遠山キンジの独白   作:緋色

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謹賀新年


地下の騙し合い

 上の階層、地下6階への隔壁を無理矢理こじ開けた所で狙っていたのかトラップなのか急に水量が増えて無理矢理押し上げられる。

 

「きゃあ!」

 

 地下6階のフロアに上がった白雪が水流に足を取られて、リノリュームの床を滑って押し流されていく。おい!

 

「白雪!刀剣(エッジ)を出しておけ!」

「はっ……はい!」

 

 物陰に流されてしまった白雪を追いたいがまずこの水を止めなければならない。水で溢れたらまた同じことの繰り返しになる。

 床の扉から手を離さずにいた俺は、それを猛烈な水圧に逆らって無理矢理閉める。

 

「あー、疲れるなもう」

 

 あー、濡れた服が気持ち悪い。眼帯していた風呂敷は外したが、絞って水気を拭いてもあんまり意味はなさそうだ。瞼は――開かないな。片目だけでどうにかしないといけなさそうだ。

 海水だから鼻も利きにくいし、この部屋は冷房が効いてるから少々肌寒い。

 これで最初の凍らせるアレ(多分魔術)されたら広範囲が一気に凍りそうな気がする。下手すりゃ凍傷で捥げるかもな。となると火薬庫よりこっちが本命の階なのだろう。

 

「ここはサーバー室だったか……壊れてないよな?弁償できねえぞ?」

 

 周囲を見回すと、足元が水浸しになったこの階は 壁のように巨大なコンピューターが無数に立ち並ぶ、HPCサーバー――俗に言う、スーパーコンピューター――室だった。

 ちかちか、と、あちこちでアクセスランプが点滅している。よくわからんけど壊れてはないっぽい。

 『DANGER』だの『CAUTION』といったサインボードは無いから火薬庫みたいに爆発することはないだろう。

 銃解禁だな。

 大型コンピューターが衝立のように立ち並ぶこの部屋は、まるで迷路だ。適当に増設したのか一直線の通りが少なく曲がり角が多い。

 足音を殺しつつ、分岐路でバタフライナイフを即席の鏡として偵察に使い効率は最悪だが不意打ちくらうよりはマシだと、とりあえずエレベーターの方へ向かう。

 こういう時に反響定位(エコーロケーション)で把握できる人間がうらやましく感じる。練習するか?10週間ぐらいで習得できるらしいし。

 くだらないことを考えつつも進んだ先で

 

「キンジ。良かった無事だったのね…」

「任せろって言っただろ」

 

 自分だけ先に移動した事に罪悪感を持っていたらしいアリアと鉢合わせた。

 ヒステリアモードの見抜きだと本物のアリアだろう。

 一々確認しないといけないのは神経削るなあ……。

 

「それは言ってないわ。でも白雪を連れて逃げるのがベストでしょう」

「可愛いアリアを置いて逃げるほど薄情じゃない」

「なによそれっ!?」

 

 ツリ目で睨み上げてきたので反射的に言葉を返す。

 

「アリアが寂しがってると思ってね」

 

 罪悪感抱いたままで魔剣(デュランダル)に挑んだところでパフォーマンスが落ちていたら勝てないだろう。罪悪感を取り除くことが逮捕のカギだと今結論付けた。

 

「ななな言ってんのこんな時に!?」

 

 なんで赤面したんだこいつ?

 熱でもあるのか?

 

「それより魔剣(デュランダル)は?」

「あの臆病者はあたしと戦うつもりがないみたいだわ」

「ふーん?」

 

 妙だな?

 火薬庫の水没で分断したのだから各個撃破する方が効率はいいはずだ。アリアはSランクの武偵だ。超能力者(ステルスロジー)は無能力者を見下す傾向があるとはいえ削りもしないとはどういうことだ?

 別の目的があるのか?まとめて撃破する策があるのか?それともアリアを殺してはいけない理由があるとか――流石にそれはないか。

 

「この階のどこかにいるのは確かよ。上に続く扉の鍵は壊されてたし、エレベーターの扉も鉄板で塞がれてた。全部内側からね」 

 

 ならこの階から脱出してから水没させれば楽に逮捕できるか?最悪死ぬからダメかな?

