遠山キンジの独白 作:緋色
何というか想像通りというか。
「キーくんを使って十字架を取り戻して、そのまま2人を斃す」
「その因縁俺関係ないし。二人で決着付けたら?」
「ダメだよ~。初代リュパンを超えるには十全のオルメスを超えなきゃいけないもの」
知ってた。
曇天のランドマークタワーの屋上――ヘリポートという舞台は何にもない上に罠を仕掛ける事も出来ないから実力差が諸に出る決戦にはふさわしいのだろう。
――やる気でねえ……。
「先に抜いてあげる、オルメス――ここは武偵高の外、その方がやりやすいでしょ?」
理子はスカートの中から右、左と名銃・ワルサーP99を2丁取り出した。
「へえ、気が利くじゃない。これで正当防衛になるわ」
鏡像のように、アリアも、右、左。その小さな手に不似合いな漆黒と白銀のガバメントを抜く。
「風穴あける前に1つだけ教えなさいよ、理子。なんでそんなモノが欲しかったの。何となく分かるけど…ママの形見、ってだけの理由じゃあないわよね?」
十字架を指すアリアに対し、理子はワルサーを口元に寄せて、笑った。
「アリア。『
……ああ、そういう事か。ハイジャックの怒りもジャンヌが言ってた監禁されてたという話もそこに繋がるのか。
理子の話の間に微かに近づいてくる足音が聞こえる。それと話し声も
わかりにくいが1人じゃない……?
「ある夜、理子は気づいた。この十字架……いやこの金属は理子に
メデューサみたいに髪を蠢かす理子だが――
「避けろ理子!」
「え?」
銃の抜き打ちを構えようとするがそれより早く大きな影が襲いかかる。――俺に向かって
大質量によるタックルに吹っ飛ばされるが、これは
すぐに体勢を立て直す。
やっぱこの前のコーカサスハクギンオオカミ…の仲間かな。
それを引き連れている男は
「やりますね。今ので戦闘不能にするとは。骨を折った…いや脱臼ですかね」
唸り声を上げながらズルズルと動く狼をひと目見て
「犬の骨格は調べといて良かったわな」
「コーカサスハクギンオオカミです」
大して変わらんだろ。
タックルされると同時に銃での迎撃は諦めて打撃で関節を破壊するつもりだったんだが、外れただけか。逆にあれで外せるなら殺さずに捕らえるのも可能か。
「とりあえず足どけろ」
「遠山くん、神崎さん。ちょっとの間動かないでくださいね?」
あと見てねえ間に理子が小夜鳴に踏まれてるけど不意討ちでも受けたか?猛獣用のスタンガンが転がってるがそれかな?そして
クジール・モデル74
社会主義時代のルーマニアのオートマチック拳銃で理子の後頭部を狙っている。
……こいつ何か興奮してねえか?
「前には出ない方がいいですよ。お二人が今より少しでも私に近づくと襲うように仕込んでありますんで」
「調教した――いやお前の作品か?遺伝子組換が専門だよなお前」
「これは驚きました。あなたが密会していたジャンヌでも知らないと思いますし、よく気が付きましたね?」
適当に言っただけだけどホントにそうなのかよ。
あとなんで睨むんだアリア?今そんな場合じゃねえだろ?
「お前どこまで知ってんだよ…?館じゃ気付いてないふりしてたのか演技派だな」
「紅鳴館でのお二人の学芸会よりはマシな演技だったと思いますけどね?」
と笑う小夜鳴の足元で片方の銀狼がまるで芸でもするかのように、理子の拳銃やナイフをテキパキとビルの縁まで運んでは眼下へ捨ててしまった。
器用だなおい。
「2人ともそのまま動かないで下さいね。この銃は30年前に造られた粗悪品でして引き金が甘いんです。リュパン4世を射殺してしまったら勿体ないですからねえ」
ブラドと関りあるんだからそりゃ知ってるか。
しかし、ブラドが出てくるかと思ったが、その前に小夜鳴――というか狼とやり合う事になるか?
