遠山キンジの独白 作:緋色
エレベーターを乗り継ぎ、上へ上へと向かう。
夜の東東京はまるで航空写真の様だ。こんなときじゃなければ写真でも撮って志乃ちゃんに自慢したいけど。
「こっちが知らんだけでワトソン側になんかのリミットがあり、エロ同人みたいに実力行使に移ったということか。エロ同人みたいにエロ同人みたいに。……よし殺そう。罪状は結婚目的略取誘拐でいいな。表沙汰にできれば婚約破棄は確定だろうから最悪アリアの身柄さえ確保できればいい」
……怖い!
いつもならヘラヘラと笑って楽しげに話してくるのに、無表情で小声でなんか言ってるの滅茶苦茶怖い…!
早くエレベーター着いて!?
「おい。間宮」
「ひゃい!?」
「もしワトソンと金髪がいたら俺は金髪を相手するからワトソン相手に時間稼ぎしろ。仮に俺が敗北したら即時撤退。お前の逃げ足なら逃亡して
「トリアージレッド」
トリアージは医療現場で搬送・治療の優先順位がもっとも高い識別だったはず。
……え?この人がいて負けるの!?アリア先輩が(非常に不本意なことに)強さだけは一目置いてる遠山キンジでも!?
「何驚いてるのかは知らんがバケモノ相手なら分が悪い。本来罠張って嵌め殺すべき相手だ」
「……そんなにヤバイ相手なんですか」
「お前が
潜水艦乗り……?夾竹桃はイ・ウーだって言ってたからまさかワトソンもイ・ウー!?
故郷を焼き払ったあの……。
「武器は構えとけ」
「は、はい」
ベレッタを取り出す遠山キンジの言葉に不承不承であるが従ってUZIを抜く。
エレベーターが辿り着いた場所は第一展望台。
むき出しのコンクリートで足元を固めただけの床に機材が不規則に置かれているだけの殺風景な場所だ。
「いない……?もっと上にいる…でしょうか。上へのエレベーターは――」
「いやワトソンはこの階層にいるみたいだ。そうだろワトソン」
スンッと鼻をひくつかせて虚空へと話しかける遠山キンジ。
「出て来いよ。それともお仲間がいないと不安で出てこれないか?」
その言葉の瞬間周囲の空気が張り詰める。
あたしや遠山キンジからじゃない。ワトソンの殺気だ。
「それは君の事だろう。まさか君が後輩を巻き込むとは想像もしなかったよ」
「強いて言うなら巻き込んだのはお前で。これは勝手に首突っ込んできただけだ」
どこからともなく響く声に、答えながら周辺を見渡す遠山キンジ。
会話してる間に辺りを見渡してはいたがワトソンもアリア先輩は見当たらない。この階のどこかに隠したのか?
「……?もしかしてこの階にはいねえのか?友達じゃねえの?」
「彼女は気位が高いからね」
「ふーん。あぁ。上か…。カメラ越しに見てるのか」
よくわからない会話をしながら何かを見つけたのか虚空に中指を立てる遠山キンジ。……カメラ?
薄暗い中で見つけにくいが実際その方向にカメラのようなものが見える。あの一瞬で見つけたのか。
そしてアリア先輩は上にいるのか!
「他所見とは余裕だな。トオヤマ」
「
「ずいぶんと舐められたものだ」
「
「黙れトオヤマ!……それより何しに来た」
円形の展望台の反対側の機材の裏で人影らしきものが動いた。ワトソン!
「そんなに不思議か?バスカ―ビルのチームメンバーを取り返しに来ただけだ」
「アリア先輩を返せ!」
「アリアは渡さない。トオヤマ。アカリ。今ならまだ殺さないでやる――帰れ」
「お前、アリアをどうした」
「薬で眠らせてある」
「いいのか
「婚約?ああ。それは形だけのゴッコ遊びのようなものだ」
な、なんですとー!?
アリア先輩は平静を装うとして滅茶苦茶悩んでいたってのに
ごっこ遊び!?アリア先輩の純情をもてあそんでたっていうの!?
「?だからアリアと結婚しようとしてたんじゃねえのか?ネームバリューがあって程々の賢さだし。家庭に放り込めばいいと」
「ワトソン家としてはそうならないだろうね。――どっちにして君には関係無いことだ」
遠山キンジは別に本命がいてアリア先輩を妹扱いしてるだけだけど。ワトソンは明確に騙しに行ってる……!
生かしておけぬ!
