遠山キンジの独白   作:緋色

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巫女と聖女

 この部屋の室温は急激に下がっている。

 煙の向こうでは、スプリンクラーから撒かれる水が空中で氷の結晶となり、雪のように舞っている。

 ダイヤモンドダストという現象だ。身体も濡れてるしマジで寒い。

 

「魔女の氷は毒のようなもの。それをキレイにできるのは修道女か巫女だけ。でもこの氷はG(グレード)6からG(グレード)8ぐらいの強い氷。私の力で治癒しても元に戻るまで5分はかかると思う。だからその間、キンちゃんが守ってあげて。敵は私が1人で倒すよ」

「白雪なら勝てるだろうけど、俺があいつぶん殴りたいからヤダ」

「キンちゃん…そう言ってくれるのうれしいよ。でも今だけここは超偵の私に任せて」

 

 白雪もそうだが超能力者(ステルスロジー)は無能力者をナチュラルに下に見る悪癖があるんだよなあ。

 確かに超能力者(ステルスロジー)戦はあんまり得意じゃないとはいえ。

 

「アリア、これすごく…しみると思う。でもそれで良くなるから。ガマンして」

 

 言うと白雪は、小さく、何か呪文のようなものを呟いた。

 目には見えない力が、 白雪の手からアリアの手に伝わっていく。

 白雪の治療に痛みが伴うらしく、しかしアリアは敵に見つからないよう声を殺した。

 

 あっ…んくっ…

 

 なんかヒステリアモードが強化される声出されると非常に困る。

 一応ジャンヌは生きたまま逮捕しないといけないわけだし。

 

「キンちゃん動かないでね。視神経周りは危ないから」

「わかった。微動だにしない」

 

 宣言してから治療を受けるがあっつっっっ!根性で耐えるとすぐに終わった。

 

「これ目を開けて大丈夫なやつか?」

「あと2、3分くらいで目を開けてもいいと思う」

 

 治癒を終えた白雪は小袖から長方形の和紙に何やら漢字と記号が朱色で書かれた御札のようなものを出し、コンピューターに貼り付けると周囲が今度は暖かくなる。

 便利だなーそれ。非常用に今度作ってもらおうかな?

 

「白雪。どれくらい持つ?」

「大丈夫」

 

 何がだよ。左の拳を握ってから開く動作から見て五分前後かな?

 アリアと俺の治療に暖房もやってる以上MPは結構使ってるはずだ。

 あまり長く持たないと見たほうが良いだろう。

 

「超能力のことはよく知らんし白雪を信じるぞ。だから俺を信じろ」

 

 この戦い、まずは超能力者の白雪に任せよう。

 軽く頷いて白雪は

 

「ジャンヌ」

 

 入れ替わりに敵の方へ一歩出て、俺とアリアに背を向けた。

 

「もう…やめよう。私は誰も傷つけたくないの。たとえそれがあなたであっても」

 

 ハッキリと伝えた白雪に、フン、という笑い声が煙の向こうから聞こえてくる。

 

「笑わせるな。原石に過ぎぬお前が、イ・ウーで研磨された私を傷つけることはできん」

 

 イ・ウーって何の組織なんだろう…。

 理子は髪動かすくらいしかしてなかったのであまり意識してなかったが、超能力者(ステルスロジー)が多い組織なのか?となると常備武装が変わってくるわけなのだが。

 脇道に入る思考をよそに会話は進んでいく。

 

「私はG(グレード)17の超能力者(ステルス)なんだよ」

 

 という白雪の言葉に、今度は笑い声が返ってこない。

 確かG(グレード)超能力者(ステルスロジー)の格だか才能を指す指標でこれの数が多いほど使える術式が多くなるらしい。

 

「ブラフだ。G(グレード)17などこの世に数人しかいない」

「あなたも感じるハズだよ。星伽には禁じられてるけど…この封じ布を解いた時に」

「…仮に、真実であったとしてもだ。直接対決の可能性も想定済みだ。G(グレード)の高い超偵はその分、精神力を早く失う。持ち堪えれば私の勝ちだ」

 

 意を決したように言ったジャンヌの姿が晴れていく煙の向こうで、とうとう明らかになる。

 部分的に身体を覆う、西洋の甲冑。

 

「リュパン4世による動きにくい変装も終わりだ」

 

 クロメーテルの顔がベリベリと剥がされる様はなんかグロイな。

 刃のような切れ長のサファイアの眼に、2本の三つ編みをつむじの辺りに上げて結った髪は氷のような銀色。どこか古めかしい日本語とは裏腹にジャンヌ・ダルクはまさに西洋の歴史映画に出てきそうな美しい白人だった。

 

「キンちゃん、ここからは私を見ないで」

 

 敵を前にして微かに震える声で俺に言う。

 

「白雪。――鬼道術使えないからって拗ねたの昔の話だろ。根に持ってんの?」

 

 それより目の前の敵に集中してくれ。

 

