遠山キンジの独白   作:緋色

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串刺し公

 ――眠い。

 

 バケモノ相手に闘うことを想定してたわけだし、準備を怠っていたわけでもない。

 それでもこのざまなのは単なる実力差である。

 努力してもどうにもならない事なんていくらでもあるし、世の中理不尽なものである。

 全身バキバキで動きたくねえし動けるとも思えない。

 

 

 ――ねm

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いします。理子は檻に戻るから二人を見逃してください」

 

 ――ブチィ

 

「ぎゃははははは!ようやく理解したか」

「次のてめーの台詞は

『「オレに飼われてれば良かったんだよ」』だ」

「そうすりゃ――あん?」

 

 振り返ったブラドの眼には俺はどう映っているんだろうか?

 少なくとも片手に金棒を片手にアリアを掴んでいるブラドからしてみたら虫けらみたいなものであろうが。

 

「まだ立てたのか」

「涙の落ちる音がしたもんで――前世で酷い目に遭ったことまで思い出したわボケ」

 

 動く。

 限界を超えてるのか知らないが。

 アリアと理子の顔が濡れてるのは雨じゃなさそうだな。

 

「喧嘩好きのツンデレ女神と臆病で優しい女神が見てるからな。立ち上がって当然だろ?」

「女神?見てるだろうがお前に力を貸すことはねえよ」

「お前には力を貸すとでも?」

 

 なんか会話が噛み合ってない気がするがなんだろう……。

 血の気が引いているのに頭が沸騰しそうなぐらい沸き立ってるような奇妙な感覚。

 生きてんのか俺?死んでるのに動いてんのか?

 顔の血を拭って――舐める。

 ……血の味がする。――どうやら生きてるらしい。

 

「……agonizante――死に際のアドレナリンの大量分泌ってところか。動けてあと5分も持たねえな」

 

 アゴニザンテ……?

 スペイン語の瀕死とかそんなんだったか。ぴったりだな。

 

「その割には警戒してるじゃねえか」

「殺しても死なねえ戦士ほどうざってえ存在はいねえ。ヘルシング、殲滅師団(レギオディーン)、……初代リュパンもか」

「よく知らんが光栄だね」

 

 ぶらぶら手足を動かした感じだと動くのに支障はなさそうだ。

 体感だがアゴニザンテの強化倍率は60倍を超えていると思われる。普段の30倍の倍以上である。死に際だからか後先考えてねえ感じ、死ぬまで戦えって体質か。

 ――碌でもないな。だが、動けるなら戦うしかない。

 先ほどまで感じなかったブラドから放たれてる音圧も感じ取れている。

 おそらく反響定位(エコーロケーション)。可聴域の外の音で聞こえなかったのだろう。範囲はヘリポートより広そうだ。コウモリかなんかか?耳がいいんだろうし、館の作戦会議も普通に聞こえてたのかね。

 

「理子を連れて離脱しなさい!」

「キーくんもう立たないで!死んじゃうよ!」

 

 アリアと理子の叫びに微笑み返しておいてファイトスタイルをとる。

 しかし、銃弾は効かねえし剣はブラド挟んで向こう側におちてるし、有効な攻撃がねえ……。

 視界の端に移った()()を見て、そういえば試してなかったと思いいたる。

 

「死ぬのは怖くない――怖いのは女の泣き顔さ」

 

 やるだけやって――やる!

 二歩目で最大加速まで出し、血を飛ばして目潰しをする。ブラドが顔を逸らしたとこで右手首―肘―肩の順に殴って関節を外し、握力が緩んだ所でアリアを救助し理子の所まで下がる。

 

 反応速度がさっきの倍以上になっていたおかげか、ブラドの想定を超えた動きにより反撃される前に救助できたな。次は通用しなさそうだけど。

 

「アリア、理子連れて逃げて応援を呼べ。俺は足止めする」

「あんたこれ以上やったら死ぬわよ!?」

「逃げても同じだ。それに死ぬ気はない」

 

 結果的に死ぬかもしれんがそれはそれだ。

 少しでも身体を軽くするため余計な物は全部置いとくか。

 武器は……銃は効かねえし警棒だけでいいや。

 制服に仕込んでたカラーボールやら注連縄やら紙切れやら必要ないものは全部置いていく。

 ブラドも逃げないならと外れた骨を強引に嵌め直す。時間がないな。

 

「キンジこれなに?」

「あん?あー、鬼避けグッズ」

 

 アリアが見つけたのは…粉雪ちゃんが送って来た手紙か

 

「キンジ――もしかしたら勝てるかもしれない!」

「あ?」

 

 何言ってんだ……?