「間宮。うざったいから怒気と殺気抑えろ」
「あんたは許せないよね!?アリア先輩を弄んでるなんて」
「敬語吹き飛んでるぞ。ちょっと頭冷やせ」
ゴツンっと頭上から音がし、痛みで頭を押さえて悶える。
「あ、頭が割れ――」
「痛いだけで怪我すらしてねえよ。――ポンコツは置いといてアリアの母が義母だとかなんだか言ってただろうが」
「――正式にボクのパートナーになるには、アリアは頭が悪すぎるしな。教育が必要だ」
「成績はいいんだけど。否定はできねえなぁ。さっさとけり付けるか」
「やる気か?トオヤマ。先に言っておくが――
「知ってるよ。バカみたいな宝塚が取引で無罪になったって知ってるからな。ホントふざけた話だ」
「タカラヅカ?――兎も角彼女を下がらせたまえ。君にとっても邪魔だろう」
「やさしいねぇ。そういうわけだ間m「あたしがやります!」――なんで?」
「さっきワトソンはあたしに任せると言ったじゃないですか」
「それは敵がワトソンだけじゃな「何よりアリア先輩を弄んだ罪!万死に値する!」――もういいや。勝手にしろ」
手札晒したくないしなと続けた遠山キンジは煙管を取り出して一服し始めた。
妙に似合ってるのが腹立たしいが任せてくれるようだ。
「君はアリアのアミカだね?アリアとのデートをストーカーしてたようだが――君の立ち入る領分じゃない。君が死んだらアリアは悲しむだろう。帰りたまえ」
「帰りません。敵前逃亡は校則違反ですし。アリア先輩の為――そして間宮一族を襲ったイ・ウーを見逃すわけにはいかない!」
「イ・ウーは崩壊したよ。仕方ない君たち二人は事故死――いや駆け落ちにした方が都合がいいか?」
カシュっと小さい音が聞こえた。
これは授業で聞いたことがある。一時的に集中力が増し夜目も利くようになる『ネビュラ』なんかの中枢神経刺激薬だろう。
忍びの丸薬にも似たような効果があるモノがあり、そういったものを使った敵は手強いと習った。
「一応アドバイス。パワーもスピードもアリアよりは劣るがワトソンの二つ名は
掛けられる声を後ろにしワトソンへ向かって間合いを詰める。
近づくにつれワトソンの姿が明らかになっていく。
闇に紛れる黒一色の防弾・防刃ベストにコンバットブーツ。背面はマントのような長い防弾コートに守らせている。
逆に頭は無防備だ。
怒りで頭に浮かんだ考えを振り払って、ワトソンの胴体を狙ってUZIを撃ちまくる。高速で連射する
「おっとあぶないな」
ワトソンは明らかに遠山キンジの方向を警戒しつつも軽々と避け、
「こうするつもりだろ?」
取り出したSIG SAUER R226Rを速射し、防弾制服とネクタイで固く守られている心臓の真上と軽々当てた。
「かはっ――」
訓練で防弾制服の上からの銃撃には慣れている。それでも呼吸ができずに倒れてしまう。
――これは古武術で正確な打撃で呼吸困難にするパンチの応用……!?
「君は帰りたまえ。さて待たせたねトオヤマ。次は君だ」
「――俺は正直間宮の事はあんまり認めてない。我儘で俺の事下に見てる様で変なことで突っかかってくるしな。姉妹揃って変なところで似てるわけなんだが」
「なんの話だ」
煙管を咥えて遠山キンジは嘯く。
「――根性だけはしぶといと思ってるよ」
「確保ぉ!」
「なっ!まだ動けたのか!?」
こちらから目を逸らして隙だらけだったワトソンに組み付いて引き倒そうとするがチャキンという金属音に悪寒がして慌てて飛び退り――間に合わず髪が数本斬られた。
「
「君とやる前にネタばれしたくなかったよ」
「その前にあたしが逮捕するよ!」
組み付いてわかったけどワトソンは結構華奢で筋力はあまり高くないようだ。あたしを振り払えずにカメレオン?の刃を出してきた所を見ると接近戦は武器頼り。
肉体だけの格闘ならなんとか勝てそうだけど
「謝罪しようあかり。君は取るに足らないDランクだと思っていたが――アリアのアミカにした見どころはあるようだ。もう油断しない」
そう言ってカチャカチャと音を立て、肘や膝、ブーツの踵から短いブレードの曲刃が飛び出す。
持っている銃も腕前はプロ。UZIはさっき倒れた時に飛んで行っちゃったし――まだまだ成功率は2/5って所だけど、もうこれしか手がない。
古流空手の様に膝を曲げて腰を下ろし開いた右手は捩じって前に突き出し、左手は捩じって引いて首筋のあたりにおく。
「見たことない構えだが。飛び道具が無いのなら近寄らずに撃たせて貰おうか!」
さっきとは違い頭に狙いを付けたワトソンに応じる様に全力疾走し、その場で全身をスピンさせドリルの様に地面と平行に飛ぶ。身体の正中線を軸として回りながら右手を前方に突き出す。
「
千の矢をすり抜け敵を破壊する間宮の奥義。
全身を回転させるジャイロ効果によって、人体のパルスの振動を増幅・集約し、先端となる右手に触れた万物を破壊する技だ。
拳銃で撃った程度の弾丸は当たる事もなく通り抜け、ワトソンの装備で最も防御の厚いコートの上から防弾ベストへと当てる!
「キャアァァァ!?」
女の子みたいな悲鳴を上げるワトソンは万物を破壊する振動が防具で減衰され粗雑な振動となり体内で相互にぶつかり跳ね返り外へと逃げ――服をビリビリに引き裂いて胸のところに巻かれていた包帯が弾けてふるんっとしたふくらみが露出し、パンツだけという下着姿となって意識が途絶して倒れる。
――胸のふくらみ!?
「ワトソンって女性だったの!?」
「最初から女だろ。お前は今まで何を見てたんだ」
遠山キンジはそう言いながらいつの間にか脱いでた制服の上着をワトソンにかけた。
「ワトソンが女だって知ってたの!?」
「?見ればわかるだろ。隠してないんだし」
志乃ちゃんに頼んでいろいろ調べたけど全部男で登録されてましたけど!?
あれ……
普通に間宮が勝っちゃった……
まあいいかヤバいのまだいるし