遠山キンジの独白 作:緋色
「寝不足気味なんだが…」
「自業自得です」
「流石に俺悪くないと思うんだが」
寝る時全裸というひとみさんのせいで、まったく眠れなかった。思春期に刺激が強すぎる。無駄にヒスったから隠すのに苦労した。
無理矢理、先に寝ろって二人を寝室に押し込めたけど多分誤魔化せたからセーフ。
自分が寝る番になって残り香で全然眠れなかった事を除いて問題はたぶんない。
色々あったがターゲットの追跡でとあるオープンカフェで一服している。
カフェインが寝不足の身体に染みる…。
『そんな状態で大丈夫かしら』
「2徹夜ぐらいするならパフォーマンス維持できないけど1徹夜なら多分大丈夫。目を瞑ってたからだいぶ回復できたはずだし」
「それ信用できないやつですよね」
追跡中にお互いフォローするためにインカムでやり取りを行っている。
本気のエージェントに追跡はバレない保証はないから、一度追跡を撒かれて安心させる役割である。
素人の桜ちゃんの後、(授業評価では)プロ並みの俺が撒かれれば安心するだろうという二重トラップである。現役プロのひとみさんはいるとわかってても俺ですら姿形をつかませないから凄まじい。
そして掴んだ先は雑踏の中ではなくオープンカフェだったわけだ。
ちなみに印象を変えるために変装をして視界に入らない位置取りもあって一応バレてはいない。グラサンしてオールバックにするだけでチンピラにしか見えないと好評である。
「そういや今回の任務でうまくいったら何かご褒美あるの?」
『――男って皆こうなの?』
「遠山先輩が女好きなだけです」
「ボーナス弾んでくれって意味ですけど?」
『考えとくわ』
取るに足らない会話をしていると桜ちゃんが何かに気が付いたらしく合図を送ってくる。
「あの人が取引相手ですね。そういう匂いがします。でもあの二人からまったく同じ匂いがするのも変ですが」
「アレは…祖父か?なんか似てるし」
こういう時、便利だなその嗅覚。技術的なモノじゃなく体質的なモノだからマネできないのが尚更である。義の為に生きる一家に一人は欲しい人材だ。でも弱いからな…。この前も俺が脱臼治すためにダンプに轢かれた程度で取り乱しまくってたし、いや常識的でいいんだけどね?
「それ便利だね。分かれる前に職務質問から同行願うか。逃げた場合、爺さんは俺が追うからエージェントはひとみさんと桜ちゃんが担当って事で」
『なぜ?』
なんだろう?近くにいないはずなのに殺気を感じる。
いや近くにいるのかな?素直に思ったことをゲロっておこう。こういう時は素直なのが一番だろう。
「いや見た感じ若い方が強いし、爺さんは俺なら取り押さえられそうだしね。適材適所ってやつだよ」
『なら桜は?』
「俺は武偵法守るから殺さんけど、ひとみさんは必要無くても殺すでしょ。桜ちゃんが見張っといてね」
「努力はしますけど自信はないですね」
『信用無いわね』
「強さは信じてるけどそんだけだし。生かして捕らえたらポイント高いから半殺しぐらいで抑えなよ」
「半殺しも駄目ですよ。必要以上の暴力はダメです」
「キビシー。それは兎も角生かして聞き出さないといけない情報が多いんじゃない?怪我させずに捕らえた方が情報取る時楽だと聞くし」
『そうね。東の通り方面に若い方を逃がす様にしなさい。老人は確実に捕らえなさい。出来なかったらお仕置』
ゾクッ
無機質なお仕置発言に背筋が凍る。
マズイな緊張する。こういう時は失敗しないように一回別の事を考えるといいんだが。
――お仕置って何するんだろうか。
いや別のこと考えろって。しかしこういう時ほど思考がドツボに嵌って変なこと考えてしまうものである。こうなりゃ外部装置に頼るか。
「桜ちゃん。景気づけにお兄ちゃん頑張れ♡って言ってくれない?」
「失敗してお仕置されても助けませんから」
すげー冷たい目で見られた。
それが何故かひとみさんの目つきと重なり――駄目だ。なんかひとみさんの裸がフラッシュバックしたせいで甘ヒス状態になった。
「りょーかい。それじゃキンジ行きまーす」
甘ヒス。ヒステリアモードの中でも掛かりが甘い状態で。ヒステリアモードが30倍の倍率で強化されるなら甘ヒスは約5倍くらいの強化された状態である。しかし、掛かりが浅いため持続時間も短くヒステリアモードの時ほど無茶苦茶な事は出来ない。まあヒステリアモードに頼らないと勝てないとか戦えないとか論外なので素で鍛えてるから普通に強いのだが。
ないよりはマシだし、さっさと蹴りつけるか。
「ちょっとよろしいですか?お話聞かせて頂きたいのですが。パスポートはお持ちですか?」
そう言いながら警察手帳(偽造)を開いて
「◎×▼※ENABLE!?」
『逃げろ!』
最初の方は聞き取れなかったけどCVRで聞き覚えがあるから後半は聞き取れた。今のはロシア語か?あとなんか俺を見て爺の警戒度が跳ね上がったんだけど、なんでだ?
