遠山キンジの独白 作:緋色
衣装は文化祭より3週間前ほどに設定されている。
これは文化祭前日に設定したらギリギリで間に合わなかったとかいう事例が発生し、体罰フルコースする方も手が足りなくなるという事例の反省なんだそうだ。なら体罰するなよというツッコミは禁止である。
そんなわけで締切前夜には教室で作業する通称仕上げ会という悪しき風習がある。
先に作業しているバスカ―ビルメンバーのいる教室へ向かうとバカが嘆いてるのが散見される。
「なんか嘆いてる馬鹿共が見えるがなんかあったのか?」
「タイミング悪かったなキンジ。20分ぐらい前にクロメーテルさんが婦警姿でロールプレイしてたんだぜ!タイミング悪く見れなかった連中が嘆いてるのさ。俺は運良く見れたがな!」
「そりゃ良かったな武藤…」
消防士姿の武藤は満足したのか暑苦しく肩を組んでくるが……。
この仕上げ会でなぜか1時間ほど役になりきれとの教務科からの命令があり先んじて完成させててもここだけは参加しないとならない。なのでめんどい事になってるわけだ。
呆れてため息が出るが何を勘違いされたのか
「なんだ?彼女のコスプレ見れなくてスネてんのか?」
「白雪はあそこで作業してるが?」
「あーお前はそうだったな。クソが!」
なぜか武藤に蹴られたので軸足を蹴ってすっ転ばしてから作業している白雪とレキの方に向かう。
「あっキンちゃん。 衣装どのくらい出来ましたか?」
「出来合のものだから後で違和感が無いか見てくれ」
CVRで生地から作られる故に高いのだが、先輩の口車に乗せられ写真集の売上から払う事になってるからクロメーテルのやる気がなくなる事を除けば実質タダではある。
「はい。 ふふ……何だか楽しみ。キンちゃんのお巡りさん姿」
「1年の頃見てなかったっけ?」
「タイミング悪くて見てないよ」
「だっけか?」
あまり覚えてないが警官服着てたのなんて高校だと半年にも満たないから機会がなければ見てなくてもおかしくはないのか。むしろ中学時代の方が着てた気がする。
そういう意味じゃ演じるの難しいかもな。アングラ世界に関わりすぎてるから四角四面なキャラ演じるのは厳しいかもしれない。ずっと暴れ散らかしてたし。
「キ、キンちゃん、私の先生姿……どうかな? どこかおかしかったりしない?」
出席簿の角をヤスリで甘削りしてた白雪が、こっちに正座し直して聞いてくるので改めてじっくり見る。
黒縁メガネをかけてニコニコと俺を見上げる白雪は似合ってるなぁ。先生姿。
元々大人っぽい体をしてるし、口調も気持ち先生っぽく、役作りにも余念がない。まるで本物の新米教師みたいだ。
背の関係から先生を見下ろすシチュはだいぶヒスイ気がする。
「似合ってる。小学校の先生っぽいよ」
ちょっと目を逸らして答えたが白雪は、にへらー、っとデッレデレした笑顔になって……それを隠そうとしたのか、いきなり土下座するように伏せた。
そして「遠山くん、だめよ……。私たち、先生と生徒なのに……でも、その垣根を越えて来るなら……ナイショなら、い、いいよ…?」などと独り言してるぞ。
変なシチュエーションプレイ考えてるみたいだが、それ相手小学生だからやばくね?
なんかそんな漫画理子が爆笑しながら読んでた気もするが。漫画とかでは鉄板ネタなのか?
