遠山キンジの独白   作:緋色

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?「簡単な推理だよ。君って口を大きく開けて笑うよね」


ドラキュラ

 アリアは捕らえようとするブラドからすばしっこく逃げ回りつつ二丁拳銃を撃ち続けていた。

 しかし、あまり効果はないようだ。

 ブラドはヘリポートの縁から戻った俺を見てニヤリと笑い、屋上のアンテナの方へ向かう。

 ――何か企んでるのか?

 しかし作戦タイムができたのはありがたい。

 

「…あいつ。あたしを、あの爪で突き刺す、チャンスが、何度もあったのに掴もうとして、きたわ」

 

 息を切らしながらアリアが言う。

 

「生け捕りにするつもりだったんだろう。ヤツは名家の血のコレクターだからな」

「――血統書付きのイヌネコじゃあるまいし」

 

 ――貴族って血統重視なんじゃねえの?

 それは置いといて。

 

「ブラドには体の4か所に弱点があるそうだ。その4か所を全て同時に攻撃すれば斃せる。イ・ウーのナンバー1は、そうやってアイツを従えたらしい」

「どこで聞いたのそんな話――」

「ジャンヌから聞いた」

「はぁ!?」

「司法取引とかで武偵高にいたからな。理子のことを条件にしたらすんなり話してくれたぞ」

「友達思いね」

 

 ちょっと話が逸れたな。

 アンテナを力任せに引っこ抜いてるブラドの模様を指す。

 

「あの目玉模様が弱点らしい。バチカンがつけたとかなんとか」

「キンジ。3つしかないじゃない」

「4個めどこなんだろうな?腹でも掻っ捌かないとわからないのか?」

 

 背中にも見えない以上、消化器官系が怪しいが。

 体内収納式だった場合、マーラも怪しいか?

 バチカンが仕事ちゃんとしてない可能性もあるが、それ以上は信じるしかない。

 

「戦いながら見抜くしかない。アリアは両肩を頼む。俺が脇腹と第四の目を撃つ」

「…わかったわ。でもあたし実は銃弾が2発しかないの。だから同時攻撃の時は『撃て』って言って。それまで弾切れのフリをする」

 

 と背中から二本の日本刀を抜くアリアだが予想通りバカスカ撃っててガス欠になってたらしい。2発残っててよかったが。

 俺の手持ちの9mm弾(ルガー)と.38Splとアリアの.45ACP弾じゃ弾の互換性はない。

 理子に銃貸したのミスだったか?

 

 ブラドが 5メートルはあろうかという携帯基地局アンテナを屋上からむしり取って戻ってくる。

 ごすん、とそれをブラドが槍のように足元に落とすと地響きがこっちまで届く。でっけえ金棒だなおい。

 

「…人間を串刺しにするのは久しぶりだが串はコイツでいいだろう。ガキ共作戦は立ったか? 銀でもニンニクでも何でも持ってこい。オレはこの数十年の遺伝子上書きで何もかも克服済みだ。まァ、いまだに好きではないがな」

 

 あの屋敷に銀製品はなくニンニクを避けていたようだが。苦手意識はあるのか?

 …純銀弾(ギン)は理子に渡した銃にセットしてるし試しとけばよかったな。

 

「ホームズ4世。おめぇもリュパン4世と同じような、ホームズ家の欠陥品みてえだな。ウサギみてぇなすばしっこさと射撃の腕はともかく初代ホームズの推理力が、まるっきり遺伝してないと聞いたぞ」

 

 戦闘能力も長所が全然違うと思うが、何も言うまい。

 

「先天的な遺伝は確かに人間の能力をある程度決めてしまうわ。でも人間はそれ以上に努力や鍛錬で自分を後天的に高めることができるのよ!理子に何も遺伝してないって言うんならあの子はその生きた証拠だわ!」

「遺伝があろうと教育しねーと才能は開花しないらしいからな。監禁してたら才能潰れるのは当たり前だろ。お前の無能をひけらかして偉そうにすんな」

 

 実際監禁から解放された後の方が成長してるので無能云々はブラドがバカなだけである。

 少し背後を見やると段差の陰に少し見えている理子のリボンがびくんと動いていた。

 ……逃げてないのか。迷ってるのか。

 

「欠陥品共が」

 

 図星を突かれたのかビキリと青筋立ててブチギレるブラドだったがそれでも冷静さを失ってないのか。

 

「ホームズ家の人間が誰かと2人組の時は警戒しろ、と昔聞いたことがあるんでな。まずはお前から退場しろ遠山」

 

 黄金の双眸が俺を捉える。

 何かする気か?