テーブルの上の物をぶち撒けて、視覚を妨害されたが大きくバックステップを取り、避けるのと同時に視界の端にターゲットの爺さんを捕らえる。若い方は既に逃げたようだ。なんもしてないけど東の方に逃げてるからヨシ!気兼ねなく爺さんを追える。
「御釣りはいらないよ」
五千円札をレジカウンターに投げ置いて、爺さんを追跡する。
あのジジイ足速い。とても老人とは思えない足腰だ。人混みに紛れるのは兎も角、小石やゴミを後ろを見ずに蹴り飛ばして目潰しやフェイク仕掛けて来るのは普通に勉強になるな。思ってたより捕らえるのは厳しいかもしれない。
「逃さねえよ」
銃撃は騒ぎになって追跡し難くなるから投石で大通りに逃さないように多少意識して投げる。当てるより曲がろうとする進行方向を妨害するように投げて誘導する感じだ。逃げる時はとっさの判断がずっと続くため、他に選択肢がないとかよほどの理由がない限り、反射的な逃げで誘導できる様だ。いいこと知ったな。
物を投げ合う追跡戦でたどり着いた場所はビルの工事現場だった。
身軽に鉄骨状態のビルを駆け上がっていく爺さんは隣のビルに飛び移って屋上に逃げる気か?少なくとも追い詰められたようには見えないし何か狙いがあるのだろう。
現場作業員の怒声を聞き流しながら入り込んだところで狙いがわかった。
クレーンで纏めて運ばれていた工事に使う鉄柱を纏めていた留め金を破壊し、回避不可能な物量として押し潰しにくる。結構な勢いで走ってるから急にも止まれないから避けられねえ!
死に掛ける目には遭いまくってるが圧殺されて肉塊なんぞにはなりたくはない。
どうにか出来そうな技は二つ。
鷹捲という千本の矢をスリ抜ける技を先祖がパクって生み出した、相手集団の乱戦じみた攻撃を読み切り安全地帯を移動する技だ。自らを安全地帯に逃げるという痛いのは嫌なので一番練習して習得――出来ずに術理だけ伝わってる欠陥技だ。そんなもん継承すんな。
重心を体の中心に置いて、相手の攻撃に対して回転扉のようにして受けて、相手の攻撃の力をそのまま返すカウンター技。習得するまで散々ぶん殴られた秘技であり、複雑なベクトルの攻撃の場合あまり意味がない。
……今思い浮かべたのを使っても死ぬじゃねえか!
進めば死ぬが進まなくても死ぬ。
こうなりゃヤケだ!前に向かって一秒でも長く生きてやる!
一発目の鉄柱は避けれたが二発目の鉄柱は避けれず当たる。しかし当たっても貫かれなければ多分死なない!無理矢理身体を傾け、そして気が付く。
坂道を転がり落ちるのは坂が固まっていて重力に従って落ちていくからだ。ならば逆に考えよう。
坂道が重力に従って落ちているなら、落下物の落下エネルギーを回転エネルギーに変換し、回転エネルギーを上昇エネルギーとして使えば転がり昇る事が出来る。
次々落ちてくる鉄柱を正確に見極め、死なないように身体全体を回し、次々に転がり昇って最後の鉄柱を転がり切った所で蹴り上がる事で4階部分まで登り切りジジイのすぐそばに飛びあがる事が出来た。
ヒスっている時なら演算力で被害0で通り抜ける事は出来たのだろうが、中途半端なヒス状態だったので被害を最小限にできずにだいぶ喰らってしまった。ノーマル状態だったらたぶん死んでいた。
死ななかったのはいいけど欠陥技だなこれ。
爺さんは俺を見て驚いたのか足を滑らせて落ちかけ――落ちそうになってる先に鉄柱あって貫かれかねねえ!?完全に体勢崩してて避けられない落ち方だからこのままだと爺さんは死ぬ!?
咄嗟に飛び出し、爺さんの頭が近かったが嫌な予感がしたので咄嗟に爺さんの肩を足場に思いっきり踏み蹴る。これでお互いに鉄柱からずれて地面に受け身とれてたからいいだろう。
爺さんが起き上がる前に近づいて逮捕する。
「☆▼○◎☆△○×■!?」
「…?ロシア語か?せめて日本語で話せよここは日本だ」
『ENABLEよ。この時代にはまだ活動してない筈だろう?貴様いつの時代から来た!?』
『英語じゃないですか。私は今を生きる現代っ子ですよ?』
『なんだその言葉遣い…?』
しまった。CVRでは外国語を最低二種類習得しなければならないから詰め込みで習わされて女言葉がデフォになってたんだっけ。ちなみに習得してるのは英語と中国語である。
『女に習ったもので』
『噂通りか…』
待って!?何で俺が他所のエージェントの噂になってるの?
ヤクザやマフィア関連以外で目を付けられている覚えはないんだが?
『なんで私を見てENABLEと?そっちのコードネームかなんかですか?』
『……知らんのなら話すことはない。LETHAL HOURは過ぎたようだが、この時代にいる限りは想定外の変化により何度でも起きるだろう事だ。さっきの動きでわかったが殺す気が無いならさっさと上に引き渡すといい』
…何言ってんだろうこいつ?なんか直訳しても意味の分からない単語があるから翻訳ミスかな?
時間稼ぎかもしれないし、さっさと公安に引き取ってもらうか。その前に二人に連絡っと。
「こっちは捕まえたけどそっちはどうなった?」
『ひとみさんが
「もしかしてそっちすぐ捕まえたの?」
『遠山先輩があと5分報告が遅れてたらトドメ刺してそっちに応援に向かったでしょうね。心臓に悪いのでもっと早く捕まえて下さいよ』
「血気盛んだね…。――ここの住所は」
手っ取り早く住所を伝えて、護送車が来るまで拘束を維持しておく。
工事現場の人達には指名手配犯を捕まえたとして警察手帳を見せて黙らせる。被害はあとで公安が補填するんじゃないかな…俺は請求されても払えんぞ?
キンちゃんは追い込まれると進化するタイプだから一年時点でも追い込まれれば相当強化されるはず
次で多少の解説して公安編は〆れるはず…?
原作何巻まで読んだ?
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