遠山キンジの独白   作:緋色

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シャーロックとボクシングの可能性もあるんじゃない?


うまくいかない

 鏡高(かがたか)組――菊代(元カノ)が継いだらしいヤクザ稼業に興味はないのだが、先日の件からノリノリでやってるわけでもなさそうなので調査と言ったところである。

 違法なことしてるならとりあえず潰すし、やらされてるなら助ける――まあお節介という奴である。

 元々俺は暴対の仕事していたこともあるし中学時代とはいえ武闘派のチャイナマフィアを倒している分、暴力団やマフィアには顔が割れている方である。

 とはいえ全員が知ってるとかそういうのでもなく知ってる奴は知っているくらいではあるが捜査がやりにくいことには変わりない。

 つまりその手の情報に疎い転職組が狙い目というわけである。

 大手の傍系の三次団体という格としても微妙なヤクザに人が集まるかと言えばそうでもなく、鉄砲玉でもそれなりに良し悪しとして使い捨てと若手に分かれる分とっかかりになりそうなのは一人しかいなかった。

 伊沢レオン――元ボクシングのライトヘビー級王者である。

 コロンビア人とのハーフらしく体格に優れているが――元々暴走族やっていた縁でボクシング引退後はヤクザになっているようだ。

 これをつり出すのは割と楽ではあるが上にいる菊代に悟られずにとなると想像以上に難易度が上がる。

 ヤクザ共は身内の結束によって生き延びる事を測ってる面があるしな。

 

「なんだ兄貴。そのだっせえ眼鏡は」

「ん?弱い者いじめする奴をひっかけるにはやはりナードかなって」

「なんで弱いフリする必要があるんだよ」

「強い奴じゃなくて損切が早い奴を捕まえたいからかな?」

 

 実家で適当に変装サンプルを試していたらジーサードに見つかったので適当に返しつつ面倒臭くなったのでそのまま出る事にする。

 やる事は単純でヤクザですらないチンピラを引っかけてレオンを引きずり出すという大雑把な策だ。

 まあチンピラにボクシング齧ってるから勝てたとかふかしとけば釣れる――かもしれない。一応武偵校の授業で格闘系のスポーツは一通りできるから嘘はついてないし。

 夕焼けの河原で殴り合えば友情芽生えて口が軽くなるんじゃなかろうか。

 


 

 見込みが超甘かった。

 それは認めなければならないだろう。

 

「その御方は格が違うよ」

 

 車内が見えないほどの違法なスモークシールドをした黒塗りのセンチュリーから聞いたことのあるハスキーボイスが聞こえたことで雑な作戦が失敗したことを悟る。

 鏡高組の下っ端と知り合い程度のチンピラである藤木林と朝青とかいう高校の不良クラスの雑魚に(ワザと)絡まれた後でもう一人いれば勝ててたと思い込ませるようにギリギリを演出して勝ったのだが……無駄だったらしい。

 想像以上に菊代がちゃんと報連相を徹底しているようだ。あれかな?遊び人の金さんとか名乗ったのが悪かったのかな?

 チンピラの喧嘩すら拾うとは大した耳である。適当にぶらついてたのは失敗だったかもしれない。

 

「ふん。オレにやらせな」

 

 昨日伸した二人はヤクザが出てくるとは思ってなかったのかビビりながらヤケクソのようにイキっていたが――伊沢レオンを引っ張り出してきたあたり人選は間違っていなかったようである。

 俺の想定が浅かっただけで。

 

「強いなガキ」

「そう思うならやめたら?」

「心配すんな俺も強えからよ!」

 

 ボディに一撃入れようとしてきたので半身になって避ける。

 わずかに眉を顰めたレオンは黒塗りのセンチュリーをちらっと見てからファイティングポーズをする。

 ボスに見られてるから引く気はないって事か……。面倒だがバレた以上、負けて舎弟として潜入ルートはなしだろう。かったるいが期待されてる視線を感じる以上、直接気に入られた方が良さそうだ。

 

「……アピールって大変だな」

「黙れ!」

 

 上手な体重移動で距離を詰めてジャブを繰り出すレオンだが――プロ崩れ。殴り合いの技術は確かに高いがあくまでボクシングとして――だ。強さは凄いのだろうが何でもありの路上の喧嘩(ストリート)と比べれば綺麗すぎる。

