遠山キンジの独白 作:緋色
連れていかれたのは千石にある一見さんお断りの店。
『
店内に入ってみるとルビー色と金色を基調とした華々しい中華系の店らしく、下着が見えそうなミニスカチャイナドレスのウェイトレスやノースリーブのロングドレスで出迎えてくるホステス達。
一般人と違った慣れを感じるあたり――まあ関係者だろうバイトレベルだろうけど。
水槽があっちこっちにあって、軽く皿を上げればぶち込めるようになってるあたり――『毒殺しません。疑うならここに入れてください』という剣呑さ。まあそっち系だな。一般人でもやな雰囲気は感じ取れるだろう。
「お店気に入らなかった?」
「いや?人が多いなと」
「――おいお前たちバックにいな」
癖で店内の様子を分析していたら菊代に感づかれたので適当に答えると、菊代が即座に人払いをする。
顔覚えられたかな?まあ今後関わることは無いだろうから気にしなくていいだろうが、今後動きにくくならないとも限らない。
今ノーメイクでわざとらしい傷跡とかで顔の印象を変えるとかしてねえしなあ……。実家に設備なかっただけだが。
奥にあるこれでもかと内装に金をかけた広い部屋に入ると――そこには大きな回転テーブルに食べきれないほどの料理と美酒が並べてあった。
気風の良さを見せつけるのはヤクザなりの親愛と歓迎――そして儲かってると見せつける威嚇だ。
表向きの看板を持てない分わかりやすい金があるというアピールが文化として根付いてるんだとか。本拠地のガサ入れなら何度かしたことはあるが、まあこういう場所への出入りはしたことがないので聞きかじり知識だが。
お待ちかねの表情でこっちを見ていた揃いの金バッジを付けた鏡高組幹部の皆さんと、同じテーブルにつく。
とりあえず偉そうに座ってさっくりと見回してみるとみんな改めて、こっちを見て――そして一様に「ああ」 と、納得したような顔をしてる。
武偵用語では『彼我の戦力比較』と言うが、要は相手が自分より強いか弱いかを判断するのが早くて正確なのだ。彼らは。
それもそのはず、ヤクザは弱い者から吸い上げ、強い者に取り入る能力が無ければ……のし上がれないのは当然、最悪、死ぬ事になるからだ。ガチで。
弱いと見たら即座に荒してくるネズミとかゴキブリみたいな存在なのだ。で、敵わないとみると敵対をとことん避けるわ生贄用意して逃げるわで、社会のゴミとして日本の裏社会に居座っている。
「――ね? いい男でしょ」
隣に座った五代目組長こと菊代が、ニコニコと俺を一同に見せてる。
車の中で聞いたのだが――頭が痛くなることになんか組長になってるらしい。菊代は。
菊代のボディーガードも兼ねてるらしい運転手が「ええ。いい目してますよ、客人は。死線を何度も越えてきた目です」
ピンストライプのスーツを着たナンバー1ホストみたいな美男子は「あっはー。ヤクザより恐いや、この少年」
元レスラーのスキンヘッド「うん。ヤサい顔してるけど、迫力があるぜ」
東大法学部卒らしい一流商社のビジネスマンみたいな長身男「そうですね。こんな子がいるとは、世間は広いもんです」
興味津々の目で見てるこの場の全員が、俺とやり合いになったら10分以内――いや5分もかからないか――に自分たちが全滅する事を理解してるみたいだ。
……面倒くさいな。腕試しだとか馬鹿が抜かしてくれれば正当防衛の名目で全滅させて終わりだったのに。
まあそれくらいの躾ができてなければ組としてやっていけないか。
それはいいとしよう――問題は……小粒だな。
いや小粒なのはいいとしよう。別によくはないが。
問題なのは
若い。一番年齢が高そうなのが格闘家上がりっぽい運転手が一番
立ち上げたばかりの若手組織なら特に気にしないが菊代がヤクザの娘と有名だった。つまりいるはずなのだ。菊代の親世代…40代以上の幹部が。
幹部全員集合と言っていたのにいないのは違和感しかない。
「キンジ、何か飲む?」
菊代が、テーブルにあった
「酒はいい。酔って菊代を襲いかねないし」
とりあえず菊代を酔わせて色々吐かせるのはありだと思うが自分のアルコール耐性がどの程度なのか把握しきれてないしな。
未成年なので呑む機会はなかったし。元とはいえ警官やってる以上、そういうのには乗らないと思われてるから誘われたこともないし。――こんな所でヤクザ一歩手前な武偵校で真面目な方と気が付きたくなかったな……。
いや酔った勢いって事で幹部全滅させた方がいいか?一杯くらいなら素面と変わらないか?
「じゃあ、やめとく」
なぜか頬を朱に染めた菊代が、なぜかチラチラとこっちを見つついう。
何を想像したんだ?心当たりは一切ないが、どっちにしろ見知らぬ幹部とやらのいる前だと碌な話も出来ないな。
どう話そうか考えていると――「お前たち、帰れ」
幹部連中を煙たがった俺の態度に菊代はすぐ気づき、紹介だけという事だったのか幹部たちもおとなしく席を立った。
……。
気にしてるのは運転手ぐらいか。
……なるほど。だいたいそういう感じか。
烏龍茶を一気に飲み干してから「二人きりだな。覗きも聞き耳立ててのもいない」と言うと、菊代はドッキーンとなぜか挙動不審気味に「そ、そうだね」髪の毛とかを弄っている。
……なんか噛み合ってない気がする。
小腹も空いていたので料理に手を付けると、菊代はいそいそと給仕してくれる。
――それはいいがなぜ酒を注ぐ?断ったよね俺?
