに!」

「肌晒す気ないから」

 

 会場に戻って見渡しても異変は今のところない。

 とりあえず戻って適当な事を言いつつ、食事のある場所に戻る。

 

「フルート型ある?気分的にそれで呑みたい」

「それならこちらになります。どうぞ」

「どうも」

 

 渡された細長いワイングラスは重さもちょうどいい感じである。

 料理に舌鼓を打ちつつ、流れる音楽に紛れる音を聞き分けようとしていた所――明かりが消え、音楽が途絶えた。

 

 停電!

 

 ジュースを飲み干し、ワイングラスの細い所(ステム)をへし折って簡易的な武器とする。

 

「し 侵入者ありィ!」

 

 甲高い声に導かれてみるとバーの上に一人、電飾部分に逆さにぶら下がってるのが一人。どちらも時代錯誤な忍の服装をした侵入者(インベーダー)だ。

 

「鬼さんこちら!」

 

 侵入者(インベーダー)が中等部のチビを狙って飛び降りた所をあえて大声で注目させてから即席ダーツを放つが迎撃として投げられた手裏剣に撃ち落とされてしまう。

 前より腕あがってんなぁ。

 武器なしを想定した訓練だから武器はない。なので手近な食器類を投擲して足止めしつつ近寄って制圧する――つもりだったが中等部のチビがビビッて動かず、なんならぶら下がってた方がもう一人に向けた攻撃まで防ぎ

 

「動くな!お主は持ってるものを捨て両手を上げろ!」

 

 中等部を人質に取られてしまった。

 

「……へいへい」

 

 人質取られてどうしようもないので言うとおりにする。

 

「急ぎ還ろうぞ」

 

 真っ先に動いた俺に警戒して人質を盾に侵入者(インベーダー)は去ろうとするが

 

()()()拙者らの勝ちでござる」

「それはどうかねえ?」

「何を負け惜しみか」

「相手するな。急g――」

 

 キン!

 

 甲高い音を立ててどこからともなく飛んできた蝙蝠型の武器が人質に向けられていた刀を叩き落とす。

 途中退場したから忘れていたがルール違反のBatGirlがいたようである。

 拘束が緩んだ隙に人質が逃げ出し、俺以外の第三者を警戒して構え直す侵入者(インベーダー)だったが時すでに遅し。

 

「人質は任せてそっちを!」

「はい!」

 

 気が逸れた隙に近寄って怪我しないように取り押さえる。

 

「動くな。次は当て――風魔陽菜!?」

 

 ライカとやらが驚いている。気が付いてなかったらしい。

 そういや参加初めてだから知らないのか『抜き打ち誘拐訓練』

 


 

「『抜き打ち誘拐訓練』!?」

「左様、諜報科(レザド)側は捕縛・拘引。CVR側は逃亡の実戦形式での合同訓練にござる」

「好戦的なクロメーテル殿はいざ知らず。強襲科(アサルト)の用心棒がいるのは反則なり!」

 

 陽菜ともう一人の真田は真剣に抗議してるがCVR側は訓練キラーイと相手にする様子はない。

 キャーキャーやってるのはほっとくとしよう。ライカから標的が移っても困るし。

 

「久しぶりに参加しましたけど腕あがりましたね」

「……クロメーテル殿も訓練はしっかり参加すべきでござる」

「?逃がすための殿(しんがり)ってやつです。弱ければそのまま仕留めますが」

「それは撤退戦……」

 

 話聞かねえみたいな感じでガックリしてる様だが個人的には楽しい事である。

 最初に参加した時は『抜き打ち誘拐訓練』と知らずに遠慮なく攻撃してしまったが、陽菜と訓練する機会なんてほぼないし実戦形式で実力は確認できるので制限付き(ハンディキャップ)戦にはちょうどいいと思う。

 問題はあんまりやる気ないあいつらの存在だが。

 グッダグダだし流石にガチの時に危険なのでレポートに出しておくか。




風魔陽菜はクロメーテルにおちょくられてると思っています
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