遠山キンジの独白   作:緋色

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妹と

 おたまでフライパンをカンカン鳴らす 『妹目覚まし』なる行為でいつもより早めに起こされた俺は、かなめが用意していたトーストと目玉焼きを食べ、朝のルーティンであるラジオ体操第3までやったりとまあ兄妹?らしい朝を迎えていた。

 かなめは早起きして家事をせっせとしていたみたいで家中がキレイだし、ベランダでは洗濯物がはためいてる。本当に白雪みたいな働きっぷりだ。

 家事は妹の仕事と全部やる気らしいので微妙に手持無沙汰なまま、学校へと2人でバスに乗り、武偵高の生徒たちから再三好奇の目で見られまくった後にかなめは手続きが云々で教務科(マスターズ)の前で降り、そこから姿を消している。

 一応陽菜に監視する様に頼んでるが、まあ陽菜ならかなめに目を付けられても怪我することは無いだろ。稽古とはいえ本気で逃げたら俺でも捕まえるの難しいからなあいつ。

 そんなこんなでバスカ―ビルメンバーが休んでいるため比較的静かな一般科目の授業を終え、昼飯に学食にでも行くかその前にかなめが問題起こしてないか確認しに行くべきか迷っていた。

 

「あの……お兄ちゃんを呼んでくれませんか? 私、遠山かなめといいます」

 

 クラスの後ろの方のドアで、かなめの声がした。

 お前……ついにそこまで――となんか冤罪っぽいざわついている視線を受けつつ、かなめの元へ行く。

 

「もう! お兄ちゃん、お弁当忘れちゃダメだよ!」

 

 かなめはさっきまで弱々しく喋っていたのに、俺に対しては強めの口調になる。実にリアルな妹っぽい感じだ。逆に新鮮である。そして小さなバスケットに入った、サンドイッチを押しつけてきた。

 ……弁当とか一切聞いてないんだが。あれ?なんかデジャブを感じるな?

 

「おいキンジ~今度はどこの誰だ?また中等部(インターン)か?」

「ん?あー……。こいつ遠山かなめ。先週存在を初めて知った母違い」

「……母違い?」

「はい。母参照の50%のデオキシリボ核酸がコーカソイドで、父はお兄ちゃんと同じです」

 

 かなめがすかさず割って入ってきたことで、だいぶ空気が変わっていく。

 

「血筋か……キンジ。お前……やらかすなよ?」

「よくわからんが殴って欲しいのか?」

 

 とりあえず頭をボコボコ叩いてくる男子(アホ共)を二、三人しばいてから落ち着ける場所へと避難する。

 こっちは別に気にしてないけど――既成事実ってのが積みあがってるなかなめのせいで。

 こういう迂遠なやり口は白雪に似てるが、既知じゃないのでどこまで踏み込んでいいのかがわからず微妙に対応がしにくい。

 ……とりあえずパンより米派と伝える所からか?

 


 

 武偵憲章7条――悲観論で備え、楽観論で行動せよ。

 常に物事が悪い方へと進んだケースを考え、警戒を怠ってはならないのが処世訓だ。

 

「陽菜。おい、どこだ」

 

 放課後になり、かなめの動きはわからず姿を消し――なぜか俺を尾行をしているため、面倒くさいので放置して一般校区の外れにある公園に入っていく。ここで陽菜から報告を聞く約束になっているのだが……

 園内を見回しても、いないな。

 秋も深まり、日が暮れるのがめっきり早くなった。もうほとんど真っ暗だ。

 聞こえるのは、リー、リー……という微かな虫の音だけ。

 

(もしかして監視がバレて……かなめに何かされたのか?)

 

 などと疑心暗鬼になって電話すると――――着うたが、聞こえてきたぞ。和風庭園っぽく造られたこの公園の竹林から。演歌だな。昔陽菜と潜入捜査の実習でカラオケに行った時、アイツがどや顔で熱唱してた歌だ。

 

「――師匠」

 

 竹林に入ると()()()()()()()()

 いやこの声は陽菜だな?

