遠山キンジの独白 作:緋色
気温というものは100m上がるごとに0.6度ずつ下がるし、時刻は夜中だ。地上も秋風で肌寒かったが、ここは冬山のように冷たかった。
見てみるとエレベーターは柱にマジックで『435m』と書かれた所まで続いており、そこからは鉄パイプと鉄板を組んだだけの簡素な階段が上へと続いていた。
鉄骨は剥き出しで、 安全柵も金網とワイヤーで作った適当なものだ。
「これ途中で壊れねえよな?安全基準守られてるよな?」
しかし登らなければ始まらない。
リタイアしたエルと間宮は電撃のショックで
その際に戦おうとするエルが邪魔だったので避難するように言い含めたが、せめても償いだかなんだかで渡された
架齢400年の十字架から削り取った純銀を張り付けたとかいう剣だが――オカルトに詳しくないのでどの程度のすごい剣なのかはまったくわからない。
斬れ味はそれなりっぽいが思いっきり振ったら多分折れるなこれ。いや折れはしないかもだが純銀メッキは破損しそうだ。
なんで衝撃波だす想定で作らねえんだよこれ。
ヒルダが仮に
……悩みどころである。
上着をエルに着せてるからスクラマサクスは腰に佩いている。適当な紐があったから急ごしらえだけどな。
「ちょうどよかった聞きたい事があってよ」
「なんだキンジ?」
階段の上の方。踊り場に理子が立っていた。
見下ろす瞳に光は見えないし、何を思っているのかもわからない鉄面皮の顔。蝙蝠のイヤリングだけが不気味に星明りを反射し光っている。
だからこそ先に聞きたいことを聞く。
「理子。
ヒュゥゥゥと一際音を立てた風が流れる。
……寒い!
理子にはそれには答えず諦めたような笑顔を作り――
「どっちだと思う?」
「どっちでもいい」
間髪入れずに答えを返す。
「正直、敵だろうと味方だろうと別にお前の意思ならそれはそれでいいんだわ。売られた喧嘩は〆るだけだし。大体お前俺の事獲物だとか何とか言ってたしな。ただ――」
「楽しくなさそうだから聞いた」
理子はブラドに監禁されてたせいか根は結構ネガティブなところはあるが学校だのオタク趣味だの素で楽しんでいるのは知っている。というかそうでもなかったらハイジャックの時より前に多少仲良くなることは無かっただろうし。
「楽し――」
「無理して納得しなきゃ行動できないなら楽しくねえだろ。俺は上から命令されても必要ないならやらねえ派だし」
人助けとか悪党退治とかじゃなければ普通に出動拒否するし。クロメーテルで学校案内作るってときは逃げ回ったし。
「檻の中だか地獄の底か知らんが繋がれてるならどうにかしてやるよ。その後の自由な翼で。世界旅しようがアリアをおちょくろうが。俺を殺しに来るなら殺しに来い。好きにすればいい」
殺しに来られる覚えはないけど、知らん所で恨み買っててもおかしくないしあり得なくもないのがな。
「下に夾竹桃がいる。蝙蝠の毒に心当たりあるから解毒薬作れるってよ。逃亡ならジャンヌが手伝うだろ。俺は役には立たねえからその後は任せるが。というか俺に喧嘩以外で期待すんな」
特に邪魔になりそうにないのでそのまま通り過ぎ、
「俺はヒルダに勝つぜ?期待はしない方がいいかもだがな」
その言葉に反応したのか袖を掴んで引き留められる。
大した力ではなかったが震えに足を止めざるを得ない。
「……ヒルダは!殴りに来るブラドと違って魔術や催眠術なんかの搦手を使う!真っ当に戦いなんてしないし、したとしても魔術を使いこなし強い!キンジ死ぬぞ!帰って!アリアは――隙を見て逃がすから!」
「やだ。俺の方が強い」
「ブラドの時は偶然生き延びられただけだ!あたしとアリアが協力して――他にも奇跡が重なってギリギリ勝てただけだろ!あの時も力尽きて心臓が止まって――死んじゃうかと思ったんだから!だから――いかないで」
……。
「ブラドが脱走してきたとして勝てるように鍛えてきたつもりだ。というかブラド相手に判定負け扱いされてんのほんと納得いかねえ。ほぼ俺が勝ってただろ。どう見ても俺一人なら負けてたとかふざけんなとしか思えねえよなぁ。タイマンじゃなきゃ認めないってのか?」
あー、思い出したら腹立ってきたが。ベルセには程遠いな。
「違う!わたしは」
「違わねぇよ」
強引に振りほどいてぐちゃぐちゃの理子の泣き顔を拭ってやる。
「俺は死なん!多分!そもそも死ぬまで戦う気はない!」
勝つために戦うので。
「正々堂々戦うし、負けそうだったり面倒くさいなら逃げるし、奇襲も死んだふりも何でも使う」
「弱かろうが強かろうが悪は倒すし、助けを求めてなくても助けたいなら勝手に助ける」
「義見てせざるは勇なきなり」
「俺は武士でも戦士でもない――遠山キンジだ」
ヒーローには相応しくないがなぜか理子が動けなくなっているようなので、そのままにして上へと向かう。
泣き顔はあまり好きじゃないんだ。
喧嘩の動機なんてそれぐらいでいい。
上にヒルダがいるのは確定したか。上から何というか圧のようなものを感じる。人ではない何かの相手はあまりしたわけではないがそういうのが発する殺気みたいなものか。
アリアを攫って理子を泣かせて、殺気でお出迎えかホント悉く感情を逆なでする女である。
吸血鬼の不死身性に加えて相手が女というので女に甘くなるヒステリアモードではなくベルセに入れるか不安だったが――なれたな。
死なない程度に殺すなんて繊細な手加減はできないが――これで勝負の土台に立つことはできた。
スカイツリーは吹きさらしの450mの第2展望台付近までしか出来ておらず真上は、空。
機材は周辺に片付けられていて、丸くコンクリートの床が広がっている。
照明はあまり明るくないものがあちこちにあって、床を不規則に照らしていた。
その中で異彩は北側の一角の祭壇。
漆黒の枢が、鮮やかな真紅のバラで飾り付けられている。
あの大輪のバラはかつてブラドが『アリア』と名付けた新種のバラ。
それが大量に集められて、棺桶を埋め尽くすように添えられているのだ。その周囲には霞草代わりなのか、絡み合うツタ植物がこっちの足元近くまで伝っていた。
――いるな。
あの中に。
古の吸血鬼退治は棺桶に入っている吸血鬼に棺桶ごと杭で刺して退治するものだと聞くが……流石にバレてるから無理か。
「俺、参上」
「身分は弁えてるようね。礼儀はなってないけれど」
北側の豪華な黒柩からフリフリの日傘が出てきた。蓋を開けすらせずに。
くるくると、ふざけるように回す傘で顔を隠しつつ、ヒルダは棺桶のフチに脚を組んで腰掛ける姿勢で浮かび上がってきた。
「
「
裏理子……素理子?
どう書けば正解なんだ……