 

「さっき声が聞こえたけど白雪は?」

「白雪も無事だがこの階で水流に流されて分断されてしまった。俺が前衛(フロント)やるから後衛(バック)を頼む」

「あんた片目使えないんでしょ?あたしが前衛(フロント)やるわ」

 

 正直、女性を前に出すのは良くないが、今回は片目だし索敵能力が落ちている。となると前に出ても不覚を取る可能性が高い。

 

「……しゃーないか」

 

 アリアを先頭にエレベーターホールへ向かっていくと

 

「あれ?あんたも援護に来てたの?()()()()()()

「敵は?」

 

 下の階で俺を不意打ちしたえらい美人がアリアの前に現れ話かけてきた。

 

「離れろアリア!」

 

 え?という戸惑う声をかき消すようにベレッタを発砲するが、位置が悪く簡単に避けられるどころか銃を構えようとしたアリアを捕らえ、持っていた刀を首筋に当てて人質にとる。

 下手に射殺したらアリアも死ぬなこれ。

 

「クロメーテル……!急に何よ!どうし、したの!」

「そいつクロメーテルじゃねーぞ」

 

 クロメーテルは答えずにフッとアリアの両手に息を吹きかけた。

 

「うあっ!」

 

 仰け反ったアリアが落としたガバメントの周囲が凍っていく。

 何アレこわ!?

 

「あんたが魔剣(デュランダル)だったの!?()()()()()()()()()()()()!」

 

 なんか知らんうちに苗字が付いてる!?

 変なところで驚愕している俺を無視して話が進む。

 

「私をその名で呼ぶな。人から付けられた名は好きではないし、特秘任務(シークレット)とやらで不在の顔を借りてるだけだからな」

「あんた――あたしをからかってたのね!」

「おかげで楽に情報収集ができた。そこの女好きのおかげもあってな」

「んぐっ!」

 

 よくわからんがアリアから直接情報を得ていたらしい。

 そーいえば偶にクロメーテルの元に来て俺の愚痴などを吐き散らして去って行くことがあったが、あれをやっていたのだろうか。

 あと思い返せば陽菜も気になること言ってたし結構活発に動かれていたようだ。

 クロメーテル関連の情報シャットアウトしてたせいで気付けなかったと。

 

「ママに着せた冤罪107年分はあんたの罪よ!あんたが償うのよ!」

「この状況で言うことか?」

 

 フンッ、と『魔剣(デュランダル)』が囚われのアリアを嘲笑う。

 

「それにお前の名――たかだか150年ほどの歴史で名前を誇るのは無様だぞ。私の名はお前より遥かに長い600年にも及ぶ光の歴史を誇るのだしな」

「なるほど、お前は『双剣双銃(カドラ)』が――リュパン4世が言った通りだ」

 

 リュパン4世――一瞬繋がらなかったが理子の事か。

 ここまでの変装はやはり理子の技術というわけか。あいついなくなっても迷惑かけやがんな!

 

「アリア。お前は偉大なる我が祖先――初代ジャンヌ・ダルクとよく似ている。その姿は美しく愛らしく、しかしその心は勇敢」

「ジャンヌ・ダルク……!?」

 

 ジャンヌ・ダルク

 神の啓示を聞いたとかでフランスの軍人になり百年戦争で活躍した女傑である。確かオルレアンの乙女(a Pucelle d'Orléans)とか呼ばれてるらしい。技名そのまんまだな!

 元々豪農の貴族に近い家だったとかで指揮する立場になったんだったか。最後はイギリスに捕まって処刑されたとか。

 

「ウソよ!ジャンヌ・ダルクは火刑で……十代で死んだ!子孫なんていないわ!」

「あれは影武者だ。我が一族は策の一族。聖女を装うもその正体は魔女。私たちはその正体を歴史の闇に隠しながら――誇りと名と知略を子々孫々に伝えてきたのだ」

「それは光の歴史じゃなくて闇の歴史じゃねえか?」

「黙れっ!――んん゛。そして私はその30代目。30代目――ジャンヌ・ダルク」

 

 血統にプライドを持ってるのか。突き崩すなら。そこか? 

