遠山キンジの独白 作:緋色
「被告人神崎かなえを 懲役536年の刑に処す」
東京高等裁判所第八〇〇法廷に響いた判決に弁護席についていた俺の感想は――やっぱりか…であった。
隣に座るスーツ姿の理子は鋭い眼で検察側を見ているが音信不通になったジャンヌ、長野のレベル5拘置所に拘置中の小夜鳴――ブラドは不参加だったが、状況証拠と証言から有罪にする方が難しいのにもかかわらずこの裁判――敗訴だ。完全に。
「不当判決よ!こんな――どうして!? こんなに証言、証拠が揃ってるのにどうしてよ! ママは、ママは潔白だわ! どうして!!!」
「騒ぐなアリア! 次の心証が悪くなるッ! 即日上告はする、落ち着け!」
若い女性弁護士がスーツ姿のアリアが、床を蹴って検察側に駆け出そうとするのを抱きつくようにして押さえるのを横目にどう動くべきか考える。
「放しなさい!放せ!あたしはあんたに怒ってるんじゃないわ!あんたは有能で、全力でやってくれた!
あ、マズイ。眉間に皺を寄せながら仕事をしていた
ああいうエリートはプライドを傷つけられると後々まで虎視眈々と狙ってくる可能性があるぞ。
「落ち着けアリア。(気持ちはわかるがアレは武装検事だ)冷静にならなければ助けられるものも助けられない」
俺の警告にアリアはびくっと身体をこわばらせた後。とても小さな声で「ほんと……?」と呟く。
「元より百年だかなんだか減刑されてるから不可能ではない。手を尽くせば可能なはずだ」
……もっとも真っ当な方法だと勝ち目はないが。
この裁判は隠匿裁判と呼ばれるものであろう。
政府が表沙汰にできない類のモノを迅速に裁判を行うもので、政治犯だのテロリストなんかの外にバレたら状況が悪化する類の裁判が主だと聞くが、イ・ウー関係の裁判もこれに分類されるようだ。
表沙汰にできない裁判に駆り出されるとなるとあの検事は上の信頼の厚い武装検事だろう。
その最上位エリート検事ですらあやふやな内容で実刑判決が下る様子を見ると――神崎かなえに罪を着せるのはイ・ウーの後継者であるアリアが原因である可能性が高い。
もちろん本人はイ・ウーの後継者として後始末で潜水艦を処分したことで終わったものだと思っているだろう。
だが、イ・ウーの後継――
裁判も終わりかなえさんのカメオが付いた銃を抱きしめて泣き続けるアリアを慰めようとしたのか、 連城弁護士は自分のAudiに俺たちを乗せ、駐車場でしばらく時間を潰してから――かなえさんを乗せた護送車が高裁から出るのを追うように車を出した。
少しでもアリアをかなえさんのそばにいさせてやろうという計らいだろう。
護送車を追う構図がそばにいさせる事なのかどうかは疑問だが。
助手席のアリアは「ママ……」とまだ泣いていている。
後部座席で俺の隣に座る理子はずっと目を閉じて何かを考えているようだ。
護送車の向かう先をぼんやりと眺めていると……信号の停止線からかなり離れた所で護送車が止まる。
「……?」
連城弁護士が道の先を見ているが――前方の信号赤黄青のすべてが消えている。
歩行者用の信号も消えており、歩行者が横断歩道の前でキョロキョロしている。
周りを観ればコンビニやカフェが薄暗く、看板の電気も消えている。
「停電か?」
「いやそれよりヤバそうだ」
前方、停車中の護送車の下からアスファルトの地面に黒いものが広がっている。
燃料漏れのようにも見えたが、流体の広がり方ではなく真っ直ぐ不自然にこちらへ伸びている。
この影の異常は
「ヒルダか!」
ドアを蹴破って飛び出し、リボルバーS&W M360を構え、影の伸びる方向を先回りするように
伸びる影は
「ママ!」
「待てアリア!敵襲だ!」
護送車にアリアが駆け寄ろうとした時、バリィッ金色の放電が、今度は護送車側の後部周囲で弾けた。
そして水面から浮かび上がるように不自然かつ異様に護送車の上に立ち、くるるる、とフリフリの日傘を回す退廃的で、どこか不吉な印象の、ゴシック&ロリータ衣装の女――ヒルダ
「……ヒルダ! 写真では見てたけど会うのは初めてねッ!」
いいえ。一度会ってます。
反射的に拳銃を抜くアリアに内心で突っ込みつつ様子をうかがうがヒルダはフンと鼻を鳴らす。
そして縦ロールの金髪ツインテールを揺らし、アリアからソッポを向きこっちを見た。
「やっぱり邪魔するのね遠山キンジ」
「夜の魔族が真昼間から襲いに来るとは思って無かったぜ。俺に会いに来るのが我慢できなくなったのか?