「違うよ。本気の私を見たらきっと怖くなる」

「なんで急にマウント取られてんの俺?俺の本気の方が怖いわ!」

「そうじゃないの。()()()()()って思うから、キライに…なっちゃう」

「あれ?もしかしてナチュラルに別れようとしてる?愛想尽かされる心当たりは――困った。いっぱいある」

「違うよ!?キンちゃんを嫌いになることなんてありえないよ!」

「なら俺を信用しろよ…」

 

「お前らいつまで茶番をしてるつもりだ!」

 

 あ、ジャンヌが目の前にいること忘れてた。

 

「ふん。どうせ超能力者(ステルス)と無能力者はわかり合えることはない。ならば星伽白雪。同類のいるイ・ウーに来るべきだ」

「わかり合ったからこそ。今の君がいるんじゃないかな…?男の超能力者(ステルス)ってほぼいないらしいし。俺も超能力者(ステルスロジー)と無能力者の子孫だしね」

 

 確か遠山家は星伽神社と同盟みたいな関係のため、星伽からちょくちょく嫁が来ているらしい。

 ――なのに、鬼道術使えないのバグじゃなかろうか。

 

「だから超能力者(ステルス)と無能力者はわかり合えると…?現実を知らん奴め」

「少なくとも俺と白雪はわかり合えると思ってるよ。俺とジャンヌちゃんもわかり合えるかもね」

「――っ。戯言を」

 

 なんか動揺してるな。

 

「ジャンヌ。もうあなたを逃がすことはできなくなった。星伽の巫女がその身に秘める禁制鬼道を見るからだよ」

 

 なんか急に殺意高まってませんか白雪さん?

 白雪は柄頭のギリギリを右手だけで握り、肩の腹を見せるように横倒しにして頭上に構えた。剣道ではおよそ一切の流派に存在しないであろう奇怪な構えだ。

 

「私たちも、あなたたちと同じように始祖の力と名をずっと継いできた。アリアは150年。あなたは600年。そして私たちは…およそ2000年もの永い時を…」

 

 そんな歴史のある組織だったの星伽神社って?

 刀の先端に、ゆらっ―――と、緋色の光が灯る。それがみるみるうちに、バッ! と刀身全体に広がった。

 

「『白雪』っていうのは、真の名前を隠す伏せ名。私の諱、本当の名前は――『緋巫女(ひみこ)』」

 

 ヒミコ――2000年?

 

 卑弥呼か!?

 『魏志倭人伝』等の古代中国の史書に記されている「倭国の女王」と称された人物。邪馬台国では占いなんかをするシャーマンであって女王ではなかったらしいが、そんなことより本当の名ってなに?今まで知らんかったよ俺?

 

「このイロカネアヤメに斬れないものはない」

「それはこっちのセリフだ。聖剣デュランダルに斬れぬものはない」

 

 斬りかかる白雪の火に対し、ジャンヌは洋剣から氷を吹き出しながら迎え撃つ。

 

「あれが白雪の本気か…」

 

 初めて見たけど火というより炎だな。炎と氷が舞い散る様は演舞のように美しい。

 

「アリア。超能力者狩り(ステルスハント)の経験は?」

「欧州で結構してきたわ。武偵とやり合う時は最小限の力を使おうとするものなんだけど…同類が相手の時は、ああやって全力を出し続ける。だからすぐガス欠を起こすのよ。その瞬間がチャンスだわ」

「その瞬間が分かるか」

「経験則で、たぶんね」

「ならタイミング計ってくれ」

 

 アリアの頭を軽く撫でてから対超手錠を取り出す。

 大分視神経が戻って来たようで、距離感も治ったようだ。

 手錠を指に引っ掛けてクルクル回しながらジャンヌに投げたら当たりそうな位置取りをすると、気が付かれたのか慌てたように白雪を盾にする様に位置を変える。

 

強襲科(アサルト)でたまにやってる手錠投げね」

 

 ハイジャックの時は見えなかったから見せろと強請られたので見せたっけ。強襲科(アサルト)時代に手錠を投げて捕縛するという遊びが流行ったため認知度は高い。実戦レベルで使えるやつはほぼいない一発芸でしかないが、ヒステリアモードなら身体の一部に掛けることができる。

 

「あたしが出ると同時にそれ投げなさい。あんた自身はあたしの三秒後に出なさい」

 

 氷漬けのガバメントは使えないと割り切ってるのか背中を確認しているアリアは背中の日本刀で攻めるつもりらしい。

 

「刀剣はダイレクトに握力の有無が物を言うぞ?」

「あたしが出れば確実に残してる力を使わざるを得ないはずよ。あたしなら避けられるし」

 

 勘だけど。と続けるアリアの顔を見る限り若干拗ねてるようだ。なんかしたっけ?

