遠山キンジの独白 作:緋色
カクテルを飲み干した理子は笑って言う。
「アタマとカラダで人と戦う才能ってさ、けっこー遺伝するんだよね。 武偵高にもお前
オルメス?ヘルメスならギリシャ神話かなんかで知ってるけど。
何語だ?さっきの『Bon soir』はフランス語の挨拶だからフランス語か?
フランスでオルメスというと
「作曲家のオーギュスタ・オルメスか?」
それだとあんま特別感ないな?というか――ガホッ
そう思っていたら突然、脇腹を蹴り飛ばされて吹き飛ばされる。
「 違 う わ よ !なんでその名前出て気が付いてないのよ!?オルメスはフランス語読み!英語読みだとホームズよバカ!」
吹き飛ばされて歪んだ骨格を殴りなおしながら、思い返すとフランス語はHの発音しないんだっけか。
だからHolmesはフランスではオルメスと。
…ホームズ?
「それってまさかシャーロックのホームズ?」
「そうよ。あたしはその4世。神崎・ホームズ・アリアよ」
マジか。
先祖は姫騎士じゃないんか。
あーでも子供っぽくて我儘なのは何となく納得したけど。
でもシャーロックホームズが結婚して子供作ってる事に地味にショックを受けてる。結婚できなさそうな有名人が結婚してる事を知った時の衝撃みたいだ。
いや歴史が違うのは知ってたが、なんか貴族になってるし、あり得ない事じゃないんだろうけど。その子孫が目の前にいるとなると――そこは特に何とも思わんな。
よく考えたらアリアはアリアだし先祖は先祖で別だから今まで通りの対応でいいや。
「って、今はそれどころじゃない!理子?あんた…一体何者!」
無理矢理シリアスに空気を戻したアリアに、にやりと理子が笑う。
「理子・峰・リュパン4世。それが理子の本当の名前」
リュパン?探偵科の教科書に載ってた、あのフランスの大怪盗。
理子はあのアルセーヌ・リュパンの曾孫という事なのか?
アルセーヌ・リュパン
フランスの小説家モーリス・ルブランが発表した推理小説・冒険小説「アルセーヌ・リュパンシリーズ」の主人公である怪盗
神出鬼没の怪盗紳士であり、冒険家だったり、探偵だったりする。
あとこの時代の小説の謎の特徴として親日家で柔道をマスターしてるらしい。
この世界だと、大泥棒(怪盗?)として義賊行為や冒険家として財を成したとか。
「でも家の人間はみんな理子を『理子』とは呼んでくれなかった。お母さまがつけてくれた、このかっわいい名前を呼び方がおかしいんだよ」
「おかしい?」
「4世。4世。4世。4世さまぁー。どいつもこいつも使用人どもまで…理子をそう呼んでたんだよ。ひっどいよねぇ」
イメージでしかないが名前を呼ぶのは親しい間柄ぐらいじゃないと許されないものだから、使用人が名前呼びしないのは普通じゃないか?
いや向こうの文化誤解してるだけかもしれんけど。
「そ、それがどうしたってのよ。4世の何が悪いってのよ」
ハッキリとそう言ったアリアに、理子はいきなり目玉をひんむいた。
「悪いに決まってんだろ!あたしは数字か!?あたしはただのDNAかよ!?あたしは理子だ!数字じゃない!どいつもこいつもよォ!」
……?
変な怒り方だな?
使用人とか赤の他人に4世――跡継ぎとして見られてるなら、DNAとかこんな変な怒り方はしないよな?
家族は好きそうだし、使用人に舐められてる?
何がコンプレックスなんだ?
