遠山キンジの独白   作:緋色

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やっべえ
ヒスってなかった…


アテンション

「あばよ。遠山にオルメス」

 

 突然の飛行機の揺れに動揺している間に理子が逃げる。

 揺れる事がわかってた動きだから操縦席にラジコンでもついてんのか?なら墜落する前に俺が向かうべきは――

 

「キンジ、理子を追いなさい!あたしは操縦席に行く!」

「は?」

 

 いつの間にか起きてたらしいアリアは何故か操縦席に…あー、そういや機長も副機長も倒れてたしコントロール取り戻すなら必須か。

 飛行機は運転したこと無いし、アリアに任せて理子の方へ向かうか。

 

「この狭い飛行機で何処に逃げる気だ理子」

 

 ペタペタと部屋の壁に取り付けられているのは、爆薬だろう。

 扉とか壁を焼き切って突入する際に使うやつだ。

 

「じゃあな遠山」

 

 あ、これ間に合わねえ。

 

「理子!地獄の底から引きずり上げてやるよ!覚悟しとけ!」

 

 理子の背後に仕掛けていた炸薬を爆発させ、壁に空いた穴から、理子はその穴からパラシュートも無しで機外に飛び出ていった。

 

 ――多分負け惜しみは聞こえてねえな。

 とっさに何言ってんだ俺?

 

 機内に警報が鳴り響き、天井から酸素マスクが雪崩のように飛び出し、天井からは自動的に消火剤とシリコンのシートがばらまかれてきた。

 トリモチのようなそのシートは空中でべたべたとお互い引っ付き合い、理子が空けた穴に蜘蛛の巣を張るようにして詰まっていく。

 こんなシステムあるのかスゲーな。応急処置っぽいから長くは持たんだろうけど。

 手近な窓にしがみつくようにして、外を見ると僅かな月明かりの中でくるくるくるっ、と布量の多いスカートとブラウスが不格好なパラシュートとなって宙を踊るようにして遠ざかる理子が見えた。

 最初からあれで逃げるつもりだったのか――あの方向海だが船で拾って貰うつもりか?警察に連絡入れとくか?荒れた天候の関係上、多分捕まらんだろうが最低限の仕事はしないとな。

 公安のおっさんに連絡しようと携帯を取り出しながら見えたのは、下着姿になった理子がこっちに手を振りながら雲間に消えていく姿と雲間から冗談のような速度で飛来する2つの光。

 

   ドドオオオオオオンッッッ!!!

 

 轟音と共に、今までで一番激しい振動がANA600便を襲った。

 ミサイル!?何処の組織だ!?

 船は見えないが海上から飛行機にミサイル当てるなんて、そんな事可能なのは自衛隊か米軍だろうが、ハイジャックで市街地に突っ込むと判断されたか!?いやここ海上だぞ!?

 見たところ4基のエンジンのうち、内側のエンジン2基が破壊されたようだ。

 まだ飛べるようだが、直ちにコントロールを取り戻した事を伝えないと撃墜されかねねえ!

 携帯はダメだ。操縦席の正規の通信で管制塔に伝えないと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅い!」

 

 慌てて操縦席に向かうと、アリアが操縦桿を握っている姿だった。

 どっかで見たような変な機械の残骸が転がってるが、これは理子が飛行機コントロールしてた機械だろう。

 それと倒れてる機長と副操縦士は、数時間は起きない昏睡状態のためフライトアテンダントに任せて操縦席に向かう。

 

「運転できるのか?着陸は?」

「上下左右に飛ばすだけで限界。セスナ機ぐらいなら離着陸できるけど、これの着陸は自信はないわね」

 

 そうか。一応操縦マニュアルは見つけたが、これだけで試すのは自殺行為だけど。

 エンジン計器・乗員警告システム(EICAS)に思いっきりWarningと出てる。よくわからんが時間無さそうだな。

 こうなったら本元のヒスった俺に期待するしかないけど。ヒスれるかなあ?

