遠山キンジの独白   作:緋色

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中和しました


ドレイ

 その日の学校も終わり、夕方になったので自分の部屋で一息吐く。

 多角的に情報を仕入れるためにCVRの知り合い(美人や美少女に関しては情報収集している節がある)と探偵科の知り合いに依頼しておいた。

 向こうが動くとしても明日ぐらいだろうし、後手後手だがやらないよりかはマシだろう。

 

   ピンポーン

 

 ん?来客?

 今日は宅配も来客も予定ないはずだが?となると突発的に来るとしたら白雪か?

 

  ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン

 

 うるせえ!?こんな連打するとかどこの小学生だ!?

 五月蝿すぎるので文句を言うために玄関の扉を開けたのが間違いだった。

 

「遅い!あたしがチャイムを鳴らしたら5秒以内に出ること!」

 

 それは物理的に不可能だろう。

 

「神崎ッ!?」

「アリアでいいわよ」

「いや、勝手に入るなや。住居不法侵入だぞ」

 

 言うや否や勝手に入ろうとしたので通り道を防ぐがするりと通り抜けた。

 CVRの相手が多いからこれぐらいでいいやと甘くやってたのは事実だが、普通それでも入るか?

 

「うるさい!トランク部屋に運んどきなさい!ねえトイレどこ?」

 

 そのままトイレを見つけて勝手にトイレに入っていく。

 これ動物的マーキングか…?

 それは置いといて、トランクって着替えとか入ってるなこれ。そんなもん持って人の部屋来るとか何考えてるんだ?

 とりあえずトランクを玄関に置いておく。

 即断即決で人の部屋に来る辺り先手打たれすぎだろ俺。

 突発的な行動型は読みにくい事この上ない。

 

「あんたここ一人で住んでるの?」

「そうだな」

 

 トイレから出て来て勝手に部屋の中を観察してたアリアが出た言葉に投げやりに答える。

 通い妻してる白雪とかいるが、住んでいるのは俺一人だ。それを知らないって事は俺を尾行でもしたのだろうか?それなら普通に尾行に気が付いて撒けるとおもうが。

 というか嫌な予感がする。

 

 彼女は窓際まで移動したかと思うと、夕陽に身体を染め、クルリと振り返り、

 

「――キンジ、あんたあたしのドレイになりなさい!」

 

 高らかに宣言した。

 

「……人間はどっちの素質もあるというが、ほぼ初対面相手にそういう遊びは無理だからな。したいならそういう店に行った方がいいぞ」

 

 特にそういうのは遊びだと割り切れないタイプは相手をぞんざいに扱う事を当然だと思い込んでしまいパワハラ上司になりやすい。

 スタンフォード監獄実験なんかがわかりやすいイメージか?あれは実は台本あり(ヤラセ)だったらしいが。

 即座にそう返せたのはパワハラ上司に連れまわされた経験からか。とりあえずで反論するのは慣れてる。――いやな慣れだなあ

 

「あんた何意味わかんない事言ってるのよ」

「…………そうか」

 

 わかってなかったのか。早合点して恥ずかしい事言い出した子に真っ当な指摘したつもりだったからこっちが間違えた対応だったようだ。

 じゃあどういう意味で言ったんだよ。

 

「ほら、客が来てるんだから飲み物ぐらい出しなさい!コーヒー!エスプレッソ・ルンゴ・ドッピオ!砂糖はカンナよ!1分以内!」

 

 エスプレッソとはイタリア語で「急ぐこと」という意味で「加圧して抽出した濃いコーヒー」のこと。

 通常のエスプレッソは、一杯当たりコーヒー豆を7g程度使用し30cc程度抽出する。

 一人分7gを抽出する事をソロ、二倍の14gを抽出するのがドッピオ。

 ルンゴは通常のエスプレッソの量の30ccの倍の60cc分だ。

 カンナはキビ糖の事。

 コーヒーに拘ってない限り普通は出せないラインナップである。

 逆に拘ってるなら出せる…いやキビ糖は個人の趣味だからわからんな。

 