小夜鳴は立ち振る舞いからして一般人並みの戦闘力しかないから制圧は楽そうだが。狼はそこそこ厄介だ。
「どういうこと? なんであんたがリュパンの名前を知ってるのよ! まさか…あんたがブラドだったの!」
「彼は間もなくここに来ます。狼たちもそれを感じて昂ぶっていますよ」
アリアが苦手な推理を展開するがすぐさま小夜鳴に否定されて、かあ、と少し赤くなった。
――ブラド来るのか。なら早く逃げないと不味い。
姐御がいるなら兎も角、イ・ウーのナンバー2とやり合って勝てる自信なんかねえぞ。
「そ、そう。それにしてもそのブラドから理子のことも聞いて銃も狼も借りて、そのくせ『会ったことがない』だなんて半月前はよくも騙してくれたわね」
「ブラドの知り合いの時点でそこは疑うところだろ。あ、そうだ。理子助けるために景気づけにお兄ちゃんと呼んでくれない?」
「黙りなさい!」
怒られた。
時間稼ぎに付き合うのはあまり得策じゃねえからヒステリアモードになってさっさと制圧したかったのだが仕方がない。
少々時間はかかるが、視線が不自然にならない位置にいるのは……理子か。理子を見てヒステリアモードになるか。……可哀想なのは趣味じゃないから掛かれるかな……。
「騙したワケではないんです。私とブラドは会えない運命にあるんですよ」
会えない運命?
ジャンヌに調べさせた小夜鳴の経歴は武偵高に来る前はすべて偽造らしい。国籍はルーマニアの日系人という設定らしいからブラドの使用人かなんかだろうと思ってたが間違ってるのか。
「遠山くん。ここで君に一つ補講をしましょう。君がこのリュパン4世と不純な遊びに耽っていて追試になったテストの補講ですよ」
「その前情報は今いらねえだろ」
睨むなアリア血流が萎える。
「遺伝子とは気まぐれなものです。父と母、それぞれの長所が遺伝すれば有能な子、それぞれの短所が遺伝すれば無能な子になります。そして…このリュパン4世はその遺伝の失敗ケースのサンプルと言えます」
そこまで言うと、小夜鳴は斃れたままの理子の頭を蹴った。まるで、ゴミ袋でも蹴るかのような無慈悲さで。――こいつ殺そう。
反射的に前に出そうになったが狼の唸り声で立ち止まるしかない。
血流が弱い。まだ――
「10年前、私はブラドに依頼されて…このリュパン4世のDNAを調べた事があります」
「お、おまえだったのか…ブラドに下らないことを…ふ、吹き込んだのは…!」
10年前、やっぱり見た目通りの年齢じゃねえのか。というかコーカサスハクギンオオカミ作ったなら少なく見積もっても数十年前には研究できる年齢なんだからそりゃそうか。
「リュパン家の血を引きながら「い……言、う、なオ、オルメスたちには関係…な」この子には優秀な能力が遺伝していないのです。遺伝学的にこの子は『無能』な存在だったんですよ。極めて希なことですがそういうケースもあり得るのが遺伝です」
言われた理子は――俺たちから顔を背けるように、地面に額を押しつけた。心の底から聞きたくない言葉を言われ、それを絶対に聞かれたくなかったライバルに聞かれた――そういう表情だった。
遠雷の音がやけに遠くに響く。
「理子は理子だろ。リュパンがどうとか外野がゴチャゴチャいう事じゃねえな」
時間稼ぎかと思ったが――これ時間稼ぎじゃねえな。
何かのトリガーを引き起こそうとする行為だろう。
なら乗るのは間違いだ。
「そうよ。理子には苦しめられたけどそれはリュパンだからじゃないわ!」
すかさずアリアも援護を出す。
その言葉に理子は少しずつとはいえ顔を上げて
「キーくん――アリア…」
「敵と定めた相手にフォローされるなんて無能もいい所ですね」
叩き落された。
「自分の無能さは自分が一番よく知っているでしょう4世さん? 私はそれを科学的に証明したに過ぎません。あなたは初代リュパンのように1人で何かを盗むことができない。先代のように精鋭を率いたつもりでも――ああ、率いれてませんね。敵を取引で動かしただけで味方じゃないですし、あなたが裏切りましたしね。そしてその上でフォローされる。惨めですねえ。無能とは悲しいですね。ねえ4世さん」
あかん。これじゃ何言っても逆効果だ。
無能、4世、という言葉を繰り返す小夜鳴の足元で理子は地面に額を擦りつけるようにしながら、きつく閉じた目から涙をこぼしていた。
ノドの奥から絞り出すような嗚咽が漏れ聞こえてきている。
その様子を見て小夜鳴は――なんだ?同類の気配が――?