 蹴り(キック)や極め技(サブミッション)を想定してない立ち合いなんて路上の喧嘩(ストリート)じゃあり得ない。まあ雑魚(チンピラ)相手には十分だったのだろうが、現役でもない元プロの技術は何でもありの武偵からすれば戦闘能力は高くてBランクかそこらであろう。

 まあ病み上がり(リハビリ)には丁度いいか。

 齧った程度のボクシングの構えを取り、こちらもジャブで削る。

 

 ドッドッドッドッ

 

 お互いに肉を撃つ鈍い音が響く。

 ボクシングの禁じ手――腰から下や後頭部を狙わないあたりボクサーの王者として染みついた動きは取れてないらしい。

 このまま殴り合っても勝てるがそれだと観客が満足するかというと微妙である。

 なら――誘うか。

 ジャブの一撃の後、よろめくように攻撃の手を緩める。

 レオンはそれを勝機と見たのか大きく右の大振りを振るう。

 

「あ~~~!?」

 

 殴られるフリをして前頭骨――頭突きで迎え撃つことで、バンテージした程度の拳では耐えることもできずに中指と薬指を骨折させた。

 

「一発には一発だ。正当防衛パンチ」

 

 ゴスッ

 

 はた目には見た目の違いが判らないであろう右の大振りパンチでレオンの意識を刈り取る。

 衝撃張手(スパンク)は拳でもできるのは初めて知ったがやればできるもんなんだな。明らかに脳震盪を起こした倒れ方をしたが元とはいえ流石ボクサー。すぐに意識を取り戻して立ち上がろうとしている。拳だとうまく調整できてないのはあまりよくないな。

 と、ここで通行人にでも通報されていたのか「こらァー!何をやっているかァー!」と遠くからお巡りさんが走ってきた――流石にここで捕まるとめんどくさすぎる。

 諦めて一旦逃げるかと踵を返したところで

 

「ありがとうね。イキがってる鉄砲玉(ガキ)に薬をくれて」

 

 現代風にアレンジした和服を着崩して明るい茶髪に花飾りで結い上げた女ヤクザ――鏡高(かがたか)菊代が降りて来た。

 ……前回はバレたくなかったのでちゃんと見てなかったが中学の時よりだいぶ成長している。妙に背徳感があるのはなぜだろう?

 

「嗾けといてよく言うわ。どうせ俺に勝てないとか煽ったんだろ?」

「ふふっ。変わんないねえ。デートしよキンジ。あんたもそのつもりでしょ?」

 

 ……別にそんなつもりではなかったが見つかってる以上、虎穴に入らずんばって感じではある。

 

「相変わらず甘えん坊だな。――行くからとりあえずそれ下げさせろ」

 

 センチュリーのドアからUZIを向けてくる運転手を一瞥しつつ、菊代と共に後部座席に乗り込んでいく。

 

「き、菊代さん。俺も……」

「助手席は空いてるぞ」

 

 菊代が見捨てそうな事を言いだす前に適当言ってレオンを乗せると同時に警官がすぐそばまで来ていたから中に誰がいたか見えないように車が発進した。

 

「客人。こいつ(レオン)どうします?わかりやすく言うなら指でも――」

「もう折ったから制裁なんぞいらんだろ」

「やっぱりワザとだったんだ。甘いんだから」

 

 そう言いながら肩に頭を寄りかからせてくる菊代は――変わってないな。全幅の信頼を置いて寄りかかってくる感じが。

 運転手の言葉にビクッと身体を固めたレオンだったが俺の言葉に恐る恐ると力が抜けたようだったが後部座席の様子にガチで困惑してる様子だ。

 知ってる菊代と明らかに様子が違うんだろうな。菊代の事だし今まで敏腕ヤクザの面見せつけて辛辣と優しさの7:3で〆てたんだろうけど。

 俺からするとこっちの方が見慣れてるんだけどな。

 つい癖で髪を梳くように撫でると「にゃーん」とだいぶご機嫌なようである。

 昔よりべっとりで逆に困惑する。なんだこれ。

 

「事務所ですか五代目」

「……レオン。あんたはここらで降りて医者行きな。治療費は経費で出す。怪我治ってから事務所に顔だしな」

「っ。わかりました」

 

 適当な道端にレオンを下ろしてから事務所に連れていかれるのかなと思っていると

 

「紅寶玉(ルビー)。幹部は全員集合」

 

 少し斜(ハス)を向いて彼女は命令した。

 ルビー?




何となく依存型かなあって思う

あと来週は忙しいので(たぶん)休みます
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