まずいな。
夜は学園島は玉藻の結界でヒルダは近寄れないし、昼間はヒルダはあまり活動しないだろうと油断した。
今有効打になりそうなのはヒルダ戦用に値段の関係上コツコツ買い集めてるリボルバーS&W M360の
平賀さん曰く
「布部分はTNKワイヤー繊維で、手に衝撃があっても分散させる構造になってるのだ。指には炭化タングステン=コバルトの超硬合金を窒化チタンでコーティングしたものを着装してあるのだ。さらにとーやまくんの無茶な要望で電気絶縁を施してるのだ。命名『オロチ』!」
通常こういう金属を仕込んだ手袋――ソリッド・ナックルは徒手格闘戦用に作られるが、
通常戦闘ならいらないが連戦になった時なんかは負担が大きくなり銃などが使えなくなると圧倒的に不利なので――まあ気休めだが。
注文が注文だからかまだ右手分しかないが来ちまったものは仕方がない。
両手分なければスクラマサクスを使った剣技も電撃で感電しかねんから使えないし――泣き言は止めだ最善を尽くすまでである。
「自意識過剰ねえ。私、今はあんまり戦う気分じゃないのよ?日の光ってキライだし」
……?
なんだこの違和感。襲ってきた癖に戦う気分じゃない……?
「タマモの結界からノコノコ出てくるんですもの。それに――これ、あなたのママよね? お父様のカタキは一族郎党、根絶やしにしてやるわ」
「キンジ!
「影に気を付けろ!」
アニメ声で叫んだアリアはいつもの行動パターン通り、真っ正面からヒルダめがけて駆ける。
有無を言わさず突っ込むアリアに追い付くのも難しいためやむなくヒルダの右側の日傘で視界が悪い方に駆けつつ、ヒルダを狙う。
ヒルダの技は影に触れた物を沈めたり感電させることができる能力者だろう。ならば影に気を付けて射程外から銃弾を叩き込み続けるしかない。
今は回復のごり押しで日の下に立っているが、魔臓を潰せればその限りではない。
「見込みが甘かったわねぇ。
俺とアリアの影が、護送車の影に近づいた瞬間護送車の影が急に膨らみ
バチィィイツイッ!
「きゃあああっ!」
俺とアリアが、同時にその場に転倒した。
尋問科の拷m――訓練で60~90万ボルトの強力なスタンガンを喰らった時の衝撃に似てる。意識は保てている。からコイツの技―電流は凄まじかったが、どうやら電圧はあまり上げられないらしいぞ。
おそらく放電は電気鰻と同じように自分も喰らうから自分が余裕で耐えられるレベルまでしか上げれないのであろう。
「だからァ……そんな血の気の多い姿を見せないで。ガマンできなくなっちゃうでしょ? あぁ。もう食べちゃおうかしら。お前たちなんか、
俺は全身の運動神経を痛めつけられ、筋肉に力が入らない。
それでもアリアは銃を放さず、ガクガクと膝を震わせつつ……
「ヒ……ル、ダ……!」
影の中を這って、まだ煙を上げている護送車のナンバープレートの辺りにしがみつく。
そして歯を食いしばって気張ってるがダメだ、アリアも立てない。
動けないな。こういう時は――
「……ああ、私ったらダメね。アリア。 あなたを見てたら食欲が湧いてきちゃった。百年もののワインの様なあなたの美味しい味、覚えちゃって―」
コツン、と階段を降りるように車のトランクの方へ降りてきたヒルダがアリアの拳銃なんかお構いなしに、両膝を揃えてしゃがむ。
「また、つまみ食いしちゃおうかしら。そこの死にかけたゴキブリの血は――あれ?息してないわね。あの程度で死んだのかしら」
声にならない悲鳴が辺り一帯に響き渡った。
ガスンッッッッッ!