 

「…こういう状況ってベストを尽くすべきだと思う?」

「当たり前でしょ」

 

 やりたくねーな…。

 

「…後悔しない?」

「ベストを尽くしなさい」

 

 ギン!と睨まれたのでやるしかなさそうなので諦める。

 

「じゃ遠慮無く。操縦桿動かすなよー」

「?」

 

 キョトンとした顔はアイドル級にかわいい。子供っぽいが同い年で十分育ってるわけだ。技術も一流。

 …………………………………………………………らしくねえ自己暗示は意味ないな。

 なら欲望に忠実に――これは俺のだ。

 顎を手で少し上げてチュッとする。

 

   ――ドクン

 

「!?!?!?!?」

 

 操縦桿を押さえてなかったら墜落しそうなぐらい暴れる。勢いよく流れる血流が暴れるアリアを的確に押さえて平常を維持する。

 いや、そんなに嫌がらなくても良くない?嫌がるの当然だけれども

 

「しっかり飛ばせ、俺がなんとかするから」

「あにゃ――あんた、いきなり何してるのよ!?」

「後悔する死に方したくないじゃん?」

「あんた後で風穴!風穴地獄!」

 

 後で、ね。

 

「無事に着陸出来たらチャラな」

「ふざけてんの!?」

「じゃあ一緒に心中するか?」

「あんたと心中なんて死んでもお断りよ!」

「奇遇だな。俺も心中なんてお断りだね。アリアを死なせたくない」

「うにゅう!?」

 

 適当に言いながらペラペラと操縦マニュアルを流し読みして、操縦方法を暗記する。流石ヒステリアモード、一発で覚えられたが、流石にこれで着陸するのは不安だな。

 もう片方の席に入って無線機をインカムからスピーカーに切り替える。

 

『――ちら羽田コントロール。ANA600便、緊急通信周波数127.631で応答せよ。繰り返す――』

 

 緊迫感のある声が聞こえてくる。管制塔だ。

 

「こちら600便だ。当機は先ほどハイジャックされたが、今はコントロールを取り戻している。機長と副操縦士が負傷。現在は乗客の武偵2名が操縦している。俺は遠山キンジ。もう1名は神崎・H・アリア」

 

 俺の声に、羽田は安堵と驚きを混ぜたような声を上げた。

 とりあえず管制塔との通信は繋がったな。だが、撃墜指示でも出てるなら羽田コントロールのいう事を唯々諾々になるのは危険ではある。

 よし次は、撃墜を避けるためのアドバイザーが必要だな。こういう時に頼れそうなのは――武藤か。

 さっき機長の腰から拝借しておいた衛星電話を左手で操作する。コールを始めると同時に、電話機もBluetoothでスピーカーに繋いでおく。

 

「もーしー?武藤。ヘンな番号からですまない」

『キンジか!?いまどこにいる!』

「ANA600便を操縦中でな。今――」

 

 羽田コントロールと武藤に現状を手短に伝えた。

 

『……ANA600便、まずは安心しろ。そのB737-350は最新技術の結晶で残りエンジンが2基でも問題なく飛べる。悪天候時でも長所は変わらない』

 

 羽田コントロールの声に、アリアが少しホッとした表情になる。

 

「奥歯に物が挟まったような言い分だな。あとEICASがWarningの警告出してるんだが?」

『それは…』

 

 言い淀んだ羽田コントロールに代わり武藤が口を挟む。

 

『キンジ。破壊されたのは内側の2基だって言ったな。燃料計の数字を教えろ。中央から少し上についてる四角い画面で、2行4列に並んだ丸いメーターの下に、Fuelと書かれた3つのメモリがある。その真ん中、 Totalってヤツの数値だ』

 

 さすが乗り物オタク。 武藤の声はまるで計器盤が見えているかのようだった。

 

「数字は 今、540になった。少しずつ減ってるな。今、535」

 

 俺の応答に、武藤が舌打ちするのが聞こえてきた。

 

『くそったれ…盛大に漏れてるぞ』

 

 やっぱりか。向こうでもモニタリングできるのか知らんが言い淀むのも理解できる。

 

「あとどのくらいもつ?」

『残量はともかく、漏出のペースが早い。言いたかないが15分ってとこだ』

「となると向かう先は羽田空港ぐらいしかないな」

「元からそのつもりよ」

 

 それは良かった。

 今はとにかく時間を無駄にしたくはない。

 

『…ANA600便、操縦はどうしている。自動操縦は決して切らないようにしろ』

「自動操縦なんてとっくに破壊されてるわ。今はあたしが操縦してる」

 

