遠山キンジの独白 作:緋色
「ヒルダ――あんたは闇の眷属。生まれながらの悪女だよ。でも……自分を貫いてる。ブラドが捕まって、最後の吸血鬼になったのに……誰の庇護も無く、戦い続けてる。理子よりずっと、自分が何者なのか分かってる。
理子が長々とヒルダに話しかけているが――俺が思う事は一つ。
……腕が痛ぇ……。
下手に戦闘モードから中弛みの交渉ターンに入ったせいか、ベルセもだいぶ切れかかっているのかアドレナリンが薄まったのか。兎も角腕が痛い。
カロリーも足りねえしあと
一応、長々話してる二人の邪魔にならないようにしながら移動し、理子とヒルダが決裂した場合はすぐに理子の盾として間に入るための準備をしておく。
「だから契約して。貴族と魔女のプライドに掛けてその場の口約束ではなく。殻金を渡してキーくんとアリアと理子に直接間接問わず攻撃として傷つける行為を禁止するって」
「……はぁ!?トオヤマがそれを言うなら兎も角言うに事欠いて理子が対価もなくそれを要求するの!?」
明らかになんか拙いこと言ったらしい。
「……契約って何?」
「キーくんは詳しくないだろうけど。悪魔とかライカンは契約を重視するの。ヒルダも闇の眷属。魔女としてそれは絶対に守る。……はず。口約束よりかは信用できるよ」
「ふうん?」
横目で言われたことを推定すると悪魔の契約って奴かな?確かにその手の内容の不備とか無い限りは守るだろう。
「俺は殻金返ってくるなら、それでもいいが……」
その契約こっちが一方的に攻撃しても反撃するなって内容だから了承しないと思うが。逃がすとも言ってないし。理子は気づいてなさそうだな。身の安全だけ考えてるのか視野がだいぶ狭くなってるのか、それともワザとか。
……雨が強まってきた雷雲もこっちまで到達したか……?
アリアは――よろよろとだが立ち上がってるな。あ、
「――トオヤマ。お互い不干渉の取引は撤回よ」
「あん?」
「理子!あなただけでも死になさい!」
バチッ
と理子の右耳で赤い鮮血が
「理子!?」
それに気を取られた瞬間にヒルダは大きく後ずさって、何かに気が付いたように空を見上げ
「Fii Bucuros」
あ、マズイ。
ガガーン
激しい落雷の音と共に、周囲を閃光が包み―――ヒルダに落雷が命中した。
「きゃああああっ!」
アリアが、パニックに陥ったような悲鳴を上げる。
閃光の瞬間は眼が潰されないよう咄嗟に眼を閉じた目を開けると、前方には高熱で蒸発した雨粒が水蒸気となって吹き荒れていた。
闇を流れる水蒸気が第2展望台をまるで異世界のように見せる。
「生まれて3度目だわ。
白煙の向こうに人の姿に戻ったヒルダが、心地よさそうに立っている。
その全身を覆う電光は、青白く、激しく、触れるどころか近づいただけで黒焦げにされそうな勢いがある。
耐電性なのか下着は残っているが、リボンは燃えて無くなり長い巻き毛の金髪が強風に暴れている。
「
人は神に似せて作ったみたいな宗教染みたこと言いだしたな。
「その状態のブラドを俺は討ったんだが?」
「お父様は帯電してなかったはずよ。そしてトオヤマは帯電した相手を苦手としている――でしょ?」
まあバレてるか。ブラドは完全に物理に振っていたから殴り合いという手が取れたがあれは無理そうだ。
人体の電気抵抗は、状態によって異なり、乾燥した状態では約5,000Ω、今の雨で濡れた状態では約500Ωほどだ。
そして20mA程度を何度か喰らったらスタンガンのように動けなくなるが、50mAだと死ぬ危険性すら出てくる。
そして雷は1万A以上である。
ワトソンに当たったあれが20mAだと仮定して5000Ωx20mA=100Vがヒルダの発生させられる電圧だろうが、雷を帯電させてるなら電圧が雷の半分以下でも即死しかねない。
詰みだな。
「――ぁ。キーくんごm「話は後。雷に腰引けてるアリア連れて逃げろ。さっきも言ったが下にあいつらがいるから逃げ切れるはずだ」
「キーくんは!?」
「俺の自由で死ぬまで戦う。勝つまでやる」
疲労が滲んでいるのが顔に出ていたのか希望が無くなったかのような顔をしている理子に言いつける。
今回の勝利条件はアリアと理子の救出なのだから逃げ切れれば勝ちである。殻金は今度に回せばいい。
「逃がすとでも?醜い
「相打ち覚悟なら斬れるぜ?」
「確かにトオヤマは近寄られたら何するかわからないのよね。
ツンと突き出た彼女の胸の前に、ピンポン玉のような黄金色の雷球が発生し、それが野球ボール程――バレーボール程――と、1秒ごとに大きくなっていく。
「『
そこからさらに二つ目の
マジかおい。魔術的に作られてるあれが本物の雷並みではないだろうが仮にワトソンの時と同じ電圧でも雨に濡れてる以上当たったら死ぬだろう。ざっくり計算で200mA。10倍は流石に死ぬ。
「制御が難しいけど――この距離なら
ヒルダは最初の
しまった!多少逃げ回って時間を稼ぐつもりがそっちは避けられない!
咄嗟に飛び出したところでやっぱりねと笑うヒルダに――ブチギレた。
「うちの妹に手出ししてんじゃねえ!」
沸き立つ
刀の先から
最初の
もちろん避けられないが避ける気はなく、回転しながら落ちてきたスクラマサクスのタイミングを見図らって、背骨から首にかけての桜花気味の頭突きで柄頭を捉える!
亜音速の頭突きを受けたスクラマサクスは最初の
スクラマサクスの勢いで切られたブラがその場に残るように倒れ始めるヒルダから人体より通す金属に雷が流れて弾けるのが見えた所で追撃の
「ざまぁみろ」
閃光が弾け――人が濡れた地面に倒れる汚い音が二つ同時にした。
「はぁ……はぁ……。私の顔に泥を付けるなんて……。黒焦げになっていようと許さないわ。さらに焼いてバラバラにしてネズミの餌にしてやる」
ヒルダは立ち上がり、ずるずると胸に刺さった剣を忌々しそうに抜く。
対してキーくんは――立ち上がらない。
「死んだのかしら?でもあの時も死んだ振りしたのよね……。近寄るなんてもってのほか。あと何回か撃ち込んでおきましょう」
「いや死ぬのはお前だけだよヒルダ」
スカイツリーで準備する間にもしヒルダに殺されそうになったら相打ち覚悟で使うつもりだった――念のために用意していたただの自暴自棄の為のそれ。
銃身を短く切り詰めた――ウィンチェスター・M1887
「
近すぎても遠すぎてもダメ。そしていまベストな距離に立っている!!
「理子の自由は諦めるよ。だからこれは――キーくんの勝ちだよ」
――ガゥンッ!!!
ヒルダのエネル顔は入れるの無理そうだなあと思った