遠山キンジの独白 作:緋色
月光が雪に反射して仄かに輝く瓦屋根の上に――奴らはいた。
……なんで外に出たんだろう?広い方が都合がいいとか?
「再会を心よりお慶び申し上げます。遠山キンジさん。ジーサードさん」
「日本で遭うとか思ってなかったけどな。
「今回の件は偶然ですよ。仕掛けるのはまだまだ先の予定でしたからね」
小さな丸メガネの下の、開いてるんだか開いてないんだか分からない細い目の内心の読めない笑顔で頭を下げる煌びやかな刺繍の入った、漢族・文官 の古典的な宮廷衣装の男は『
前見た時より痩せてる気がするが、絞ったのか?
長野刑務所に入れられてた三姉妹とは別にいたのか一人だけ眼鏡属性のようだ。
見た所戦闘タイプじゃないので、あまり脅威にはならんだろう。周り巻き込むような爆弾使うかもしれないけど。
問題は――三人目。
「ヘッ――そのガキんちょが藍幇の代表か。
ジーサードも注目すべきはあの少女だとわかったらしい。
名古屋武偵女子高のカットオフ・セーラー――股下・胸下は共に1cm。ヘソどころか胴体が丸出しのバカの着るセーラー服を着たストレートの黒髪を足下ぐらいまで伸ばした、にょろんとオレンジ色の細いシッポが生えてる小五ぐらいに見える女の子。
偶に見る自分を妖怪だとか神だとか自称する玉藻とかと同じ系統――獣人の類だ。
獣人は見た目と戦闘力がかけ離れてる事が多く、筋力や魔術で戦う魔女と違って鍛えた洗練さなどが読みにくいため非常に戦闘力がわかりにくい。
妙なことに常に見開いているような大きな紅い眼には、表情が無い。だが、レキみたいに無表情な感じはしない。全ての事を悟っているかのような、超越的な雰囲気がある。
……なんだろう?どこかで見たような?いや衛星映像でちらっと映ってたから見た事はあるのだがそうではなくもっとなんか既視感というか…
「ええ、それはそうなのですが……」
「俺は『無所属』 から 『
「そんなん関係なく俺を襲撃してきたお前が言うのかよ……」
「兄貴は黙ってろ」
「へーへー」
瓦屋根を踏んで、ジーサードが前進した。どうやらやる気らしい。
俺個人としては殻金を交渉で取り戻せれば最善だったが――無理だなこれ。
妙な違和感をヒステリアモードの記憶力で過去を攫いつつ、相手がどう出てもいいように警戒しながら武器を構えると
「よ、よせ遠山の。お主、
服の中から震える声がした。お守りに化けさせて首から提げていた玉藻の声だ。
そういやいたな。忘れてた。
「僧には見えねえな。シッダールタにも。戦士階級だそうだしカラリパヤットぐらいは使うか?」
またどっかの偉人関係者か……。
仏となると日本じゃ釈迦とか呼ばれる仏門の開祖ガウタマ・シッダールタか?
まあ相手が幼女な見た目だが、そんだけなので行動不能にはできるだろう。年上だろうし。
「あ、あのお姿は猴。日本の
「回りくどい。戦闘方法と弱点とか教えろ」
「弱点などあるわけなかろう!やるとなったら謀反じゃぞ!あらゆる唐の化生を敵に回すッ!」
玉藻がうるさいので……シャツから引っ張り出すと、ぼふんっ!
