遠山キンジの独白 作:緋色
誰かを助ける人間は完璧でなければ許されないのだろうか。
海難事故で行方不明になった武偵の名は遠山金一つまり俺の兄だった。乗客乗務員全員を逃し、見落としがないかの確認中に大きな揺れと共に船の沈む速度が上がり巻き込まれたそうだ。
命がけの行為は短慮と言われようともその価値はあったと思う。
風向きが変わったのは週刊誌で取り上げられた記事からだ。
一応読んだが、武偵に関して批判的だがどちらかというと客観的事実を元に書かれた記事であった。
ネットでは無能な武偵のせいだと叩かれる。それはまだ良かった。
ただ救われたはずの乗客や船の所有会社がバッシングするのはどういう事なのか。
完璧な対応でないなら許されないなら人を救うべきじゃないのか。完璧を求められ完璧であると認められた武装検事として人を救い続けて来た父さんですら死んだのに。
その日は偶々、
やる気は最低限まで死んでいたが動けないわけでもない。
例えばひったくりぐらいなら叫び声を聞いてから犯人に追い付いてねじ伏せるには一切不都合はないくらいに。
犯人を取り押さえて近くによって来た被害者にカバンを渡した所、
「ひったくる前にどうにかしなさいよ!」
それは単なる八つ当たりだったんだろう。ひったくりのせいで転けて怪我したのもあるだろう。
ただ単純に
「疲れた」
あの後いつも通りに事務処理して、普通に退勤した。
努力した人間が報われるべきだなんて別に思わないが、救われたはずの人間に文句を言われるのには精神に堪える。
もう駄目だった。
ならいっそ辞めるべきだろう。
そのまま
気が付いたら女子寮にいた。
「キンちゃん。今日は筑前煮を作ったんだ。一緒に食べよ?」
ここは白雪の部屋なので白雪がいるのはまだわかる。むしろ異物は俺だが白雪が望んでいる以上問題はないんだと思う。たぶんメイビー。
「奥方様の料理は絶品でござるから、いくらでも食べれそうでござる」
なぜかいる風魔陽菜。そしてよくわからないうちに白雪に気に入られたのか稀にオメカケさんという謎の呼ばれ方をしている。それでいいのかお前?
「先輩の様子を見に来ただけなので、これで失礼します」
偶に様子を見に来る桜ちゃん。こっちも何故か白雪に気に入られているらしい。
逆に陽菜とは微妙に仲悪いみたいだが。
「桜ちゃんも食べていきなよ。せっかく作ったし」
「…ではご相伴に預かります。先輩も」
「――あとでいい」
「 来 て く だ さ い 」
「わかったから引っ張んな…」
ここ一か月ぐらいずっと腐ってた。
すべてがどうでもよくなって二日ほど地面に寝っ転がっていたところをダウジングロッドを持った白雪に引きずられてなし崩し的に世話されている。
――ダメ人間だなぁ。俺。
「そういやなんで白雪は俺を見つけられたんだ…?占いか…?」
食べ切ったところで会話を聞いていただけだったが、ふと気になったので聞いてみる。
痕跡全部消して山にいたはずなんだけどな…?なんで見つけられたんだろう…?
しれっと何度か消えようと思ったがその度に見つけ出されるし、最近はローテーションで監視しているから面倒になって腐ったままである。
外の話でも負の情報は遮断してて、気を使われているっぽい。メンタル的には多少は回復しているからありがたい事なのだろうけど。
だからそんな言葉が出せたんだろう。衝動的に失踪しようという気はなくなったし。
「占いの一つでダウジングだよ。元々は水源とか鉱脈なんかの大きなもの探しに使われていたんだけど、今だと主に人探しか物探しによく使われるね。私は天縁通も併用してるから厳密にはちょっと違うけど。知ってる人なら99%ぐらいの精度で探せるよ。逆に知らない人だと80%ぐらいにまで下がっちゃうかな。璃璃粒子の濃度も関係してるけどここら辺は難しいから置いとくね」
「よくわかんないけど…。俺の居場所だいたいわかるって事か…?」
失踪しにくいな。
まあ、そうでもなければとっくに死んでただろうし、感謝すべきなのか…?