 

「ワラキアの魔笛に酔え――!」

 

 そう言ってずおおおお、と息を吸い込み――吸い込んで風船見たく膨らむ。

 

 とりあえず撃ってみる。

 ピイイィィと一瞬空気が抜けたがすぐに塞がったようだ。風船見たくバラバラにはならんか。

 

ビャアアアアアウヴァイイイイイイィィィィ

 

 とっさに耳を塞ぎ眼球が飛び出さないように瞼を力一杯閉じ、ショックで転倒しないようにしたが、ブラドの咆哮は五臓六腑がかき乱されて脳みそがぐらぐらする。

 

「ドラキュラが吼えるなんて……聞いてないわよ!」

 

 尻餅ついてたアリアが震える膝で起き上がってるのを横目にとある事実に気が付く。

 ヒステリアモードが解除されてる!?

 

「だがそんなの関係ねえ!」

 

 ヒステリアモードが無けりゃあ戦えませんじゃ生き残れねえし。何より俺が許せねえ!

 銃は温存するためにデュランダルを抜き放ち、空気を切る爆音を上げる金棒を潜るように避ける。

 

「お?動けるのか」

 

 振り切った金棒持つ手を狙い指を切り落とし、落ちた指を蹴り飛ばして本体と離す。

 

「そんなんでアンテナ(これ)が使えなくなるわけじゃねえぞ?」

 

 そう言いながら生えた指を見せびらかすブラド。

 だが、俺が気にしてるのは落ちた指の方だ。指からは煙みたいなのを出して萎んでいく。

 ミイラみたいになったがどうやら残るようだ。

 ――次は肩の模様を本体から切り離したらどうなるんだ?

 

「何か企んでるな?」

「お前もだろ」

 

 寒気がする。……風が出てきたな。

 

「このエクスカリバーで勝ってやるよ」

「エクスカリヴァーンはスクラマサクスだ間抜け。そいつはデュランダルだろ」

 

 そういやこいつジャンヌと知り合いだったな。

 

「すぐに死ぬなよ遠山!」

 

 縦横無尽に金棒を振り回すブラドだが振りが大きく予測しやすいため、避けることはギリギリ可能だ。

 だが、攻めることはできねえ。

 とりあえず足場を破壊させてブラドを落とそうかと思ったが、見抜いているのか地面を破壊することはしない。浅知恵じゃどうしようもねえな。

 そう考えながらもギリギリで金棒を避けるたびに血が流れる。

 このままじゃジリ貧で詰むな。

 

 パァン

 

「あ゛!?」

 

 ブラドの頭の一部が爆ぜ、動きが止まったのを幸いに肩から先を切り飛ばす。

 アリアも隙と見たのかブラドの足を切り裂いてバランスを崩そうと画策する。

 

「舐めんなガキ共!」

 

 片手で金棒を薙ぎ払って俺たちを追い払い、切り飛ばした腕を掴んで引っ付け直す。

 妨害しようとしたが引っ付いたようだ。まあいいや拾いたいもん拾えたし。

 

「なんだ?腕は生やさないのか?」

「生やすより引っ付けた方が早いんでな」

 

 流石に腕クラスだと簡単に生やせないのか?

 そうなると両腕切り飛ばせば可能性はありそうだが……

 俺が片腕飛ばせてもアリアじゃ難しそうだ。切り飛ばせたのもデュランダルの切れ味のよさと頑丈さが大きいし。何よりアリアじゃ反応速度で間に合ってない。

 兄貴やマキリさんにしごかれた経験なかったら俺でも死んでるが。

 

「なんだ震えてたんじゃねぇのか4()()

()()()()()()()

 

 さっきのは理子の援護だったか。

 まあ気を逸らしてくれる分にはありがたい。

 しかし斬撃や銃撃は効果が薄そうだ。ならこれはどうだ?