 

「何してんだ……?」

土遁術(どとんじゅつ)にござる。師匠がバレないよう重々注意せよと仰ったゆえ」

 

 無線かと思ったがどうやら穴掘って地面に潜っているようだ。

 

「それはかなめにバレないようにしろって話だから俺から隠れるのはどうなんよ?」

 

 相変わらず天然でよくわからない事をする奴である。

 実力だけならAランクも取れるのだが諜報科(レザド)はランク詐欺が結構いるとはいえ、変に抜けているとかでBランクに格付けされている変わり種だったりする。

 まあ俺も探偵科(インケスタ)に移籍してDランク落ちしてるからあまり人のことは言えないが。

 

「で、どうだった?」

「はっ。師匠が仰った通り、妹君(いもうとぎみ)は今朝、転入して来たでござる。御年は14歳という事でインターン扱いとなり、1年C組がお預かりする事になった。此は僥倖にて、拙者と同じクラスでござった。廊下で斉藤先生と沖田先生のお話を盗ませて戴いたところ、米国武偵庁より留学依頼があったそうでござる」

 

 ?アメリカ国防総省(ペンタゴン)じゃなくて米国武偵庁……?いや武偵の管轄はそこだからおかしくはないんだが、テラサ?とかいうのがアメリカ国防総省(ペンタゴン)とロスアラモスのみという話から考えると担当はアメリカ国防総省(ペンタゴン)だと思ったのだが縦割り行政的に手回しが早過ぎないか?

 政治家とのつながりが強いのか?うーん。考えれば考えるほど面倒くさい感じがしてきた。

 

「授業中はどんな感じだった」

「凛として御座る。頭脳明晰にて身体健康、模範生とお見受けいたす。何でも衛星通信を介した授業にて、マサチューセッツ工科大学(MIT)を12歳でご卒業なされたとか」

「冗談だろ?」

「マジのようにござる」

 

 マサチューセッツ工科大学

 コンピューターサイエンスや半導体開発、IT技術、電子工学など先端技術分野で画期的な研究が数多く行われるアメリカを代表する名門校で大学評価機関がずっと上位いや十数年トップだったか?の全米最難関大学

 

 ちなみに武偵高の偏差値は45いけばいい方である。

 落差がひどすぎるが、ギフテッド教育だと考えるとかなめ――GⅣの妙に俺に執着している行動も理解できなくはない気がする。アメリカはギフテッド教育――優秀な成績な奴を飛び級させてでもどんどん成長させろという教育を支援していたりして知識と心と体の成長が伴ってない場合があると聞いたことがある。

 そう考えると父も死んでるし母に興味なさそうな、かなめが家族を欲して俺に執着する――あり得るな。ジーサードは何なんだよという疑問は残るが。

 それで俺の周りの女性関係を切ろうとしてるのもそういう方向か?

 どっちにしろ人間関係の悪化は面倒事しかないので対策は……明日にでもやるか。思いつかねえし。

 

「……んで対人関係は?」

「級友からの評価は良好にござる。妹君は礼儀正しく、楚々とした気立ての良い子女ゆえ人望を集めてござる。ただ、親しく話されるのは女子のみでござった。男子には距離を置く向きが見られたでござる」

「まぁ……だろうな」

 

 女版の体質が想像通りだったらそりゃあ避けるだろうしな。

 俺も割と一線ひいてないとエロゲ時空に取り込まれそうな気がしてるし。

 

「妹君は、兄上――つまり師匠を賞賛されてござった。この話術が巧みの極みにて、1年C組の女子における師匠の評価も鰻登りに高くなっているでござる」

「なにしてんだあいつ?」

「たとえば先月アンケートをしてみたところでは、50%の女子が師匠の『タラシ』というアダ名を知ってござった。それほど元々警戒され気味でござった師匠でござるが――」

「お前もなにしてんの?」

「―――今やC組の女子では師匠に興味を持つ者が増え、某にまで『陽菜は遠山先輩と付き合ってるの?』などと弁えの無い質問をしてくる者もいる始末。師匠はどう思われるか」

「……俺彼女いること別に隠してないし、たらしてもいないはずなんだがな。何考えてんのか知らんが俺の悪評で困らない用の手立てかねぇ?」

 

 兄が問題あるから自分もそうみられてはたまらない――そんなわかりやすい理由ではなさそうな気がする。

 