 

「……話は聞かねえけど5分持たねえからな。失敗したり、俺が出て3分経過したら即撤退。それが条件だ。多分あいつここの声聞こえてるだろうから、俺が注意引き付けてる間にやれ。以上だ」

 

 任せたと後ろ手にハンドサインを送りブラドに向かい合う。

 

「なんだ?時間稼ぎか?」

「不死身つっても何らかの種があるのはわかってる。そして雷受けた後は再生力が上がった。充電か?その再生無限じゃねーだろ。エネルギーの総量が多いから不死身に見えるだけでエネルギーが切れたら再生出来なくなるんじゃないか?生け捕りは諦める」

 

 斬ったりするより穴開けたり抉る方が再生のエネルギー消費は激しそうだ。

 ああは言ったが、そもそも俺一人でどうにかするつもりだ。

 

「それまで自分の命が持つとでも?」

「散らせるものなら散らしてみやがれ」

 

 襲い来る金棒にあえて当たり、その運動エネルギーを回転エネルギーに変換して金棒を転がって近づき、回転を攻撃のエネルギーと変換する。

 伝聞で知っている技を今なら再現出来そうだ。

 死んでも良い相手ならやり過ぎてもいい、使う技はさっきブラドの骨を外した遠山家に伝わる骨を外して手錠を抜ける整体術を攻撃に応用したもの打骨(パージ)とでも名付けるか。

 そして伝聞でしか知らないが素手をシャベルのように使い相手の肉を熊の爪のように肉を抉る熊削(くまそ)だ。

 打骨(パージ)熊削(くまそ)を同時に使い滅多打ちにする。

 一度見ただけで型も斬撃でもねえが、借りるぞクソ兄貴。

 

「桜吹雪」

 

 左手で肉体を抉り、右手の警棒でぶっ叩き、両足で蹴りを入れる。

 肉を抉り、骨を外し全身を粉々にするつもりで攻撃を繰り返す無差別全方位攻撃だ!

 

「舐めんな遠山ァ!!」

 

 回復力が上がった!?

 しかし、止まったら死ぬだけだ!ごり押しで殺しきる!

 大雑把な回復力と怪力のごり押しに対し、一度でもミスったら死ぬ精密さと速度で対抗する。

 金棒であるアンテナが何度も警棒で接合部を打たれて少しずつ、崩壊に近づいていく。

 しかし――

 

(こいついつまで再生しやがる……!?)

 

 全身やたらめったらに抉り、肉を離れた場所に捨てて、骨を外しても質量の脅威は変わらない。

 抉った場所から再生し、骨を筋肉だけで嵌め直し、金棒を振り回し牙で噛みつこうとする。

 不味い。このままだとブラドの再生力が尽きる前に俺の血が流れ過ぎて死ぬ!!

 

「キンジ!」

 

 金棒に合わせて一瞬だけ振りむき――マジでやる気かあいつ!?

 

  仕 方 が ね え !

 

「今のお前でも腕生やすのに数秒はいるんだよなあ!?」

「あ゛?」

 

 爪先で時速100km、膝で200km、腰と背で300km、肩と肘で500km、手首で更に100kmの加速!

 

「桜花ァ」

 

 バシィィ!!!!

 

 桜吹雪のように自損した俺の腕からまき散らされる血飛沫と共に舞うブラドの左腕。

 

 そして――

 

「んな!」

「しっかり決めなさい!()()!」

 

 ブラドの右腕を切り刻むアリア。

 そしてデュランダルを構える理子。

 

「『怨鬼 縫い留め 眠り臥せ』」

 

 首から下げた十字架が光を放ち剣へと光が蓄積していく。

 なんだアレ…?

 

「璃璃――いや瑠瑠粒子か!?」

 

 なんだ?ブラドの再生が急に遅くなった?よくわからんが突発的なステルスジャマ―――璃々粒子の嵐が発生したのか?

 悪足掻きなのか空に向かって咆哮を放つブラド。

 

「くわばらくわばら!」

 

 アリアの雷避けの呪文が効いたのか

 

「La dracu!」

 

 雷は落ちてこず理子の剣を避ける術はブラドにはもうなかった。

 

「『星の神に祈りて かしこみかしこみ申す』」

 

 輝くデュランダルのLa Vengeance est à moi(復讐するは我にあり)の文字がやけに輝いているように見えるがそれも一瞬、ブラドの身体を貫き縫い留めてしまった。

 

「リュ……パ……ン」

「ばぁーか」

 

 アカンベーした理子の声が聞こえたのか聞こえなかったのか。ブラドはそのまま力なく倒れて動かなくなった。

 ……死んだか?

