遠山キンジの独白   作:緋色

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ブラド

 小夜鳴の身体はスーツを破るほど肉体が膨れ上がり、爪は伸び、牙が生え、全身が毛皮に覆われる。

 その姿はまさに……

 

「犬じゃねえか!?」

 

 強いて言うなら狼男である。

 一般にイメージされる吸血鬼とは全く違う。

 

「落ち着きなさいキンジ。吸血鬼はコウモリに化けたり狼に化けたりするものよ」

「いやあれ化けるちゃ化けてるんだろうけど吸血鬼のイメージと全然違うし……」

 

 人体ではありえんほどの巨漢。

 身長は4m前後、体重は知らんが膨れ上がった身体は質量を伴った威圧感を感じるからそれなりにあるのだろう。

 全身が毛むくじゃらとなり狼の頭となったブラドは両肩と右脇腹には目玉のような紋様が浮き出ている。あれがジャンヌの言っていた弱点か。4つあると聞いてたが見えんな。

 背中側にあるか見えないところ――食道器官のどこかだろう。というか隠せる場所がそこしかないし食道器官は口から尻まで直通している体表とみなすことも出来るからな。表皮に浮き出る呪いならそっちに出ているのだろう。雑な仕事しやがるなパラディン?とやらは。

 残念なトークをしている間に小夜鳴……いやブラドの変身が終わったようだ。

 ……タイミング悪い事にこっちもようやくヒステリアモードになれた。可哀想なのは趣味じゃねえから時間かかり過ぎである。

 

「Ce mai faci――いや、日本語の方がいいだろう。初めましてだな。オレたちゃ頭ん中でやり取りするんでよ…話は小夜鳴から聞いてる。分かるか?ブラドだよ、今のオレは」

 

 複数の声が重なるような不自然だが自然に出ている声を出す。ブラド。

 遺伝子上書きの弊害か?怖いなおい。

 てっきり演じてるのかと思ってたが、頭の中でやり取りするとなると解離性同一性障害が近いんだろう。

 姿形が全く別に変わるストレスに耐えられなかったってところか。

 

「大変だアリア」

「なによ?」

「あの手の太さだと手錠入んねーから拘束できねー」

「そこは倒してから考えなさい!」

「いや、初手で手錠掛けて弱体化させれないって話なんだが」

 

 手錠投げしてみるがブラドの腕に嵌りきらずに途中で止まり普通に捨てられた。

 …嵌らないとわかってて見逃した…?それにしては反応悪いし、ヒステリアモードではないのか…? 

 適当に結論付けつつ、ブラドが毛むくじゃらの前腕で理子の頭を掴もうと拳銃の狙いを逸らした瞬間にベレッタで腕を撃つ。

 拳銃、前腕、上腕に命中した。

 

Blitznak(マジか)!?」

 

 その気持ち悪い光景に思わず声が出てしまったが俺は悪くない。

 腕の銃創がほんの1秒ほどで銃弾を排出し、赤い煙を上げながら簡単に塞がってしまった。

 

「遠山。お前はトマトを握り潰せるだろ?」

「そんな料理の仕方したことないが」

「――オレにとって人間の頭を握り潰すのはその程度のコトだ。だからもうこんな道具で脅す必要もねえ」

 

 と言ったブラドは撃たれたハズの腕を普通に動かし壊れた拳銃をバキバキと握り潰してしまった。

 鋼鉄製の拳銃をまるでプラモデルのように破壊するあの握力。

 あの力で理子の頭を握られたら――本当にトマトを握り潰すようなことになる。

 小夜鳴の握力は並っぽかったが、完全に別の生物と見た方がいいだろう。

 

「4世。そういえばお前は知らなかったんだよな。オレが人間の姿になれることを」

「ブ…ブラドぉだ、だました、な…! オ、オルメスの末裔を斃せば、あ、あたしを…解放するって、い、イ・ウーで…約束した、くせに…!」

 

と言う理子は、悔し涙を流しながらブラドを睨み返していた。

 

「お前は犬とした約束を守るのか?」

「犬はてめえだろ」

「黙ってろ遠山」

 

 睨まれた。

 が注意を引くのは悪い選択肢ではないか。

 

「なんだ図星だったのか?犬引き連れてるくせによ。そいつらに約束しねーのか?」

「使い魔と口約束なんざしねえ。契約と命令するだけだ」

 

 ……よくわからんがオカルト絡みかな?