「――そういう事ではなく……」

「じゃあなんだよ?」

「……後は、妹君はご自分に課されたご自分のルールも語られてござった。『他人への卑怯な事と乱暴は禁止』と『自分より強い者には絶対逆らわない。非合理的だから』との事でござる」

 

 前者は説教の効果かな。後者は状況によりけりだがあまりよくないか。

 

「了解だ。 この辺にしとこう。 手間をかけたな」

「師匠の御役に立てて、光栄に御座る」

 

 そのまま帰ろうとしたところで「師匠ぅ……」とタケノコに呼び止められる。

 

「なんだ?まさかと思うが出られないとかじゃないよな?」

「その……面目ない」

「――その欠陥は早急に無くすか使えない術として廃棄しろ」

「早急に改善するでござる」

 

 改善したところでこの地面に潜る術が必要なシーンがわからんのだが。陽菜なりに考えでもあるのかな?

 どうでもいい事を考えつつタケノコを掴んで引っ張ってみる。

 ぐい!……ぐいぐい!……と何度か力を籠めて引っ張るとタケノコが引っこ抜けてその下の取っ手にぶら下がった陽菜――を収めたビニールシートが地上に露出してきた。

 砂とかで身動き取れずに窒息しないための対策だろうけど安物でも結構やれんだなあ

 と感心したところで俺に背を向けてるように出て来た陽菜は穴を駆け上がるように勢いよく出たもんだから――タケノコを持ってた俺はバランスを崩してしまい――

 ばさぁ!っと陽菜を背後から押し倒すように倒れ――陽菜は四つん這いで俺はその上に覆いかぶさってる。そしてつい癖で俺の腕はセーラー服を着た陽菜の胴を抱くように回っていた。

 さっき下には陽菜が身体に巻いてたビニールシートが広がっているのでもうそういう目的で竹林にいるようにしか見えんだろこれ!?

 

「――な、なななっ、なんで御座るか師匠ッ!」

 

 ポニーテールが直立するほどビックリして、四つん這いの陽菜が慌てて顔だけでも振り返ろうとして、自分の首の真後ろに俺の顔がある事に気付きびきーん!と、むしろこの姿勢をキープするように固まってしまった。

 そして後方から物凄い殺気を感じる確実に今すぐ殺すというより後で確実に消すみたいなタイプの陰湿でわかりにくいタイプの殺気だ。

 真っ赤になってる陽菜には悪いが血流がバグって軽くヒスり気味の頭で全く別の事が頭に浮かんだが――今はこの状況が勘違いだと証明しないと絶対マズイ。

 

「これは、ど、どういう意味にござるか……っ?と、殿方と結納を交わす前に、そんな事をしたら……そ、某、父上と母上に怒られてしまうでござる……。あ、いやきょ今日はそういう事になるとは思っておらず準備も整っておらず……その土汚れが……できれば初めてなのでその優しく……」

「ちょっとなに言ってるのかわからない」

 

 いつものノリだと反撃が来るので反射的にタケノコを放り出してそのまま制圧に動いた結果動けなくなった陽菜がなんか妙な勘違いしてる気がする。

 制圧を解いて立ち上がりつつ

 

「急に体当たりしてくんじゃねえよ。反射的に制圧しちゃっただろ」

 

 極めてニュートラルな自分を意識して告げると

 

「え?あ……へあ!?そそそそそれはご無礼を!」

 

 何かを覚悟してたような陽菜はキョトンとした顔になったと思ったら薄暗い中でもわかるぐらいさっきよりも赤くなったと思えば土下座された。

 

「無礼というか気を付けろって話なんだが」

「師匠は悪くないでござる!某の精神が未熟だった故舞い上がってしまい!」

「舞い上がったというか駆け上がった感じだったが」

「奥方よりも早くとよぎった不忠者でござった!」

「マジで落ち着けなに言ってんのかわからん」

 

 多分噛み合ってはない。

 

「精神を鍛え直すで候!」

 

 とシュバババと荷物を纏めて逃げ去った。

 あの分だとしばらく俺から逃げそうだな。後ろの殺気も霧散してるから心配いらないかもしれんが、情報収集して戦妹(いもうと)だと知れば危ない気がするし――いやそれ知ったら逃げ足のある陽菜より桜ちゃんの方がヤバいか?

 先手打って会わせて釘刺すか




こんがらがってきた
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