遠山キンジの独白 作:緋色
おかしい。
チャリが爆破された事と雨が降りそうなこともあり俺はちゃんと7時58分のバスに間に合うようにちょっと早めに家を出たはずなのにバス停には既にバスが来ている。
生暖かい大粒の雨が降り始めたバス停には生徒たちが押し合いへしあいして乗り込んでいるところだった。
今日は雨ということもあり、チャリ通の生徒たちが一斉にバスを使ったらしい。
「乗せろ武藤!」
「そうしたいとこだがムリだ!お前チャリで来いよっ」
「チャリ爆破されたんだよ。というかお前バイク通学だろ!?」
「雨降ってるからな!2時間目にまた会おう!」
薄情者の武藤の声を最後に、バスは無情にもドアを閉めてしまった。
この大雨の中で徒歩とかやってらんねー。遅刻確定じゃねーか。
武藤が言うとおり、1時間目はフケてしまおうか。というか今日の授業サボっちまおうか面倒だし。
というかなぜバスに乗り遅れたのだろうか?理子に返して貰った腕時計と携帯電話の時刻を確認し5分ほどズレている事に気がついた。
悪戯されていたのか…。気付かなかった俺が悪いけどあとでお仕置だな。
理子を〆るために渋々と学校へ向かって強襲科の黒い体育館を横切った辺りで携帯が鳴った。
「もーしー?」
『キンジ。今どこ』
アリアだ。もう授業は始まっているのに電話とはどういうことだ?
「強襲科のそばだ」
『ちょうどいいわね。そこでC装備に武装して女子寮の屋上に来なさい』
「C装備?穏やかじゃねえな何の事件だ?」
『バスジャックよ』
C装備
『出入り』の際に着込む装備だ。
SWATなんかに代表される特殊部隊の装備みたいなもんだと言えば想像しやすいだろうか?
兎も角着替えて屋上へ向かう。
というかなんで女子寮の屋上なんだろうか。
『出入り』なら強襲科からの方が装備も援護も得やすいと思うが。
屋上に出るとそこにいたのはC装備で無線にがなり立てているアリアと
レキ
150cmくらいのヘッドホンに碧のショートヘアの美少女だが、約2kmの狙撃範囲内で外したことはないという狙撃率を誇る射撃の天才で、入学時に俺と同様にSランクに格付けされ、今もSランクを維持している。
強襲科時代にコンビを組むことが何回かあったが、基本的に無口で無表情。あと名字がないらしく、どこかが開発したガイノイドではないかと噂になってるぐらいだ。
なぜかカロリーメイトばかり食ってるので飯奢ってみたらこいつの身体どうなってんだ?というぐらいの健啖家で滅茶苦茶食う事が判明した。
自分からはそこまでだが、実験してみた所あればある分だけ食べるタイプらしい。
「時間切れね」
どこぞへの通信を終えたアリアがくるっと振り返る。
「もう一人くらいSランクが欲しかったけど別件で出払ってるみたい。このパーティで追跡するわよ。火力不足はあたしが補う」
戦闘的なSランクって言うと一石マサトか。あいつは指揮も上手いからリーダーにするにはいい人材なんだがいないならしょうがない。
それは兎も角
「まず
「さっきも言ったけどバスジャックよ。武偵高の通学バス――あんたのマンションの前にも7時58分に停留したハズのやつに爆弾が仕掛けられてる」
「――爆弾?おいおいそれって」
「あんたの自転車をやったヤツと同一犯の仕業よ」
つまり犯人は爆弾魔『武偵殺し』ってわけか。
いやそれだけで決めつけるのは良くないな。変な先入観はミスの元だ。
「根拠は?」
「最初の武偵はバイクを乗っ取られたわ。 次がカージャック。その次があんたの自転車で、今回がバス――ヤツは毎回、乗り物に 『減速すると爆発する爆弾』を仕掛けて自由を奪い、遠隔操作でコントロールするの。その操作に使う電波にパターンがあってね。あんたを助けた時も今回もその電波をキャッチしたのよ」
なら信用していいのかな。どうせこの現場には出てこないだろうし頭の片隅に入れておこう。
出てくるとしたらあのセグウェイUZIかそれに似た何かだろう。
「アリア。景気付けにお兄ちゃんと呼んでくれね?」
「いやよ。フザケてる場合じゃないでしょ!」
フザケてませんけど。
いや客観的に見たらフザケてると言われても仕方ないか。
「…じゃあ、レキに頼むわ」
