遠山キンジの独白   作:緋色

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フラフラと

 ヒルダの足跡は掴めていない。

 ちょくちょく目撃情報はあるのだが、地面から現れたとか地面に消えたとかで拠点(ヤサ)が割れないのである。

 紅鳴館なのかなと調べてみるもブラド逮捕後から電気水道等のインフラが止まっているようで拠点にしているわけではないようだ。

 ちょくちょく目撃情報は入ってるから東京にはいてプレッシャーかけてるんだろうが目的がわからねえ。

 どうもアリア狙いって感じがしないんだよな。ワトソンがいて手を出しにくいって可能性もあるがICBMの茶番から考えると別目的があっての茶番感がある。

 或いは理子が狙いか?関係知らんから何とも言えんが。

 一番ありそうなのはこっちの動きを封じておいて戦役?を有利に動かす目的か。眷属(グレナダ)に着いた勢力が師団(ディーン)より多い以上数の利で抑えられるとジリ貧気味である。

 元から興味ない俺は兎も角、守勢よりの星伽は動かんだろうし、レキが言うには数が少ない(らしい)ウルスも守勢寄りらしい。

 バスカ―ビルは遊軍として期待されてる感じかな。迷惑な事に。

 

「迷惑と言えばこっちもどうするかねぇ……」

 

 対ヒルダ戦を見越して作って貰っていたソリッド・ナックル『オロチ』だが――左手分が延期となっている。

 ワトソンが学校に寄付しその寄付金で備品修理の依頼が平賀さんに流れたのが原因だ。外部から客が来る文化祭前に直したいらしい教務科(マスターズ)からの依頼ゆえにキャパオーバーになりそうだと申し訳なさげに平賀さんに謝られたが。

 ワザとか偶然か――ワザとだろうなぁ。なんか敵視されてるっぽいし。

 武藤もワトソンにホームパーティーに呼ばれて仲良くなったとかで、偶に借りる防弾仕様のトライク(ロードソオツクス)もワトソンに長期貸出中らしい。

 中立気取ってはいるがヒルダに俺を倒させて弱ったヒルダを討つのが目的か、或いは逆か。

 どちらにしても万全じゃないことが悟られているなら決着は10月中だろう。『オロチ』の完成は月末ぐらいになりそうだという話だったし。

 かったるい話である。

 アリアの婚約者(フィアンセ)じゃなかったら〆て終わりなのだが。

 アリアには一応味方にできるよう頑張れと言ってるが、なぜか青筋立てられてよくわからんキレ方をされたからあの様子だと無理だな。

 

「遊びに来るなら正面から来い」

 

 銃の分解整備が終わった所で、そぉっと玄関から入ってきたやつに声をかける。

 

「キーくん、怖い顔」

 

 耳元で囁かれた鈴を転がしたような声に振り返ると向くと、理子はきゃはと笑いながら顔を上げ、PCラックの方にある回転イスにポンと座る。

 そして、コロコロとイスを移動させてきて俺の横に来た。

 いつもの改造制服で耳元にはコウモリみたいなイヤリングをしてるな。似合ってねえ。

 

「おーおー、キーくん。 ひとりぼっちで淋しく銃の整備ですかー?」

 

 理子はチェリーみたいな飾りのついた靴下の足を床につけ、くりくり、と左右に体を少しずつ回す。

 その動きで、ヒラヒラのスカートや緩いウェーブの髪が空気をはらみ、バニラみたいな甘い香りが漂ってくる。

 

「整備は普通一人でやるもんだ。特に俺のは改造品だししっかりやらんとな」

「キーくん変なところで几帳面だよね。普段の生活リズム滅茶苦茶なのに」

「それレキは早寝するし、お前は徹夜でゲームに付き合わせてくるからだろうに」

「だってキーくん捕まらない時は捕まらないんだもーん」

 

 それはなんの言い訳なんだと思いつつも、腹も減ったので飯にするか。作り置き2人分も会ったかな……。

 

「整備も終わったみたいだし、理子とおべんと食べながらゲームしよ! あのね、あのね、秋限定栗ごはん弁当売ってたの。カップル特典でスクラッチカードもらえるから、2つ買っちゃった。1つ、カレシのキーくんにあげる」

「だから彼氏になった覚えはねえ。いや貰うけど」

 

 などと言いつつ、理子は改造制服の背につけた大きなリボンをフリフリさせ、レンジの前に行き、レンジでチンしてあちち、 あちち、と呟いてコンビニ弁当を2つ取り出してる。

 見た感じスクラッチカード見当たらんし気を使わせたのかな?口には出さんけど。

 

「キーくん、エースコンバットで対戦しよ! 食べながらしよ!負けたらシッペね!」

「遊ぶのはいいが食いながらは行儀悪いからやめい」

 

 理子はソファーのテーブルに弁当を持ってきて、ぽふ! と俺の隣に座り、PSPを片方押しつけてくる。

 あ。これ、俺のPSPじゃねーか。いつの間に取り出してきたんだ。

 いつもみたいに「お行儀が悪い!めっ!」と怒る白雪がいないとなると、途端に羽を伸ばすんだよな。理子は。

 なんでウチで疑似家族みたいになってんだろうか……?

