遠山キンジの独白 作:緋色
エルってイニシャルだったのかよ頭がよぎるのもつかの間、黒板にワトソンが自分の名前を流麗な筆記体で書き終わるとそれだけでクラスの女子が一斉に黄色い声を上げた。
高天原先生が「マンチェスター武偵高から来た、とーっても カッコイイ留学生ですよー」とニコニコ顔で言うからもしやと思ったが、その通りだったな。
マンチェスターは北部イングランドを代表する都市だからロンドン主軸で動いてたらしいアリアとは活動圏が被らなかったから会ったことがなかったのだろう。たぶん。
眉を寄せる俺の横で、わなわなと驚いていたアリアは……チラッチラッ、と俺の様子を盗み見てくる。
面倒くせえ……。何を気にしてるんだろうか?
心当たりは多少あるがそこまで節操なしではないつもりなのだがな。
「エル・ワトソンです。これからよろしくね」
少し高めの少年っぽい声でワトソンが言い、一番後ろの席についた時―――朝のホームルームの終了チャイムが鳴った。
同時に、わー! きゃーと、女子どもがワトソンの席を取り囲んでる。
転校生はなぜか囲まれるがなんなんだろうなあの風習――習性?
大騒ぎを遠目にみつつ聞こえてくる情報を一応拾っていく。
ワトソン家は医者の家系だったと思うがずいぶん経歴豊かである。というかイギリス人なのにニューヨークから経歴が始まってるあたり裏向きで何かやっていたんだろうなきっと。
拾いながら昨日の事を思い出す。
「殺しなさい」
「姐御。気持ちはすごい解りますけど、それより撃ち込んてきた拠点だの勢力掴む方が先かと」
「関係ありません。殺せ」
あかんブチギレとる。
どういう状況かと言うと、あの後警察だの自衛隊だのが駆けつけて状況を説明したのだが、なぜか知らんがいや想像出来た事ではあるが事情聴取の名目で警察に連れてかれてのこれである。
警察関係者に俺絡んだら公安案件だと思われてる節があるな。実際公安案件みたいなもんだが。
そして俺はなぜ正座させられているのだろうか?
「姐御。俺は殺しはしません」
「では死なない程度に銃弾を胸部中心と眉間に鉛玉を2発ずつ撃ち込みなさい」
「コロラド撃ちはどうあがいても死にます」
流石の俺でも1発なら兎も角2発ずつは逸らしきれずに死ぬ。
「一理あるけど遠山君に求められているのはそういう事ではないね」
「……土御門課長補佐。この件は正式に許可が出しだい動きますので」
「君は動かなくていい。遠山君に任せ給え。君には別件で動いて貰いたい」
そう言って胡散臭いおっさんが何らかの資料を渡すと姐御は不承不承という様子から殺意を見せる。何見せたんだろうか。
「すぐにヨーロッパに飛んでくれたまえ」
「了解しました。戻ってくる、前に、片付けて、おきなさい。いい?」
「あ、はい」
ギアを上げたらしく何かを思考している片手間と言う感じで告げてから姐御はあっさり去る。
これより優先する何かがあるのか?
「君には感謝してるよ?単品で使いにくい走狗が手札に注意して使える猛犬になったのだからね。いやはや頭の痛い事だ」
「それ褒めてないですよね?」
「褒めてるよ?」
なんていうか人の見方がだいぶ違うから胡散臭いおっさんの評価は信用できねえんだよな。公私は分けてるからそこはよさそうだが。
「遠山君にも少し関係があるのだが。遺伝性の天才とやらの遺伝子を集めている組織の拠点が判明してね。それを叩きに行って貰ったわけだ」
「遺伝子?……関係ありそうなの伊Uの件ですか」
「草むしりはしたことあるかい?除草は根っこを潰さないとまた生えるものなのだよ」
「やっぱまだ活動してんですか伊U」
さっきミサイルぶち込んできたしな。あの
というか伊Uの仕業じゃなかったら戦争案件だろこれ。
「なぜイ・ウーだと思うのかね?」
「ICBMを乗り物にするイカれた組織とか他にいてたまるか」
日本だと近くの国がミサイル撃ちまくって遊んでるから危機感麻痺しがちだが、ICBMが飛んだってだけで戦争開始してもおかしくないレベルの暴挙である。
「すぐにバレそうだから教えておくけど海自が秘匿していた原子力潜水艦が盗まれたそうだ。これ箝口令出てるから話したら駄目だよ?」
「大問題じゃねえか!?」
「だからさっきのこともあって防衛省もカンカンだからね。ちょうどいいから便乗するんだけども」
「あー。俺外野なんで細かい事聞きたくないんですが。今は悪役令嬢探してて忙しいんで」
あれ?そういやヒルダって貴族なんだっけか?
