遠山キンジの独白   作:緋色

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筆が乗ったので投稿


ハイジャック

 アホの理子が「『武偵殺し』ってバスジャックが限界なのかな?」とか意味深なこと言うせいで最悪の可能性が頭に結びついちまったじゃねえか。

 『武偵殺し』が遠隔操作(ラジコン)と爆弾で操ってるのはチャリジャックとバスジャックでわかっている。その前はバイクジャックとカージャックで操ってるのは同じだ。

 問題はその二件を解決してるのが兄貴だという事。そして船の沈没。これは表沙汰になってないだけでシージャックだった可能性がある。そう考えればあのクソ兄貴はあの船でイ・ウーのメンバー『武偵殺し』と対決している。――かもしれない。

 確証はない。

 ただこの想定が当たっているのなら今回狙われているのは、飛行機というハイジャック事件でも大舞台ともいえるもので移動するアリアだ。

 

「これで徒労だったら俺完全にピエロだなあ!」

 

 羽田空港の第2ターミナルに走り込み空港のチェックインを武偵手帳についた徽章で通り抜け、金属探知機なんか通らず、ゲートに飛び込み、ボーディングブリッジを突っ切り、今まさにハッチを閉じつつあるANA600便・ボーイング737-350、ロンドン・ ヒースロー空港行きに飛び込んだ。

 バタンッ。

 機内に駆け込んだ俺の背後で、ハッチが閉ざされる。なんかタイミングが良すぎる気がするが気にしてる暇はねえ。

 

「武偵だ!ハイジャックの可能性がある!離陸を中止しろっ!」

 

 目を丸くしている小柄なフライトアテンダントに、武偵徽章を突きつける。

 

「お、お客様!! 失礼ですが、ど、どういう」

「説明しているヒマはない!とにかく、この飛行機を止めるんだ!」

 

 アテンダントはビビりまくった顔でこくこくうなずき、2階へと駆けていった。

 よく考えたら直接来る前に空港に通報して爆弾の有無を確認してもらえば良かったな。

 焦って判断力が落ちてるな俺。やってること自体は俺の方がハイジャック犯にされてもおかしくねえ。

 息を整えてる間に、ぐらりと地面が――いや飛行機が動き出した。

 

「あ、あのダメでしたぁ。き、規則で、このフェーズでは管制官の命令でしか離陸を止められないって」

「遅かったか――しゃーない切り替えるか。あんた鍛えてる人間のようだが航空警乗員(スカイマーシャル)か?その胡散臭い演技で観察するのやめろ。ほんとに武偵だから」

 

 そういって武偵手帳を渡し、身分を確かめさせる。

 

 航空機警乗警察官(スカイマーシャル)

 ハイジャック対策で飛行機に乗る機動隊から選抜された武装警察だ。

 こいつは警察っぽい硬さがないので、武偵免許の国際化により自衛とか経費削減とかで武偵を雇う航空会社もあり、先ほどの脅えた演技していたこのフライトアテンダントも平時はフライトアテンダントをしてて、有事には犯罪を狩る人間だろう。

 

「本物みたいですね…。ハイジャックの根拠はあるんですか?」

 

 演技をやめたのか鋭い目で見てくるフライトアテンダント、とりあえずは信じてもらえたっぽい。

 

「客の一人がSランクの武偵でな。そいつが狙われてる可能性が高い」

「可能性ってそれじゃ上は動きませんよ?」

「悪いが仕事として、各部屋にさりげなく爆弾が仕掛けられてないか調べてくれないか?」

「しょーがないですね。あなたは?」

「手伝おうか?」

「邪魔ですのでその武偵――神崎・H・アリアの事ですね?そこの個室で警備しててください。あとイギリスについたらチケット代ちゃんと払うんですよ」

 

 アリアの個室に案内してもらう。

 この飛行機のキャビン・デッキは、普通の旅客機とは明らかに異なる構造をしていた。

 1階は広いバーになっていて、2階、中央通路の左右には扉が並んでいる。

 これはニュースで見たことがあるな。『空飛ぶリゾート」とか言われてた、全席スイートクラスの超豪華旅客機。

 座席ではなく高級ホテルのような12の個室を機内に造り、それぞれの部屋にベッドやシャワー室までもを完備した、いわゆるセレブ御用達の新型機だ。

 金持ちだなあ。あいつがリアル貴族だと実感できるぜ。

 

「キ、キンジ!?あんたなんで!?」

 

 生花で飾り付けられたスイートルームでアリアが、赤紫色(カメリア)の目をまん丸に見開いた。

 よし。まずは合流できたな。

 

「…これチケット片道20万するんだろ?格差社会を感じるな」

 

 後でチケット払えるかなあ?今金欠なんだし。

 

「――断りもなく部屋に押しかけてくるなんて失礼よ!」

「それはアリアにだけは言われたくねえ」

 