やたら慌てた表情の玉藻が、即座に姿を現して俺にしがみついてくる。
このキツネは何しに来たんだ?護衛してやるとか偉そうに言ってたのにヘタれるんじゃねえよ。大体、戦争中じゃろがい。
こいつに期待した俺が阿呆だった。
「喧嘩売ってきてるの向こうだろ」
「――猴の前には、銃も刃物も意味を為さぬ!よさんかぁお主ら!」
「ハハッ!銃?刃物ォ?そんなモンには最初っから頼りゃしねえよ。俺たちには、音速の拳があるッ」
引きはがすのに苦戦しているとジーサードは笑いながら、右拳を固め姿勢を低くし、足を踏み固めジーサード流の『桜花』の構えを取った。
猴に仕掛けるつもりらしい。なら俺は
ジーサードに合わせて動こうとすれば――ココと諸葛も何だか慌て出したような表情をしている。
「異教の神は殺してもいいんだぜ」
「お前は全方位に怒られろ」
キリスト教徒のジーサードは、教会が聞いたら怒るような脅し文句をのたまい、対する猴は――金色をした細かい光の粒が見え始めた。
その粒子が、どんどん増えていく。
回転し、直径20cmぐらいの輪に見える。宗教画で天使や神が頭上に浮かべているような光の輪のように。
「き、金箍冠……!鎮まり給えぇーっ!」
「魔術か。そんなものでビビるとでも?」
正反対の反応をする二人――ん?
次の瞬間、周囲が――パッ――と一瞬赤く光り、猴の紅い瞳から赤い光の線――レーザーサイトのようなものがジーサードの胴を通過するような形に光った。
つまり貫通した!?
ジーサードが、その場に崩れ落ちる。声もなく。
驚愕に見開かれたその日は、今、何が起きたのか全く分からなかったという表情だ。そして、みるみるうちにその瞳孔が開いていく……!
口からは……血が……それも致命傷を受けたのが一目で分かる量が流れ出る。
「――ル・ラーダ・フォル・オル?」
「日本語で話せや」
殺気もなくジーサードを貫いた猴は、何だか分からない言語を呟いて小首を傾げてこちらを見る。紅く光る瞳を、こっちに向けたまま。
ココと諸葛も、今の光景には唖然としている。
つまりこいつ制御できてねえのかよ!?
「逃げろ遠山の!ジーサードはもうダメじゃ! 今のは、如意棒――レーザービームじゃ! 儂にも防ぐ事ができぬ!」
如意棒って鈍い俺でもようやくこいつの正体がわかった……。
玉藻は犬歯を剥いて、涙目で俺に絶叫する。
「さっきも言ったじゃろう! 猴は
中国四大奇書の一角『西遊記』にて、斉天大聖を名乗って天界と争い、敗北後、天竺を目指す三蔵法師の御供として、高僧を狙う妖怪どもを相手にし天竺への行き来を護衛をした石猿か!?
さっきのは眼が光ってた事から眼からビームを出しているんだろう。そしてジーサードの傷からして銃弾のように貫くタイプの攻撃だ。仕留めるなら横薙ぎにした方が纏めた方が効率がいいにも関わらず行わなかったのはできないからだろう。貫通型なら頭と心臓と背骨さえ避けられれば、死ぬことはない。超然とした雰囲気から発射のタイミングはまったくわからないが、光る眼球から光線を出していると見ていいだろう。
つまり視線が銃口みたいなものだろう。
猴の紅い右目が今、俺を見つめている以上、照準は定まっていると考えて間違いない。狙いは心臓――猴が撃てば、コンマ1秒後、俺は死ぬという事実が金縛りのようにその場に縫いつける。
だからどうした!
緊急時の蘇生には一分一秒が惜しい。
玉藻は――
「猴!鎮まり給え!ここは倭ぞ!これ以上、人を殺めれば倭と唐の化生が争う事にもなろうッ!鎮まりえーッ!」
「もう遅いわボケ!こっちはキレてんだよ!」
よし使えねえなこいつ。
カットオフ・セーラー服姿の小柄な猴は、すっ。『前へならえ』するように、その両腕をこっちへ向け
「コル・オル、トルマエス・カルガラル」
とその様子に慌てる藍幇の幹部ココと諸葛に意味不明な、しかし牽制的なムードの声を放っている。
「……さっきの輪っかはどうした?」
「」
瞳が一瞬ブレた。
「殺す気だったらさっさとさっきの輪っか出して射殺するべきだろ――にもかかわらず眼を光らせて構えるだけ――一発しか撃てねえんだろ!」
適当に言っただけだったが事実だったらしくバレたとばかりに動きが一瞬固まったのを見逃さず、即座にスクラマサクスを構えて
「まとめて死ね!」
――その夜轟音が近隣に響き渡った。
はったりって大事だよね
あとキツネの分岐点ここだったと思う