遠山キンジの独白 作:緋色
さて、エルが言うにはヒルダはジムナーカス・アロワナ――発電する魚のDNAを吸血で取り入れ、ロレンチーニ細胞─生体的な発電器官を使って使う生理的な力を素粒子を操る――らしい。
この時点でよくわからないが電気を操ったり壁抜け出来る能力という事らしい。
……物理全無効って事かと思ったがそうでもなく無敵時間中は壁抜け出来るマリオのバグみたいな感じ……か?
あと催眠術が使えるとか。
「曇ってきたな。吸血鬼とやるなら満月の方が映えるだろうに」
月明かりがあればもっと明るくて戦いやすかっただろうが――ヒルダの姿は見える。
蝋細工のように白い肌。その中で妖しく輝く、切れ長の赤瞳。紅のルージュに彩られた唇。先端に縦ロールを掛けた金髪のツインテール。キレイに筋の通った鼻先。それが何段にも重ねられたフリル、機械織りではない手作りのレース、黒絹のリボンで豪華に飾られたモノトーンのドレスは退廃的・魔的な感じであり、魔物のヒルダには、違和感がない。
傘以外に武器のようなものは見えないな。ブラドみたいなゴリラタイプか?
「ふふっ。見とれているのね。お前たち人間が名も無き雑草なら私たち吸血鬼は手入れの行き届いた温室のバラ。天が与えたデザインからして、もう違うのよ」
俺の視線に気づいたのか、脚を挑発的に組み替えた。
ブラドの説明じゃ計画的な吸血してない吸血鬼は自滅したらしいので――バラの例えは秀逸かもな。
パニエで贅沢に膨らませたミニ丈のスカートの下、太ももに伝うガーターベルトの横で、白いイレズミのような目玉模様がちらっと見える。
吸血鬼の弱点である魔臓とやらがバチカンの呪いか何かで目玉模様が浮き出ているんだったか?あの位置にあるはずだ。あと2つは見当たらない。ブラドは魔臓をほぼ同時に4つ破壊しないと倒せなかったがヒルダの魔臓の数がわからないな。
というかブラドは口の中に一つあって隠してたな……。となると話させて口の中を見るべきか――見えるのかそれ?
とりあえずやってみるか。
「好きなだけ見なさい。星を見る犬のように、決して手の届かぬ高等種―それも異性の私を。恋い焦がれなさい。希いなさい。ただ見る事しかできないのだから、せめて、見るのよ。ご覧、ご覧、目を逸らさずに……」
「ああ、見るさ。身体の隅々から口の中まで調べないとな」
んべっと舌を出して指差してみると――なぜかヒルダは口元を押さえて隠す動きをする。
口の中にやはりあるのか?目玉模様が。
「トオヤマ。私は美しいからムリもない事だけれど。事故だの言い訳しといて――やはりケダモノね!」
「なんの話だ。雑草じゃなかったのか?」
魔物がなにを言ってやがるんだか。
あれ?なんか身体の動きが戻った感じがするぞ?眠気が晴れたかのような……?
カナ姉に呼蕩かけられた時みたいな……催眠術にかけられてたのか?だとしたらペースを握られるのはまずいな。
「アリアはどこだ?そこの棺桶にしまってるのか?」
場所がわかれば巻き込まないよう気を付けて戦えばいいが、最悪影の中に収納しているのであればヒルダを殺さずに捕らえなければならない。どうやって取り出すんだ影の中。
……め、めんどうくせぇ。
イラっとしたので睨み付けるとヒルダは気を取り直そうとしたのか元の余裕そうな雰囲気を取り繕う。
「トオヤマ――いいわ、その眼。魅力的よ。今のお前なら私専用のアクセサリーにしてあげてもいいくらいだわ」
「じゃあ俺が負けなかったらお前が俺のアクセサリーになんのかよ?」
「俺のアクセサ――!」
なぜかヒルダは頬に紅色を浮かべた。何を想像したのか何をさせるつもりだったんだこいつ。
というか人のアクセサリーって何だろうか。髑髏でも飾るのか。
いやブラドの骨から出来たブラドナイフは対オカルト性能めっちゃ高かったしヒルダもありか?アクセサリーというか装備素材だが。
「…で、そこの棺桶なんなん?俺の名前書いてるみたいだが――アリアの名前も書いてるのもあるのか。この中か?生きてるのか……?」
話を逸らしつつヒルダの座っている豪華な柩とは違って質素に見えるがマホガニーの柩だ。
「まだ生きてるわよ。アリアはたっぷりイジメるつもりだから。それ――『柩』は終の棲家。たった数平方mとはいえ何人たりとも侵されざる個の領域。
「貰えるもんは貰っておくが」
なんか電気コードみたいなケーブルで繋がれてるんだが。棺桶じゃないのかこれ。
持って帰るの面倒――そういえばワトソンに上着渡したままだから手錠すら持ってねえな俺。
「帰りはこれでお前を持って帰るか」
「!?」
ヒルダのデカい上に豪華な棺桶よりは軽いだろう。たぶん。
それに封印手段がないので首と手足切り落として別々の柩に収めれば再生しないんじゃないかな。酒の席で聞いただけだがメーヤさん曰く、ヒルダは首を落としても死ななかったらしいので最終手段はそれを試すか。
アリア回収した後は生きてたら玉藻にでも押し付ければいいか。
んー!んー!