 アリアが眼で示した計器盤の一部ではAutopilotと書かれたランプが赤く点滅し、点滅と同じテンポで警告音が鳴り続けていた。

 これはダメそうだな。

 

「というわけで、着陸の方法を教えてもらいたいんだが」

『…すぐに素人ができるようになるものでもない。現在、近接する航空機との緊急通信を準備している「それいいな。近接する全ての航空機との通信を同時に開いて欲しい。できるか?」

『それは可能だが…どうするつもりだ』

「彼らに手分けさせて、着陸の方法を一度に言わせるんだ。 武藤も手伝ってくれ」

『一度にってキンジお前、聖徳太子じゃねーんだから!』

「実は先祖にいたから問題ない。いいから流せ」

 

 一気に喋る11人のプロ達の着陸方法を聞き、マニュアルだけじゃわからない経験則を読み取り分析する。あとは実践するだけだ。

 

『ANA600便。こちらは防衛省、航空管理局だ。羽田空港の使用は許可しない。空港は現在、自衛隊により封鎖中だ』

『何言ってやがんだ!』

『だれだ』

『俺ぁ武藤剛気、武偵だ!600便は燃料漏れを起こしてる!飛べて、あと10分なんだよ!代替着陸(ダイバード)なんてどっこにもできねえ、羽田しかねえんだ!』

『武藤武偵。私に怒鳴ったところでムダだぞ。これは防衛大臣による命令なのだ』

 

 防衛大臣命令ねぇ。近くに来たこいつもそれ絡みかな?

 

「おい防衛省。窓の外にお友達が見えるんだが」

『…それは誘導機だ。誘導に従い、海上に出て千葉方面へ向かえ。安全な着陸地まで誘導する』

 

 ANA600便のすぐ脇に航空自衛隊の戦闘機(F-15Jイーグル)が、ピッタリつけてきている。

 燃料十分弱の情報を聞いてどこに着陸させんだよ。

 千葉方面なら途中の海上で燃料が尽きるだろ。

 

「…海に出るなアリア。嘘をついている」

 

 操縦桿を海上に傾けようとしたアリアの手を上から握って止める。

 

『嘘などついていない』

「ならどこに着陸させる気だ」

『自衛隊の航空基地だ』

『千葉方面に滑走路のある基地ねえだろ!』

 

 吠える武藤の言う通りこれは海上で撃墜する気だな。

 

「おい防衛省。一つ質問」

『…なんだ』

「この機はミサイルで撃たれて時間的余裕がない危機的状況なんだが。撃ったのお前らか?それとも米軍か?」

『どちらでもない!我々は国を守るために泥を被る覚悟はあるが、無意味な撃墜などしない!』

 

 ――じゃあなんなんだあのミサイル。

 

「――全員生還させるから黙って見てろ。最低でも人的被害はこの機だけにするからな!」

 

 羽田との回線を切って、アリアに笑う。

 

「すまん。ハードル上がっちゃったぜ」

「上がってないわよ。最初から全員生還するつもりだもの」

『お前、生きて帰らなかったら轢くからな』

 

 武藤、それ死体蹴りじゃねえか?

 

「で、どこに着陸するつもりよキンジ。都内に他の滑走路なんてないじゃない」

()()()は、な。最低限広い土地なら問題ない。武藤。滑走路には、どのくらいの長さが必要だ?」

『エンジン2基のB737-350なら…まあ、2450mは必要だろうな』

「そこの風速は分かるか?」

『風速? レキ、学園島の風速は』

『私の体感では、5分前に南南東の風、風速41.02m』

 

 狙撃科のレキの声が、少し遠くから聞こえる。

 

「じゃあ武藤。 風速41mに向かって着陸すると、滑走距離は何mになる?」

『…まぁ、2050ってとこだ』

「ギリギリ『空き地島』に対角線でいける」

 

 南北2㎞、東西500mの長方形のなんもない島だ。ギリギリ可能だろう。

 

「というわけで武藤、当機はこれより着陸準備に入る」

『待て、待てキンジ、「空き地島」は雨で濡れてる! 2050じゃ停止できねえぞ!』

「それはなんとかするよ。俺を信じろ。あ、さっきの聖徳太子のくだりは嘘だ。血縁あるかは知らん」

『お前ホントいい加減にしろよ!?しくじったら轢いてやるからな!』

 

 叫ぶと、武藤はキレたのか教室のみんなに何やらわーわーと怒鳴り、電話を切ってしまった。

 急げって何かする気かあいつ?