「……キンジ、どうかな。アタシ、その……中学の頃より美人になったでしょ?」
「菊代は昔から美人だよ。昔は可愛いって感じだったけど」
さっきまでの大人びた態度から、少しモジモジするような態度になった菊代に普通に返すと俺の隣で顔を伏せ、 「くぅーこれよこれこれ!」という感じにゴキゲンな表情で俺を満喫してる。
……稀に何故だか知らないが俺の対応の何もかもが琴線に触れるタイプがいるらしく、菊代とか白雪がそのタイプだ。
逆に言うとそれだから付き合うまでに至ったというか。アプローチ激しかった気がするし。
「アタシのママがね、女優だったの。カナダ人の。最近、似てきたんだって」
「へー、知らなかったな。こんな商売より向いてるんじゃないか?女優とか」
「そう?もっと早く聞いてたらそっちの道目指すのも良かったかもね」
……まあ芸能界とやらも最近は業界と縁切らないといけないと燃えるからな。
中学生を組長にするようなヤクザとか色々な意味で使えないだろう。
「今からでも遅くないと思うけどね。というか向いてないんだからヤクザなんてやめちまえよ」
「……やっぱりそれが目的?」
まあバレるか。
菊代との仲だしそれぐらいはすぐに察しが付くだろう。
「まあ偶然とはいえ知っちまったしな。勝手にいなくなった後追いかけてれば良かったんじゃないかと少し後悔してる」
当時だって、関東圏に引っ越ししたぐらいだったならすぐに追いかけることもできたはずだ。
「……アタシも意地張らずにすぐに頼っとけばよかったのかな。結局警察やめたんでしょ?」
「…………まあいろいろあって武偵メインになったな。今はとりあえず武検でも目指してるが」
「ちょ、っ、絶対向いてないでしょ。中学のあだ名ヤクザ警官だったじゃん」
「笑うなや。というかあれ絶対お前のせいだろ」
「何もしてないよ。ちょーっとキンジの自慢してたら名を上げたい馬鹿がわんさか釣れただけで」
「お前のせいじゃねえか」
「あ痛」
デコピンしたら結構いい音が鳴った。菊代は結構痛かったのか涙目になっている。かわいい。
「しかしなんで中華?マカオ関係で一枚噛んでんの?」
「愛人にでも聞いた「断じて違う」むしろ怪しいね。知ってる?海外で人気がある日本のものは、車やアニメだけじゃない。ヤクザもなの。どこの国のマフィアも大歓迎してくれるのよ」
国際的にも、裏社会では資金力がそのまま力となる。
ヤクザは公然とデカい資金を持ってると有名なのだ。悪い意味で。
「闇のグローバル化とか取り締まる側も頭が痛い話なんだがな。国内で聞かねえと思ったらそんなことしてたのか」
「この業界、海外との連携には保守派と共存派がいてね、鏡高組は元々共存派だったの。大きな組織みたいに太い仕事も無かったから。それに……アタシが跡目を継いでからは、うちは国内じゃほとんど無視されるようになっちゃったのよ」
そらそうだろうな。やむなく菊代が跡を継いだようだが、幹部たちにリーダーの器がある人材が居なかったのはを見て分かったが中学生女子をリーダーにしてるヤクザとか、ガキ以下の人材しかいないとなれば舐められるのは当然である。というかそんな組織と付き合うなんて食い物にしようとするかよっぽどイカレタお人好しぐらいだろう。
「残ったスケベオヤジ共はロリコンだから絶縁と去勢で今は網走。有能なのは揉めて出ていっちゃったし」
「あー。摂政?」
「婚約とか勝手に偽造するクズよ。パパがそんなことするはずないじゃない」
大体、わかったな。
抗争で組長が殺られた後に跡目争いが起きて、恐らく菊代を嫁にすることで分捕ろうとしたのだろう。で、菊代が暗躍でもして本来の幹部を何人か潰したのだろう。
で、残った幹部が出て行って組は潰れる寸前。やむなく菊代が組長となり幹部への繰り上げで何とか面子をそろえてる感じか。
「それで一発逆転を狙って、中国の大手と組んだの。今あるお金はマカオのカジノ経営に出資して、そこから吸い上げたものよ。だからもちろん合法。安心して食べてね」
「そうじゃないなら手を出さないよ」
点心の汁に火傷しそうになるも何とか食べきる。
話聞きながらだったからちょっと油断したな。
「聞いてる限りだとヤクザ廃業して合法でやった方が良さそうだな」
「……歴史がそれなりにあるのよ」
「ヤクザである必要性はないだろ」
元々、反社会的勢力として裏側から無視されるほどなら長くはない。
というかシノギもないなら続ける必要性もない。
「なあ菊代
助けてやろうか?」
何故組長になったのか考えたらこんな感じかなあと