「そういや二人はなんで…?」
「師匠は大量の痕跡で攪乱し探すことが難しかったので、奥方様に協力を依頼したのでござる」
「弟子の陽菜さんは捜索にはあまり役に立ってなかったですよね?師匠の事はわかってるとか言って混乱させてましたし」
「ぐ…」
なんか色々あったらしい。
連絡取れなくなったところで風魔と桜が合流し、白雪に相談して速攻で発見された流れらしい。
「キンちゃんがお仕事で空けてる事も多いからあまり使わないんだけど。今回みたいにキンちゃんが辛い時にいなくなったから例外だよ。私は最期まで支えるからね」
………………。
もう中卒でもいいから働こうかな…。
いやでもその前に
「…そんだけ当たるなら兄さんの居場所とかわからねえか?せめて墓に入れたい」
兄さんの遺体はいまだに引き上がってないらしい。
沈んだ場所が場所からして、こんなに見つからない事はないと思うのだが、もしかしたら流されて発見されないのかもしれない。
「ちょっと待っててね」
そう言って取り出したのは
話を聞くにこういう大きい枠から段階的に絞り込んだ方が的中率が上がるらしい。それ日本地図じゃダメだったのか?
当たるんだったら何でもいいけど。
「お兄さんの居場所は――インド洋?」
思考が完全に止まった。
「太平洋じゃなくて?」
「うん。インド洋みたい」
「いやちょっと待ってくれ。海流的には絶対そこには短時間で流れないだろ。人為的じゃな――いかぎり?」
兄さんが生きてる…?
「それ的中率は?」
「大体95%ぐらいかな」
95%それはもう確定事項ではないか?しかし、海難事故で生存は絶望的だと思っていたが生きているなら沈んだわけではない?
可能性としては死を偽装した?
「なるほど!そういう事か!」
一頻り笑った後、ドン引いてる三人を無視してただ笑う。
死んだふりしてやり過ごす技も継承している遠山家は死も戦術に使う。
なんらかの理由で死んだふりして姿を消す可能性も0ではない。…なんか別件で重要な事に掠った気がするが、兄が生きている可能性があるなら探る必要性がある。
「そうだよな。死んだふりなんてよくやる手段だし別におかしな事じゃない。俺だって無人の小型飛行機爆破して死んだふりとかしたし、似たような事やっててもおかしくないな」
「ちょっとそれ聞き捨てならないんですが、ちゃんと責任取りました?」
「ならやる事は決まったな!」
インド洋は突拍子もなさ過ぎて探すのは難しいが航海している船舶ぐらいは調べられるだろ。こっちから見つかるかはどうかは厳しいだろうが、それはそれとして海難事故そのものを洗い直す必要があるだろう。とりあえず所有会社から調べてみるか。
「桜、迷惑掛けた…ありがとう」
「調子戻った様ですね。大したことはしてません」
ホントに大したことしてないと思うけど、なんでプイってしたんだろうか?
なんか顔赤いし。
「陽菜。大儀である」
「忝いお言葉。弟子として当然の事」
陽菜はこういう時代がかったやり取りが好きらしい。
気分が乗らないとやらないが、まあ今は気分がいいからいいか。
「白雪。腐って悪かったな。愛してるぜ」
「――」
「星伽先輩!?」
いやなんか信仰が報われたみたいな顔で死ぬな。
「つまりですね。普段ダメな感じの主人公が弱気立場の人々の為に立ち上がって戦う事がヒーローとしての王道の一つでしてね。時に力で、時に技術で、不屈の信念で強力な悪を討つ事がカッコいいわけですよ!」
「そ、そうでござるか」
「確かにカッコいいよね」
「あれニチアサ談義だよね?」
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