「レキが言うわけないじゃないの」
「キンジお兄さん。全員救助してください」
「あんたそういうの乗るの!?」
「アリアさんはやらないんですか?」
え?あたしがおかしいの?と混乱するアリアは可愛い。
レキはこだわりないのか普通に言う。ただ平坦すぎて血流が起きにくいので頑張る必要があるのだが、アリアとレキがいるので血流が盛り上がれる気がする。
ちなみに前に武藤がお兄さんと言わせようとした時は無言で見続けて謝らせたので、レキなりに基準があるらしい。
一石に言わせたら言ったのでSランクとかが基準なのかも知れない。
「兎も角!」
「誤魔化したな」
「誤魔化しましたね」
まあ話が脱線しすぎたか。
「風穴!あたしはバスの外側をチェックする。キンジは車内で状況を確認・連絡して。レキはヘリでバスを追跡しながら待機」
「それはいいとして俺は爆弾処理の成績悪いんだが、アリアは爆弾処理出来んの?」
「一通りはね」
「オーケー。特殊な爆弾とかで無理そうなら海にでも捨てるから言えよ?」
「わかってるわよ」
本当にわかってるのかねえ?適宜確認の連絡入れて判断できるようにしとくか。
移動中にオペレーターの中空知からいくつか情報を確認する。少なくともこの作戦中に雨が止むことはないらしい。急に環境変わるよりかはマシだと思っておく。
ヘリが追い付いた時には、バスは車線をまたがる様に他の車を追い越しながら暴走しているのが見えた。
「いくわよ!」
「はいよっと」
強襲用パラシュートを使い、俺とアリアはほとんど自由落下するような速度でバスの屋根に転がった。
バスへと飛び降り、アリアはワイヤーを使って、リペリングの要領でバスの背面に体を落としていった。身軽だなあいつ。
俺は犯人が車内にいた場合のために、 伸縮棒のついたミラーで車内を確認し、犯人と思われる人物の姿は今のところ見当たらないので、生徒に窓を開けて貰ってから入り込む。
「救助に来たぞ。状況説明!」
てんでバラバラに説明されるより、適当に指差した人に説明させた方が混乱は少ない。
「あの子の携帯が入れ替わっていて、爆弾がバスに付いてるから減速したら爆発するらしい」
「了解。携帯持ってる子はそのままで、その他全員で手分けして車内の爆弾捜索。2時限前だがまた会ったな武藤。このバスに爆弾付けるなら何処だと思う?」
「バスジャックとか想定外だぜ。爆弾は車内には無いと思うぜ。乗客がヤケ起こしたら困るしな。あるとしたらバレにくい車の下じゃねーかな」
「だってよ」
『今見つけた所よ。バスの下に爆弾らしいものがあるわ』
その声にバスの後方を背伸びして見ると、窓の外にワイヤーとアリアの足が見えた。
よく考えたら相手は『武偵殺し』なんだから無防備な姿晒すんじゃねえよ。セグウェイ来たらどうすんだ。
『カジンスキーB型の
プラスチック爆弾
粘土状で固形爆弾では難しい隙間にも詰め込められる。
耐久性・信頼性・化学的安全性が高く、衝撃による暴発はまず無く、火に投げ込んでも単に燃えるだけであり、確実に起爆させるには起爆装置や雷管を要する。
安定と信頼の軍でも使われる爆弾だ。
しかし、その量は戦車でも破壊する気か?
バスに付けるにゃ過剰な量だ。殺意が高すぎる。
『みょあ!?』
バスが突然揺れる。
今のはスリップや乗り上げた揺れじゃなくて、何かにぶつかった感じの揺れだったぞ。
「アリア?おい、返事しろ!」
アリアからの返答が無い。今の揺れで脱落したか?
後方を確認すると無人で動く真っ赤なルノーがバスのすぐそばを走っており、よく見るとバンパーが凹んでいる。今回の『武偵殺し』のラジコンはアレか。無駄に豪華だな。
アリアの事は心配だが、連絡がつかない以上、脱落したと見做す。
優先するべきはバスジャックの解決だ。
方向から考えると行先は――
「レキ。レインボーブリッジで爆弾を海に落とせるか?」
『わかりました』
いや出来るか聞いただけなんだが。やれとは言っていない。まあ出来るなら任せるか。
ウォン!というアクセル音に振り向けば、後ろにいたハズの車真っ赤なルノーが横に回り込んできていた。
その無人の座席からUZIを載せた銃座が、こっちに狙いを――!