 気が逸れてるブラドにデュランダルをぶん投げて金棒で防御させることで胴をがら空きにさせる。

 

「人間と同じ構造ならこれも効くだろ」

 

 星突(スタブ)

 左大腿部と左腰のやや上を指で突き刺す。

 本来はそれだけだが、嫌がらせでおまけを刺しておく。

 

「なんだこりゃあ!?」

 

 穴あいただけじゃおかしいほどの不可解な激痛に困惑してる様だな。

 何度もマキリさんから喰らって覚えた技だ。

 

「遠山!()()()()()()()()()()な!?」

「癒着してんのかキモ……」

「お前がやったんだろうが!」

 

 そう言いながらブラドはえぐり取って指を捨てようとして――思いとどまったのか食って処分する。が、痛みが続いてるのかもう一度抉ってる。あんな治し方ありかよ?

 その間にデュランダルを回収しアリアと理子と合流する。

 

「4つめどこにあるか分かったか?」

「わかんないわよ」

「あたしは知ってる」

「え?」

 

 目をぱちくりさせて驚くアリアだが時間はない。

 

「OK。理子4つめを撃ってくれ。『撃て』の合図も任せる」

「キーくん。警戒されてるから難しいよ」

「知らん。無理でもやる。必要な角度は?」

「…必要なのは高さかな。キーくん。アリア。ちょっと時間稼いで。あたしのこと信じられn「「信じる」」――もう!でもキーくんちょっとこっち向いて」

「ん?」

 

 ちゅ

 不意打ちで広がるバニラの香り、そして柔らかな感触が一気に血流を中心へと集める。

 

「りりり理子!?あんたこんな時に何してんのよ!?」

「黙れオルメス。あたしは後悔したくないんだ。勝たなきゃまた檻の中に逆戻り」

「なるほど。悪い子だ。でも助かったよギリギリだったしね」

「キンジ。あんたなったのね!?」

 

 アリアもよく知らんなりに戦闘力が上がったことに勘付いたらしい。そろそろ条件バレそうだなあ。

 それは兎も角

 

「どのみち理子を信じるしかない。任せる。はよしないと俺があいつ倒しちまうぞ」

 

 ブラドが再び構えたのを見て、二人に微笑んでから前に出る。

 ブラドの雄叫びも異常だったし時間稼げば救援も来るだろう。――たぶん。メイビー

 

「なんだぁ?4世は結局逃げるのか?」

「お前ごとき俺一人で十分なもんで」

「調子になるんじゃねえぞ。さっきもホームズの娘がアシストしてなかったら死んでただろうが」

 

 大振りが不自然になってたのはそのせいか。

 俺は死んでもいいがアリアは生け捕りにしたいってところか。嫉妬しちゃうね。

 

「今日はいい天気だな」

「曇天の空で雨降りそうだけど?」

「雨はよくねえな。血が流れちまう。だが雷雲はいい」

 

 ?

 風が逆巻いてる…?

 

「呪いが邪魔してたが仕込みは十分」

 

 ヴヴオオオオオオォォォォン

 

 先ほどの咆哮と違い、ブラドの遠吠えが大空に響き渡る。

 まるで何かを呼ぶように。

 そして急速に暗さが増してくる。

 日が沈み切ったか?いや時間的にまだ日は沈みきってないはず。雲が厚くなってる?

 相手は夜行性だろうし早めに叩いた方がよさそうだ。

 

「我神成(かみなり)

 

 ブラドがアンテナを高く掲げ

 

ガガーン

 

 落雷が命中した。

 

「ひぃ!?」

 

 目の前の光景にアリアがビビッて縮み上がるがそれどころではない。

 それを冷静に見れているつまり――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 落雷の恐ろしい所は電気の性質上、次から次へと電気を通す存在をエネルギーが尽きるまで広がることだ。

 木の下にいたら雷で感電することは有名だろう。

 

 では、そのエネルギーはどこにいった?