 新宿のビル群をかすめるように、ANA600便は大きく右旋回を始めた。

 

「そろそろか。覚悟はいいか?」

「あんたに任せるわ。もう祈るしかできないし」

「女神様が祈ってくれるんだ。じゃあ大丈夫だな」

 

 車輪を出すと、アリアは操縦のメインを俺の副操縦席に渡した。

 人工浮島も、もう見え――見えねえ。

 ヒステリアモードの頭が、すぐ結論を出す。

 ここまで何とか頑張ってはきたが、着陸は不可能だ。

 『空き地島』が、まるで見えない。

 武藤が言った通り、汐留を境に、東京湾は暗闇に包まれている。

 誘導灯も何もないのだからムリもない。分かっていたことだが、ここまでとは。

 これでは、着陸すべき角度も、高度も、全く分からない。

 

 ――よし、勘で突っ込むか。

 被害は最小限で済むし、うまくいけば(可能性は0に近いが)全員生還できるだろう。

 

 

 

 としたとき -第六感でそれを察したのか、 アリアが、言った。

 

「キンジ。大丈夫。あんたにならできる。できなきゃいけないのよ。あんただってやりたいことあるでしょう!?それに、あたしだってまだ ママを助けてない!!」

 

 ベイブリッジの手前にある、『空き地島』の上に光が見え始めた!

 

『キンジ! 見えてるかバカヤロウ!車輌科で一番でかいモーターボートをパクっちまったんだぞ!装備科(アムド)懐中電灯(マグライト)も、みんなで無許可で持ち出してきたんだ!全員分の反省文、後でお前が書け!』

 

 武藤からの通信が再開したと思えばそんなことを言う。

 その言葉に続けて、俺と武藤の電話回線に3者間通話、4者間通話と、割り込んでくる回線があった。

 

『―――キンジ!』 『機体が見えてるぞ!』 『あと少しだ!』 『もう少し頑張りやがれッ!』

 

 ヒステリアモードの俺には分かる。バスジャックの時、助けた連中だ。

 

「ハハッ。アホ共め」

 

 柄にもなく笑ってしまう。情けは人の為ならず。

 意外と俺は好かれていたらしい。

 

「マイクテストマイクテスト。――これより当機は緊急着陸を行います。足と膝を揃えて、足をしっかりと地面につけ、頭はできる限り前に出すようにし、前の席に届くようであれば、前の座席に頭を固定し、手は頭の後ろで重ねるように置き、肘で頭を囲うようにして下さい。繰り返します。これより――」

 

 二回ほど繰り返して、マニュアルに載ってた放送をした後に空き地島への緊急着陸を実施する。

 

   ザシャアアアアアアア――――!!

 

 ANA600便は舗装されてもいない雨の人工浮島を暴れるように滑りながら緊急着陸を行い――

 

   ガスンンンンンンンンンンッ!

 

 翼に風車の柱をブチ当てるように引っかけて、ANA600便はグルリとその機体を回すように滑らせ

 俺とアリアは、操縦室の中でまるで洗濯機の中の服みたいにもみくちゃになって――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ?」

 

 …クチナシの香り。

 ああ、そうだ。これはアリアの香り。

 俺は全身がバキバキに痛むのを感じながら、目を開けていった。

 

 ――生きてるな。

 

 窓の外にレインボーブリッジが見える。

 ANA600便は何もかもギリギリだったが、なんとかなったわけだ。

 なんかアリアが抱き着くように乗っかってるが、シートベルトから吹っ飛んだんだろうか?身体動かねえし面倒だからこのままの体勢でいいや。

 

「あーあー、アテンションプリーズ。救助が到着するまで今しばらくお待ちください」

 

 適当な放送をしてから。電源切って寝る。

 この後の事はもう知らん。疲れた。




いろいろ突っ込みたいとこ多いハイジャック終了!

前話のあれは上条ちゃん意識してた部分あるので
ここに繋げたかったけど結構無理矢理だったかなあと反省
うまい言い回しとかもっと考えるべきだったかと思うけど
思いつきませんでした

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