と、ヒルダの足元――バラに覆われた場所から何かを抗議するような鳴き声?が聞こえる。
「あら起きたみたいね。長話しすぎたか。トオヤマ相手だと調子狂うわね」
ばさばさっとヒルダの翼が羽ばたくと、その風が枢の周囲のバラを吹き飛ばし、隠されていたアリアが倒れていた。バラの花で隠されていたアリアは、ツインテールごと体に鎖を巻かれ、口を布で縛られていたのだがモゴモゴとしてたかと思うと、ぺっ、と口元の戒めを破った。
どうやら鋭めの犬歯で嚙み切ったようだ。
「この馬鹿キンジ!何ヒルダを口説いてるのよ!女ったらし!」
「元気そうで何よりだな。心配してたんだぞ。あと口説いてない」
「アクセサリーだの一緒の墓に入ろうなんて……!」
言ってねえ。
しかし抗議する前に影から鞭を取り出したヒルダが
「気高き
アリアの足首を、巧みなムチ捌きで絡め取って翼でバランスを取りながら、ムチを振り回してアリアを放り投げてきた。
ちょっ!?待てや!?
慌てて
が、勢いは多少殺せたものの10m近く転がったアリアはごつッ!自分の名が彫られた棺桶にぶつかって目をグルグル回してる。
気絶しただけのようだ。
「……ヒルダ。一応聞くが降伏する気はないか?」
「それはこっちの台詞だわ。使い魔になる気は?」
「魔はお前だろ」
「交渉決裂ってことね。――そうね。トオヤマの死体は串刺しにして剥製かしら」
「死なねえよ。俺は――武器はそれでいいのか?覚悟しろ」
佩いていたスクラマサクスを鞘を捨てて構える。
「バスカ―ビル・リーダー 遠山キンジ――たたっ斬る」
「
んっ、とヒルダが力んだのを見て大きくジャンプする。
その瞬間、地面に雷撃が這い回り――「きゃあああっ!」
転がっていたアリアは逃げる余裕もなく喰らったようだ。
ヒルダとエルの護送車の茶番の時に食らったものと同じスタンガン効果だろう。怪我することは無い!そして放電時間は3秒前後!
思いっきり上に刀を振ることで滞空時間を伸ばし、
ヒルダはそれを嫌がるように慌てて放電を途中でやめ大きく飛んで避ける。
が、帯電してるようにヒルダの身体は光っている。体内に電気が残っているのか刀で斬ったら感電しそうだ。
しかし
――なら
「九山八海――斬れぬものなし」
狙うは鞭を持った右腕!
「
着地と同時に走り出した俺はヒステリアモードの反射神経で爪先で時速100km、膝で200㎞、腰と背で300km、肩と肘で500km、手首で更に100km、それを同時に動かし刀の先は音速を越え
斬りかかると思っていたのか間合いを見誤ったヒルダの右肘にあたり、肘から先がちぎれるように飛ばす。
「なぁ!?」
驚いたのか右手を失ったのが原因か、帯電の光を失ったのでそのまま首を刎ねようと追撃するが。ヒルダが蝙蝠翼を羽ばたいて大きく飛び退ったので空振りしてしまった。
あの翼で結構動き変わるんだな……。まあ初見だったから避けられたが次は対応できる。
とりあえず腕を拾って一旦下がり、さっき捨てた
アリアを人質にされることを警戒してだが――ヒルダは想像以上に動揺しているようだ。
「トオヤマ。私に怪我を――いえ聞いた話じゃあんたの
ああ、ヒステリアモードの事を知っていたのか。さっきの銃も体勢悪くて簡単に避けれるものばかりだから自分を傷つける気はないと余裕の態度だったと。
「
さっき拾ったヒルダの腕を
これでたぶんヒルダが右腕生やさない限り右手は使えないだろう。
そしてヒルダの再生力はブラドには及ばず――ぐにょってる傷口から推測するに右腕を生やすのに半日は掛かるだろう。
「次は左ね」
なおキンちゃんは雌として見てるがキレてベルセなので死なないならいいだろ状態