 

「あ……あたしがこr「うっそだろ。生きてんのは驚かねーけど。この状態で寝てるんかよ」――え?寝てるの?」

「一応、呼吸はしてる。腕もおっせえけど再生してるぞ。何したんだお前?」

「キーくんの持ってた鬼をトドメ刺すって書いてる手紙通りにしたけど」

 

 ……止め(殺す)じゃなくて留め(捕らえる)って事か?

 推測でしかないが。超能力使えないなら使っても意味ないみたいなこと延々と書いてたから後半は丸々読んでなかったが……殺さずに捕まえることが仕事だって知ってたのか気を利かせたのか。

 わからないけど後で粉ちゃんにはお礼言っとかないとな……。

 さて、とりあえず後始末だ。

 

 とりあえず写真撮って送りつける。

 

pipipipi

 

「もーしー?『――!!』怒鳴らないでくれません?今の写真?無限罪のブラド。うん。本物じゃない?吸血鬼だし、なんか変身したし。素人封印だからはよきてくれ。たぶん長く持たないだろうし、場所は――」

 

 よくわからん状態なので専門家に丸投げするために必要事項をさっさと報告して、いくつかアドバイスを受けてから切る。

 

「誰に連絡したのよ?」

「知り合いの公安7課の警視……警視正だっけか?に連絡した。妖怪とか担当だったと思う」

 

 公安7課――不可能犯罪や宗教団体が絡む不可解な事件など、科学捜査で解明できない事案を担当する組織。うさんくせえおっさんの古巣らしくオカルト絡みで顔合わせだけはしていたが、意外なところで役に立つ縁もあったものだ。

 向こうからはなんか嫌われてるっぽいけど。

 

 とりあえず言われた通りに注連縄を巻く――片腕が動かないのでアリアに任せたが――こんなの力自慢のブラドに効果あるのかね?

 現実感がないのかぼんやりとそれを眺めてた理子に対して

 

「初代アルセーヌ・リュパンにも倒せなかったブラドが、ごらんの有様だ」

 

 と言うと、巻き終わって歩み寄ってきたアリアが横からキョトンとした顔を出す。

 

「さっきはまさかって思ったけど―――リュパン1世とブラド、ホントに戦ってたの?」

「そうらしい」

 

 理子は何も答えずブラドを見ているので、俺が代わりに答えてやる。

 

「ふーん。なんか理子、初代を超えるだの超えないだのってこだわってたけど――じゃああんた今、初代リュパンを超えたわね」

 

 初代にも倒せなかったブラドを――理子は、倒した。それには俺とアリアも力を貸したが助っ人がいたらルール違反って事もないだろう。たしか往年のリュパン1世にも双子のジャンヌ・ダルク2世がセットでついてたそうだ。

 なら問題ないだろう。

 

 ――ガクン

 

「アレ?」

「キンジ!?」

「キーくん!?」

 

 あー、そういやめっちゃ血が流れてたな。

 敵も倒して気が抜けたからかアゴニザンテ?も切れたと……。

 やべぇ死ぬ。

 こっからだと病院まで結構時間かかるだろうし

 ……一か八か試してみるか。擬奇屍(もどきかばね)

 

「キーくん息してない!駄目だよハッピーエンドだったはずでしょ!?」

「理子!取り乱してないで応急手当を!」

 

 うるせえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、病院で目覚めてめっちゃ泣かれた。

 ……死んでないからいいだろ。




ブラド編 完

次回から数話ぐらい幕間でなんか書きます



以下
勝手な考察
ブラドが小夜鳴に化けてたのリュパンの影響なんじゃないのかって思うんですよね
原作のルパンもなんか日本の柔術使ったり、有名な3世は日本出身?(少なくとも日本出身の次元とは幼馴染)らしいので追い掛け回しつつ、近づくのに不自然じゃない容姿に変えていったんじゃないかと妄想
あとイロカネ関係で理子の上位互換?アリアの類似例?みたいな子がいるんですが
そのこと知ってれば不自然な監禁で5世作るってのも遺伝子学弄る意味で必要だったのかなあと考えます。
なので今回は女神様が力貸す描写を入れてみました。
というかブラドを強くし過ぎたかな……?
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