「教育してあげましょう4世さん。人間は遺伝子で決まる。優秀な遺伝子を持たない間はいくら努力を積んですぐ限界を迎えるのです。今のあなたのようにね」
小夜鳴はその場に屈み、まだ身動きの取れない理子の胸元から- -ぷちっ。青い十字架を奪い取った。
そして俺が代わりに置いてきたニセモノの十字架を、ぐいっ、と、痺れのせいで何の抵抗もできずにいる理子の口に押し込む。
「あなたにはそのガラクタがお似合いでしょう。あなた自身がガラクタなんですからね。ほら。しっかり口に含んでおきなさい。昔、そうしていたんでしょう?」
「い、いいかげんにしなさいよッ 理子をイジメて何の意味があるの!」
「―――絶望が必要なんです。 彼を呼ぶにはね。 彼は、絶望の詩を聴いてやってくる。この十字架も、わざわざ本物を一度盗ませたのは…こうやってこの小娘を一度喜ばせてからより深い絶望にたたき落とすためでしてね。おかげで…いいカンジになりましたよ」
切り替わっていくこの気配は……
「嘘だろ……?」
自分のは見たことが無いが知っている。独特な切り替わる気配は……!
ヒステリア・サヴァン・シンドローム!
「どこでそれを手に入れた!?」
「この4世かジャンヌから聞いているでしょう。イ・ウーは能力を教え合う場所だと。しかしそれは彼女たちのように低い階梯の者達によるおままごとです。現代のイ・ウーにはブラドと私が革命を起こした。このヒステリア・サヴァン・シンドロームのように能力を写す業をもたらしたのです」
能力…写す?
ヒステリアモードは体質だから写すのは難しいはずだが……?
「聞いたことがあるわ。イ・ウーのヤツらは何か新しい方法で人の能力をコピーしてる」
「方法自体は新しいものではありません。ブラドは600年も前から、交配ではない方法で他者の遺伝子を写し取って進化してきたのです……つまり、『吸血』で。その能力を人工化し誰からでも写し取れるようにしたのが私です。君たち高校生には難しいかもしれませんがレトロウイルスを使った選択的なDNA導入を用いて、ね」
レトロウイルス――つまり感染させてDNAを書き換えてるわけか
「ブラド。ルーマニア。吸血…………そう、そういうことだったのね。どうして今まで気づかなかったのかしら。キンジ。ナンバー2の正体 -読めたわ。
ドラキュラ伯爵
イギリスの小説『吸血鬼ドラキュラ』に登場する悪役の
ルーマニアの由緒正しい貴族だが、若い女の血を好む化け物として各地で災いをもたらしたとされる。
鬼と吸血鬼って別じゃねえの!?吸血鬼って鬼とは別の魔物じゃね!?
「―――正解です。よくご存じでしたね。遠山くんと神崎さんは間もなくそのブラド公に拝謁できるんですよ。楽しみでしょう?」
「…そこは置いておくがてめえは何で理子を傷つけられる?」
「いい質問ですね。講師は生徒の質問に答えるのが仕事です。順を追って説明しましょう。この世には吸血で自分の遺伝子を上書きして進化する生物――吸血鬼がいました」
それ――生物か?
「自分の遺伝子上書きし続けるって遺伝子治療みてーな生物だな。原型残ってねえだろそれ」
「そうですね。――無計画だったほとんどの吸血鬼は滅びましたが人間の血を偏食していた1体 ―ブラドは人間の知性を得て計画的に多様な生物の吸血を行い屈強な個体となって生存しました。しかし、ブラドは知性を保つために人間の吸血を継続する必要がありました。結果、ブラドには人間の遺伝子が上書きされ続け…そしてブラドは、とうとう私という人間の殻に隠されることになりました」
遺伝子遺伝子言ってるけど、人間に負けてないかそれ?
「隠れたブラドは、私が激しく興奮したとき つまり私の脳に神経伝達物質が大量分泌された時に出現するようになっていました。しかし永い時が流れるうち……私はあらゆる刺激に慣れ、何をどうしても激しくは興奮できなくなってしまったのです」
「なるほど。それでヒステリア・サヴァン・シンドロームか……その場しのぎにはなるだろうな」
ヒステリアモードは体質的に一般人より興奮しやすいらしいからな。数十年もしたらマンネリ化して二度となれなくなりそうだが
「さっきの遠山くんの質問に回答しましょう。私は
まるで神の降臨を迎えるかのような、小夜鳴の恍惚とした声
「さあ かれ が きたぞ」
元々、蛭みたいな生物なんじゃねえかな……
あとブラドはワラキア公
公位なので公爵相当ですかね?
鬼戦盛る?
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盛らない
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盛れ(戦力)
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盛れ(鬼)