地面を震わす勢いで何かが落下する。
「危な――だった。君がアリ――ったよ」
「キミにアン――らせが3つある。1つ。これはカンタベ――堂より恩惜した
誰かがゴチャゴチャ話しているが、無視して拳を握ったり開いたりして様子を確かめる。
目を開くとどうも灰色のブレザーを着た誰かがヒルダと向き合っているらしい。
よくわからないがヒルダから俺への意識が逸れているなら好都合である。
とりあえずヒルダへ不意討ちするか。
「とってもイヤなニオイ――ねっ!」
ヒルダの手首を狙って超能力者封じの手錠で捕らえようとするが、ヒルダは黒い駝鳥の羽の扇でそれを防ぐ。
そして汚れたとばかりに扇を捨てる。
「遠山キンジ。なぜ動けるのかしら。さっきまで死んでたわよね?」
「動けるから。まあ電撃のダメージはすぐ抜けないから驚くのはわかるぜ?継続ダメージで時間かけないと戻らんからな」
訝し気にこちらを見るヒルダに時間稼ぎも込めて話す。
しかし手錠投げで捕らえられなかった以上どうやって捕まえようかな。手持ちの札で超能力者封じの手錠以外でどうにかできそうなもんないんだけど。本来一度倒してから使うもんだし。手錠投げは不意打ち以外だと意味ないし何なら残弾無いし。
「なら一度全ての電源落とせばいい。生きてる肉にダメージが残るんだから一回死ねばいいんだよ。パソコンだってとりあえず再起動させれば解決するんだよ」
「いやその理屈はおかしい」
「ごちゃごちゃうるs……いや誰だお前」
思わずと言った感じで割り込まれたので、そっちを見ると、清潔感に溢れる艶のある黒髪に
――そして道路のど真ん中に
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!?
ここ日本だよな!?東京のど真ん中に突き刺さってていいものじゃねえぞ!?
「不発弾か?とりあえず辺り一帯に避難警報出さんとヤバいだろ核とかだったらシャレにならん!」
「?――ああ、あれはPolarisだ。移動用の乗り物だからそういうのは気にしなくていい」
「……移動用だとしても問題なんですが……?」
ヒルダよりこいつ先に討伐した方がいいのでは?
ピクッとヒルダが何かに気が付いたようにあたりを伺い。
「時間切れね。蟻に群がられても鬱陶しいし今日はこのくらいにしといてあげる」
そう言ってヒルダの脚が、膝が、溶ける飴細工のように影に沈んでいき、そのまま姿を消した。
それとパトカーのサイレンが近づいてくるのが聞こえてきた。通報があって警察が動いたらしい。音からして機動隊ぐらいの数が来てるな?
「大丈夫か、アリア」
とアリアに近づこうとする何某かに割り込む。
「待て。まずお前誰だ」
「――人に素性を聞く前にまず自分が名乗れ」
「……遠山キンジだ。一応そこのアリアとパーティ組んでる身だ」
「知ってるよ。事前調査でキミの写真を見たことがあるからね」
「そーかい。で、お前誰だ」
「――ボクはエル。エル・ワトソン」
……ワトソン?
どっかで聞いたような……と首をかしげる俺と違い、アリアの反応は劇的だった。
「えっ……!じゃあ、あんた、まさか……」
アリアは小さく声を震わせながらワトソンの顔を見上げ、アリアに小さく笑顔を向けたワトソンは
「そう。ボクは
ジョン・H・ワトソン!
アフガン戦争の軍医から負傷でリタイアしてイギリスに戻った医者であり、ホームズの物語を綴ったことになっている。名探偵シャーロック・ホームズの友人であり相棒!
あのシャーロックに曾孫がいるのならワトソンにいてもおかしくないか。
アリアの口から話題が出たことがないので関係が切れてるのかと思ってた。
「トオヤマ。邪魔をするな」
「なにがだよ?お前は関係あんのかよ」
「あるさ。ボクは許嫁と義理の母を助けに来た」
…………は?
「――アリアはボクの
………………………………うっそだろ。
「イ、イギリスって進んでるんだな(ドン引き)」
「進んでないから!私は初めて会ったの!」
物理損傷じゃなく一瞬の感電なので一回死ぬことで効果を無くしたイメージ
よい子も悪い子も感電した時にマネしちゃだめだぞ♡