 

「じゃあ理子との契約も守れよ」

「はん。ホームズには負ける、盗みの手際も悪い。パリで闘ったアルセーヌの曾孫とは思えねぇほどだ。アルセーヌを越えたら手出ししないと言ってるのにホームズの末裔を倒せばと勝手に条件を下げる。弱ぇ上にバカで救いようがねえ」

 

 …それはちょっと思ったが。別にアリアが初代ホームズ越えてるわけでもないのに倒して初代リュパンを越えた証明になるのか?とは思ってたし。

 

「檻に戻れ、繁殖用牝犬(ブルード・ビッチ)。少し放し飼いにしてみるのも面白ぇかと思ったんだがな。結局お前は自分の無能を証明しただけだった。だが、お前が優良種であることに違いはない。交配次第では品種改良されたいい5世が作れて――ソイツから良い血が採れるだろうよ!」

 

 ブラドは理子をブランブランと振って、半ば笑いながら叫ぶ。

 

「イ・ウーだろうがどこだろうが関係ねぇ。世界のどこに逃げてもお前の居場所はあの檻の中だけなんだよ!これが人生最後の外の光景だ。よーく目に焼き付けておけよ!」

 

 ゲババババと笑う。

 

「……アリア…………キン、ジ……」

 

「 た す け て 」

 

「言うのが遅い!」

 

 アリアの甲高いアニメ声が響き渡る。

 調子が戻ったようだ。

 

「未成年略取罪だ。合法的に逮捕できるな」

「そうね――まずは理子を救出(セーブ)するわよ!側面(オオカミ)はあんたに任せるわ!」

 

 叫んだアリアは勢いよく飛び出した。

 情報共有前に勝手に飛び出さないで欲しいなあ!?

 

伏せ(down)だ」

 

 左右に1発ずつ横向きに構えたベレッタで発砲し、狼たちはその場に伏せるようにして倒れ込む。

 レキの真似して銃弾を掠めて脊椎を圧迫し麻酔にかけた。解けるまで――5分ってとこか。ぶっつけ本番だがやれるもんである。犬の身体を調べといてよかったな。

 

「ブラド! 理子はあたしのエモノよ! 横取りは許さない!」

 

 アリアは転がりながらブラドの右側面に回り込み、銃弾の飛礫を浴びせかけた。

 ブラドの肩、腕、脚に10発。うまく理子を避けつつ.45ACP弾が風穴を開けまくる。

 ――効かないのがわかってるとはいえ容赦ねえな。

 

「――ガキが。遊び方を教えて欲しいみたいだな」

 

 撃たれたブラドは余裕なのか笑ってるが、チャンスだな。

 アリアとは反対方向――左側面に死角から回り込み、刺して抉るように手首――尺側手根屈筋、短掌筋、長掌筋をバタフライナイフの刃を突き立てて握力を奪い、理子を強引に抱き寄せる。

 

「…お!?」

 

 意外そうな顔をするブラドだが――肉体強度は人間より高いが、どうやら人間と筋肉の構造は同じか大差ないらしい。変な膨らみ方してるから心配だったが、タフで回復力がおかしいだけのようだ。

 一番、相手にすると面倒なタイプである。

 その分油断もしてるが、それも弱点を同時に潰されないことが確定しているという根拠があっての事のようである。

 理子を抱いたままブラドから遠ざかり、同じくバックステップで距離を取っていたアリアと合流する。

 

「さっきの話─結局なんだかよくわかんなかったけどね! 理子!あたしを騙したきゃ騙す、使うなら使うでこそどろなんかじゃなくって戦闘の方に使いなさいよ!」

「潜入ヘッタクソだったしなぁ…」

 

 戦闘しか自信ないのかこやつは。

 