 

 

「Fii Bucuros」

 

 先ほどまでのいくつもの声が重なったような声ではなく野太い声の一つにまとまっている。

 

「この姿になるのも何年ぶりだ?最後になったのは――初代リュパンの時か」

 

 輝く光が収まっていき、その姿が見えるようになる。

 先ほどまでの獣の姿ではなく、昔の肖像画にでも書かれていそうな小夜鳴とも違う人の姿。

 ……腰回りだけ毛皮になってるのは何の配慮なのだろうか――人のなんて萎えるからありがたいけれども。

 

「ブラド=ドラクレシュティ!?」

 

 アリアが変身したブラドの顔を見て驚いてるがよくわからん。

 多分歴史書かなんかに描かれてるブラドそのものの姿なんだろう。

 むしろなんで小夜鳴なんて全く関係ない人間に化けてんだ。

 

「ここからが竜悴公(ドラキュラ)の本領だ」

 

 ドラキュラ

 原語に近くするならドラクレア(Drăculea)

 ドラゴン公ことドラクル(Dracul)の子という意味である。

 聖書ではドラゴンを悪魔とみなすことから悪魔の子という意味に捻じ曲げられた言葉である。

 

 そしてドラゴンとは天候を荒らす人類の敵――嵐を表す存在だともいう。

 

「俺の魔術は生け捕りに向いてなくてなあ。それに――物理で殴った方が強い」

 

 不味い!?

 とっさにデュランダルを盾にして弾丸の様に突っ込んでくる鉄の塊をアリアがいない方向へ逸らす。

 

「見えてるのか。そういえば神経系強化だったな。そっちの強化もするべきだったか?」

 

 車は急には止まれないというが、慣性の法則では大質量が速度を持った場合すぐには止まれない。だが、不自然なほどピタッと止まったブラドは先ほどまでの傲慢さも見えなくなっている。

 こっちは絶牢(ぜつろう)の要領でクルクル回って威力殺してるのにまず根本的な筋力が違うぞ!?

 

「とりあえず手足でも捥ぐか」

 

 棒切れのように先ほどに比にならない速度で振り下ろす金棒を牢潜跳(スピンジャンプ)で避け「まだまだぁ!」振り上げ振り回される金棒を牢潜跳(スピンジャンプ)で転げまわりお手玉される。

 

 クッソこいつ遊んでやがる!

 近づけねえし、とばされて逃げれないように位置を調整してやがんな!?

 

「なめんな」

 

 転がりながらバタフライナイフを取り出し、俺の位置を確認するための視野を利用してブラドに投擲する。

 

「ん?これは?へぇ」

 

 なぜかブラドはそれを掴み取りしげしげと眺める。

 なんか知らんが逃げれたな。

 視界の端のそれを確認してから気を引くために突貫する。

 

「返しな!」

「くれたんじゃなかったのか?」

「やるかボケ!」

 

 奪い返すふりをして一太刀いれて距離とポジションを調整し直す。

 さっきより再生力上がってないか?

 それは兎も角、アリアと俺――そして理子が武偵服を改造したパラグライダーで撃てる位置にいた。

 

「ブラドォ!」

 

 注意を引くためか叫ぶ理子

 

「――4世!」

 

 大口開けて叫ぶブラドに対し

 

「『撃て』」

 

 理子はシンプルに命じた。

 アリアは両肩、俺は脇腹。

 そして理子は頭に向かって撃つ。

 ヒステリアモードの視力でスローモーションのように目玉模様に銃弾が命中するのがわかる。

 そして理子の4つ目へと放たれた弾丸は――

 

 ガキィィィン

 

「んな!?」

 

 ブラドは歯で銃弾を止めた。

 

「残念だったなぁ!」

 

 銃弾を吐きバカにするように笑うブラド。動揺したのか理子は金棒の範囲内にいる!

 マズイ!ほぼ理子だとあの一撃は防げない!

 

「こうなったらそう動くよな!遠山ァ!」

 

 しまっ

 眼では追えたが動き出した身体は急には止まれない。咄嗟に防御はしたが振り回した鉄塔にホームランされて地面に何度も叩きつけられる。

 

 ゲボゲハッ

 

 

 マズイマズイマズイマズイマズイ

 早く立ち上がらなきゃいけないのに身体が動かね――ガクン

 

 途中から急に力が入らなくなった。

 あ、これは――

 

「理子逃げなさい!」

「隙だらけだぞホームズ」

 

 

 意識がかすむ

 目の前が暗くなっていく

 

「お願いします。理子は檻に戻るから二人を見逃してください」

 

 高笑いが屋上に響く。

 

 これは――死か……。

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