 雑談しながら弁当を食べた後は、戦闘機を使って空戦するゲームなのだが理子は機体を旋回させる時、ぐーっと体がその方向に傾く子供みたいなクセがあるようで、しかも、俺の右、真っ隣に座ってるから

 

「ぐぬぬぬ!! よし後ろを取った! 逃げるなキーくん! きゃははっ!」

 

 理子は俺を押し倒すような勢いで、傾けた体を押しつけてきやがる。

 すべすべした腕が俺の腕にべったりくっつき、スカート越しには弾力的な腰が押しつけられ甘ったるい香りのする髪に擽られてくすぐったいし、ゲームに集中できねえ。

 案の定何度も負けた。

 


 

 時計も0時を回った所で明日も学校なので寝ることにする。

 シャワーを浴びて出た所で、ソファーでゴロゴロしてた理子が頬杖をついてニヤニヤ見上げてきた。

 

「一応聞くが泊ってくつもりか?今日は問題ないがバレたら面倒くさいぞ?」

「その時はキーくんの抱き枕してたっていうから大丈夫~」

「それは俺が大丈夫じゃなくなるやつだろ」

 

 いつもならシャワー浴び始める前にはいつの間にか帰ってるので油断していた。

 夜中に無理矢理追い出すのもどうなのかと思うし、何より眠いので面倒くさい。

 

「キーくんは狼になるべきなのです」

「前から思ってるけどなんで俺の事カスにしたがるんだ?」

「そーでもないと理子りんチャンスないじゃん」

「意味がわからん」

「にぶちん」

 

 べーっ、だと出ていった理子は――バスルームに行ったようだ。マジで泊まる気らしい。

 まあ和室空いてるし勝手に布団敷いて寝るだろ。

 そう思いベッドに入って微睡む。

 とことこ……とベッドルームに入ってきた理子がフットランプを付け……きし。

 と、俺のベッドに手を突く音がした。

 

「……………………なんだよ?」

 

 と裸ワイシャツ姿の理子が俺のベッドに忍び込もうとしてた。

 ……………………裸ワイシャツ?

 

「おい!?ちょ、ま。なんだその恰好!?」

「パジャマ無いし。彼ピのシャツ着ちゃいました」

 

 慌てた俺は、反射的に壁の方に体を逃がそうとしてしまい、むしろ理子にベッドに上がってくるスペースを与えてしまったような形になる。それで案の定、ぎしっと理子は上がってきてしまった。

 

「……和室に布団あるけど」

「……今日、誰もいないし」

 

 と、鼻にかかった色っぽい声を出した理子は――いつもの緩い笑顔じゃなく切なげな目をしている。

 そしてちらちらと見える肌色の谷間は流石に刺激が強いため寝返りうって背中を向ける。

 

「寝るのはいいけど。白雪曰く俺寝相悪いからな文句言うなよ」

「ここでゆきちゃんの名前を出しますかぁー」

 

 俺の背中へ、少し笑うような吐息交じりに理子が言ってくる。

 

「理子はいいの。 キーくんが誰を好きでもいいの。キーくんを好きな女子はみんな、ミーハーなカンジじゃないからイラッとしたりもするけど……でもそれを好きって、理子に男を見る眼力があるってことでしょ?」

「俺が相手な時点で見る目ないと思う」

「そうでもないよ。理子と2人の時はキーくん、いつも今日みたいに、今まで優しく接してくれたから。そーいうとこ、やっぱりゆきちゃんが言うとーり理子って愛人体質なのかもねー。優しくされるとコロッてなっちゃう」

 

 お前ルックス活かしてあっちこっちで優しくされてるだろ。とは言わぬが花か。

 でも俺以外の男子に理子が二人きりになってたとかは聞かないから結構ガード固い方だと言われてた気がする。

 俺相手だとゆるゆるだった気もするが――いやブラド後まではそんな緩くなかったな。危険察知してるのか来ない時は来ないが入り浸るのもそれ以降だし。

 知らん所で知らん愛人認定されてるっぽいが、白雪は何を考えているのだろうか。受け入れてる理子もわからんが。

 

「キーくん覚えてる……?」

「どれの何をだ」

「地獄の底まで助けに来てくれるって事」

 

 微塵も記憶にねえ。

 

「記憶を捏造すんな。地獄なんかぶち壊すとしか言ってねえ」

「いやキーくんも記憶捏造してるじゃん」

「変な犬倒したんだから有言実行だろ。実は俺は最強だからな」

「……そーだね。キーくんは強いよ」

 

「お願い……そばにいて……」

 

 そのシリアスな声に――つい振り返ろうとすると、理子は俺の背に顔を押しつけてそれを拒んだ。

 

「……理子に忘れさせて。 全部忘れさせて……忘れたいの。昔のこと……アイツを見てから、毎晩思い出すの……魘されるの……理子はもう、耐えられない……」

「……昔?」

「ヒ、ヒル―名前を出すのもイヤだ。ルーマニアで、アイツ……あたしを……」

 

 そういえばブラドの趣味は動物(※人も含む)虐待だったな。

 親が別に隠してない場合、親の趣味が子供も似たような趣味になる事は普通にあり得る範囲である。

 直接会ったことでトラウマが噴出して、少しでも安心を得ようと来たというわけか。

 すすり泣く理子に

 

「……寝てる間は胸くらい貸してやるよ。あと俺は寝たら結構忘れる」

 

 振り向いて、泣き顔を見られまいと顔を伏せた理子の頭をそっと抱く。

 そうすると理子は堪えていたものが決壊したのか――うわぁあ――とくぐもった泣き声を上げる。

 理子が泣き疲れて眠るまでそうっと頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 似合わないコウモリのイヤリングを睨みつけながら




キンちゃんは強いことぐらいしか取り柄ないだろ見たいなニュアンス

ワトソン

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