「あとで風穴!――それとブラド!あんた――さっき、あたしの事を『ガキ』って言ったわね?あたしはもう15歳よ!その言葉、明らかな侮辱と受け止めるわ!」

「人間なんざみんなガキだ。800年生きてる俺から見ればな」

「…また言ったわね!? もう、ひざまずいて泣いて謝っても許さないわよ! あんたもルーマニアの貴族だったんでしょ? 貴族を侮辱したらどうなるか分かってるわよね!」

「どうするってんだ?え?これからどうしようってんだ、このオレを」

 

 アリアの挑発――挑発か?素でキレてない?――を横目に理子を隠すためにヘリポートの陰へと移動する。

 両手塞がってる状況で戦えんし理子を人質にされたら面倒だしな。

 

「理子動けるか?」

 

 そっとお人形さんのように床に下ろしてやると、理子は小さく頷いた。そして俺の袖をつかんで詰め寄ってくる。

 

「キンジ――今すぐアリアを退かせて。ブラドは強い――強すぎるんだよ!あたしはイ・ウーで決闘したけど手も足も出なかった。初代リュパンすら勝てなかった。何やってもかなわない――」

 

 ……心が折れてんな。

 戦力にはならんか。

 

「逃げるぞ。ジャンヌにはバックアップを頼んでる。逃げる隙ぐらいは作ってくれるはずだ」

「キーくんいつの間にジャンヌと……?」

「――理子助けるためだと言ったらデュランダル貸してくれたぞ」

 

 適当言いながらジャンヌに電話をかける。

 

『遠山か!?すまない!今「ガッシャッン!!」ブラドの使い魔に追われて「バウワウ!」な!気を付けろ!私を離すように動いている以上おそらくブラドは「バウワウ!」に来ている!そっちに向かっているのかもしれない!今すぐ逃げ(プツッ)』

 

 あいつ使えねえな。続いて姐御に通話を試みてみるがどうも海外にいるのか通じない。

 仕方ない。

 

「理子の逃げ足なら逃げれるだろうし、一旦武偵高まで逃げな」

「アリアとキーくんは!?」

「え?あいつ殴る」

「ダメだよ!死んじゃうよ!?」

 

 そう思うけどアリアは引かないだろうし

 

「理子泣かしておいて無事で済ませるわけねえだろ」

 

 何より俺がここで逃げる事を選べない。

 バケモノに執拗に追われている女子に「たすけて」と言われて、勇敢に戦うつもりらしい女子を置いて……逃げる?

 

 そんなことできるわけがない。

 

「――ムリ!ムリなんだよ!絶対にムリなんだよ!今すぐここから脱出するしか生き延びる道はない!」

 

 一理ある。

 

「かもな。でもよ。それあいつの影にずっと怯えながら逃げ続ける気か?」

「それはーー」

「だから俺はあいつを倒す。神が味方しなくても俺が味方してやるよ」

 

 倒せる見込みなんてジャンヌの言ってた目玉模様の弱点しかないが、ないよりかはマシだろう。

 無理なら二人だけでも逃がす。

 死ぬ気で勝ちを奪いに行くし、死んでも守る。

 だから俺は笑って言う。

 

「任せな。実は俺最強なんだぜ」

「キンジ…」

 

 ……なんか顔赤くない?

 

「これ」

 

 それはそうとブラドからすり取っておいた十字架を渡す。

 

「さっき一緒にブラドから奪い返しておいた。こっちも持っとけ」

「え?これ」

「鬼避けグッズ。ないよりましだろう」

 

 そう言って渡したのは俺のリボルバーS&W M360。

 銃が無いなら話にならないからな。

 手を包み込むように渡す際にラスト ホーリーと指信号で伝える。

 

「戦いたくないなら戦わなくていい。どっちにしろ必要だろう?持っときな」

 

 さて、行くか。




原作の挿絵と漫画で見た目が違うけど調べたら完全に狼男なのでそれでいいやと

鬼戦盛る?

  • 盛らない
  • 盛れ(戦力)
  • 盛れ(鬼)
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