「エスプレッソマシンはここにはない」

「エスプレッソマシン置いてないの!?」

 

 うちが客に出す飲み物は基本的に煎茶である。

 クロメーテルの部屋には使ってない新品が置いてあるが、あれ贈り物だし持ってきたらバレそうだから黙っておく。

 

「インスタントコーヒーならあるが?」

「じゃあそれでいいわよ!」

 

 妥協してくれたようだ。明らかに不機嫌オーラ出てるが。

 お湯を沸かす間に白雪に任務があるから作りに来なくていいとメールしておく。下手にバレたら天誅とか言って処刑しに来るし。明日から合宿でしばらく泊りと言ってたから面倒な事に今夜から自炊かな。

 ざっくり入れたインスタントコーヒーを出すと鼻をスンスンしてる。猫みたいだな。

 

「これホントにコーヒー?」

「お湯を注ぐだけのインスタントコーヒーって奴だ。本場のが呑みたいなら店行くか自分で拘れ」

「――変な味、ギリシャコーヒーにちょっと似てる?」

 

 俺はギリシャコーヒー知らんからそんな事言われても知らんがなと。

 

「それで何の用だ?用も無しに遊びに来たってわけじゃないんだろ?」

「わかんないの?」

 

 きょとんとしてるが説明しろって言ってるのにその返しはないだろ。

 ドレイとか言い出すあたり子分にしたいんだろうが、それで従うのはMでもいない。Mは自分が気持ちよくなれないとやらないという事は当たり前の事実だがそこを勘違いしてる奴は多いと思う。

 

「お兄ちゃんに甘えたかったのか?」

 

 なので、4番目ぐらいにありそうなことを聞く。2と3は復讐と弟子入りだ。

 

「あんた年下相手なら誰にでもそれ言ってるらしいわね。同じクラスでしょ――ひゃん!?」

「まず銃抜こうとすんなや。もし撃ったら警備が駆け付けて来るぞ?ここの警備で家賃軽減してる武偵生が多いからな」

 

 出だしで潰しとかないと危ない事この上ない。

 やられる前にやるのは基本である。

 

「何今の!?」

「目潰し」

 

 マキリがやってたレラ・ノチゥ――空気の弾丸を飛ばす技。元々は遠山家の技で、矢指と言い射程3m程度の目潰しに使う程度の技なのだが、マキリからパクったはいいがマキリほどの威力はどうやっても出ない。自分だとせいぜい射程2m程しかない目潰しだ。元の術もどっかからパクったのかもしれない。

 使い勝手がいいから反射的に使ったけど、こいつ使えそうだと評価が高くなったっぽい。面倒くさいな。

 

「まあいいわ。おなかすいた。なんか食べ物ないの?夕食の時間でしょ?」

「作らんとないけど?あるいはコンビニ行くか。食べてくの?」

「ならさっさと作りなさい!」

 

 ならって。いや別にいいけどさあ。

 適当に白雪が勝手に補充している冷蔵庫の中のものを見て――なんで(スッポン)の肉とか入ってんだろ?――オクラとかタマネギとか野菜あるし雑に刻んで野菜炒めにすればいいか。

 

「ヨーロッパ育ちらしいけど。箸使える?」

「お気遣いどうも。一通り使えるわよ」

「なら結構」

 

 適当に作りながら、ももみたいな形のあんまん(ももまん)を買いに出ていったアリアの事を考える。

 

 チャイム連打

 自分勝手な我儘

 上から目線の命令

 欲求に素直

 

 これらを足し合わせるとお兄ちゃんに甘える我儘系思春期妹(小学生)だな。

 脳内ポジションが定まった事でそれとして対応しやすくなるだろう。

 ただ、妹扱いや一人称お兄ちゃんは言うとキレそうだから自重、思春期面倒くさいからな。

 