 

「俺はアリアを信じるよ。生涯」

「しょ、しょーがい?」

「だからアリアも俺を信じてくれ」

「…う、うん」

 

 聞き間違いかな?と赤らめながら困惑してる。

 お兄ちゃんはこの子が変な男に騙されないか心配です。

 

「だから自信をもってタイミングを教えて欲しい。魔剣(デュランダル)――ジャンヌ・ダルクを逮捕するぞ」

 

 

 

 

 

 

 アリアを丸め込んでいる間に勝負は佳境に入り、白雪の体当たりのような一撃にジャンヌが尻餅をつくように壁際に倒れた。

 

「はぁ、はぁ……剣を捨ててジャンヌ――あなたの負けだよ」

 

 息の上がっている白雪の炎はだんだんと小さくなっている。

 これはマズイか?

 

「ふ…ふふ」

 

 対するジャンヌは不敵に笑い、微細な氷の粒を発生させ白雪の脇に逃げ、慌てて薙いだ刀は壁に突き立つようにして止まる。

 ――ガス欠か。

 

 柄を右手で握ったまま、白雪はその場に膝を突き、壁から抜けた刀の切っ先を床に落とした白雪は、そばに落ちていた朱鞘を左手で探り当てると…なぜか刀身をそれに収めてしまった。

 あれは変則的だが居合の構えか?降参するつもりじゃなさそうだが。

 

「お前はまるで、氷砂糖のように甘い女だ。私の肉体を狙わず、剣ばかりを狙うとはな。聖剣デュランダルを斬ることなど――絶対、不可能だというのに」

 

 そう言いながらデュランダルの切っ先を白雪の首に向ける。

 あの女目の前で剣へし折ってやろうか?

 

「見せてやる、『オルレアンの氷花(Fleur de la glace d'Orléans)』――銀氷となって、散れ!」

 

 細氷の向こうに見えるジャンヌのデュランダルが、 見る間に青白い光を蓄えていく。

 誘拐するんじゃなかったんかい!?

 

「今よ!」

 

 アリアの言葉にジャンヌはハッとしたように慌てて投げつけた手錠をデュランダルの軌道を無理矢理変更して、叩き落とした。

 

「ただの武偵が舐めるな!」

 

 さらに飛び込んだアリアを切り捨てるのは無理だと判断したのか床に突き刺し氷の結晶をまき散らす。

 

「選択ミスね」

 

 とっさの判断としては悪くなかったが、自分を巻き込まないようにするために威力を抑える必要があったらしく狭い範囲のそれを踊るように軽く避けたアリアは斬りかかり、甲冑の上から叩いて息を詰まらせる。

 

「くっ!」

 

 先ほどよりは大きい光を蓄えて剣を振りまわしてアリアを追い払うが、その光は

  ――タァン

 俺がリボルバーから撃った純銀弾(ギン)がデュランダルに当てると儚くも消える。

 

「ただの武偵の分際で!」

 

 そのまま倒そうとベレッタに持ち替え、銃撃しながら近寄るが読まれていたのか逆に突っ込んでくるジャンヌは銃弾を剣で受けることで剣身を大きく回転させ、俺の脳天めがけて斬り下してくる。

 

 あ、やべえ避けれねえ。

 

 死

 

 

 

「んでたまるか!」

 

 すべてがスローモーションに見える視界の中で剣の降る速度角度を読み取り

 

「――ッ――!」

 

 魔剣――聖剣?デュランダルを受け止めた。とっさに捨てたベレッタが床に落ちる音が真剣白刃取りの成功を知らせてくれる。

 

「まだ――」

「終わりだよ!」

 

 剣を引き寄せながら腕を蹴り上げ――るのは腕をへし折りかねないので、奪い取るように力が抜けるツボを押す。

 

「あ」

「貰い」

 

 体勢を崩しつつも剣を取り返そうと手を伸ばすジャンヌだったが。 

 

魔剣(デュランダル)逮捕よ!」

 

 その隙を見逃さずアニメ声と共にジャンヌの右手首に手錠が掛かった。

 そのまま左手首に手錠を掛けるのはいいとして、なんで両足にも手錠掛けるんだいアリア?

 目の毒なので目を逸らすようにへたり込む白雪を見る。

 

「白雪。よく頑張ったな。白雪のお陰で魔剣(デュランダル)を逮捕できた」

「こ、怖くなかった?」

「別に?」

 

 天誅とか言ってクロメーテルの時に襲撃されるときは怖いけど。

 

「さ…さっきの私…あ、あんな…」

「怖いもんか。とてもキレイで暖かい強い火だったよ」

 

 さっきのお札を指しつつも言う。

 安心したのか泣き始めてしまった白雪が抱き着いてきたので、そっと抱き返し、その背中を撫でてあげた。

 

 

 

 落ち着いたらエレベーターか通信装置を復旧させないとな。




「キンちゃんは……火って、好き?」
「火?そりゃ自分が燃えないなら。あ、焚火で焼き芋でも作ろうぜ」

星伽神社時代での一幕
なお勝手に焚火やって怒られている

キンちゃん強化は

  • 戦闘技を増やす
  • 便利スキルを増やす
  • 部下を増やす
  • 女を増やす
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