 前に押しかけたことを思い出したのか怒りながらも黙る。

 こうしてると可愛いな。Sっ気が刺激されるが今は置いておく。

 

「それはさておきアリア。この機がハイジャックされる――かもしれん」

「かもしれない?それで飛び込んできたの?あんたバカじゃない!?ハイジャックぐらいならあたしがいれば十分だわ!」

「『武偵殺し』でもか?」

 

 そういいながら兄の事を伏せてざっくり推理を伝える。

 

「――つまりこの3件目で直接対決しようってわけだ。信じるか?」

「勘だけどそれたぶん正解ね。もしそうなら[ガガガーーーーン!]――きゃぁ!」

 

 急に鳴った大きな音、窓の外から聞こえたので確認の為に見ると雷雲に稲妻が走り、雷鳴が響く。

 

「雷みたいだな」

 

 雷に腰が抜けたのかヘタレてるアリアに手を貸していると。

 

 パン!パァン!

 

 音が機内に響いた。

 今度のそれは雷鳴ではなく、もっと聞き慣れた銃声だ。

 狭い通路に出るとそこは、大混乱になっていた。

 12の個室から出てきた乗客たちと、数人のアテンダントが、不安げな顔でわあわあ騒いでいる。まずいなパニックになってるし、何より邪魔だ。

 

「危険だから部屋に戻って鍵を閉めろ!」

 

 パニック状態で指示が通るかは賭けだったが、天に祈りでも通じたのか銃を持ってたのが功を奏したのか逃げるように部屋に隠れる。

 ――後で犯人扱いされないことを祈ろう。

 銃声のした機体前方を見ると、コクピットの扉が開け放たれている。

 

「おいおいマジか」

 

 そこにいたのはさっきの小柄なアテンダント。

 そいつが、ずるずる、と機長と副操縦士を引きずり出してきている。

 2人のパイロットは何をされたのか全く動いていない。死んだか?いや呼吸はしてるから寝てるか気絶させられたな。

 

「Blitznak!お前が『武偵殺し』か?!」

 

 どさ、どさ、と通路の床に2人を投げ捨てたアテンダントは俺の声に顔を上げると、にいッ、とその特徴の無い顔で笑った。こいつぜってえ殴る。

 そして1つウィンクをして操縦室に引き返しながら、

 

Attention Please(お気を付け下さい)でやがります」

 

 ピン、と音を立てて、胸元から取り出したカンを――撃とうとして無防備な胸元に当たったら死ぬな。と一瞬躊躇ったのが悪く、それを放り投げてきた。

 俺の足元に転がったシュウウウウと音を立てるガス缶から逃れるようにアリアの部屋に逃げ込む。

 

 グラリと揺れ、視界が暗くなる。

 

「やべえちょっと吸っちまった。……?身体が動くし何ともねえな?」

 

 赤い非常灯が点灯したことで気が付いたが、どうやら物理的に暗闇になっていたらしい。

 軽く動いてみるが、違和感はなく遅効性の毒ガスでもなさそうだ。

 嵌められたな。

 

「キンジ出たのね!」

 

 復活したのかアリアが動く、この分なら戦力になりそうだ。

 

「ああ、少なくともハイジャック犯がいることは間違いない」

 

 作戦を練ろうかとしたところでベルト着用サインが、注意音と共にワケの分からない点滅をし始めた。

 

「……和文モールス」

 

 アリアが呟いたので、俺は揺れる機内でその点滅を解読しようと試みる。

 

 オイデ オイデ イ・ウー ハ テンゴクダヨ

 オイデ オイデ ワタシ イッカイ イルヨ

 

 解読するとそんな意味だった。

 煽ってんのかあいつ。

 

「…誘ってるな」

「上等よ。風穴あけてやるわ」

「一階はバーだったな。広めで邪魔が入らない場所で遊ぼうってことだな」

「望むところよ」

 

 1階は豪奢に飾り立てられたバーになっていてシャンデリアの下。カウンターに足を組んで座っている女がいた。

 さっきのアテンダントだ。

 拳銃を向けながら、俺たちは眉を寄せる。

 彼女は、武偵高の制服を着ていた。それもヒラヒラな、フリルだらけの改造制服だ。

 ――なんかあの服めっちゃ見覚えがあるんだけど。

 

「今回も、キレイに引っかかってくれやがりましたねえ」

 

 言いながら――ベリベリッ。

 アテンダントはその顔面に被せていた薄いマスクみたいな特殊メイク――リアルで見るのは初めてだな。あんな薄いのでほんとに化けれるんだ――を自ら剥いだ。

 

Bon soir(こんばんは)

 

 くいっと手にした青いカクテルを飲み、ぱちり、と俺にウィンクをしてきたのは

 

 ――理子だった。




キンちゃんは焦ってミスりまくってます

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