 適当に話を纏めてから、米が炊けたので盛り付けた所でアリアが戻ってくる。今考えたら締め出せばよかったな。いやそれはお兄ちゃんぽくないから思考から除外してたか。

 飲み物は麦茶が冷やしてあったからそれでいいや。

 

「味には期待すんなよ」

「なにこれ?」

「冷蔵庫にあったの適当にぶち込んだだけだから、鼈の野菜炒め?かな」

「なんで鼈?」

「他に動物性たんぱく質がなかったんで。んじゃ頂きます」

 

 適当な炒め物だったが食えなくはない。

 鍋にすべきだったかな?自己採点しながらも会話で聞き出すことにした。

 共食することはコミュニケーションツールとして有効だ。大人が飲みに行くのと似たようなもんだと思えばいい。

 

「さて、さっきの話の続きだが――ドレイってなんなんだ?」

「簡単な話よ。強襲科(アサルト)であたしのパーティーに入りなさい。ポジションはあたしと同じ前線担当(フロント)ね」

「無理だな」

 

 それは簡単な話ではない。そもそも息があってないコンビというのは早々にして瓦解するものだ。

 息を合わせるにしても相手の事をドレイとか使えるなどという視点で判断するのはかなり危険だ。命を預ける覚悟・信用がない奴と共に前線など前提として成り立っていない。

 それに自分のペースで仕事したいし。現状でやるなら俺がフロント単独で他がサポートか、アリアがフロントでサポートに俺がベストだろう。

 

「あたしには嫌いな言葉が3つあるわ。『ムリ』『疲れた』『面倒くさい』。自分の可能性を自ら潰す事になる良くない言葉。だからあたしの前では二度と言わないこと。いいわね?」

「どこのブラック企業だ。出来ない事を出来ないというのは悪い事じゃねえし、疲労は仕事のパフォーマンスに影響するだろうが」

 

 面倒くさいは気が進まなくてもやらなきゃいけない事はあるから除外する。

 

「考えもせずに切り捨てるのは思考停止よ」

「それはわからんでもないが、出来ない事は出来ないって言うからな」

「例えば何が無理なのよ」

「人類根絶。――可能かどうかで言えば不可能だと思うけど。これが出来ると言われても困るし。要は内容次第だね」

 

 可能な奴がいるなら確実に潰さんといけないので、出てきても困るが。

 

「あんた中二病ってやつ?」

「単なる極端な例だが?」

 

 超能力とか武偵だとか変な設定がたくさんある世界で中二病扱いされたくねえ。

 

「ともかく()()()()()()()()の!頷かないのなら泊まってくから!」

「いやダメだろ。なんでそんな紛らわしい事ばっかしようとするの?」

 

 特に白雪に知られたらM60でも乱射しかねない。そうなった場合、下手すれば事故物件だ。

 情報科(インフォルマ)の連中に知られたら全力でゴシップをばら撒くだろう。

 というか事情があるならまずそれを説明しろ。

 

「うるさいうるさい!こんな事もあろうかと準備は万端よ!長期戦になる事も想定済みだから!」

 

 ビシッ!っと、置いてあるトランクを指差す。やっぱりお泊りセットかアレ。

 まさかの居座り作戦かよ。説得とか依頼とかいろいろやりようはあるだろ。なんでそれを選んだ。

 

「――出て行きなさい!」

 

 その台詞は俺が言うべきセリフだろ。

 

「なんで俺が出て行かなくちゃならないんだ?」

「うっさい!分からず屋には頭を冷やす時間が必要でしょう!しばらくは戻ってくるな!」

 

 しばらくっていつだよ。

 勢いに押されて追い出されてしまった。

 しゃーない。今日はクロメーテルの部屋にでも泊まるか。明日はどうせクロメーテルにならんといけないし。




焦ってるにしてもあれで行けると思ったアリアの直観すごいな

追記
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