「お爺さまを超えなければあたしは一生あたしじゃない、『リュパンの曾孫』として扱われる。だからイ・ウーに入って、この力を得た――この力で、あたしはもぎ取るんだ!あたしをッ!」
犯行動機は意味はわからんがやりたいことはわかった。
大方、先祖のライバル――ライバル?なのか?――の子孫であるアリアとやり合って自分の有能さを証明したいという事だろう。
「えーっと、アリアがオルメス4世で理子がリュパン4世。そして俺が遠山金四郎景元の7か8か9代目の子孫だ!」
理子を4世と呼んだら睨まれたので、流れで適当な事を言う。
「何に張り合ってるのよ。しかも数字曖昧だし」
「いや何か偉そうな先祖のマウント取られてるからカウンターしとこうかと。数字雑なのは興味無かったから覚えてないだけだ」
正直、先祖の因縁とか微塵も興味が無いため先祖がとか言われても知らんがなとしか。
しかもこの戦いは俺、完全に部外者だし。
「そこら辺はどうでもいい。
「キー君との仲だし一つだけね」
答えてくれるのか。
その答え次第では本気で取り押さえなければならないのだが。
「『武偵殺し』みたいだが、お前
「さあ?どうだと思う?」
「……」
はぐらかした答えだが、この反応だと人殺した事はないな。
人を殺した事のある人間ってのは何というか臭いというか雰囲気が違う。
罪悪感か慣れか興奮か。詳しくは知らんが一線を越えた何かがあるんだ。殺すことが当然のように選択肢に入ってるといえばわかりやすいか?
理子にはそういう雰囲気はない。そうなるかもしれないという覚悟はあるみたいだがそれだけだ。
よく知らんが悲願らしいオルメスとの戦いの前に酒を飲んだり、激昂したりと不安を押し潰す様な行動をしているんだ。緊張し過ぎである。
それになんで武偵高校の制服着てるのかね。条件同じにして勝ちたいという事でも肩の武偵徽章すら外してないのは、そういう事なんだろうけど。
だめだ。完璧にやる気削がれた。初手で大怪我負わせても止める気がおきない。
「キー君あまーい。まだあたしを敵だと見れてない。でもそんなんだと死んじゃうぞ♡」
……そうかもしれない。思ってたより理子のこと好きだったっぽいな。
でもこの状況で死ぬとしたら、飛行機が墜落するぐらいだと思う。
「キンジそういうのは逮捕してから聞けばいいのよ」
「アリア。――ご指名お前みたいだけど?」
とことん部外者だしさっきの問答でやる気も削がれてるので二人が戦ったらいいんじゃないかと。
そう思い声をかけると。
両手にガバメントを持ったアリアはふん!と鼻を鳴らし。
「上等よ!その喧嘩買ってあげる!逮捕よ『武偵殺し』!」
その言葉受けて理子はイラついた顔でワルサーP99を手にし、
「オルメス4世――アリア。舐めてんじゃねえぞ!」
吠えた声を合図にばんっ!と床を蹴ってアリアが仕掛けた。
常に防弾服を着用している武偵同士の近接戦では、拳銃弾は一撃必殺の刺突武器ではなく打撃武器として扱う。防弾服の上から撃って黙らせるという方式だ。
ちなみに防弾レベルを見誤ると普通に撃ち抜くのであんまり撃つのも撃たれるのもよくないし、頭とか狙われたら一発なので危険度は格闘技の比ではない。
そしてモノを言うのは、総弾数となる。
理子の広いスカートの中に、弾が20発でも30発でも入るUZIを隠し持たれていたら不利だが、ワルサーP99には通常15発までしか入らない。
対するアリアのガバメントは7発。チェンバーにあらかじめ入れておくか、エジェクションポートから手で1発入れておけば、8発まで入る。これが2丁あるから、最大16発。互角だ。
「アリア。 二丁拳銃が自分だけだと思っちゃダメだよ?」
理子はカクテルグラスを投げ捨てると、その手でもう一丁、ワルサーP99をスカートから取り出した。
二丁拳銃の対決、総弾数の差は歴然だが待ってといえば待ってくれるはずもなくそのまま戦いが始まる。至近距離から撃ちあいだ。
「このっ!」
「あはははっ!」
アリアと理子は至近距離から、拳銃でお互いを撃とうとせめぎ合う。
武偵法9条。
武偵は如何なる状況に於いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない。
その法を遵守するためアリアは理子の頭部を狙えない。そして理子も合わせているつもりかアリアの頭部を狙わない。こうなると単なる技量の差がそのまま勝敗を分ける。
武偵同士の近接拳銃戦は、射撃線を避け、躱し、あるいは相手の腕を自らの腕で弾いての戦いだ。
放たれる銃弾は、お互いの小柄な体を捉えず壁に、床に、撃ち込まれていく。
これ被害総額どれぐらい行くんだろうか。
たまに飛んでくる流れ弾を
「――はっ!」
理子が弾切れを起こした瞬間に、アリアは両脇で理子の両腕を抱えた。
抱き合うような形になってお互いの銃撃がやむ。
状況としては勝敗的にはアリアの判定勝ちかな?