「伏せろ!」
叫ぶと同時に近くのトロそうな生徒を巻き込むように伏せる。
UZIの連射が窓ガラスを砕き、降り注ぐ。
「被害報告!」
「問題なし」「ちょっと切れた」「怪我無し!」「運転手が撃たれた!」「助けてよ先輩!」「盛り上がってまいりました」「何で俺がこんな目に」
てんでバラバラの報告を聞き流しつつ、重要度の高い事に対応する。
「
とりあえずヘルメットを投げ渡す。武藤はヘルメットを受け取りざまに被ると、傷ついた運転手を他の生徒たちと協力して床に下ろし、運転席に入れ替わった。
「運転するのはいいが、オレこないだ改造車がバレてあと1点しか違反できないんだが!?」
ヤケクソ気味の武藤の声を背に、俺はバスの屋根に上っていく。
「そもそもこのバスは通行帯違反だ。よかったな武藤。 晴れて免停だぞ」
「落ちやがれ!轢いてやる!」
「バスジャック解決したら差し引き0な」
適当な事を言ってからバスの屋上に上がり、ルノーを行動不能にすべく見渡す。
見回して気が付いたが、隠れてたのか増援なのかは知らんがルノーは2台いた。バスを挟んだ位置だったから気が付かなかったらしい。
これは困ったな。一人じゃどうにかできねえ。
「キンジ!何してんの!?」
落ちてなかったらしいアリアと合流できた。
これはよかったな。心理的に。
「こっちの台詞だ。怪我無いか?メットはどうした?」
「怪我はない。ヘルメットはさっきの衝撃で壊されたわ。あんたは?」
「俺も似たようなもんだ。メットの借りは返さねえとな――後ろ頼んだ。前はどうにかする」
事実を言ったら面倒そうなので適当に言った後に、役割分担をする。
「任せなさい。気をつけなさい」
「お兄ちゃんに任せなさい」
走り出すと同時にベレッタでUZIが取り付けられた台座を破壊し、ルノーに飛び乗る。
そのままルノーを適当なとこに止めようと思ったが、ハンドルに爆弾が取り付けられていたので、ハンドルを蹴って無理矢理スピンを誘発させる。
バスへ飛び戻ろうとジャンプしながら、ルノーが道のど真ん中で爆発するように爆弾を打ち抜く。
ドゴオオオオォォォォ
――スカッ
爆風に煽られた影響でバスに手が届かなかった。
このままだと紅葉おろしなので
「危ないでしょ!」
「サンクス」
アリアに手を掴まれて引っ張られたので、バスにしがみつくような形でまたバスの屋上に戻る。
「あとは爆弾処理ね。急がないと街中に突っ込んだら終わりよ」
「その必要はなさそうだぞ」
ほらあれと指差すと、レインボーブリッジの真横に、武偵高のヘリが併走している。
なんだかんだでいつの間にかレインボーブリッジに突入してたらしい。
ヘリのハッチは大きく開かれ、膝立ちの姿勢でこっちに狙撃銃を向けているレキの姿が見えた。
『銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない。ただ、目的に向かって飛ぶだけ』
レキの弾くときの口癖――呪文?と共に銃声が4回響き渡る。
おそらく、爆弾の留め金かなんかを破壊したらしい。
爆弾らしきものがバスの下からふっとんでいき、レインボーブリッジから落ちた爆弾は遠隔操作なのかそういう設定だったのか爆発して、少しだけ雨を押し返した。
やっぱ威力おかしくない?
脅威が去ったのでノロノロとバスが止まる。
「一件落着って事で――疲れたし寝る」
「あんた自由過ぎない!?」
後日談として、バスジャック犯は尻尾すら捕まらなかった。
アジトとして利用されていたホテルは外部から宿泊記録を改竄されていたらしく、理子ら有志の捜査は難航しているようだ。
こりゃ逮捕は難しいかもしれない。
アリアはレキのことを仕事を通じて勝手に仲が良いと認識してます
レキはアリアを監視しています
原作何巻まで読んだ?
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読んでない
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1~10
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11~20
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21~30
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31~39