多少首をかしげる状況から戻ってきたらアリアと理子という下手したら小学生に見えかねない二人が来たらホントに小学校みたいになりそうだ。
……暴れられる未来しか見えないし来る前に作業終わらせよう……。
取り出した衣装を念入りに確認してみても本物と見間違えるくらいの出来だ。
文化祭衣装を半分治外法権みたいな武偵校以外で着たら軽犯罪法第1条15号『資格がないのにもかかわらず、法令により定められた制服もしくは勲章、記章その他の標章、もしくはこれらに似せて作った物を用いた者』違反になるな。警察を騙るなら逮捕するっていうアレである。
いろいろ考えつつ、リアリティのある変装の為に新品の警官制服を揉んで使用感を出したり、バッジを下に引っ張ってピンの穴を広げたり、細かい作業に勤しむ。
多少形になってきた所で作業しながら前――レキの方を見る。
『研究所職員』を演じる予定のレキはセーラー服の上に白衣を羽織り、正座し、萌葱色のブラウスを縫っている。
俺が入ってきた時から、全く同じ姿勢だ。1ミリも移動してない。
見た所素手でミシン並みに精密に縫っている。――すげえなおい。マジでロボットか?
ロボットでない証拠にレキなりにリアリティを出そうとしたのかフチ無しの伊達眼鏡を用意している。
気になったのでそれをレキの顔にかけてみると……微動だにしない。かと思えばチラッと眼鏡の上に空いた空間から俺を上目遣いに見てきた。
う。これは結構ヒス血流がきそうだ。
知的雰囲気と無垢な感じなギャップが妙にヒスい。
俺眼鏡弱点だったのかもしれねえ……。
健康優良児のレキは9時になる前に「就寝時刻です」と作業を終わらせて帰り、警官のロールプレイに
「おっはよー!」
と理子がガンマン姿でやってきた。
おい。10時だしもう作業終わって帰ろうかってときに来るんじゃねえ。1時間ロールプレイに付き合わせる気か!?
理子は衣装完成してるらしくテンガロンハットをかぶり、厚手の生成ブラウスを胸の前で結び、おへそは丸出し。
革のチョッキとブーツをちゃんと着て、デニムのミニスカートの裾には短い麵みたいな革紐がびっしり並んでヒラヒラしてる。
……どう見てもコスプレなんだよなあ。
いやガンマンが実際どういうのか知らんけど。
「ほらほら!絶対ウケるって!可愛いは正義だよ!」
と理子はニッコニコで教室のドアの裏側に誰かの腕を引っ張っている。
……あぁ。散々抵抗するから遅れたのね。
「~~~~~~~!」
人の可聴域を超えた高音で叫んでいる人物の姿が徐々に露わになるが
真っ赤なストラップシューズにピンクと白の縞々ソックス。ソックスの上縁にはヒラヒラした白フリルがついてる。左右の胸の上部にはデカいボタンをあしらったキッズサイズのブラウスを着てピンクのスカートをはいたアリアは背中にピンクっぽい赤ランドセルを装備している。
「ゴフッ――」
わかっていても耐えられなかった。
滅茶苦茶抵抗する姿と相まってどう見ても小学生な姿にとんでもなく腹が痛すぎる。
「何笑ってんのあんた!風穴!」
「いえいえ本官は完璧なロールぷふっ――ロールプレイの完璧さに腹筋が崩壊してただけであります」
「ならお腹に風穴開けてやる!!」
いつもなら頭が冷えるまで逃げるか訓練目的で弾を逸らしたり止めたりする技の練習をするところだが着替えてないし、バカスカ撃つ流れ弾が他の作業者にいくのも怖いので
「まあまあ、お兄ちゃんもついてるから暴れるのはなしの方向で。衣装作りとなりきるのが今回のお題だしね」
「~~~~!わかったわよ!」
ヤケクソなのか頭の上から電線がショートしたみたいに湯気を出すアリアはふらふらと移動し俺が作業していた場所の横にあぐらをかいた。
「ヘイ!アリアちゃん!お裁縫箱はこっちでちゅよ!アリアちゃん!」
「あんた『アリアちゃん』言いたいだけでしょうが」
「駄目でしょアリアちゃん?小学生がそんな口調で喋っちゃ」
アリアは理子と白雪に散々弄られる事となり――案の定再度爆発すること数回。
先行き不安なまま仕上げ会は終わる事となった。
アリアはAAで小学生やってる時は童心に帰ってたのでうまくやれればロリやれたんだろうが
キンちゃんいたら無理そう……