「キンジ!」
「はいはい」
手錠を取り出し、理子を拘束しようと近付く。
「くふふ、それにしても奇遇だよねアリア。家柄も、容姿も似ていて――2つ名まで」
なんだあれ?髪の毛が蠢いてる?
「あたしもね、同じ2つ名を持ってるよ。アリアと違って本物の『
「離れろアリア!」
蛇のように笑う理子のツーサイドアップのテールが腕のように動いてるのを見て、とっさに叫ぶ。
理子の背中に隠していたらしいナイフの一撃を驚きつつも避けたアリアだったが、反対側のテールに握られたナイフに反応できず、とっさに投げた手錠を挟んだことで殴られたようで拘束が緩んだ。
その隙を逃さず逃げて距離を取る理子は、俺が前に出たことで追撃は諦めたようだ。
「なんだそれ
「ジョジョならラブデラックスが可愛いからそっちで!」
ピヨってるアリアを背に軽口を言いながらも確認するが、筋力で動かしてる感じではない。
というか髪はあんな風に動くことは普通はない。――となると
「
超能力者だったなら璃璃粒子?とかいう超能力妨害する天候で戦闘難易度が段違いに変わるんだが、今日はそういうの見てないからわからねえな…。
「おーきな意味ではせ-かい。キー君対応早すぎじゃない?結構奥の手だったんだけど」
「生憎、ジョジョは理子がお勧めしてきたんだろうに」
「あたしのせいだったかー」
あちゃーっとオーバーなパフォーマンスしながらも髪で銃をリロードする器用さを見せつけてくる。ある程度束にして操ることは可能なようだ。
ナイフを使ってる事から見ると攻撃力はあんまり高くない、が、手数が多いというのは厄介だな。
「で、これからどうすんのお前?」
「……キー君いい顔してきたね。そだね。キー君、イ・ウーに来ない?キー君のお兄さんもいるからキー君の望みも叶うよ?アリアもついでに連れて行けば殺さなくてもいいし」
「兄さんがねえ…」
口ではそういうものの考えることは別である。
…アリアを殺さなくていい――か。
先祖の因縁とか持ち出して、理子になるとか言ってる割になーんかチグハグだ。
もうここまで来たら答えは出たようなもんだな。
「理子――誰に脅されてる?」
「――え?」
困惑の声を出した理子を見据えながら言葉を紡ぐ。
「アリアを倒して理子になるとか、動機の点からして疑問だったんだけどよ。それ誰かからの入れ知恵だろ。家族は好きそうだったし使用人云々はそこまで拗らせる原因とは思えん。なによりDNAと数字に怒りを表した。そんなもん気にするのは貴族とかコレクターとかだろ、となるとお前イ・ウーに攫われてコレクション扱いされてたんじゃねえか?」
イ・ウーの手先になってるのも足抜けしたらひどい目に遭わせるか、自分らの同類だとして居場所をそこだけだと思わせるカルト宗教に近い構造なのだろうか?そうなると救うのは難しい。
でも少なくとも武偵高校で1年は過ごした同期だ。
「武偵校にいた時の方が自然で魅力的だったしな。今の方が無理強いされてるのはわかるよ」
というか今後次第――負けたらへし折られるから掛けるべき言葉ではないのかもしれない。
「その原因ぶっ飛ばして助けてやろうか?」
それでも俺は自己満足と言われようとも救いの手を差し伸ばすべきだと思う。
こんなこと言っても別に響くことはないだろう。塞がった扉の鍵を探すような行為だ。
「キー君じゃ無理だよ」
「
「あはは、キー君らしいね。――
「あん?」
Profession?
トップの役職か?
「ねえキー君」
「なに?」
「助けてくれるの?」
「そう言ってる」
「じゃあ――地獄の底まで一緒に堕ちてくれる?」
「え?やだ」
瞬間、飛行機が大きく揺れた。
銭形警部の手錠投げってすごいっすよね
原作何巻まで読んだ?
-
読んでない
-
1~10
-
11~20
-
21~30
-
31~39