なんか貴族に縁ありすぎじゃねえか俺?
「
「……なんで知ってるんだよ?」
「日本としては中立を維持したいから協力はしない。
「無理あるでしょそれ」
一応情報収集してるが兄さんはなぜか武偵庁にいつの間にか復帰してるし、星伽は大昔からある宗教組織で政府と癒着してる臭いし。いやだから兄さん中立表明したのかなアレ。
「君はあくまでフリーの武偵だからね一応。伊藤君が気に入ってるから消さないだけで」
「俺そんなヤバい立場だったのか」
「君起点でドミノ倒しが起きてるからね。良い方向にも悪い方向にも」
「それやってるの
ヒルダがシャーロックの研究盗んだという時点でシャーロックがヒルダごときに一杯食わされるとは思えなかったが今回の件で確信したが殻金外すまでの騒動シャーロックの計画だな?
となるとあのカスが手を変え品を変え蠢いてる以上早めに地獄に帰って貰わないといけない。
「いやそれとは別に
「それ生き方強制してるじゃねえか」
公安の伝手で一気に国家権力で包囲網組んで潰すという安牌が潰されたのが痛い。
いやそれよりも人権適用されなさそうなヒルダは最悪殺しても(魔臓の位置不明な上に高速再生持ちなので倒す場合殺してしまう可能性が高い)無罪にならなそうなのが問題か。
昼のきたねえ花火作戦は企画倒れとなりましたっと。
子爵がどうだの部活がどうだのと騒いでるのと横目に聞き流していると
「駄目だよ帰宅部なんて!」「そうよキンジと一緒に屋上で昼寝するつもり?」「でもワトソン君と遠山君がつるんだら……たらしが移ってチャンスが……」
なぜか俺に飛び火した。
「たらしが移る?」
女子は俺の方をチラッと見ると、読唇術封じに手で口元を隠し、ごにょごにょ……と、ワトソンに何かを囁いてる。というかその距離なら普通に聞こえるからあんま意味ないが。
CVRをたらしこんでる事実はない。危険人物扱いで近寄らない方がいい相手扱いされてるからな。
最近は
ごにょごにょを聞いたワトソンは、俺の方を向いて急に顔を赤らめ
「なぁ……トオヤマは、そんな…? こ、 好色な……!」
美形だからそんなに凄みは無いが細い眉を吊り上げて、こっちを睨んでくる。
面倒くさいが変に敵愾心増されても困るな……。
「……まさに
現在進行形で女の婚約者いるのに女に囲まれてる奴にだけは言われたくはない。
まあ見た感じ女を意識してなさ過ぎて恋愛対象に見てないのはわかるけども。
というか婚約者いるのに浮気は許さんぞ。
「毒牙言うなや。あとトオヤマじゃなくて親愛を込めてお義兄ちゃんと呼べ」
ざわっ
ざわっ
ん?なんか教室の空気変わった?
「呼ぶわけないだろう。何を言ってるんだい?」
「え?アリアの
「君は何を言っているんだい?」
教室が一気に騒がしくなるがまあ大したことじゃなさそうなので放置する。
「そんなに難しいこと言ってないぞ?つまり俺とワトソンは義理のきょうだいだな」
「義理でもなんでも――待ちたまえ!君はアリアを妹扱いしてるのかい!?パートナーではなく……?」
なぜそこで本気の困惑をするのだろうか。
あ、そうか。昨日のあれって結婚のパートナーは自分って喧嘩売ってきたのか。今気づいたわ。
「キンジは私のパートナーよ」
「アリアよくわかってないなら口挟まんで意味違うからそれ」
「どういう意味よ?」
「アリア、新商品のももマン味あるけど食うか?」
「押しk――モキュモキュ」
「な?妹だろ?」
「…それは妹扱いかい?」
「じゃなかったら何に見えるんだ」
まあ確かにツンデレ暴力系は妹としてはかなりの異端だが。
「まあ大体妹だ。妹は(顔は)とてもかわいいんだ。妹の結婚式は派手に祝いたい派だ」
これが結婚できる相手なんて絶対希少だし。
「仮に結婚式上げるとしても君は絶対呼ばない」
「なんで!?」
姐御がキレた理由は
意訳:遠山君の遺伝子を取り入れた男がねえ人妻に会いに行って元気になったらしい
とのことで
英国の某侯って結局誰だったのか