 

「お前が言った通り我が始祖は危うく火に処せられるところだったものでな。その後、この力を代々探究してきたのだ」

 

 ジャンヌの手が毒蛇のようにアリアの太ももに伸びると また、 アリアが激痛に体をねじった。

 

「きゃうっ!」

 

 見れば、アリアの膝小僧に氷が張りついている。

 

私に続け(フォローミー)、アリア。リュパン4世が攫いそこねたお前も貰っていく。それとも――死ぬか? そういう展開も私は想定済みでな」

「おいおい俺がいるのに舐めすぎだろ。それともワザと無視してる?」

 

 視界の端で動く人影を見て時間稼ぎに徹することにする。

 

「私の変装を見抜いたお前は普段のお前ではないのだろうな。警戒せねばならないのは確かだが…今のお前の弱点は『女を人質にされること』、だろう?」

 

 よく調べてるな。理子情報だろうけど。

 

「あんま余計な事したら俺の怒りゲージが溜まるからな?慎重に行動を選べよジャンヌ」

「呼び捨てにするな遠山。それと動けばアリアが凍る。アリアも動くな。動いた場所を凍らせる」

 

 できるだけ連れて行きたいから殺す気は低そうだな。

 しかし、どれくらい凍るのかもよくわからんから即死するかもしれないから動きにくい。判断はあっちに任せるか。

 

「キンジ……撃ち、なさい!」

「喋ったなアリア? 口を動かした。悪い舌はいらないな」

 

 ぐい、と刀を持つ手でアリアの顎を強引に押さえたジャンヌはアリアの口に、自らの唇を寄せていく。

 

「エロ百合女」

「誰がだ!?」

 

 俺の言葉に反応してこっちを向いたジャンヌの背後、3mはあるコンピューターの上から分銅つきの鎖が伸び――アリアの顎を押さえる際に緩められた右手――その、刀の鍔に巻き付いていた。

 眉を寄せたジャンヌが見上げたコンピューターの上には

 

「キンちゃん、アリアを助けて!」

「よそ見すんなよジャンヌちゃん」

「なっ」

 

 鎖を引き上げ、自分のニセモノの手から刀を取り上げた。そしてコンピューターの上で、釣り上げた刀をキャッチする。

 

 ――パアン

 

 俺が放った天井への威嚇射撃に固まったジャンヌに対し、白雪は飛び降りざまにアリアとジャンヌ・ダルクの間に割り込むようにしながら刀を斬り下ろす。

 放されたアリアが離れ際に、まだ無事だった片脚でジャンヌの膝へカンガルーキックを叩き込んだ。

 ジャンヌは大きくバランスを崩し、後退せざるを得ない。

 ごろろっと転がったアリアは、俺の足元で片膝立ちの姿勢になる。

 そのアリアを守るように、白雪が立つ。

 ちゃき、と刀を八相に構え直した白雪に、ジャンヌは――

 

「白雪――貴様がアリアを助けるとはな」

 

 こいつ俺の事認める気ねーんだな。いや白雪を最大限に警戒してるのかな?

 筒のような何かを落としたと思えば、シュウウウと筒から煙が広がっていく。煙幕か!

 煙を感知した天井のスプリンクラーが 次々に水を撒き始める。

 白雪はジャンヌが身を隠した煙を避けるように、じりじり、と退がってきた。

 

「ごめんねキンちゃん。いま、やっつけられると思ったんだけど……逃がしちゃったよ」

「上出来だよ。さすが白雪だ。アリア大丈夫か」

「や、やられたわ。まさか、クロメーテルに化けてるなんて。私の友達に泥被せようだなんて許せない!」

 

 いつ、お前とクロメーテル(おれ)が友達になったんだよ。人付き合い下手というか距離感おかしいやろ。

 ツッコミたいところが多すぎるが、いったん置いといて屈んだままのアリアは、ぐっ、ぱっ。ぐっ、ぱっ 手を、むすんでひらいてしている。

 見た所だが、リンゴを握りつぶせるその握力はまるっきり弱まっていた。

 戦闘は、もうできないだろう――おそらく、ジャンヌの狙い通りに。

 

 ――勝てるかなこれ?




つじつま合わせは大変

キンちゃん強化は

  • 戦闘技を増やす
  • 便利スキルを増やす
  • 部下を増やす
  • 女を増やす
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